第51話 湊、八雲のボーリング!

 現在、ボーリング場に戦慄が走っていた。

 なぜかと言うと……


 「やったあ!ストライクー!」


 「八雲やくもちゃんっ!見てくれた!?」


 八雲と紫央しおがストライクを出した後、次のすいとマツリさんまでもが易々とストライクを叩き出したのである。

 これに周りのお客さん達が「コイツらただ者じゃねえな…」とヒソヒソ話し始め、「連れの俺とクロエも達人なんじゃねえか…」と期待して投げるのを待ってるのである。


 ハッキリ言ってやろうか…俺たちの負けだ…。(ベ○ータ風)


 ——————


 「おい、みなと!クロエ!早くやれよ、お前たちだぞ!」


 一向にやろうとしない俺たちに痺れを切らしたのか紫央が言った。

 俺とクロエは目を合わせた。


 (死ぬ覚悟はできた……)


 ボールを持ち、レーンの前に立つ。

 そのボールすら重かったのは秘密だ。


 (早く終わらせよう……)


 ボールを振りかぶり……投げた!!


 ドッ……ガタン……ガタガタ……ストン!


 普通ならするはずのない音が無惨にも鳴り響く。ピンは健在、俺の前で仁王立ちをしたままである。


 その瞬間、施設内に真夏の熱帯夜のような居心地の悪い静けさが流れた。


 ドッ……ガタン……


 隣からも同じような音が聞こえたのを確認する。あいつも…死んだんだな…。


 死にたくなるような気持ちを殺して、もはや死神にでもなった気分で後ろを振り向く。


 「ドンマイドンマイ!まだまだ始まったばっかだし!あともう一球あるぞ!」


 「え?」


 あと一球?疑問に重いモニターを見ると本当にもう一球あるじゃないか…。

 ………そうか…!八雲たちは全員ストライクだったから一回だけだったのか…!ということは…俺たちはストライクを出さない限りずっと二回…!


 「湊くん。」


 絶望しかけたところに八雲が話しかけてきた。


 「一緒にやりませんか?」


 「一緒…に?」


 ——————


 「ここはこう構えて…前に投げるんです。」


 「こ、こうか…?」


 「はい!上手ですよ!」


 どうやらコツややり方を教えてくれるようでまずはボールを持たずに練習。

 八雲に後ろから俺の手や体を直に動かしてもらい、体で覚えよう作戦だ。

 

 正直、もはや抱きついていると言っても過言ではないほどの距離だが今はそんなこと言ってる場合じゃないのでなるべく八雲の指導に集中する。


 ——————


 「まあた一段とくっついてんなぁ、あの二人。」


 「紫央くん!クロエにもあれやってよ!」


 「precious尊い…!」パシャパシャパシャパシャ…


 「お兄ちゃん運動出来なさすぎでしょ。」


 「うぐっ…それはクロエにも返ってくるな…。」


 湊と八雲の様子を見ていた四人。

 熱帯夜のような空気も二人のおかげでいつの間にか一転し、冬の寒い日にこたつの中でみかんを食べるようなほのぼのとした心地よさに変わっていた。


 「紫央くーーーーーん!」


 「分かった、分かったよ!マツリサン、教えてあげてくれないか?」


 「なんで紫央くんじゃなくてマツリちゃんなのっ!!」


 「了解master師匠!任せてよ!」


 そう言ってマツリは立ち上がり、クロエの元に。

 

 「クロちゃん、まずはね……………!!!」


 八雲と同じように腕をクロエの体にまわすと……


 「?どしたのマツリちゃん?」


 マツリの腕は当たったのだクロエの豊満なその胸に…!

 加えてさらさらと顔の前で甘い匂いを漂わせる妖美なピンクの髪…!


 「beautiful美しい……………ぐっ……」


 「マツリちゃん!?」


 「やれやれ…」


 マツリは座っていたソファへと倒れた。


 ——————


 「よし…!なんかできそうかも…!」


 「うんうん、湊くんなら出来ますよきっと!」


 八雲から手取り足取り教えてもらったことにより謎の自信が湧いてきた俺。

 彼女が教えてくれたんだ。きっとできるに決まっている。


 「クロエ。」


 俺は一声クロエに言った。


 「湊…まさか…!?」


 自信ありげな顔に驚いたのだろう。

 俺はそんなクロエを尻目にレーンの前へと立った。

 さっき終えてもらった通りにやるんだ…!


 「湊ー!頑張れよー!」


 「頑張って湊くん!」


 八雲と紫央の声援が聞こえる。


 「おらっ!」


 俺の手から放たれたボールは真っ直ぐと進み…………ガタン……ガラガラ……!


 ボールは相変わらずガターへと落ちていった。

 

 「あちゃー…途中までは良かったんだねどなあ…。」


 「お兄ちゃん頑張ってよー!このままじゃずっと同点のまんまだよーー!」


 「ふぅ…ヒヤヒヤした…。」


 全員が反応をしている中、俺と八雲だけは静かだった。


 「湊くん…いけます…!」


 失敗した一球目。

 しかしさっきのように死にそうな気分にはならない。逆に手応えを感じるほどだ…。


 「いくぞ…!」


 二球目、俺は堂々とボールを投げた。


 ドンッ…………カラン!!


 ゆっくりだがふらふらと進んで行ったボールはギリギリのところでピンに一つ当たった!


 「よ、よよ……」


 「湊くん………!」


 「よっしゃああああああ!!!」


 「やったなあ!湊!」


 「湊くん!!」


 「お兄ちゃん!!」


 「amazingすごい!!」


 「こんの裏切り者ぉぉぉぉ!!!」


 たった一ピンだが初めて当てれた一ピンに大はしゃぎで喜ぶ俺に八雲が満面の笑みで駆け寄ってきた。


 「湊くんっ!」


 「うわっ!」


 抱きつかれた勢いで体勢を崩しそうになったが、なんとか堪えて八雲を抱きしめ返す。


 「た、たった一ピンで大袈裟だよ。」


 「されど一ピンですよ!おめでとうございます!」


 「ありがとう。」


 「はい!」


 「よっしゃ!今から巻き返すぞ!」


 「その意気だ湊!」


 「頑張るぞお兄ちゃん!」


 それからは快進撃…とまではいかないが安定して一ピンは当てれるようになった…のでなんとか勝負には勝てた。


 「俺たちの勝ちだなあ!」


 「もぉー!湊のバカ!裏切ったな!」


 「す、すまんすまん。」


 「罰ゲームがあるんだっけ?」


 「そういえばそうでしたね。」


 「それなんだけどさ…」


 紫央が何か思いついたようで、ニヤリとした顔でみんなを見た。


 「なんだ?」


 「今日はみんなで湊ん家泊まってかないか!?」


 「Yeeeeeeeeeeeees!!master師匠は神様です!!!」


 次回!お泊まり編開始!


 


 




 ☆☆あとがき☆☆

 と言うわけで次話からお泊まり編開始です!

 よろしくお願いします!

 星やフォローもいただけるととても嬉しいです!

 

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