第30話 八雲さんと家事特訓!

 チュンチュン…


 「……朝か。」


 午前7時。昨日あんな事があっても、たとえ今日が土曜日でも俺は目が覚める。

 それがこれまで俺が培ってきた生粋の家事技術スキルの一角だ。


 「くう…。」


 軽く伸びをしてベッドから降りリビングへと向かう。


 「軽く家の掃除でもすっかなあ。」


 今日は30日。年末の大掃除でもするか。


 ガチャ


 キッチンに立ちとりあえず朝ごはんを作ろうと思っていると、部屋の扉が開き寝起きの八雲やくもさんが出て来た。


 「おはよう、早いね。」


 「おはようございます…。えっと、みなとくんに頼みたいことがあって…。」


 「頼みたいこと?」


 「私に…家事を教えて欲しいんです!もっと湊くんたちのお手伝いが出来るようになりたいなって…。」


 「もちろん良いけどこんなに朝早くからやらな………」


 言いかけた口を閉ざす。

 ナチュラルにまた甘やかそうとしてたけど、そうだ…俺は決めたじゃないか。

 これからは八雲さんに優しくするだけじゃなくてちゃんと厳しくも接すると。


 ただ八雲さんには甘やかしたくなると言うか…うん、これからも気をつけよう。


 「よし!じゃあ一緒にやろうか。いつもよりビシバシやるけどついて来れるかな?」


 「はい!ありがとうございます!頑張ります!」


 こうして俺と八雲さんの一日が始まった。


 ——————


 「まずは今からやらうと思ってた朝ごはんの準備から教えるよ。作るのはオーソドックスな目玉焼きとソーセージで良いか。んじゃ冷蔵庫から材料出してくれる?」


 「分かりました!」


 ガサゴソと冷蔵庫から卵と袋に入ったソーセージが取り出される。

 それを見て俺も棚からフライパンを出してIHに置く。


 「次はフライパンを熱してそこに卵割って焼こうか。ソーセージも隅でやっちゃって良いよ。俺はこの間に米研いどくから焼けたなって思ったらお皿に移しといて。」


 「はい!了解です!」


 さて、こんくらいなら流石に出来るだろう。最初っから難しいのやっても意味がないしな。徐々にやれるようになってけばオールオッケーだ。


 米を研ぎながらも隣をチラチラと確認。

 だが八雲さんの顔は真剣でこれなら安心できる。

 なんか…親の気持ちになるなあ…。そして可愛い。


 ピッ


 炊飯器に研いだ米をセットして八雲さんの方に向かう。そろそろ出来た頃だろう。


 「どう?八雲さん、出来そう?」


 「…み、湊くん…。」


 すると八雲さんは死んだような顔でフライパンを指さした。

 な、なんだ…?


 「こ、これは……。」


 「焦げちゃいましたあ…ごめんなさい…。」


 フライパンの中には見るも無惨にダークマターと化した卵だったものとソーセージだったものが粉々になって転がっていた。


 「だ、大丈夫だよ。最初はそんなもんさ。」


 「うう…本当にごめんなさい…。」


 うーん…一応は食べ物だったものだし捨てるのはもったいねえよなあ…。

 …食べるか。


 ひょいぱく…ひょいぱく


 「み、湊くん…!?」


 「ご飯は俺がささっと作るから次行こう、次!」


 ——————


 「よし、じゃあ次は洗濯だ!洗濯機の中に洗う物と洗剤を入れて……」


 八雲さんに手本を見せてあげるために洗濯カゴから服やらを取り、中へぶち込む。

 しかし運悪く俺が掴んでしまったところにあったのはや、や、八雲さんの…し、した、した…下着…!!


 普段は無心で入れてるが今は八雲さんが隣に居る…!ヤバい…どうしましょ…。


 バッ…!


 あわあわしていると持っていた下着が突然ひったくられた。


 「………す、すみません……。その…恥ずかしくて…。」


 八雲さんが俺から取った下着を腕で隠しながら顔を逸らした。

 少し見える顔はめちゃくちゃ赤く染まってる。


 「あ、いや…うん…。ごめん…。」


 とりあえず謝っておこう…。

 それにしても…この前部屋を掃除した時に下着を発見してしまった時は羞恥心のカケラも見せなかったのにどうしたと言うんだ…。


 「ええっと…じゃあ八雲さん、それ入れ終わったら洗剤入れて…洗濯のボタンを押して…下さい。」


 「は…はい!わ、分かりました…!」


 八雲さんがサササッと下着を入れ終わったのを確認し、教える。

 直視出来ねえし…なんか…ちょっと恥ずい。


 ピッ


 ボタンの音が鳴ったのを聞いて一安心。


 「よし、洗濯はオッケーじゃん!そんじゃ待ってる間にご飯食べよう。」


 「…!はい!」


 俺たちはすいを起こして朝ごはんを食べることにした。


 ——————


 「「「いただきまーす!」」」


 毎度ながらの翠との格闘を制し、ようやく起こすことに成功。

 8時頃にみんなで朝ごはんを食べる。


 「そういやおねえちゃん、今日も早起きだね。」


 「八雲さんは早く起きて俺の手伝いしてくれてたんだぞ。お前も少しは早く起きろ。」


 「えぇ…。代わりに昼とか手伝うからダメ?」


 「手伝ってくれるのはありがたいけど朝早く起きるのにこしたことは……」


 ピー!


 「お、洗濯終わったみたいだ。見に行こうか。」


 「了解です!」


 俺は八雲さんを連れて洗面へと向かう。


 「どれどれ…。」


 洗濯機を開け、念の為に一度確認をしておく。……ん?


 「ど、どうですか?ちゃんと出来てますか?」


 期待の眼差しで俺を見る八雲さん。

 そんな目で見られたら…言い辛えよ…。


 「…八雲さん、これ洗剤入ってないよ…。水で洗っただけ…。」


 「え、えええええ!!??」


 ——————


 こんな調子でこの後も洗濯物を干してもらったり、掃除をしたりしたが、どれもどこか一つ抜けていて言ってしまえばしょうもないミスをしてばっかだった。


 そして…時間は進み夕方…。


 ——————


 「ごめんなさい…私、要領が悪くって…。数をこなさないと全く出来ないんです…。」


 一通り今日一日でする事は終わり、ぐったりしながら八雲さんが言った。


 「…気にしないでよ。それに数こなして出来るようになるなら良い事じゃん。後半からケアレスミスの量も減ってきてたし。」


 そう、数こなせてやれるようになるなら全然良いのだ。


 「ありがとうございます…。でも出来るようになるまでやる、なんて当たり前の事じゃないですか…。褒められるようなことじゃないですよ。」


 「え?なんで?」


 「…え?だ、だって…一般的な事では…?」


 「いやいや全然普通じゃないって。それ、すごい事だよ。だってそれが普通なら世の中出来ない事がある人なんていねえじゃん。んー…なんて言ってら良いんだろう…。大切なのはさ、出来るようになるまで''努力''する事だと思うよ。」


 「努力…。」


 「俺は前から八雲さんが俺たちの手伝いを出来るように翠に掃除の仕方を教えてもらったりだとか俺に皿洗いのやり方とかを毎日熱心に聞きにきてくれたりだとか頑張ってくれてたの知ってたんだ。一般的な事ができるってだけで十分すげえことだよ。」


 八雲さんが俺の顔を見る。


 「それに…ちょっと親しみが湧くと言うか…俺も容量悪くて昔は全く家事とかやれなかったからさ。懐かしい気分でもあるね。まあでも同い年からこんな事言われてもあれだからね。少しだけ家事の先輩としてかな。」


 「み、湊くんも最初は出来なかったんですか?」


 興味が湧いたのか身を乗り出して聞いてくる。


 「ん?ああ、そうなんだよ。初めはからきしで親が家にいないもんだから必死で毎日やりまくった。それこそ八雲さんよりひっでえミスなんてしまくってたし。」


 「そうだよ〜。昔お兄ちゃんねぇ…?」


 突然、翠が部屋から現れて八雲さんに飛びついた。


 「ちょ、翠!お前いらん事言うんじゃねえぞ!」


 「どうしよっかなあ?そうそう、あの時は…。」


 「おおおおーい!」


 俺が必死に翠の口を閉ざそうとしてるのを見て八雲さんがくすりと笑った。


 「湊くん…ありがとうございます。私…これからも頑張って絶対並んでご飯を作れるぐらいになりますね!」


 「うん…!俺も精一杯手伝うよ。」


 ——————


 あの後、俺は少し休憩でテレビを見ながら翠と八雲さんが服を畳んでいるのを監督してる。

 熱心に上手な畳み方を教わる八雲さんを見るのは…うむ…中々に良い気分だ。


 「そうだよ…。八雲さんはちゃんと物事と向き合って頑張れるから偉いんだよなあ…そう言うところが好きな…………」


 この時、俺は心の声が口に出ちゃってるというラブコメお決まりのヤツを自分がやってしまってるのに気づいた。


 前で服を畳んでいた八雲さんの顔がこちらを向き、全身赤く染まりながら目を見開いているのが見えたのだ。口もパクパクしてる。


 「す、好き………」


 しゅうううう……


 八雲さんの頭から白い煙がのぼる。


 「や、八雲さん!?」


 「お兄ちゃん…。突然何言ってんの…。」


 「いや、これはその…違くてっ!!!」


 ほんとだぞ…俺はなんでこんな事言ってんだよ……。

 一体どうしちまったというんだ…。


 




 


 

 ☆☆あとがき☆☆

 毎度更新が遅くなり申し訳ありません…!

 今回もよろしくお願いします!

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