第38話 八雲とお家で二人きり

 朝起きたら隣に女神がいた。


 もちろん比喩だが女神と遜色ない、いや肩を並べるほどに美しく可愛らしい彼女の姿があった。


 部屋の窓からさす朝日は隣でスヤスヤと眠る彼女の銀髪を反射させ煌々と照る月のごとく輝かせる。

 文字通り絵に描いたような美しさだが小さく呼吸をするたびにぴくりと体が動くのを見れば本当に生きているんだと実感した。


 「さて…。」


 時刻は午前8時。

 久々にかなり寝入ってしまい遅めに起きたが、気持ち良さそうに眠る八雲やくもを見ると起こすかどうか迷ってしまう。

 もはや起こしたら罪になってしまうレベルに思えて難儀なものだ…。


 うーん…どうしよう…そもそも腕を抱きしめられている時点で出るのももったいないし…あったかくてずっとこのままいたいぐらい……


 バタン!


 「お兄ちゃーん!」


 「う、うわああ!?」


 悩んでいると扉が勢いよく開き、すいが入ってきた。

 いつもはもっと遅い時間に起きるのに今日はもう着替えすら済ましている。

 慌ててベッドから飛び降りて直立不動した。


 「な、なに驚いてんの?こっちまでびっくりするじゃん。」


 「す、すまん。あ、いや!決して怪しい事してたわけじゃなくて…」


 「…別に疑ってないから!私、さくらと遊びに行ってくるね!」


 「お、おう。分かった。またなんかあったら連絡してくれ。」


 「はーい!行ってきます!」


 困ったような顔をしていたが翠は部屋を出て遊びに行った。

 

 「…ん…みなと…くん。」


 この一連の流れで起こしてしまったらしく徐々に八雲の澄んだ碧眼が開いていく。


 「おはよう。ごめん、起こしちゃった?」


 「いえ…私も…そろそろ…起きないとっ……んー…」


 起き上がり、ベッドの上で大きく伸びをし、猫のように目をこする。そして俺の方に向き直った。


 「おはようございます、湊くん!」


 「お、おはよ…」


 改めて目を合わせるとやはりドキっとしてしまう…。

 寝起きでもこの可愛さ…恐ろしい…。


 「きょ、今日は翠遊びに行ったから二人だけだよ。とこさんも仕事忙しいらしいし。」


 「そうなんですね。二人だけって…なんだかドキドキします。」


 にこっと微笑む八雲。

 た、確かに…考えてみれば翠は夕方ぐらいまで帰ってこないしとこさんも教職と白華しろはな家の仕事で忙しいからしばらく帰らない…。

 何気に…完全に家で二人だけってのは初めてなんじゃね?


 「んじゃ、ご飯とか作るか。」


 「はい!」


 ——————


 それからはいつも通り。二人でご飯を食べ、食べ終わったら食器を洗い、洗濯、掃除などなど…。しかし俺の脳裏には"家で二人だけ"というワードがチラつき妙に意識してしまう。

 

 あれ…?でも二人だけって言っても何すれば良いんだろ。

 付き合ってるわけだけど…俺に交際経験はないしこう言う時世のカップルとは一体何をするものなんだ…?


 「悩み事ですか?」


 「えっ!?あ、ああ!」


 ソファに座って休憩してるとココアを持ってきてくれた八雲が話しかけてきた。

 かなり考え込んでいたようで近くに来たのにも気づかなかった…。


 …こう言う事はちゃんと二人で話し合った方が良いよな。

 そう思って座り直し、八雲の方を向いた。


 「八雲。」


 「はい?」


 きょとんとした顔で俺の言葉に聞き返した。


 「その…俺たちって…付き合ってる…じゃん?」


 「はい、そうですね?」


 「非常に申し訳ないんだけど…俺付き合った事とかないから…こう言う二人だけの時って何したら良いんだろうなって。」


 本当にその通り…これじゃ男としてのプライドもへったくれもない。恥ずかしい事この上ない…。


 「ふふっ…」


 しかしあろうことか八雲は俺の方を見て笑ったのだ。


 「なっ…わ、笑う事ないだろぉ…」


 「あ、い、いえ!違うんです!ただ…」


 「ただ…?」


 「湊くんが私との交際についてしっかり考えてくれてるのが嬉しくて…」


 「あ、ああそっか…」


 八雲の発言でお互い少し恥ずかしくなりソファの上で正座しながらもじもじする。


 「え、えっと!何をするかでしたよね!」


 この空気を破ってくれたのは八雲だった。


 「そ、そう!ごめん、頼りなくて。」


 「いえ、大丈夫ですって!うーん…お家で二人だけ…これは俗に言う''お家デート''というものでしょうか?」


 「''お家デート''って言っても俺ら同棲してるもんなあ。」


 「それじゃあお家デートですることをしてみてはいかがでしょう?」


 「すること?」


 問い返すと八雲はなぜか腕を広げた。


 「スキンシップですよ。」


 「スキンシップ…!」


 俺が分かりやすく動揺すると八雲は少し得意げにニヤリとして腕を広げたまま胸に飛び込んできた。


 「どわっ…!」


 「こうやってハグしたりするんですよっ!」


 ぎゅううと彼女が俺を抱きしめることで体温や感触が伝わってくる。

 は、恥ずかしくないのかよ…!


 「んー…。よしょっ、次は湊くんの番ですよ。はい!」


 ひとしきり一方的にハグされると、一旦離れていきもう一度ソファの上で腕を広げた。

 これは…俺からしろ、ということなのか?


 「く、詳しいな…。」


 「えへへぇ、翠ちゃんの漫画で読みました!」


 「な、なるほど…。」


 ここで行かねば男が廃る…大丈夫だ、ハグぐらいなら前からしてるだろ…!

 風呂入れた時の方がよっぽどだ…!


 じわじわと近づき、恐る恐る腕を広げて八雲の体に通す。

 ぎこちないが腕を締めて抱きしめた。


 「ど、どう…?」


 「ひゃっ……」


 「…え?」


 八雲から返ってきたのは文ではなく単語。

 もしやと思い抱きしめながら顔を覗いてみると…


 「顔真っ赤じゃん…!」


 口をぱくぱくさせながら目を瞑り、茹で上がったように赤くなった八雲の顔があった。


 「い…言わないでくださいよぉ……」


 更に顔を赤くさせ、体温がぐんぐん上がる。これ、もしかしなくても八雲って…自分からはいけるけど押しに弱い…?


 ここで今日はかっこ悪い姿しか見せられなかった俺の心に火がつく。


 「八雲、可愛いよ。」


 「ひあぁぁっ…」


 「髪…綺麗。」


 「きゃぁぁっ……」


 言葉を言うたびに赤くなっていく八雲。

 そろそろ良いだろうと思い、離れようとすると突然ぎゅうっと俺を抱きしめる力が強くなった。


 赤面した顔を上げ、上目遣いで八雲が言う。


 「……好きとは…言ってくれないんですか…?」


 「…っ!」


 またしても特大カウンターを食らってしまいこっちの顔まで赤くなるのが分かる。

 だけど…ここまでしたんだ…言ってあげよう。


 「八雲…好きだよ。」


 「ぅぅぅっ…!」


 言葉にもならない声で悶え、足をバタバタさせて喜ぶ。

 俺も内心、同じ反応をしていた。


 「わっ…ちょっ、そんなに危なっ……!」


 とさっ


 「…………!」


 「…………!!」


 八雲が急に動いたことでバランスがとれなくなり、ソファに倒れてしまった。

 しかし…倒れ方も倒れ方で…他の人が見れば俺が八雲を押し倒したように見られてしまう…。事実そうなんだけども…。


 「…ぅ……ぅ……」


 「え…と……………」


 「わ、わたしも………」


 「…え……?」


 「湊くんのこと………」


 「……………」


 「………好き……です……」


 「……………!」


 倒れたことで乱れて広がる髪、少し涙が溢れて赤く蒸気した顔、それが至近距離にある今…。

 この状況で言われると…ヤバい……


 「……あり…がとう……」


 「……は…はい……」


 ぷしゅぅぅぅぅぅぅ…


 二人とも限界になり、顔から湯気が出そうなほど熱くなりはじめたのでゆっくりと起き上がる事にした。


 「その…こう言う事はまだ刺激が………」


 きゅっ


 ''刺激が強い''と言おうと思ったら服の裾を掴まれた。


 「また…湊くんから…してくれます…か…?」


 「……!」


 こんな頼み方されたら…断れない…だろ。


 「うん…分かった。」


 「…!ありがとうございます…!」


 こてん、と俺の体にもたれる。

 ああ…ヤバいな…これは俺の理性が持つかこの先心配だ…。


 だけど八雲は攻められるのが好き…かもしれないと言う事が分かったのでとても満足だ。






 ☆☆あとがき☆☆

 作者はここで誰かに見られる展開が好きなのですが誰も邪魔できるような人がいなかったので今回は二人だけです!

 本日もありがとうございました!

 良ければ小説のフォローや☆評価ぜひ!

 


 


 




 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る