第32話 八雲さんと初詣
「3…2…1…!」
「あけましておめでとう!」
「あけましておめでとうございます!」
「おー、あけおめー!」
「あけおめおめ!」
「あけましておめでとー!」
「あけおめ!」
「みなさん、おめでとうございます。」
ついに12月31日は終わりを迎え、日付は1月1日の午前0時となった。
俺ん家に全員集まり、とこさんと俺で作ったすき焼き食べてゲームしたり話したりしてたらあっという間だ。
(まあ…
テレビの前で騒いでるヤツらを眺める。
紫央はテンション上がってるしクロエはその紫央にベタベタ、桜ちゃんは
そう、俺にとったらこれが今までの大晦日。
普通だ。
だけど…今年は違う。
輪に混ざって楽しそうに笑っている彼女の姿を見る。
今年は
初めて話したというのに風呂に入れて体を洗ってあげたり、突然一緒に住むことになったり、ショッピングに行ったりして遊んだり、そう思ってたら急にいなくなって総理大臣とご対面したり…。
いや、振り返ってみるとマジで色々あったな…。俺の人生で一番濃い一ヶ月だった。
「
八雲さんが俺の前に歩いてきた。
さっきマイに渡されたぶかぶかのパーカーを着てるから破壊力が高すぎる。
実を言うと俺、ぶかぶかなファッションが好きなんだよなあ…。
「あけましておめでとう、八雲さん。」
「あけましておめでとうございます!」
ぺこりと二人で軽くお辞儀をし挨拶をした。
「えっと、今年もよろしくな。」
「…はい!よろしくお願いします!」
お互い少し気恥ずかしくてたどたどしくなってしまった。
なんか最近、八雲さんと話すのがちょっと照れ臭いんだが…まあそれは向こうも同じっぽいし良いか…。
「みぃなぁとぉ〜…。」
後ろからニヤァとしながら紫央とクロエが覗いてきた。なんだこのノリ。
「ま、それは良いとして。神社行こうぜ!神社!」
「いっすね!んじゃ先輩、アレ着ましょうかぁ?」
マイもニヤリとしてガサガサと袋の中から八雲さんとペアルックになっているパーカーを出した。
「お、いいねえ、マイちゃん。よし湊、着ろ。」
「良いじゃん良いじゃん!着なよ湊!」
紫央とクロエもノリノリである。
どうしようと八雲さんの方をチラリと見てみるとほんのりと頬を染めていた。
「んっと…どうする?」
「わ、私は…着てもらいたいですけど…。」
「そ、そっか。じゃあき、着ようかな?」
あまりに反応が可愛いので素直に着ることにする。まあ、パーカー好きだし?と言い訳をしてみる。
「んじゃみんな、神社でも行くか!」
——————
「うう…寒いねぇ…。」
「そりゃお前、そんな短いスカート履いてっからだろ。」
お決まりの紫央とクロエのやりとりを聞きつつも夜の神社を歩く。
相変わらずの人の多さでかなり賑わっていた。
家から歩いて行ける距離に神社があるのってこゆ時にマジで便利だよなあ。
「八雲さん、寒くない?」
「マイちゃんからもらったこの服、すごくあったかいですよ!湊くんも寒くないですか?」
服があったかくてテンションが上がったのか腕をブンブンと縦に振っている八雲さん。
か、かわいいな…。
「だね。ありがとな、マイ。」
「いえいえ、先輩にはいっつもお世話になってますっしね!このくらいは後輩として当然の務めっすよ!」
マイがふふーんと得意げに鼻を鳴らすそばで桜ちゃんが死んだような顔をしているのに気づいた。
「さ、桜ちゃん…?どしたの?」
「私…なんにも用意してなかったよお…。ごめんねお兄ちゃん…。」
「なんだ、そんな事か。」
何でそんな深刻そうな顔をしてるのかと思ったが安心だ。
「そんな事って…だってマイちゃんは…。」
「良いんだよ桜ちゃん。気持ちだけで十分嬉しいしそもそも別に今日物渡す日じゃないだろ?桜ちゃんにはいつも翠がお世話になってるから。こちらこそありがとな。」
俯いていた桜ちゃんの頭をぽんっと撫でる。
すると顔を上げて俺に抱きついてきた。
「ありがとおお…!お兄ちゃん…!」
「おう。あ、お賽銭やりに行こうぜみんな。」
「いいねー!賛成!」
「だな!行くか!」
全員で神社にある賽銭箱のとこに向かうことに。
しかしそこには長蛇の列ができていた。
「うっわ…めちゃくちゃ並んでるし…。」
「まあ分かってはいたけどすごいな…。」
「どうしますか?並びます?」
「うーん…そうだな…。あ!」
紫央が何か思いついたように声を上げた。
「よし、クロエ!俺たちはあっちで回ってようぜ!湊!お前は八雲さんと並んどけ!ほら、行くぞ!」
二人は気持ちのいいような笑顔で去って行った。
「あれー!翠ちゃんと桜ちゃんにマイちゃんじゃん!あけおめー!」
次にやってきたのは翠たちの同級生。
ワイワイとみんなで楽しそうだ。
「そうだ!翠ちゃんたちも一緒に行こうよ!ほら!」
「ええ…?ちょ…!」
「わ、私は…みな……」
「グッドラックっすよー!せんぱーい!」
マイも笑顔で俺たちに手を振り、翠と桜ちゃんは半ば強引に連れ去られて行った。
「な、なんか行っちゃったねみんな。」
「ですね…。私たち二人で並びましょうか。」
「だね…。」
しっかし長いなこの列…。
でもこの感じだったりでっけえ火だったり俺は結構好きだなこの雰囲気。
「思えば…湊くんと出会ってからは色んな事をしましたよね。」
待っていると八雲さんが口を開いた。
「ねー。なんか一ヶ月前までは全然話した事なかったのが嘘みたいだな。」
「はい…。でも私、湊くんに会えて良かったです。」
「俺も八雲さんと会えて良かったよ。おかげで毎日が楽しいし翠も喜んでるし。」
「ふふ…それは嬉しいです。迷惑ではないかと心配してたんですよ…私…。」
「はは、迷惑なワケないじゃん。ちゃんと家事の手伝いもしてもらってるしね。まだまだミスは多いけど。」
いたずらで一言付け足してみる。
すると思った通り少ししゅんとした顔で八雲さんが俺を見た。
可愛いが故についついやってしまう。
「うう…。もっと上手くできるように精進します…。この際、神様に家事がちゃんと出来ますようにとお願いしましょうか……」
「い、いやいや、八雲さんならやってけばそのうちやれるようになるって。そのお願いで枠使っちゃうのはもったいねえよ。」
「…本当ですか?なら良いんですけ……きゃっ…!」
言葉を言いかけた時、列の間を抜けようとした人が八雲さんにぶつかってしまい、俺の方へと倒れてきた。
「ど…どわっ…!?や、八雲さん!?」
咄嗟に俺の胸へとおさまった八雲さんにこれ以上倒れないようにと腕を回す。
するとこれはびっくり、またしても俺が八雲さんを抱き締めているような構図が出来上がった。
「ご、ごめ…ごめんなさい…!」
腕の中で顔を赤くしながら八雲さんが言う。
「いや…倒れなくて…良かった、と言いますか…。」
「あ、ごめんなさい!」
俺たちが二人で話してるとさっきぶつかった人が戻ってきた。
男三人のグループ、多分大学生ぐらいの人たちかな?
「すみません!暗くて全然見えなくて!彼女がさんにぶつかっちゃいましたよね。ホント…ごめんなさい!」
「かっ…い、いえ…大丈夫ですよ。こちらも何もなかったですので…。」
動揺を隠しつつもなんとか答える。
「ありがとうございます…!こんな可愛い子転ばしてたかもしれなかったなんて…ホントすみません…!それじゃあ俺たちは失礼しますね、ご迷惑をおかけしました!」
三人は俺たちに深々と頭を下げて歩いて行った。
チャラそうだけど優しい人たちだったな…。
「えっと…良かったね八雲さん…良い人…そう、で…。」
俺もさっきの言葉を意識して直視ができなかったのでチラリと少しだけ八雲さんを見て言う。
そしたらなんと八雲さんは茹で上がったように赤くなっていた。
「か…彼女…、っては、はい!そそ、そうですね!良かったです!」
「…八雲さん、もしかしてさっきの言葉…意識…してる?」
「なななっ…なんの言葉で…しょうか…!?」
八雲さんに聞いてみる。
くそう…これ俺も顔から火が出るほど恥ずいじゃねえかよ…。
「なんのって……えっと…その…かの………」
ゴーンゴーンゴーンゴーン!
言葉を言おうとした瞬間、神社に除夜の鐘の音が鳴り響き俺の声を掻き消してしまった。
「…………。」
「…………。」
俺たちの間になんとも言えない沈黙が広がる。
「ぷっ…。」
「なっ、湊くんなぜ笑うのですか…!」
「だってさ…!お互い真冬なのにめっちゃ汗出て焦って…顔真っ赤じゃん…。」
「そっ…それは…確かにそうですね…。」
八雲さんもくすりと笑った。
「そう言えば知ってますか?除夜の鐘は人の煩悩の数鳴らすんですって。」
「へぇ…知らなかったな。なんかじゃあ…鳴り始めた時に俺、煩悩にまみれたこと考えてたかもしれないから申し訳ないな…除夜の鐘に。」
「ふふ。除夜の鐘に申し訳ないってどう言う事ですか。でも煩悩にまみれたって湊くん、何考えてたんですか?」
きょとんと首を傾げるのを見て俺は非常に焦った。なぜならその時考えてた事はさっきの''彼女''という言葉について考えまくってた時なのだ。
「い、いやいや…やっぱり煩悩じゃないかも?そう言う八雲さんは大丈夫だったの?」
「わ、私ですか?うーん…。」
腕を組みながら目を閉じた。
多分、さっきの時のことを思い出そうとしてるのかな。
しゅぅぅぅぅ…
「や、八雲さん!?」
徐々に顔が赤くなっていき、また頭から煙がのぼりはじめる。
「あ…いえ…その…わっ…私も!煩悩では…ないです…。」
「そ…そっか…。」
またもお互い恥ずかしくなり黙ってしまう。
ザッ…
「…あ!八雲さん!ついに俺たちの順来た!」
「ほ、本当ですね!ですけどみなさんまだいらしてないようですが…。」
「まあ…良いじゃん!俺たち先やっちゃおうぜ。」
八雲さんの手を引いて賽銭箱の前へと連れて行く。
チリーン…パンッ…
二人で小銭を投げ入れて手を合わせる。
ちなみに入れたのは100円。ちょいと豪華だ。
「…………」
「…………」
しばらくの間目を瞑り、お願いをする。
……よし、これくらいで良いかな。
「んじゃ行こうか八雲さん。」
八雲さんを見ると彼女も目を開けていた。
「あ、はい!分かりました。」
ようやく賽銭の列から逃れ、人が少ない所に移動できた。
「…湊くんは何をお願いしました?」
「俺?俺は…………」
俺がお願いしたのは''来年も八雲さんと思い出が作れますように''。でもこれ言うのは、恥ずくないか…?
「や、八雲さんは何をお願いしたの?先に聞いてから言おっかな?」
「むー…私から先ですか…。」
少しふくれた顔になる。
やっぱりダメだったかな…。
「えっと…やっぱり俺から……」
「''今年も湊くんと思い出を作れますように''」
「…へ?」
八雲さんは俺が言うより先に話した。
「今年も湊くんと思い出が作れるようにお願いしましたっ!」
その時、今まで見たことのないくらい輝くほどの笑顔を見せる。
この寒い夜に咲いたその笑顔は俺を暖かく包み、照らすようだったのだ。
ドキ……
あれ…なんだろ…この気持ちは…。
「さ!私は言いましたよ!湊くんは何をお願いしたのですか?」
彼女の一挙一動に目が釘付けになる。
「俺も…八雲さんと思い出が作れますように…と…。」
「えっ?い、一緒…なんですか…?」
八雲さんの顔も赤くなった。
「う、うん…同じ…だな。」
「そ…そうですか…一緒…ですか…。」
恥ずくなり彼女の顔を睨む。
しかし八雲さんは嬉しそうにして一緒かあ…と小さく呟くように言葉を
「あの…八雲さん…!」
「あれー!もう終わっちゃったのか!?」
俺が思い切って言おうとした瞬間、紫央とクロエ、翠と桜ちゃんがみんなで戻ってきてしまった。なんてタイミングが悪い…
「だってお前らが遅いからしゃーないだろ?」
「うんまあ、そうか…すまん。」
「あれ、おねえちゃんどうしたの?顔赤いよ?」
翠が八雲さんの近くに行き、顔を覗く。
「こっ…これは…!なんでも…ありません…。」
「そう?なら良いけど。」
「は…はい…。」
全員が集まったことによりにぎやかさを取り戻した俺たち。
八雲さんもすでにクロエや翠に絡まれているため今日はもう言うタイミングねえなあ…。
まあ良いや。別に今すぐ言う必要もないし。
そう、今日願ったみたいに、またこれから思い出を作っていこう。
☆☆あとがき☆☆
遅くなりました、申し訳ありません!
今年も湊と八雲をよろしくお願いします!
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