第43話 現在尾行中!

 朝、肩を並べて登校するみなと八雲やくもを密かに、だが息を少し荒くして眺めている人物がいた。

 そう、昨日から八雲のガチオタであるアメリカからの転校生マツリである。


 しかし決して声をかけたりしない。

 一定の距離を保ち邪魔にならないようにするまさにオタクの鑑。


 (白華しろはな八雲ちゃん…朝からなんて可愛さなの…!Japan日本に来て本当に良かったあ…)


 恍惚とした表情で二人を見る。

 すると湊が八雲の体に触れた。


 (…what…!?Mr.湊…!?こんなところでやっちゃうの…!?)


 一段と顔を赤くして二人の動向を伺う。

 しかし変なことをしようとしていたわけではなく、八雲の制服のボタンが一つ開いているのに気付き、閉めてあげただけだった。


 (……なんて…innocent初々しい…!!あの二人ほど推せるカップルなんていないよぉ…!)


 思わずキュン死しそうになりブンブンと頭を振りまくっている。


 だが二人はマツリへの攻撃の手を緩めない。

 ボタンを閉めた際にお互いの手が触れ、さりげなく湊が恥ずかしがりながらも八雲の手を握ったのだ。


 (Too cute可愛すぎる……!!!湊くん…なんて可愛いの…!!)


 恥ずかしがったせいかちゃんと手を握れずに友達同士で繋ぐような握り方になってしまっていた。

 それに気づいた八雲がニコッと微笑み、恋人繋ぎに握り直す。

 湊も顔を赤らめるもぎゅっと握り返し、二人の体の距離がぴったりとくっつく。


 「aaaaaaaaaaaa!!!!」


 推しカプからの過剰供給を食らい、思わず声と鼻血が噴き出た。

 よろめきながらもマツリは鼻血を持参していたティッシュで拭い、再び二人を見る。


 (ああ…|My fave is so precious《推しが尊い》……)


 「な、なにしてんの?」


 後ろから声をかけられ、振り返ってみる。

 そこにいたのは、同じく登校途中の紫央しおとクロエだった。


 「キミは同じクラスの…ええっと…」


 「青山あおやま紫央だよ。よろしく。」


 「ありがとう。そっちの子は?」


 マツリは視線をクロエの方に移した。

 

 (すごぉ…この子もvery cuteめちゃ可愛い…スタイル良いなあ…。Mr.紫央もイケメンだしお似合い…。推せるなあ。)


 「はーい!クロエだよ!紫央くんの彼女でーす!」


 「そうだと思ったよ。キミたちもすっごくお似合いだわ。」


 「な。そ、そうか?」


 「お?君分かってるじゃないの。」


 少し驚きの表情を浮かべる紫央だがこんな楽しげなやり取りをしている中、奥を覗いた。

 それに気付きマツリはハッとして湊たちの方を見た。

 良かった…二人はまだ見える範囲にいた。


 「話しかけに行かないのか?」


 「of courseもちろん!ボクなんかが二人の邪魔できないしこうして見てるだけで十分だからね。」


 「ふーん…。」


 紫央は昨日のクラスでのやり取りを見ていた。もちろん、最後にイケメン王子のようだったマツリが豹変した姿も。

 だからこそ思うのだ。本当はマツリだって八雲と話したいんじゃないのかって。


 「マツリサンは八雲さんと話したいんじゃねえの?」


 そう聞くときょとんとした顔で答えが返ってきた。


 「話したいよ?でもやっぱり二人の時間を邪魔するのは無粋だわ。」


 「おお…ムズカシイ言葉知ってるね。」


 「親が大の日本好きだからね。マツリって名前も日本の言葉だし。」


 マツリが得意げにむふーっと胸を張った。

 背が高く、スタイル抜群のマツリだがこんな姿を見ると紫央でさえも子供らしくて可愛いなと思ってしまう。


 「でもあの二人は邪魔されるとかんなコト気にしてないと思うぜ?」


 「んー…でも…」


 「マツリサンが話したいなら話せば良いんだよ。」


 マツリは少々考え込んでいる様子。

 紫央はとっておきの言葉を言うことにした。


 「それにな…」


 「?」


 「あいつらは同棲してっから!心配ご無用!」


 「……!!Living together同棲……!?」


 ぽーっと顔が赤くなっていく。

 きっと湊と八雲のあんなコトやこんなコトを想像したのだろう。


 紫央も見ず知らずの人や学校の友人にこんな話したりはしない。

 なぜマツリに言ったのかと言うと彼女からはすごく湊と八雲を大切に思ってくれているのが伝わってきたからだ。


 「な…なら…ノープロ!ノープロだね…!」


 妄想から現実に帰ってきたマツリが慌てて言った。


 「うむ。ノープロだ!」


 「マツリちゃん良い子だねぇ。」


 紫央とクロエがグーサインする。

 マツリはこの二人への信頼感がグッと高まった。


 ——————


 登校中の間、相変わらず尾行を続けていた三人。紫央とクロエもちょっと楽しくなってきているのは隠しておくことにしたようだ。

 

 「紫央は湊くんと八雲ちゃんに詳しいんだね!」


 紫央が言える範囲でエピソードを教えてあげているとマツリが笑顔で言った。


 「詳しいっていうかアイツは親友でさ。昔からアイツ、けっこうなんでもそつなくこなすから…あ、勉強と運動以外な。まあ、そゆことだから自分のこと二の次で人のために動く良いヤツなんだ。」


 「流石八雲ちゃんの想い人!相応しいお人だなあ…。」


 「湊は良いヤツだぜぇ?だけどさ、俺はアイツにももっと楽しんで欲しかったんだ。少しぐらい自分のために生きても良いんだぜ?って。ほら、今の湊見てみろよ。」


 紫央が目線で湊を指すとクロエとマツリはしたがって二人の方を見た。

 

 「確かに前までの湊はあんなに自然に笑うことなかったよねぇ。」


 クロエがうんうんと頷きながら言う。

 マツリは驚いたように目を開いた。


 「すっげえ楽しそうだろ?」


 「うん、幸せそう。」


 「な。悔しいけどアイツに寄り添ってああやって笑顔にできんのは八雲さんなんだよな。だから俺はあの二人を絶対に幸せにしてやりてぇんだ。」


 「紫央…」


 「マツリサン、昨日はありがとな。俺も言おうとしてたんだが先越されちまった。ああ見えて湊って結構気にするタイプだから本当に助かったよ。ありがとう。」


 「そんなことないよ。紫央、あなたも素晴らしい人だね!」


 マツリが柔らかく光ブロンドの髪をふわりとなびかせてニコリと微笑んだ。


 「ちょっと紫央くぅん…?なあに他の女にニヤニヤしてんの?」


 「うわ、ちょ!今はそゆのじゃねえだろクロエ!」


 「安心してよクロエちゃん、キミたちも立派なボクのmy ship推しカプだから!」


 「はは、なんだよそれ。」


 「それより紫央…。」


 「ん?」


 突然頭をガバッと下げるマツリ。

 急なことに紫央は驚いてしまった。


 「ど、どしたの急に。」


 「紫央…これからはmaster師匠と呼ばせてくれないかい…!?」


 「ま、マスター!?」


 一体何を言ってるんだろ…と思う紫央だがよく考えてみればマスターって…かっけえな。


 「よし、マスターと呼ぶ事を許そう。」


 「!thank youありがとう!マスター!」


 「うむ。それじゃあまず一つ目の課題を伝えよう。」


 「ごくり…」


 そして紫央は走り出した。


 「みんなで湊のところに突撃だあ!!」


 「いいねえ!マスターナイス!」


 クロエもニコニコになりついて行った。

 

 最初こそ邪魔なのかもと思っていたマツリだが…紫央マスターの話を聞いた事で、話しても良いんだと知った。


 「はい!マスター!」


 三人で歩いている湊と八雲の背に突撃。


 「な、お前ら!びっくりするだろ!…って。」


 「青山くんにクロエさん、それにマツリさん!?」


 二人はマツリの存在に驚いたようだ。

 しかしマツリは堂々と胸を張って言った。


 「お二人とも!good morningおはよう!マスターの弟子のマツリだよ!」


 「ま、マスター?なにそれ。」


 紫央の方を見て湊が疑問を投げかける。

 だが八雲も湊もそんな事あまり気にしてない。二人はマツリの方に向き直った。


 「マツリさん、昨日はありがとうな。」


 「ありがとうございますマツリさん!すっごく嬉しかったです!」


 八雲はマツリに抱きついた。

 本人は感謝のつもりだがマツリにとっては…


 「ガハッ……!」


 「マツリさん!?」


 「だ、大丈夫ですか!?」


 鼻血が噴水のように噴き出て地面へとぶっ倒れる。

 その顔はとても幸せそうである。


 「これで良し。」


 紫央が小さく呟くのをクロエは逃さない。

 腕に抱きつき、耳元で囁いた。


 「やっぱり紫央くんは優しいねっ!」


 こうして賑やかとなった一行はみんなで学校へと向かうのであった。

 しかしマツリが気絶から覚めるまでかなりかかつたので全員一緒に遅刻した。


 


 







 ☆☆あとがき☆☆

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