第37話 八雲となでなで

 「ただいまー…。」


 晴れて思いが通じた俺たちはあの後、散歩がてらぶらぶらと話しながら帰ってきた。


 最近八雲やくもさ…八雲の様子が変だったのも俺を意識してしまっての事だそうだ。

 知らなかった時はあれこれ心配したものだが真実はたまらなく可愛らしかったのである。聞いた途端、安心と愛しさで抱きしめたくなったが外だったので自重した。

 偉いぞ、俺。


 そして逆に俺のスキンシップが昔の恥じらいのなかった頃の八雲に慣れてしまったせいでかなり距離が近くなってしまってもいたらしい。

 お互い両思いだと気づいてしまった今となっては意識しすぎてできる訳ないけどな。


 俺も最近の八雲は妙にドキッとさせるみたいな事を言ったら、どうやら無意識に俺を意識させるためやっていたことだとか。

 くぅぅ…こんなに可愛い人がこの世にいるだろうか…。


 とまあ、話は置いといて…。

 家に帰った訳だがしーんとしている。


 八雲の話を聞く限りだと家の母が結構口を出してくれたおかげってのもあるし、俺もアドバイスもらったりしたからお礼を言いたかったんだけど出てこない。

 おかしいな…こう言う時はドア前で待機してるものかと思っていた。


 「静か…だね。」


 「静かですね…。お母様がいらっしゃるかと思いましたが。」


 同じことを思っていたらしく、とりあえず中に入る事に。


 ガチャ


 「あ、おかえり二人とも。私お腹空いちゃったぁ。」


 リビングに入ると相変わらずパジャマのまま一日を過ごしたすいがいた。


 「翠、母さんは?」


 「ん?ママならさっき帰ったよ。仕事が入ったとかで。それ、二人にって残してった。」


 翠が指さした先にはテーブルに置かれた一枚の手紙みたいなものがある。

 俺たちは顔を見合わせ、読んでみる事にした。


 『愛する息子みなと、八雲ちゃんへ。報告楽しみに待ってまーす♡みんなの母マリより。』


 どんな内容かと待ち構えていたが一瞬で読み終わった。


 「母さんめ…。」


 「ふふ…。ですがお母様には感謝しなきゃいけませんね。お世話になりましたし。」


 「だなあ。今度言っとこうか。」


 「はい!」


 「じゃあご飯の準備しよう。」


 「お手伝いします。」


 ——————


 それからはいつも通り一緒に料理して、三人でご飯を食べた。


 「おねえちゃん、私お皿洗い手伝うから先にお風呂入ってきて良いよ。」


 食べ終わり食器を洗う準備をしていると珍しく翠が手伝いを名乗り出た。


 「お、珍しいな。翠。」


 「良いのですか?私やりますよ?」


 「んーん!たまには私も手伝っとかないとそろそろお兄ちゃんに怒られるからねぇ。だから今日は私やる!」


 「うん、先入ってて良いよ。俺たちで今日はやっとく。偉いぞ翠。」


 「分かりました。じゃあ翠ちゃん、よろしくお願いしますね!」


 「はーい!」


 そう言うと八雲はお風呂に入って行った。


 俺たちも皿洗いを始める。


 「今日はどうしたんだ?手伝ってくれるなんてマジで珍しいじゃん。」


 「お兄ちゃんに聞きたいことあってねー。」


 俺が洗った皿を拭きながら翠が言った。


 「聞きたいこと?」


 「うん。お兄ちゃん、おねえちゃんと付き合ったでしょ。」


 ガシャーン!

 思わず持っていた皿を流し場に落としてしまった。幸い割れてはいなかったが。


 「な、なんで分かったんだ…。」


 「バレてないと思ったの?そもそもご飯食べてる時もいつの間にかお兄ちゃん、''八雲''って呼び捨てになってたしね。しかも雰囲気もちょっと違ったし。」


 「雰…囲気?」


 「うん。なんか付き合ってるなーって感じの。」


 「どう言う雰囲気だよそれ…。」


 「まあとにかく、良かったねお兄ちゃん。でも私からしたらやっとかって感じだよ?」


 「やっと?」


 「だってさあ、二人とも絶対両思いなのにずっとうじうじしてんだから。焦ったかったなあ…。」


 「う…。まさか俺の事好きだなんて思ってなくて…。」


 皿を洗い終え、翠は洗った手を拭きながら言った。


 「私も好きなのになあ、お兄ちゃんのこと。」


 「え?」


 唐突な言葉に聞き返してしまった。

 翠が俺を…?いやいや、そんな事あるはずないだろ。


 「ぷっ。お兄ちゃんとしてね!頑張れよ、お兄ちゃん!」


 背中をバンと叩いてくる。

 なんだ、やっぱりそうだよな、翠は俺にとってずっと一緒にいる義妹いもうとなんだし。


 「ああ、ありがとう。」


 「うん!」


 ニコリと俺に笑顔で返すと部屋に戻って行った。

 さて…八雲が出たら俺も風呂入って今日は早めに寝よう。未だに付き合えただなんて現実味がないから色々と整理したいし…。


 ——————


 「ふう…。」


 風呂から上がり、時計を見ると午後9時過ぎ。寝るにはまだ早すぎるから部屋に行ってベッドで横にでもなってようと思い、一度リビングへ戻る。


 「あれ?八雲は?」


 リビングに居ると思ってた八雲の姿はなく、テレビでアニメを見ていた翠に尋ねる。


 「んー?確かに。おねえちゃんどこ行ったんだろ。」


 「まあ良いや。俺部屋行ってるからもし会ったら部屋にいるって言っといてくれ。」


 「おっけーい。」


 そう言い残して部屋に入る。


 「…ん?」


 誰もいないはずのベッドに何か膨らみがある。なんだ…?近づいて確認する事にした。


 「…!」


 枕元まで行き、見えたのは…なぜか俺のベッドで眠っている八雲の姿だったのだ。


 な、なぜ俺のベッドにいるんだ…?


 「んん……」


 物音で起こしてしまったらしく八雲はゆっくりと目を開けた。


 「あ…湊くん…。私寝ちゃってました…。」


 「うん、それは良いけどなんで俺のベッドに?」


 聞いてみるときょとんとした顔をされた。


 「なぜって湊くんと一緒に寝たかったから?」


 「…っ!」


 寝たい…って急に何を言っとるんじゃこの子は…!?さらりと言うが俺の心臓はバクバクと鼓動を早めた。


 「ほら、一緒に寝ましょ?あっためておいたのであったかいですよぉ?」


 ぽんぽんと布団を少しめくり自分の横を叩く八雲。その姿に抗えるはずはなく俺はすんなりと導きのままベッドに入った。


 「ほんとだ…あったかい…。」


 言う通りベッドは八雲が先に入っていたので体温で布団があったかくなっていてすごく心地良い…。はっきり言ってめちゃくちゃ気持ちいい…。


 「でしょう?でも湊くんが来てくれたからもぉっとあったかいですよ。」


 寝転がりながら俺の体に腕を回してぎゅうっと抱きしめてきた八雲。

 一気に体が近づいた事により、ふわりと甘いシャンプーの香りが漂う。

 そして彼女の体の色々なところが当たり、その…とてもドキドキしてしまう…。

 八雲の体の熱がじんわりと俺を包み込んだ。


 「えと…俺にこゆことするのは…恥ずかしいんじゃなかったっけ…?」


 「んー…なんだかお互い好き同士って分かったら安心してむしろ湊くんとくっつきたくなりました!」


 得意げにむふんと言ってくる。

 あー…マジで可愛いな…。恐る恐る俺も隣を向き、八雲の体に腕を回した。


 ぽんっ


 「や、八雲は…可愛いな…。」


 せめてもの反撃…俺だけやられっぱなしってのもあれだし…。


 「………っ…!」


 すると得意げだった顔が真っ赤になっていく。これは…反撃成功か?

 撫でるのをやめようとすると手を掴まれた。


 「も…もっと撫でて…」


 「っ!」


 頬を赤く染め、おねだりをされる。

 反撃をしたつもりが…特大のカウンターを食らってしまった…。


 「う…うん…。」


 この後、八雲が満足するまで撫でてあげて一緒に寝る事にした。


 

 


 


 

 ☆☆あとがき☆☆

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