12/7 ロゼシャンパン




「ねえ、澪」

「はい」

「極悪者の魂だって話だよね?」

「はい。極悪者の魂がこのアドベントカレンダーに入り込んだのでさっさと刈ってこいと先輩に言われたので、私一人で行くはずだったのですが。不甲斐ないです」


 澪一人で、先輩から送られたデータを読み取った死神の鎌が示す方向へと向かっていたはずだったが、気づけば少し離れて蒼と暖がついてきていたのだ。


(死神の仕事が入りましたので、一人で行ってきます。お二方は蒼さんの魂捜しを続行してください。って、言ったのに)


 正直に言えば心強かったので、一緒に来てくれてとても有難かったけれど。


(一度離れると合流できるかどうかわからないし、合流できたとしても時間がかかるかもしれないし、なら一緒に行動した方がいい。って言われると、確かにって納得しちゃう自分もいるし。ああでも)


 頼りにしそうな自分がこわい。


(いえ!頑張らないといけません!)


 澪は自分を奮い立たせると、先輩が極悪者と呼ぶ、黒紋付羽織袴姿のおじいさんの魂へと一歩また一歩と近づき距離を縮めながら、何がお望みですかと尋ねた。


「じゃから言っとるじゃろう!吸血鬼の御方と一緒にロゼシャンパンを飲んだら、おとなしくその鎌で刈られてやるわい!」

「別のお望みを要望します!」


 クワリと目を見開いたおじいさんの霊に対し、澪もまた、クワリと目を見開いて声を大きくした。


「何でじゃ!何でじゃ!おぬしの後ろにいらっしゃるお二方は、吸血鬼の御方じゃろうが!ほれ!ここに肌身離さず持っていたロゼシャンパンもある!もう望み叶えられるじゃない!」

「でも私このお二方に迷惑をかけ通しなので、このお二方に頼らないであなたの望みを叶えたいんです!」

「志は立派じゃが!世の中そうそう自分の思うままにならんもんじゃ!諦めてそちらの御二方のどちらかとロゼシャンパンを飲ませておくれ!」

「私で手を打ってください!」

「おぬし死神じゃろうが!」

「死神とロゼシャンパンを飲めるなんて一生に一度しか体験できませんよ!」

「………確かに」

「でしょう!では、私と一緒にロゼシャンパンを飲みましょう」


 乱れた呼吸を落ち着かせた澪は、にっこりと笑った。

 おじいさんもまた、にっこりと笑った。

 にっこりと笑って、やっぱり吸血鬼がいいと言った。

 澪は滝のように涙を流した。


「死神の何がいけないんですか!?」

「いい悪いの話ではないのじゃ!吸血鬼の御方と飲みたいんじゃ!」

「死神が嫌いなんですね!?ひどい!!」

「いやだこのこ話が通じない!!」

「澪、よっぽど、おまえの魂を分裂させた挙句、このアドベントカレンダーに取り逃がしたことが後悔してんだろうな。だから、一人でどうにかしようと」

「大暴走している」


 澪と極悪者であるはずのおじいさんのやり取りを黙って見ていた蒼と暖は、目配せをすると、澪の元へと向かったのであった。











(2023.12.7)



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