第34話 八雲さんとクレーンゲーム

 「ねーねー、なんかゲーセン行きたくない?」


 これ、驚くべく事に俺の母の発言なのだ。

 家のソファでごろごろしながらすい八雲やくもさんとテレビを見ている。


 「ゲーセン良いねー!行きたい!」


 翠もノリノリだ。


 「ゲーセン…ああ、ゲームセンターの事ですか。そういえば私、行った事なかったです。」


 少し上を向きぽつりと言葉をこぼした八雲さん。

 それを二人は聞き逃さなかった。

 椅子に座ってテレビを見ていた俺もついでにバッチリ聞いた。


 「八雲ちゃん、ゲーセン行きたい?」


 「え?私ですか?うーん…興味はあります!」


 悩んだ末、顔を輝かせて答える。

 やっぱり八雲さんはそう言う事とは無縁だったのか…。


 「よし、行こうおねえちゃん。」


 「よ、よろしいのですか?私もご一緒して。」


 チラッと俺の方を向く。


 「もちろん。んじゃ行くか!」


 「ありがとうございます!」


 ゲーセンに行く事が決まり、みんなが準備を始めた。

 まあ、たまの休みには良いか。


 「やっさしいじゃん、みっなっと!」


 母さんが後ろから話しかけてきた。

 既に着替えているがその格好はどこからどう見ても子供でマジで大人に見えない。

 ツインテールに暗めの赤のスカート履いてるもんな、とても30代とは思えん。


 「まあな。八雲さんには今までやれなかった事をなるべくしてあげたいなって。」


 「ふふ、良いおとこ〜。」


 脇腹を小突いてくる。

 この前会った時は少なくとも母としての威厳を感じたが今は微塵も感じない。

 話しやすいし良いんだけどさ…。


 「さっ!みんな準備出来たら車出すよ〜。レッツゴー!」


 準備が終わり、四人で車に乗り込んでゲーセンへと向かう。

 ちなみに母さんはちゃんと免許は持ってる。


 ——————


 「おお…すっげえ人だな。」


 どうやら考えてる事はみんな一緒。ゲーセンの中は大勢の人で賑わっていた。


 「あー!お兄ちゃん見てー!」


 着くや否や翠が俺を引っ張り、お目当ての場所に連れて行く。


 「ん、クレーンゲームか。」


 翠が欲しがってるのは''何か可愛いやつら''通称''なにかわ''のぬいぐるみ。


 とりあえず100円を投入し、ゲームを始める。

 すーっと迷う事なくアームを動かしてこっちまで持ってきて……


 ボトッ


 「ほい。」


 落ちてきたぬいぐるみを翠に渡すと八雲さんがキラキラした顔で俺を見ていた。


 「す、すごいです!みなとくんすっごく上手いんですね!」


 こんなに褒められると照れるな…。


 「ま、まあ昔からゲームは得意だったから。これぐらいなら結構やれるよ。」


 「ほらほら。八雲ちゃんも見てないでなんなやってきなよ。せっかく来たんだからさ。一個ぐらい記念で取らなきゃ!」


 母さんがそう言い八雲さんを連れてクレーンゲームのエリアを見に行く。

 俺と翠も着いていく事にした。


 ——————


 「ん…これ可愛い…。」


 八雲さんがゲームの台の前で立ち止まった。

 そこにあったのはぬいぐるみの定番、くまのぬいぐるみ。確かに可愛い。


 「やってきなよ!」


 「頑張っておねえちゃん!」


 二人に後押しされて八雲さんは台に向かい、100円を入れた。


 「えっと…ここで押して…ここなら…」


 慎重にクレーンの場所を確認し、ついにボタンを押したが…。


 『ざんね〜ん!』


 見事に外した。

 かなりしょんぼりしたようだがめげずにもう一枚100円を投入。

 なんか一生懸命やってるとこ可愛いな。


 しかし…見てるとさっきと同じミスを繰り返そうとしている。


 「や、八雲さん。」


 「はいっ?」


 ポチっ


 「あ…」


 俺が呼んだ事で思わずボタンを押してしまいアームは何もないところを掴もうとしていた。


 「外しちゃいましたあ……。」


 さっきよりもしょんぼりした顔で俺を見る。

 罪悪感がすげえ……


 「ご、ごめん…。じゃあ次、俺と一緒にやろう。」


 「湊くんと?」


 100円を入れてレバーとボタンに置いてあった八雲さんの手に俺の手を添える。

 つまり八雲さんの背から俺の腕を回したのだ。

 途端に八雲さんの顔がかあっと赤くなった。


 「ひゃっ…!」


 「ここはこうするんだよ。」


 考えてみれば結構思い切った事をしてしまった自分に恥ずかしくなり内心ドキドキだが何もなかったかのように振る舞いつつも素早くゲームをやる。


 スー…ガチャン…


 「わっ…!すごい!湊くん、見て見て!掴んでる!」


 八雲さんが俺の腕の中で興奮してぴょんぴょんと跳ねた。

 本当に嬉しそうな顔でさっきよりも心臓がバクバクする。一言で言えばめちゃくちゃ可愛い。


 ボトッ


 アームがぬいぐるみを離し、取り出し口に落ちてきた。


 「わああ!取れました!すごいすごーいっ!一回で取れちゃうなんて湊くん本当にすごいです!」


 取れたぬいぐるみを抱き締めて無邪気に顔を輝かせる。

 俺の方に近づき、とびきりの笑顔を見せた。


 「ありがとうございます…!湊くん!大事にしますね…!」


 ドキッ…


 心臓の鼓動が早まる。

 この笑顔を見るために今日も来たんだもんなあ…。喜んでもらえて良かった。


 「お、おう…。喜んでもらえたなら良かった…。」


 「ひゅう〜!かっくいー!湊!」


 「う、うるせえよ母さん!」


 母さんに茶化され顔が赤くなる。


 「なんだか私、クレーンゲームやれる気がしてきました…!湊くん、一緒にやりに行きましょ!」


 八雲さんが俺の服を引っ張る。

 いつもは大人っぽい八雲さんの無邪気な姿はいつ見ても可愛い。


 「おっけー。次行こうか!」


 ——————


 「ふんふ〜ん♪いっぱい取れましたねっ!」


 両手にぎっしりとぬいぐるみを抱えて八雲さんが言う。

 そうだった…この人一回教えれば完璧にやれちゃう人だった…。

 こりゃあ多分ゲーセンから二つ名でも付けられてるかもな…。


 「八雲さん、楽しかった?」


 「はい!もちろんです!」


 「良かったよ。」


 助手席から後ろを見て言う。

 そして運転している母さんに一言言っておいた。


 「ありがと…今日は。」


 「んふふっ!お母さんナイスでしょ。」


 今日だけは母さんに素直に感謝を伝える事にした。


 ——————


 その日の夜。

 八雲はベッドに湊に取ってもらったくまのぬいぐるみを置いた。


 「……。」


 ベッドに入りぬいぐるみを抱き締める。


 少しだけ微笑み、そのまま目を閉じた。


 


 



 

 ☆☆あとがき☆☆

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