12/19 ジンジャークッキー




「蒼と澪には内緒な」


 丑三つ時。

 テントの中で蒼と澪が深い眠りに就いている中、暖はテントの外に出て空を見上げていた。

 いつもは暗闇か、月と星が煌めている空は、優しい風で動くカーテンのように、やおら波打つオーロラが支配していた。

 今の暖の瞳と同じ紅色だった。

 暖は傍らで寝そべっている銀狼に、人型のジンジャークッキーを一枚あげて、自分もまた一枚、音を立てながら食べた。




 進化、したのだろうか。

 朝昼は寝て夜に活動していた吸血鬼は、朝昼も活動できるようになった。

 太陽を克服できたのだ。

 暖は太陽を克服できてよかったと思った。

 夜も朝も昼も好きだった。

 とんびとんびで短時間眠って、朝昼夜も起きているほどだ。

 けれど、やはり血が騒ぎ立てるのは、夜だった。

 吸血鬼としての血が濃ゆいほどに、その傾向は顕著に出ていた。

 特にこんな夜は、吸血鬼の血がとても強く騒ぎ立てる。

 血を吸えと、思うままに血をむさぼれと。心身を支配しようとする。




「あ~あ。俺、そんな、血は好きじゃないのになあ。身体がうるさいんだよ」


 ジンジャークッキーを食べ終えた暖は、銀狼の頭をゆっくりとなでた。

 澪からもらったマーガレットの花冠をしっぽに通していた銀狼は、寝そべったまま鼻を暖の太ももに押し付けた。

 暖はジンジャークッキーを催促しているのかと考えたが、もう朝食まで我慢しておけと言ってはその場で寝転んだ。


「ああ。朝食は何にしようかなあ」




 数十分後。

 銀狼は立ち上がり、眠りに就いた暖の首にしっぽを巻きつけたのであった。











(2023.12.19)



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