12/22 ありがとう




 ねえ。

 ぼくはね。

 七枚のヤドリギの葉と、百三十五粒の乾燥させたカカオの実と、一本の兄貴の牙と、あんたの数は不明の分裂魂と、生きたマンドラゴから創られた。


 引き裂いては放り棄てたが、恐らくは消滅してないだろうこの世を彷徨う、いくつもの己の魂を刈ってほしい。


 あんたがそう頼んだ、櫂って死神に、ぼくは創られたんだ。

 はは。驚いた?

 いや。あんたはもう、ぼくのことすら、忘れてしまっているのかな。

 吸血鬼を、兄貴を、そして、ぼくを殺さなければいけないということしか覚えていないのかな。

 そして、あともう少しで、そのことすら忘れて、ただ、目についた存在を殺すだけの殺戮者になってしまう。

 その前にさ。死神の。ぼくの友達の、澪が、あんたを殺すんだって。

 させないよ。

 

 あんたに、兄貴もぼくも殺させない。

 あんたを、殺戮者にもさせない。

 澪に、あんたを殺させない。


 なんとなく、わかるんだ。

 澪の作ってくれたマーガレットの花冠のおかげかな。

 なんとなく、ぜんぶ、わかってる。

 分裂した魂はぜんぶ、ぼくの元に戻った。

 ぼくの言葉はわかるよね。

 ぼくを喰え。

 ぼくを喰って、あんたは、あんたが喰らった銀狼と分裂するんだ。

 あんたに戻るんだ。

 吸血鬼ハンターに戻るんだ。


 櫂の力で、あんたはもうぼくの魂を放り棄てる事はできない。

 まあ、放り棄てられないってわかったら、あんたはきっとぼくを奥底に閉じ込めようとするだろうね。

 本音を言えば、兄貴を慕うぼくを奥底に閉じ込めないでほしいけど。

 まあ。こればっかりは、しょうがないかな。

 あんたが兄貴を慕う日が来る事を心待ちにしている。


 兄貴はね。

 すっごく、あったかいだろ。

 すっごく、かっこいいだろ。

 優しいし、柔らかいし、強いし、料理も上手だし、器用で何でもできるし、笑顔が素敵だし、包容力半端ないし、紳士だし、真摯だし。

 でもさ。どうしてか、ひとりぼっちだったんだ。

 ここうのそんざいだったんだ。


 ああ。勘違いするなよ。ひとりぼっちだったから、一緒にいてあげたい、なんて、上から目線で、吸血鬼にしてくれって、迫ったわけじゃないぞ。

 ただただ、かっこよかったから。

 ぜんぶひっくるめて、かっこよかったから。

 近くにいたかったんだ。

 ずっと、吸血鬼になって、長生きして、ずっと、近くにいたかったんだ。


 ほんとはな。

 ほんとは、

 いいや、いい。

 ほら。喰えよ。

 ちゃんと、かみしめて、味わえよ。

 あんたが放り棄てた魂を。

 あ、ちゃんと、澪がぼくに作ってくれたマーガレットの花冠も一緒に喰えよ。






 兄貴にも、澪にも、見られる前にって、思ったけど。


 無理、だった、な。


 ごめん。

 ごめんね。

 こんな、残酷な場面を見せて。

 ごめん。喰われているのに、笑顔って、めちゃくちゃ怖い光景だけど。

 ごめん。笑顔しか、思いつかない。


 ありがとうって。

 ありがとう。しかないや。


 出会ってくれてありがとう。

 吸血鬼にしてくれてありがとう。

 一緒に旅をしようって言葉に頷いてくれてありがとう。

 一緒にいてくれてありがとう。

 一緒にいろいろしてくれてありがとう。

 マーガレットの花冠をありがとう。

 ありがとう。






「澪。兄貴。ありがとう」











(2023.12.22)



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