第56話 久々!湊のお母さんです!
「そんじゃあ日曜から修学旅行だからなー!ちゃんと準備して一人で来る子も親御さんに送ってもらう子も気をつけてくるんだぞ。空港に集合だから間違えるなよー!」
というわけで、明後日から修学旅行です。
——————
お泊まりの日から一週間が経ち、ついに明後日に修学旅行を控えていた。
「よいしょっと…」
彼女もあらかた準備を終えて、持ち物の確認をしているようだ。
「これもよし…よし…
「おっけー。俺の方もそろそろ終わる。」
しかし俺は現在、頭を抱えていた。
「うーん……」
「どうしたのですか?」
「いやあ…これだよこれ。」
「どれどれ……」
俺は修学旅行のしおりを開き、日程のページを指差した。
そこは初日日曜日の予定。
なんと朝は脅威の6時55分集合。いくらなんでも早すぎる。
行き先は沖縄で飛行機に乗るから仕方ないかもしれないが…早い。しっかし冬に沖縄か…謎だ。
「朝6時55分集合だと…俺たちはどうやって行こうかなあって。ほら、俺の親も今はいないし。」
「確かに…電車、だと間に合いますかね。」
「間に合うには間に合うだろうけど…荷物がデカいし外は暗いし危ないからどうしようかな。」
「なるほど…行けない事もないですけど…ね。」
チラとカバンを見て苦い顔をする八雲。
以前電車に乗った時の事を思い出したようでいかに人が多く、大変かどうかを考えたようだ。
「まあ、悩んだところでそれしか手段がないから頑張るか。」
「なんで?愛しのお母さんが送ってくよ?」
突然、この場にいないはずの人物の声がし後ろを勢いよく振り返る。
妙に可愛い声を作り、毎度ながら綺麗なキューティクルを放つ赤髪のツインテール。俺はこの人を知ってる。なぜなら母だから。
「か、かかか、母さん!?」
「やっほーい!お母さんのマリだよん!」
「お、お母様!?」
年の割にとんでもなく若々しい姿に毎度驚かされる。年の割って言っても…まだ三○路か。
「さっきねぇ、私のところに連絡がきてね!お兄ちゃんたちを驚かしたいからって言わないでおいたんだ!」
なるほど…そういう事か。
「久しぶり八雲ちゃん。会いたかったよ!」
「お久しぶりですお母様。私も会いたかったです!」
この二人は仲が良い。元々とても人当たりの良い母で色んな人から好かれるタイプだったし、八雲は家族に良いようにされてこなかった。そんな八雲は俺の母を本当の親のように慕っている。とても嬉しいことだ。
「もぉ、お母様じゃなくてそろそろ
「……!!」
「……!!」
「ん?」
母さんの言葉を聞いた途端、俺たち二人はピシリと時が止まったかのように固まってしまった。なぜなら…この前に母さんと会った時とはまるで状況が違う。
最後…付き合った事を報告しようと思ったらいなくなってしまったので言い損ねていたし、心の準備もできてなかった。
それなのに突然やってきたものだからどうして良いのかさっぱり分からないんだよ…。
それは八雲も同じようで少し困ったような顔をしながらうっすら頬を染めていた。
「どしたの二人とも。」
「あ、いや…そのぉ…」
「ええっと…です…ねぇ…」
「え?付き合ってるんでしょ?」
「っ!!」
「…っ!」
何をしてるんだこいつら、という目で俺たちを見てさらりと言った。
「え、ええ?知ってたからあんな冗談言ったのに。バレてないとでも思ったの?」
「いや…まあ…そのこの前言い損ねたから…」
「知ってるに決まってんじゃあん!これで何もしてなかったら湊、キミをぶっ飛ばしてるトコだったよ。」
「そ、そうだったんですね…」
「やあやあ、君が八雲ちゃんかい?」
ぎくっと体を震わせて驚いてしまった。
なぜならこの声の主は……
「と、父さんまで!?」
そう、この声の主は俺の父、内藤
八雲と同じ透き通るような銀髪、柔和で優しそうな顔立ち、母さんとは正反対な穏やかでおっとりした性格。俺はそんな二人の中間ぐらいの性格だ。
「久しぶりだね湊。その子がマリの言っていた八雲ちゃんかい?」
手を振りながらやってきた父さん。
興味深そうに八雲を眺めている。
「あの…湊くん、こちらは…」
「ああごめん。この人は俺の父さん。父さん、こちらが八雲さんだ。」
「こんにちは。湊がお世話になってるね。」
「あ、い、いえ!お世話になってるのは私のほうで…。よ、よろしくお願いします!」
まるで結婚する時親に挨拶するみたいだ。
うーん…こんなにも勢揃いするとは…緊張する。
「どうしたの二人とも。急にこっちにきて。」
「いやあ、日曜日から修学旅行だっただろう?だからその日に空港まで送ってあげれるようにと思って。」
「そうそう!優しいでしょお母さんたち!」
「…マジ?」
これは素直に嬉しいことだ。正直朝早くのまだ暗い時間から八雲を電車に乗せたくなかったし、重たい荷物を引きずらせたくもない。
だが車なら荷物を乗せていけるのでかなり楽になる。
「い、良いんですかお二人とも。お仕事やご予定は…」
おずおずと聞いた八雲。まあ…確かに急に彼氏の親が集結し、萎縮してしまうのも無理ない。
「もちろん大丈夫さ。八雲さん、君に会いたかったしね。」
そんな八雲に父さんが優しく答えた。
こういう時に父さんは本当に気がきく人だ。
「わ、私にです…か?」
「うんうん。マリから聞いただけじゃ足りなくてね。僕も一度会ってみたかったけど…」
父さんは八雲を上から下まで一度ぐるりと見渡した。そしてごくりと息を呑んだ。
「すごく…可愛い子だ。それに髪の毛なんて僕にそっくり…娘にしても良いかな…」
「むっ…むすめっ……!」
父さんの言葉にぶわっと顔を一気に赤くした。あの母にこの父あり…二人とも可愛い子に目がないのだ…。
「父さん…」
「あ、ああ…ごめんごめん。でもね、八雲さん。君が湊と上手くやれていることはこうして見ているだけでよぉく分かる。だからね、僕はもう安心だよ。」
「おとう…さま?」
すると父さんはしゃがみ、八雲の肩に手を置いた。同じように母さんもしゃがんで手を置く。
「僕たちは仕事の都合上、家を空けることが多い。八雲さん、湊の事を頼んだよ。」
「私も八雲ちゃんにならどんとうちの息子を任せられるね!よろしくね、八雲ちゃん。」
「お父様…お母様…!」
八雲は二人の言葉を聞いて涙を流し始める。
こんな時にこうやって言ってくれる父さんと母さんが…たまにしか会えないが尊敬できる理由であり、ずっと好きでいられる理由。
「ところで…」
「…どうしましたか?お二人とも。」
「その…」
「なんだよ父さん。大人のくせにもじもじして。」
「僕の事も…
ぼしゅっ
再び顔が真っ赤になり、あたふたと恥ずかしがる八雲。…確かにこういうことを言われると現実味が増して恥ずかしくなる…。
「お、おい…父さん。あんまりそゆこと言うなよ。」
「だ、だって聞いてみたいじゃないか…。息子の彼女でこんなにも良い子なんだよ?」
「うぐう……」
八雲も口をパクパクさせて何かを言おうとはしている。きっと心の中で恥ずかしさとたたかっているのだろう。
「お、お義父さま…。お義母さま……?」
上目遣いをしながら放たれるそのいたってシンプルな言葉は俺たち三人の心を
「「「ぐっ……!!!」」」
色々あったが…つくづく優しい親で良かったなあとしみじみ思う今日であった。
☆☆あとがき☆☆
遅くなり申し訳ありません!
本日もありがとうございました!
次回からは修学旅行編ですのでお楽しみに!
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