第49話 八雲には…敵わない…!

 突然だが、なんで八雲やくもが座っていた時下を向いていたのかが分かった。


 それは鏡の存在である。

 座るとちょうど鏡に座っている俺と、後ろで背中を洗ってくれる八雲の姿が写り、見え方次第ではその…タオルが隠れて裸に見えてしまったりするのだ…。


 緊張で背筋がピンと伸びてガチガチになってしまうが確かに背中に八雲の手が触れているのを感じる。

 優しく、そして時折当たる手を以外の部分…。本人は集中していて気づいていないのだろうが前屈みになった時とかにちょんっと胸が背中に当たってしまっているのだ…。

 

 理性をフルで稼働させて耐える…耐えるんだ…。


 「どうでしょう…気持ち良いですか?」


 後ろから顔を覗かせて聞いてくる八雲。

 もはや胸以外の全ての場所でぴったりと背中にくっついてしまい、限界を越えそうだ…。

 背中に全神経が集中しているかのようにも思える。


 「は…はい。と、とても…。」


 「ふふ…なんで湊くんまで敬語なんですかっ。そろそろ湯船の方に入りませんか?」


 「だね。賛成。」


 八雲を待たせないようにジャーっと急いで体の泡をシャワーで流し終える。


 じゃぷん…


 「よいしょ…はい、良いよ。」


 「はーい!」


 時間が経ち、慣れてきたのか結構テンションが元通り高くなってきた八雲。

 勢いよくざぶんと湯船の中に入り、当たり前かのように俺の胸元にすっぽりと入り、もたれてきた。


 「お風呂の中でもそこなんだな。」


 「もちろんですっ。私のお気に入りの場所ですもんねっ!」


 水滴で輝く銀髪にも負けないぐらいぱあっと笑顔を向けてこちらに振り向いた。


 今、入浴剤を入れたことが正解だったと改めて噛み締めている。

 俺の肩に頭をのせてくつろぐ八雲だが、もしお湯が透明だったのならきっと体が全て見えてしまっていただろう…。

 それこそいつものマツリさんじゃないが気絶してしまう自信がある。


 「あったかいですねぇ…極楽です…」


 「分かる…最近はずっと寒かったからね…。」


 「なんだか湊くんと入ってると心も体もぽかぽかです…ずっと一緒に入っていたいぐらい…」


 「は、恥ずかしかったんじゃないの?」


 「んー…恥ずかしいですけど…それ以上に湊くんといたいですし…えへへ…そう考えたらなんだか大丈夫になっちゃいました!」


 「そ、そっか…。確かにそうかも。」


 「あ、湊くんも一緒?」


 「ん……一緒……」


 にこっと少しだけ頬を赤くして言う八雲にドキッとしてしまう。

 ここで今まで耐えてきた俺の理性が少しだけ緩んでしまった。


 ちゅっ…


 「……んん…!?みなろく……んっ…」


 こっちを向く八雲に不意打ちでキスをしてしまったのだ。

 彼女の唇は濡れていて、いつもと感触が違う。お風呂のせいかあったかくていつもよりも色っぽく感じる。


 「…ぷはっ…。」


 「もぉ…急ですよ…。びっくりしたんですから…。」


 「ご、ごめん…つい。」


 「ですけど……」


 ちゅっ…


 「…やくもっ…?」


 「みなろくんがわるいんれすよぉ…わらし、したくなっちゃいましたからねぇ…」


 少しだけ口を離した状態で話す八雲。

 その目は…完全にスイッチが入ってしまっている。目がハートのようになり、俺はロックされてしまった。


 「まっ……んっ……」


 ちゅ…ちゅぱっ…ちゅぅぅ……


 ざぷ…ざぁ…


 風呂にキスの音と湯船の水温だけが響きわたり、もはや俺の頭はショート寸前。

 対する八雲はこの状況で更にヒートアップしたのかキスの手を緩めない。


 「やくもっ…ちょ…いったん…ギブ…!」


 湯船に入るのでタオルをとったせいで今俺たちの体を隔てるものはなにもない。

 それゆえにもはやこちらを向いてぎゅっと抱きしめてくる八雲のあれやこれやを感じ取ってしまう。


 「ふふぅ…まらまらですよ…みなろくんっ…」


 「ちょ、ちょちょ…………」


 八雲のスイッチを入れると俺は全く敵わないこと、お風呂はとにかく色々な意味でヤバい、ということを学んだ…俺……だっ……


 この日の夜、俺は風呂でのぼせるという偉業を成し遂げるのであった。


 


 

 




 ☆☆あとがき☆☆

 本日もありがとうございました!

 寒い日が続いておりますので皆様もお風呂で温まってゆっくりしてくださいね!

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