第28話 八雲さん奪還!
キーン……
彼女がいるのは日本の総理がいる場所、首相官邸なので長距離の移動は避けられないのだ。
しかし今、俺は新幹線に揺られながら内心焦っていた。
(ちょっと…待て…。勢いで来てしまったけどどうやって八雲さん取り返せば良いんだ…?取り返すって相手は総理だぞ…?何言えばいんだよ…。)
思考を張り巡らせ、あれこれ考えていたところにとこさんが声をかけてきた。
ヤバい…無策な上にあんな偉そうな事言った俺に失望されてしまったか…?
「
「いっ、いや、俺は…。」
「思っている事をありのままに伝えれば良いのです。」
「え?」
「湊様のお気持ちを自然に伝えれば良いんです。私も最大限お手伝いしますから。」
「とこさん…。」
良い言葉を聞き、感動しかけてとこさんの顔を見た。
だがとこさんは俺から顔を逸らし、一筋の冷や汗を流した。
「とこ…さん…?」
「つ、伝わるかは…別ですが…ね。」
「…はい。」
目的地に着くまでの間に二人で電車に揺られながら何を言えば納得してくれるかをあれやこれやと話し合った。
—————————
「全く…。」
正面に座する父を前に彼女はひどく萎縮している。
「俺の娘ともあろう者が家出をし、まさか他人の世話になっていたとはな…。これほどまでの恥があってたまるか…。」
厳格な顔立ちから繰り出される言葉は容易に八雲の心にダメージを与えた。
「ご、ごめんなさいお父様…。」
「だがまあ、お前が出て行った時は心配したぞ。あれほど人の事を心配したことは無かった。」
「心配…?お父様が私を…?」
「色々と対策はしていたが万が一お前が記者や報道陣に見つかってしまったら…○春砲が俺に襲いかかり、この地位から引きずり降ろさせていただろうな…。考えただけでゾッとする。」
机の上にあった報道雑誌をパラパラとめくり、父は答えた。
「あ…そういう…。」
八雲は少しだけその回答に気持ちを落としてしまった。そう…父が私の心配などするはずがない…。
ガチャリ
「失礼します。どうやら例の子が
「いや、良い。どうせなら会っておこうじゃないか。一体どのような人間が俺の娘を匿っていたのか知りたいしな。」
「了解しました。ではこの部屋に通せば良いですか?」
「ああ。頼んだぞ。」
バタン
「お父様…?湊くんにはお願いですから何もしないで下さい…。」
「するわけないじゃないか。ただ俺は一目見ておきたいだけなのだ。」
「………。」
八雲は胸に手を置き一呼吸した。
(み、みな、湊くん…!?な、ななな、なんでここに…!?)
さっきまでは父と話していてさらりと流してしまったが冷静になり、この状況について理解が追いついた。
(ですが…。来てはいけなかったのに…。)
八雲はチラリと正面に座る父を見る。
—————————
「こちらです。」
「お、おお…。」
目の前にそびえ立つのは首相官邸。
荘厳なオーラを放つ建物を見るとどうしても緊張で体が震え上がってしまう。
どうやって中に入ろうか考えていたらなぜか俺たちは建物の中に招かれて八雲さんの元へと向かっていた。
なんでこんなスムーズに入れてくれたんだろ…。
「どうぞ、このお部屋になります。お入り下さい。」
歩いているとどうやら着いたらしく部屋の中へと通される。
ごくり…震える体を落ち着かせて唾を飲み込む。
大丈夫…大丈夫だ。俺ならいける…。
「し、失礼します…!」
「おお。君が内藤くんかね?」
そこに立っていたのは幾度となくテレビで見て来た人が居た。そう、当たり前だが白華総理である。
「八雲さん!」
「み、湊くん……どうしてここに?」
「その通り。単刀直入に聞こう。君は何をしに来たのだ?内藤くん。」
いきなりきた質問…。
本当に単刀直入だ…。
「そ、それは…。八雲さんはこんな事を望んでいないからです。無理やり帰す、なんてあんまりじゃないですか…?」
「ふむ。親が娘を連れ戻すのは至極真っ当。普通の事じゃないのか?」
「そうですが…。もう少し八雲さんの意見を尊重させてあげて欲しいと言うか…。」
「何を言う。この子は自分の意志で戻って来たのだ。十分尊重していると思うがな。」
にやり、と俺の目を見て笑う白華総理。
クソ…この人は何も間違ってる事言ってねえ…。どうしたら良いんだ…?
「そういえば内藤くん。君はなぜ娘にこだわるのだ?この子は家事も出来ない、協調性もなければ勉強以外何も出来ることはない。なんの意味があってこんな事を望む?」
「な、何を言ってるんですか…!…確かに八雲さんは最初はできる事少なかったですけど今ではかなりやれるようになってきたんですよ…!自分からできる事を探してるんです!」
「ふむ…。それは知らなかったな。この子にそんな一面があったとはな。そこは素直に褒めよう。だがそれが共にいる理由になると言えるのか?」
「それは…。」
とこさんが俺の方を見た。
『思っている事をありのままに伝えれば良いのです。』
そうだ…俺の気持ちを素直に伝えれば良いのだ。
「しばらく八雲さんと過ごしていて俺、思ったんです。なんかもう、八雲さんとの生活が当たり前というか、日常というか。俺の
「湊くん…!」
「八雲さんはもう俺の''家族''なんです!!だから俺は一緒に居たい…!」
「ふむ…。」
白華総理は俺の言葉を聞き、ため息をついた。
マズイ…いきなり家族はヤバかったかな…。引かれたか…?
「君は、俺が反対しても娘を連れ戻す気か?」
「…!八雲さんも望んでいる事です…!だから俺は彼女の意志を尊重します。」
「それはこの日本国総理に逆らうと言うことにもなるが?それでもか?」
「…それ…でも…です…!」
バクバクバクバクバクバク…
やっべえ…心臓バクバクだぞ俺ぇ…。死ぬんじゃないのか…?死刑か?死刑確定じゃないかこれ…!
「私も湊様の意見に賛成します。お嬢様は今までたったお一人で生きて来ました。そんなお嬢様を''家族''とまで言ってくれて、優しく接してくれた湊様だからこそ、私はお嬢様を彼に託すべきだと思います。」
とこさんがフォローを入れてくれた。
それでも…それでも俺の心臓は鳴り止まねえ…!
「…どうやら君は俺と同じ側の人間のようだ。欲しいもののためなら何がなんでも手に入れる。喧嘩を売る相手が誰だろうと構わず迎え撃つ。なるほど…。君は上に立つ資格のある人間だ。」
「…は?」
「…お父様…?」
「君、家事は出来るのだろう?」
「え、?は、はい。そりゃ出来ます。」
「なら八雲に家事でも叩き込んでおくんだな。家事も出来なければ価値が下がる。」
「そ、そんな言い方ないだろうが…!」
コンコン…
突然、部屋の扉をノックする音が鳴り響く。
「失礼しまーす。こんばんは白華総理。」
パシャッ
カメラのシャッター音が鳴り、場は静まり返った。
「な、なななな、か、母さん…!?」
「あれ、湊じゃない。なんであなたが総理と一緒に?」
「か、母さんだと?内藤くん、君はまさか彼女の子供なのか?」
「え?は、はい。そこの内藤マリは俺の母ですけど。」
すると白華総理が血相を変えて叫んだ。
「も、もう良い!八雲は君に任せる!君たちは行きたまえ!後始末はそこにいるメイドにやらせよう!」
指名されたとこさんは小さく頷いて俺と八雲さんに合図した。
「分かりました。お任せ下さい。」
「ご、ごめんなさいとこさん…!」
俺は立ち尽くしていた八雲さんの手を取り、部屋から飛び出る。
こんなとこもう二度と来たくねえ…!今すぐに帰りたかったんだよ!
それにしてもなんであの人は母さんを見た途端にあんな怯えて…。
まあ良い…。今は八雲さんを連れ帰るのが最優先だ…!
「湊くん…。なんでこんな無茶をしたのですか…!」
走っている最中、八雲さんが小さな声で言う。
「なんでって…。そりゃ八雲さんが帰る場所は俺たちの家だろ?だから迎えに来たんだよ。」
「どうして…どうして私なんかに…!迷惑ばかりかけて邪魔ではなかったのですか…!」
「うーん…そうだなあ…。最初はそりゃ戸惑ったし違和感半端なかったよ。でもさ、今はそうでもないさ。」
「…どうして…!」
「だってご飯一緒に食べて一晩寝ればもうそれ''家族''だろ?」
急に八雲さんが立ち止まる。
何事かと思って八雲さんの顔を覗く。
彼女の顔は真っ赤に泣き腫れていた。
「うっ…うう…んぐぅ……。」
「きょ、極端かな?」
流石に極端すぎたかなと思い、頬をポリポリと掻いていると八雲さんが俺の胸に飛び込んできた。
多分俺は照れてるんだと思う。
そして甘えてるんだと思う。''家族''という言葉に。
これはけじめだ。これから八雲さんとどう向き合っていくかの。
都会の夜は明るい。
なぜなら人が行き来し、たくさんの帰る場所があるからだ。
「帰ろう、八雲さん。
「……はい…!」
ネオンの光が八雲さんの涙を照らす。
俺はそっと彼女を抱きしめた。
——————
「あの
ボソボソと部屋の窓から外を眺める白華総理。
「総理、何か言いました?」
椅子に座り総理を覗き込む女性。その顔は少し笑っている。
彼女こそ湊の母にして世界的な記者である内藤マリなのだ。
そんな湊の母、マリをジロリと睨んで総理はまたも小さな声でつぶやいた。
「これだから記者は嫌いなのだ…!」
「え?なんて言いました?」
「……。」
総理はハアっとため息を吐き言う。
「…良い息子さんですね。」
「あ、そうですよね!湊ったら一人でなんでもやれちゃって!でもなんでここに居たんですか?」
「ふっ…。」
強引で、一方的な会話に過ぎなかった先の話。
しかし総理はそんな彼に昔の自分を重ねていたのだ。
一代で総理まで昇りつめた出世欲の権化である自分もああしてなりふり構わずしていた頃もあっただろう。
「ただの厄介払いですよ。」
面倒だった娘の件も終わった。娘が邪魔であったのも真実。
もう彼に手を出すのはやめよう、そう思った総理だった。
☆☆あとがき☆☆
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