第35話 八雲さんの気持ち

 「どうした?そんなぼーっとして。」


 あれから数日が経ち、冬休みも残り三日となった。

 そんな中、俺は今紫央しおとハンバーガーチェーン店であまり余った課題を机に広げているとこだ。

 ちなみに一個も進んでない。


 「ん?俺、ぼーっとしてた?」


 紫央に言われたので顔を上げる。

 

 「なんか悩み事でもあんの?」


 紫央がいるという事はクロエもいる。

 俺と紫央は互いに勉強が全く出来ないので正直居てくれるとありがたい。


 「なんかあんだったら俺たちに言えよ。まあさしずめ八雲やくもさんのことだろうけど。」


 「なっ…!」


 「はは。図星だな?」


 向かい側の席から二人がニヤニヤと見てくるのでジュースをズズズと飲む。

 俺、そんなに分かりやすいかな?


 「そ、そうだよ。八雲さんのこと。」


 「八雲ちゃんがどうかしたの?」


 「まさかケンカでもしたのか?」


 「いやいや、ケンカなんかするわけねえじゃん。うーん…なんて言ったら良いかな…。」


 腕を組みなんて言えば良いか考える。


 「なんかさ、最近八雲さんの反応?がなんか変なんだよな。」


 「反応?」


 「どんな?」


 「んー…昔は風呂に入れてくれだとか服脱がせてくれだとか全く恥じらいがなかったというか…」


 「…みなと、それ初耳なんだけど…。」


 「お前…いつの間にそんなことを…。」


 しまった…、いらんことまで言いすぎた…!


 「口が滑った…。忘れてくれ。」


 「しょうがないな。今は忘れてやるけど代わりに今度詳しく教えろよ。」


 「クロエも聞っきたーい!」


 「……ちゃんと忘れろよ。」


 苦し紛れに言うも二人は目の前でグータッチ。ああ…なんで俺変なこと言っちまったんだろ…。


 「んで?今はどう変わったんだ?」


 紫央が聞いてくるので慎重に言葉を考える。


 「えーっと…前まではさっき言ったみたいに全く恥じらいがなかったんだけど最近はちょっと手が当たったり体が当たったりしただけでビクッとしてさ。目逸らされたりしちゃうんだよな。俺、何かしたのかな?」


 そう言うと紫央とクロエが顔を見合わせて大きなため息を吐いた。


 「お前さあ、本気で言ってる?」


 「え?」


 「あえて俺たちは言わないどくけど湊、お前はもうちょい自分を肯定した方が良いぞ。」


 「ど、どゆことだよ。」


 紫央が結構マジメな顔して言ってくるので少し驚いてしまった。

 すると紫央の隣でクロエが口を挟む。


 「湊はねぇ、多分心のどっかで''俺なんかが〜''って思ってるとこあるでしょ?そゆことだよ。」


 「その通り。だからちゃんと八雲さんとも向き合ってやれ。そうすりゃお前でも分かるはずだぜ?」


 「…分かった。」


 二人の言葉はかなり俺の心に刺さった。

 心の奥底では分かっていたが確かに…''俺なんか''と逃げてた節があるかもしれない。


 「でもお前らすごいな。俺、自分の事なのに気付きもしなかった。」


 「結構他人の方が気づく時ってあるしな。それに付き合い長いし嫌でも気づくぜ!」


 「嫌でもって…。」


 「紫央くんの親友のことだもん。クロエも分かっとかなきゃね!」


 「すごいな…。でも二人ともありがとな。これからはちゃんと直してくわ。」


 「おう!」


 「うん!」


 それから二時間ほど話し、解散。

 家に帰ったら今日言われた事を心がけよ。


 ——————


 湊が遊びに行ってる頃、家では留守番していた母マリと八雲が二人でソファに座りながらテレビを見ていた。


 「八雲ちゃんさ?」


 「はい?」


 マリが八雲に話しかけた。

 一旦テレビから目を離し、マリの方を向く。


 「湊のこと好きでしょ。」


 唐突な言葉に八雲は飛び跳ねて驚き顔を真っ赤にした。


 「な、なな、何を言って…。」


 「あっはは〜。可愛いなあ八雲ちゃんは。最近家に来た私ですら分かっちゃうよん?」


 更に顔が茹で上がったように蒸気し、あわあわと慌て始める八雲。

 その様子をマリは微笑みながら見ていた。


 「そ、その…私…自分でも分かんないんです…。前までは全然気にもしなかった事が…今はすごく恥ずかしくって…ドキドキするっていうか…。」


 「うん、好きだね!」


 グッドサインをしてにっこりするマリ。

 

 「す…好き…」


 ぽーっとマリの方を見ながら考える。

 八雲の顔はまるで恋する乙女。

 恥ずかしさを紛らわすために手をいじいじしている。

 ''好き''と言う言葉を口に出した事でより一層意識してしまったのだ。


 「八雲ちゃん八雲ちゃん。遠慮なんかしなくて良いんだよ?君の家庭状況はなんとなく察してる。この前現場に出くわしたしね。さしずめお父さんに連れてこられたところを湊が連れ戻しに来たってとこかな?」


 「な、なんで分かったんですか…?」


 「私は記者やってるからねぇ。勘が良いんだ。まあそれは置いといて。君のお家が複雑だからってさ、誰にでも幸せになる権利はあると思うよ?」


 「お母様…。」


 「それに…」


 マリが八雲の耳元で囁いた。


 「湊って自分では気付いてないけど結構モテるから早くしないと取られちゃうよ?」


 「……っ!」


 目をまんまるくして驚く八雲。


 (異性としてじゃなくて家事代行としてだけどまあ…良いか。焚き付けないとこの子達一生このままかもしれないしね…。)


 この事は言わないでおく事にした。


 「で、でも…私なんかを湊くんが好きになってくれるでしょうか?家事だってまだ完璧じゃないし、やれない事いっぱいあるのに…。」


 八雲の言葉で首をがくっと下げたマリ。


 「もー…。二人揃って自己肯定感が低い…。家事なんてこれから一緒にやってってやれるようになれば良いじゃん?」


 マリの言葉を聞き、八雲は顔を上げた。

 ''一緒にやっていく''この言葉にぐっときたのだ。


 「そう…ですね…!私…頑張ってみます…!」


 「うん!その意気だよ!あ、あとね。湊って結構鈍感系主人公やってるからぐいぐい行った方が良いかもねぇ。」


 「ぐいぐい?」


 手をくいっとして八雲を近くに呼ぶ。

 そして耳元で再び囁く。


 「ごにょごにょ……」


 ぼんっ…!


 八雲の顔に熱が集まり、赤く染まる。

 口をぱくぱくとさせて目を見開いていた。


 「が…がんばり…ましゅ…。」


 「うむ!」


 (ママったら…おねえちゃんに何吹き込んでんだか…。)


 部屋から出るとソファで何やらマリと八雲がこそこそと話してるのに気付き、そっと後ろから見ていたすいだった。


 ——————


 「ただいまー。」


 時刻も夕方5時ぐらいになり、家に帰る。

 冬なので既に真っ暗だ。


 「お、お帰りなさい湊くん…。」


 すると出迎えてくれたのは八雲さんだった。

 さっき紫央たちにあんな事を言われてすぐなので少し緊張してしまう。


 「た、ただいま。」


 よく見てみると何やら八雲さんの顔も赤い。

 家であの母が何かしてないと良いが…。


 「え、ええっとぉ…。」


 もじもじしながら何か言おうとしている。

 少し待つ事にした。


 「どしたの…?」


 「ご、ご飯にしますか…?お風呂にしますか…?それともわた………」


 あ、これ聞いた事あるやつだ。

 普段の八雲さんがこんな事言うはずはない。

 …十中八九母さんの仕業だ…。


 「…八雲さん。」


 「きゃっ…!み、湊くん?」


 顔から火が出そうな八雲さんの手を掴み、一緒にリビングへと向かう。


 ガチャン!


 「母さん…。八雲さんに何吹き込んだんだ。」


 椅子に座って雑誌を読んでいた母さんに問い詰める。

 母さんと八雲さんが軽く目配せしたのを見逃さなかった。確信犯だ。


 「おかえり〜湊。吹き込んだなんて失礼しちゃうよ。八雲ちゃんが教えて欲しいって言うから教えてあげたのにぃ。ね、どうだった?」


 「え?」


 八雲さんが教えて欲しいと言った?

 ま、まさか…そんな事あるはず…


 隣にいる八雲さんをチラッと見た。

 赤くなりながらも俺に期待の眼差しを向けている…のかもしれない。


 もしかしたらそんな事あるの…か?


 俺の視線に気付き、急いで目を逸らした。


 「み、湊くん!夜ご飯の材料を一緒に買いに行きませんか…!?」


 「え?ああ!そうだな…!んじゃあ帰ってきたついでだし一緒に行こっか!」


 そう言うと慌てて八雲さんが着替えるために部屋へ行った。


 「みぃなぁとぉ。ちゃんと八雲ちゃんの気持ちにも向き合ってあげないと……」


 「わ、分かってるよ…。」


 八雲さんがいなくなった事で一気にネジが緩み、顔が赤くなってしまった。

 さっきのは…破壊力が高かった。


 しかしそれが母さんにバレてにやぁっと見られてしまう。急いで顔を隠した。


 「なんだ、ちゃんと効いてんじゃん。」


 「う、うるさいな。」


 「お、お待たせしました!」


 部屋から出てきた八雲さんはいつぞやのマイから貰ったパーカーだ。

 ぐっ…相変わらず似合ってて可愛いな…!


 「それ…やっぱり似合ってるね。」


 「ほんとですか…!パーカーって良いですね。楽ですし私も好きになっちゃいました!」


 ''好き''という言葉に反応してしまい、余計ドギマギする。


 「じゃあ…行こうか。母さん、行ってくるよ。」


 「はーい。でもあんまり遅くならないでね?」


 「か、買ってくるだけだよ!」


 そう言い残して外へ出る。


 俺はちゃんと八雲さんと向き合うって決めたじゃないか…。

 母さんに聞いた件も含めて気になるしこの機会にしっかりと話してみよう。




 


 

 

 

 ☆☆あとがき☆☆

 遅くなりました!

 次の話に続きますのでお楽しみに!

 

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