12/17 ローストビーフサンド
パン・ド・カンパーニュ、ローストビーフ、赤玉ねぎ、パプリカ、リーフレタス、マヨネーズ、粒入りマスタードたっぷりのローストビーフサンドを、暖は蒼の顔の前で持ち上げ続けた。
立ったまま目を瞑って眠り続ける蒼を起こすには食べ物だと思い、暖はアドベントカレンダーから出ると、食材を買ってきて、ちゃちゃっと作りまた戻ってきて今、こうしているわけであり、果たして効果は覿面だったようだ。
蒼はゆっくり瞼をあげると、ローストビーフサンドをじっと見続けてのち、視線を少し上げて暖を見た。暖はその視線に気づくと、さわやかな笑顔で食べていいぞと言った。
「ありがとう!兄貴!」
蒼は暖からローストビーフサンドを受け取ると、ガッガッガッと勢いよく食べ続けた。
ちょっぴり、目じりから涙が浮き出てしまったのは、粒入りマスタードが効いている証拠だ。
いい仕事をしていますねえ。
にやにやしている蒼の視界に、おもちのようにこんもり丸まって積もっている銀雪が入り、暖と澪が雪だるまを作ろうとしているとか尋ねようとした時だった。
おもちがゆっくりと前後に伸びたのだ。
雪だるまではなく、銀雪のスライムだったのかと思いきや。
「銀狼?」
「そうだ。おまえが立ったまま眠っている間に近づいてきて、ローストビーフサンドが気に入ったのか、ずっと傍にいるんだ」
「そうなんだ。兄貴の手料理は絶品だもんなあ。銀狼もとりこになるよね」
うんうんと頷き、蒼がしゃがんで銀狼をなでようとしたら。
ガブリと手を咬まれてしまった。
「………」
「………」
蒼はニッコリ笑顔のまま無言で銀狼を見続けた。
銀狼は蒼の手に牙を深く刺し続けた。
「………いたくないよーいたくないよー」
「………」
「………こわくないよーこわくないよー」
「………」
ささやく蒼は言葉を紡いだ。
ぼくの手がそんなに気に入ったのかあ。
そう言った瞬間、銀狼はペッと勢いよく蒼の手から口を放したばかりか、蒼の手を前足で蹴り上げたのだ。
「ははは。元気だなあ」
瞬く間に咬まれた部分が治っていった蒼は銀狼に抱き着こうとしたが、銀狼が素早く逃げたので叶わなかった。
「あははは!追いかけっこかあ!」
「ははっ。蒼は銀狼が気に入ったんだな」
「………そう、みたいです、ね」
追いかけっこをする蒼と銀狼を、暖は笑顔で、澪は浮かない顔で見続けたのであった。
(2023.12.17)
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