第54話 八雲とホラゲー

 パチっ…


 電気がどんどんと消されていき、部屋をテレビの明かりのみがうっすらと照らしている。

 その前でみんなソファに座り、ゲームを始める準備をしていた。


 「おお…結構雰囲気でてんじゃねえ?」


 「テレビってのもこのゲームの趣旨に沿ってるからな。」


 「おい、俺たちは知らないからネタバレすんな。」


 「あ、ごめん。」


 そういや紫央しおたちはこのゲーム知らないんだな。上手いこと言ったつもりだったけど余計だったか…。


 「よし、じゃあまずは誰が最初にやる?」


 「はい!私やりたいです!」


 紫央の言葉に真っ先に手を挙げたのは八雲やくもだった。

 しかし…俺としてはあまり賛成出来ない意見である…。


 「八雲…この前ホラー映画でめちゃくちゃビビってたじゃん…とりあえず最初は様子見しといたらどうだ?」


 すると八雲は少し自慢げなように腕を組んで言った。


 「前回はホラー映画に惜しくも敗れてしまいましたが」


 「惜しくも…」


 「ホラーゲームならやってみないと分からないじゃないですか!私はホラーゲームに勝ちますよ!」


 謎の自信とやる気…なら止めなくても大丈夫か…。


 「分かった。じゃあ八雲からでOKかみんな。」


 「おう!いいぜ。」


 「うん、いいよー。」


 「おねえちゃん…大丈夫なの…?」


 「horror game……気になるなあ…。」


 満場一致で決まったので早速カセットを入れてゲームを起動させる。

 今回やるのは「リトルライトメア2」というホラゲーだ。小さな灯り一つでマップを探索し、異形の敵から逃げるゲームで俺はこの世界観が好きだからこのシリーズは二つとも持ってる。

 2の方が新しく出たため、こっちを選ぶことにした。


 コントローラーを渡すと、ゲームのBGMが流れだした。


 「楽しみですねえ…」


 八雲の顔は期待でわくわくしていて、とても楽しそうだ。

 果たしてこの可愛い顔はあとどのぐらいもつのだろうか……。


 「あ、始まったよ。」


 「本当ですね。じゃあ歩いてみますか…」


 しばらくは操作説明のようなものなのでここまでは順当に進む。だが、ここでもちょっとしたトラップがあるのだ。


 「ここをこうして……」


 バシン!!!


 「きゃっっ!!」


 「どわっ!?」


 「ひっ!!」


 流れるように罠であるトラバサミに嵌ってしまい、大声で叫んだ八雲。

 その声で紫央とすいも飛び跳ねて驚いていた。


 「び、びっくりしました……」


 「本当だぜ…八雲さんの声で驚いちまった…」


 「もぉ…おねえちゃん…」


 「す、すみません…」


 チラリと八雲を見てみると、既にコントローラーを持つ手が少し震えている。

 だが、これといったホラーではなかったのでもう少し続けてみることにしたようだ。


 「まだまだ…これからです…!」


 再びゲームを再開する。

 その通り…本当にまだまだなんだよな…。


 ここからら同じトラバサミのトラップなので慎重に進んでいく。

 そして…ついに第一ボスが登場した。


 バン!!


 扉を突き破りやってきた最初のボス、森の狩人だ。


 「きゃあああああ!!」


 「うわあああ!!」


 「ひぃああああ!!」


 突然の登場、その異形の姿を見て八雲は再び声をあげた。ついでに紫央と翠も。

 俺とクロエはなんともないのでそんな三人を面白そうに眺めている。

 八雲が一度ゲームを中断させ、深呼吸をした。


 「み、湊くん…」


 「ん?」


 震える声でおずおずと聞いてくる。


 「怖いので…ぎゅって…してくれませんか…?」


 俺の服の裾を掴み、ねだられる。

 八雲の顔を見てみると割とガチで怖がってそうで、涙目に口をきゅっと閉じる姿に愛らしくなる。もちろん断る道理はない。


 ぽんぽん


 自分の足を開き、出来たスペースを叩く。


 「おいで。」


 すると八雲は恥ずかしそうにしながらももぞもぞと前にすっぽりとおさまり、腕をまわして抱き寄せる。若干体の震えがおさまったのを感じたので意味はあったようだ。


 「ありがとう…ございます…」


 「いーよ。それにな、」


 「…?」


 八雲を思いっきり抱き寄せて、耳元で囁いた。


 「怖がってる八雲、可愛いし。」


 「……!」


 ピクッと反応し、怖いのとは別の意味で少し震えた、というより悶えた…と言った方が良いのかな。


 「もぉ……湊くんの意地悪……」


 「だって可愛いから。」


 「…恥ずかしいですって…!」


 言っておくが俺は耳元で言ってるので多分、他の人たちには聞こえていないはずだ。

 八雲はテレビに照らされた顔が真っ赤っかになっているが。


 「…湊くんのせいであんまり怖くなくなっちゃいました…」


 「それなら良かったじゃん。」


 「良かったですけど…なんだか腑に落ちないです。」


 「ええ?」


 やっぱりホラー系は怖がる可愛い彼女が見られるから適度にならアリだと言うことが今日で分かった。


 ——————


 「紫央くーん?クロエもあれやってあげようか?」


 突然イチャつきだした湊と八雲を眺めながらクロエが紫央に提案する。

 クロエ本人、紫央がまさかホラーが苦手だなんて思ってもなかったのでチャンスだと考えたのだ。

 だが、こんな時でも軽くあしらわれるのだと思ってたので期待はしていない。


 「……。」


 紫央がクロエの言葉を聞き、湊たちを見た。

 そして難しい顔でクロエとホラゲーの画面を交互に見る。


 「紫央くん?」


 「……抱きつきまではしないが…」


 「…?」


 そう呟き、紫央がソファに置いてあったクロエの手をぎゅっと掴み、握った。

 

 「し、紫央くん!?」


 「い…今だけ…今だけだからな…!」


 テレビの明かりで照らされた紫央の顔はクロエが見たことないぐらい照れて赤くなっていて、眉間に皺を寄せて恥ずかしそうにしていた。


 「…かわいい。」


 「な、なんか言ったか!」


 思わず呟いてしまったクロエだが、風呂で八雲に言われた「大切に思ってる」と言うことを思い出す。自分は…嫌われてなんかなかった…。


 「んーん、なんでもない!ほらほら、もっとくっついても良いんだよ?」


 「そ、そこまでじゃねえよ…!別に全然怖くないし…」


 「ほんとぉ?」


 「うぐ…」


 クロエが幸せそうな顔で紫央を見つめる。

 彼女の目にはこんな些細な事でも大好きな人が自分を頼ってくれた嬉しさで一筋涙が流れた。

 しかし、部屋は暗い。クロエ本人以外、気づく人はいなかった。


 ——————


 「ぷ…ぷぷぷ…」


 「どうしたのマツリさん?」


 ホラゲーにも全く動じなかったマツリが突然、うめき声をあげる。

 その様子に驚いた翠が声をかけた。


 「ぷ…precious尊い……!!!」


 ばたん


 急に声を出したかと思えば急にソファへと倒れていったマツリに翠は更に驚いてしまった。


 「え、ええ?どうしたの?」


 かなりの大ダメージだったのか、マツリが目覚めるまでに八雲が第一ステージを見事クリアしたという。




 


 


 


 ☆☆あとがき☆☆

 本日もなんとか投稿できました!

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