12/5 自己紹介




 くぅくぅくぅくぅ。

 なんて、かわいらしい音ではない。

 ぐぎゅるるるるる。

 もはや、凶暴動物の唸る声である。

 あれもしかして知らない内に、ぼくのお腹の中に生物が棲みついちゃった?


「あ~、腹が減ったなあ」

「そうですね、お腹が空きすぎて、お腹の虫さんがいっぱい鳴いちゃってますね」


 兄貴と死神の親切心が心身に染み渡るぜ。

 ぼくは目じりに浮かんだ涙を手の甲で拭うと、ごめんねと謝った。


「チョコレートの匂いも充満させているのに、お腹の音まで煩くて」

「気にするなって。チョコレート好物だし、賑やかでいいし」

「そうですよ。私もチョコレート大好きですし。ただ、先ほど食べたばかりなのに、そんなにお腹の虫さんがいっぱい鳴っているのは、少し気になります。もしかしたら、魂が抜け出したせいかも、しれません。ご」


 ぼくと兄貴は同時に死神の口を片手で覆った。


「謝らなくていいから。絶対大丈夫だから。兄貴がいるし」

「そうそう。で、おまえもな。そう。こんぐらいの事で謝るな」

「あ、あにきい」

「よしよし」


 兄貴がもう片方の手でぼくの頭を優しくなでてくれたので、感激のあまり死神の口から手を離して、両の手で自分の口を覆った。

 兄貴も死神の口からそっと手を離すと、いいなと笑いかけた。

 死神は小さく頷いてからぼくを見て、蒼さんと仰るのですねと言った。


「あ。そう言えば、まだ名前も言い合ってなかったね。うん。ぼくの名前は、蒼」

「俺の名前は、だんだ。改めてよろしくな」

「私の名前は、みおと申します。改めましてよろしくお願いします。私も、絶対、大丈夫にしてみせます!」


 死神、もとい澪は片腕を高々と上げたので、ぼくも兄貴も一緒に片腕を高々と上げた。


 うん、絶対大丈夫だ。











(2023.12.5)



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