12/14 鐘の音
二度目の召喚、というべきか。
またしても気が付けば、うっすらと灰と黒が入り混じる空間に澪は浮いていた。
「くっくくく。よくぞ極悪者の魂を刈ってくれたな。吸血鬼の手を借りたとはいえ、任務遂行は遂行だ。褒めてやる」
死神同士は素顔を見る事はできない。
どうしてかわからないが、そう決まっている。
なので、死神同士が対面する時は、黒いマントで全身も目元も隠しているように見えているのだ。
「あの。先輩。あのおじいさんのどこが極悪者なんですか?吸血鬼の方とロゼシャンパンを飲みたいとの望みを叶えるために、私たち死神から逃亡する以外に、生前に何か罪を犯したのですか?」
「いいや。俺たち死神の鎌から逃げた霊はすべからく極悪者だ」
「逃げただけで極悪者なんて。言い過ぎですよ」
「言い過ぎじゃねえ。忙しい死神の手を煩わせるんだ。極悪者だ」
「………わかりました。それで、今日の呼び出しも、アドベントカレンダーに逃げ込んだ霊がいるから、刈ってこいというお話ですか?」
「おまえ。あの新米の吸血鬼の魂が分裂したと理由をどう考える?」
前回の呼び出しで問われてもおかしくはなかったその質問に、澪はてきぱきと答えた。
「私が死神として未熟なので、力を使いきれずに暴走させたためだと考えています」
「違うな」
間髪入れずにそう言われた澪は目を見開いたのち、ゆっくりと瞼を下ろして先輩を注意深く見つめて、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「もしかして。先輩の仕業、ですか?」
「俺の仕業だとも言えるし、違うとも言える」
「先輩は、蒼さんと会った事があるんですか?」
「ああ。会った事は、あるな」
先ほどまで、すらすらと話していたのに、歯切れが悪くなった先輩は名乗り忘れていたがと、前置きを加えてのち、自分の名前を口にしてから澪の名を呼んで、仕事を言いつけた。
アドベントカレンダーに戻った澪は自分の耳に、教会の鐘の音が届いたように感じた。
心身が畏まるほどに荘厳で、清らかで、けれど、祝福を与えるはずのその音は。
『蒼を殺せ』
世界の終わりを告げているような恐ろしさがあった。
(2023.12.14)
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