第29話 八雲さん、どうしたの…?

 行くまでの間はあれほど長く感じた新幹線だが帰りはあっという間に感じた。

 その理由は隣にいる人の存在だ。


 俺は八雲やくもさんを連れ戻せたんだ。


 ——————


 「そうだ、ちょっと寄り道してかない?」


 「良いですけどどこへ行くのですか?」


 「ずっと座りっぱなしだったしちょっと歩こうよ。この時間にあんま外出る事ないしワクワクしない?」


 「ふふ。確かにそうですね。じゃあ歩きましょうか。」


 時刻は夜の11時。別に目的地とかはなかったけどなぜか今は歩きたい気分だった。

 八雲さんと。


 「あ、ここ前に紫央しおたちと行った公園の近くじゃん。せっかくだし行ってみるか。」


 「はい!」


 二人で並んで道を歩く。

 冬の夜となるとかなり冷えるな…寒みぃ…。


 「八雲さん、寒くない?」


 「少し寒いけど大丈夫ですよ。ほら、湊くんから貰ったマフラー付けてますから。」


 「なら良いけど。実は俺も。」


 上着のジッパーを下ろし、中に隠れていたマフラーを見せる。


 「ほんとだ。お揃いですね。」


 「だね。…っしょ、はいこれ。」


 ジッパーを下ろしたついでに上着を脱ぎ、八雲さんに羽織らせる。

 マフラーは付けてるが八雲さん、どう考えても薄着で寒そうだったからだ。

 ちなみにTシャツは結構ぶかぶかめな物なのでマフラーとの違和感はない。可愛い。


 「い、いえ!私にはお構いなく!」


 「俺は大丈夫だよ。下にパーカーも着てるし。ほら、前閉めて。」


 八雲さんの方を向き、Tシャツの上からジィーっとジッパーを閉める。

 寒いせいなのか少し顔を赤くしている彼女が可愛い。


 「これでよし。あったかい?」


 「…あったかいです。」


 「そりゃ良かった。」


 「………。」


 「………。」


 しばらくお互い口を開かずに歩いた。

 暗く染まった夜に二人の足音だけが響く。

 

 「…私、こうしてまた湊くんと一緒にいれるなんて思っていませんでした…。」


 八雲さんが口を開いた。


 「はは。俺もまた一緒にいれて嬉しいよ。」


 「…まさか父様のところまで来てくれるなんて…。本当に嬉しかった…。」


 「いやあ…流石の俺もマジで緊張したよ…。だって相手はあの総理大臣なんだもんなあ。」


 「ご、ご迷惑をおかけしました…。」


 今日一日はまさに怒涛の勢いで過ぎていったからこうして八雲さんと話せてるのが不思議に感じるな…。

 しかも久々に二人だけで話してる気がする。


 色々考えながら歩いてたら風がブワッと吹いた。


 「ううっ…さっむ…。八雲さん大丈夫?」


 凄まじい冷気…寒すぎる。


 「大丈夫…ですけど寒いですね…。」


 マフラーになるべく顔を埋め、自分の手をすりすりして暖を取っている。


 (…そうだ…!)


 それを見て俺の頭がピコンと考えが閃いた。

 一度立ち止まり八雲さんの方を向く。


 「…?どうしたんですか?」


 「八雲さん、手繋ごう。ほら、前やってくれたのみたいに。」


 そう言って手を差し出す。

 これはこの前一緒にイルミネーションに行った時に八雲さんが寒いから二人で手を繋いであったまろうというものだ。


 その通り。これ、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 だけど今ならお互い緊張が解けるかもだしそもそも八雲さんはこんな事気にしないはずだ。

 …なんか俺も感覚麻痺ってきたな。


 ボンッ


 「へ?」


 中々八雲さんが手を握らないのでどうしたのかと思って顔を見てみたら…。


 街灯に照らされた八雲さんの顔が音を立てて真っ赤に染まっていた。


 「や、八雲さん?どしたの?」


 「はっ、はいっ!?…あっ!す、すみません…!て、手ですね!わ、分かりましたっ!」


 「…?」


 と、とんでもなくあたふたして動揺しまくってる。ど、どうしたんだ…?


 震える手をそおっと俺の手に近づけてくる。

 しかし中々に焦ったい。

 触れそうになったら少し引っ込めてまた触れようとして…。

 え、永久機関が完成しちまったなあ…。


 でもノーベル賞はいらないし俺がここで終わらせるとしよう。


 もじもじとしていた八雲さんの手を隙を見て俺から握った。


 「…っんんっ!」


 するとものすごい勢いで八雲さんの手が引っ込められて離されてしまった。


 「ご、ごめん!いきなり掴んじゃって!」


 「い、いえ!湊くんは悪くないです!悪いのは私の方です!失礼でしたよね…!」


 顔を真っ赤にしながら慌てて謝る八雲さん。

 やべえ…もしかして嫌だったらのかな…。


 「ごめんごめん…。嫌だったらやめとこうか。」


 「えっ…。」


 やめとくか聞くとあからさまにしゅんとして顔が暗くなる。

 嫌じゃないのか…?どっちなんだ…。


 「え、えっと…じゃあ繋ぐ?」


 もう一度手を出すとみるみる顔がキラキラと嬉しそうになっていった。同時にまたも赤くなっていったが。


 「繋ぎ…ます…。」


 第二回戦開始…。

 握ろうとしては引っ込め、もう一度トライする永久機関が復活した、と思ったがさっきよりはすぐ終わったようだ。


 「じゃあ行こっか。でも…なんで人差し指だけ握ってるの?」


 握ったは良いがなぜか人差し指だけを握ってる。これじゃあ当初の目的だった手を暖めるのにあんまり役立ってないんじゃ…?


 「…分かんないんです…。自分でも…。前までは出来てたのに…。」


 少し小さめの声で俯きながら答えた。

 依然、彼女の顔は赤くなったままである。


 「まあいいか!んじゃ散歩はこの辺にして帰ろう、八雲さん!」


 握られていた方の手を前に出し、八雲さんに声をかける。

 気が付いてくれたようでこちらを見てくれた。


 「っ!はい…!早くすいちゃんにも会いたいですね!」


 「そうだよ、早く帰ってあげないとな。」


 俺たちは手を繋ぎながら帰路へと着いた。

 手を繋ぐといっても指を握られてるだけだがな。


 ——————


 ガチャッ


 「ただいまー。帰ったぞー。」


 「た、ただいまぁ…。」


 ドタドタドタドタ……


 家の扉を開けて声をかけるとリビングの方からすごい物音が聞こえて来た。

 やっぱり待ってたんだな…。翠も。


 「おねえちゃーーん!!」


 「わっ!」


 思いっきり八雲さんの胸に飛び込んできた翠。

 その目には涙が溢れている。


 「良かったあ…。帰って来れて…!待ってたんだよ…!」


 「翠ちゃん…。ありがとうございます…!…ただいま…!」


 翠を抱きしめながら八雲さんも涙を流す。

 良かった…俺が見たかったのはこの光景だ。


 「お兄ちゃんも…ありがとう!」


 八雲さんの腕の中からこっちを向き、お礼を言う翠。


 「おう。」


 玄関は寒いので三人でリビングに入る。


 「あったかあ…家の安心感やべぇ…。」


 リビングに入った瞬間、心が満たされるというか''帰って来た''感じがめちゃくちゃする。


 「何言ってんのお兄ちゃん。」


 「家は素晴らしいと言う事だ…。あ、八雲さんお風呂入って来なよ。寒いでしょ。」


 「分かりました。でも湊くんが先でも良いですよ?」


 「うー…ん確かに早めに入っても……」


 俺は言葉を止めた。

 なぜかって?さっきの公園での出来事を思い出したのだ。

 今まで距離感がバグってた八雲さんが手を繋ぐだけであんなに動揺するなんて謎すぎる…。

 何かが引っ掛かるんだよなあ…。


 この時、ほんの出来心か俺はいたずらで言ってみた。


 「じゃあ八雲さん…一緒に風呂入る?」


 どうだ…?前までの八雲さんならなんとも思わないはずだ…。


 「ちょ、お兄ちゃん!急に何言ってんの!?」


 翠が訳がわからんと言う顔で言ってくる。

 いや、冷静に考えると本当にそうだよな…。


 「え、ええっと………。」


 俯きながら八雲さんが消え入るような声で俺に言う。

 顔はさっきとは比にならないぐらいに真っ赤っかになっている。まるで今にも火を吹きそうだ。


 「み、湊くんが…一緒が良いの…なら………。」


 さっきまでとは違い今はリビングのライトが八雲さんの顔を照らしているため顔がまじまじと見える。

 一言で言うなら…可愛すぎる…。


 もじもじして眉を少し下に下げ、顔を隠すために手で覆っている。

 

 (ごくり…)


 今まで見た事のない表情に思わず唾を飲み、ドキッとしてしまう。


 「あ…いや…ごめんやっぱり…先良いよ。」

 

 やべ…うっかり俺も声が小さくなっちまった…。


 「…わ、分かりまし…た!」


 八雲さんは返事をするとタタタッと風呂場へと行ってしまった。


 「ふう……。」


 安心して息を漏らすと翠が俺をジロリと睨んでるのに気づく。


 「お兄ちゃん…。おねえちゃんとなんかあったの…?」


 「な、なんもねえよ!なんも!」


 本当になんもないんだけどなあ…。

 八雲さんどうしたんだろう…。


 とりあえず今日は全員早めに寝ることにしたのでまた明日…考えよう。


 ——————


 ドキドキドキドキ……


 ベッドに入った私は疲れているはずなのになぜだか眠れないでいた。


 (ドキドキして…止まんない…。)


 今までは当たり前のように湊くんとしてきたこと。

 それがなぜだか恥ずかしくてドキッとしちゃう…。


 (どうしたんだろ…私…)


 さっき湊くんの手を握った手…。

 胸に当てるとなぜだか心が落ち着く気がした。


 


 


 


 ☆☆あとがき☆☆

 戻ってきました!日常です!

 これからもよろしくお願いします!

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