第27話 八雲さんの失踪

 「クソッ…どこだ…!」


 すいから八雲やくもさんがいなくなったと連絡があり、俺は街中を駆け回っている最中だった。


 一緒に行ったスーパーでバイトしている管理人ののどかさんにも聞いてみたが見ていないと言われ、他にも行ったことのある場所には一通り行ってみた。

 しかし、そのどこにも八雲さんの姿は見当たらない。


 「はぁはぁ…まだ時間早えし…帰ってみる…か。」


 目星をつけた場所はあらかた回り終え、時間を確認してみると朝の11時。

 失踪した、と言い切るには早すぎる時間だ。

 家で待てば戻ってくるはずだ。

 そうだ…戻ろう…。


 ——————


 ガチャ…


 「お、お兄ちゃん!八雲おねえちゃんいた!?」


 扉を開けた途端、翠が出て来て俺の元に駆け寄る。


 「ごめん…見つかんなかった…。」


 そう告げると翠の顔はあからさまに暗くなった。


 「そっか…。」


 「でも八雲さんのことだ…。フラッと帰ってくるかもしんないだろ?夕方ぐらいまで待ってみようぜ…。」


 「うん…。」


 「あ…!そうだ…とこさん…!」


 「とこさんなら居ないよ。朝行ってみたけどいなかった。」


 「ああ…そういや学校か…。あの人一応先生だったな…。」


 思い出してみれば今日は追試。

 とこさんは追試の監督として行っちゃったんだったな。

 こんな緊急時にタイミングが悪い…。

 あの人が一番行く先を知っていそうだからどっちにしろ俺たちは待つしかない。


 ——————


 チッチッチッチ……


 時計は刻々と針を進める。

 しかし八雲さんが帰ってくる気配は全くない。

 既に時間は午後4時を指していた。


 「おねえちゃん…帰ってこないね…。」


 「……そろそろとこさんが帰ってくる時間だろ…。」


 この待っている間の時間、俺は色々な事を考えていた。

 直前、マイに言われたあの事を…。

 あの時は初めて脳裏によぎる俺と八雲さんの関係性への疑問と失踪したと言う連絡で頭が何も考える事ができなかった…。

 

 しかしだ…確かに俺たちの事を聞けばおかしいと言う人がいるだろう…。

 どうしたら良いんだ…。俺たちは別々に過ごした方が良いのだろうか。


 (いや…)


 『また来年も…一緒に来られますよね…?』


 そうだ…八雲さんと約束したじゃないか。

 来年も一緒にイルミネーションを見に行くと…!だったら俺が取る選択は一つしかないだろ…!


 ガタン…!


 「!」


 玄関の扉が開き、とこさんがリビングへと入って来た。


 「湊様、本日はどうされたのですか?追試をお休みなさって。」


 「と、とこさん!!八雲さんはどこに行ったんですか!?」


 すぐさまとこさんに問いただす。

 彼女は少し俺を見た後、顔を逸らした。


 「…お夕飯を作りますね。材料は私が買って来ましたので。」


 「…は?話を逸らさないでくださいよ…!!」


 とこさんは尚も俺の方に顔を向けない。


 「…今日は肉じゃがにします。お二人とも食べれますよね?」


 「とこさん!!」


 全く持って話す気がないとこさんに俺は叫んだ。


 しばらくの沈黙が流れた後、ついにとこさんは俺と翠の方を向く。

 その顔は…とても苦しそうだった。


 「…お嬢様はもう戻っては来ません…。」


 衝撃の一言。

 俺と翠の頭の中でその言葉が何度も響く。


 「戻ってこないって…なんで?」


 「先日、ご主人様…白華しろはな総理がお嬢様にお電話をかけていました。内容は…''戻って来い''というもの。…他人の世話になるなどなんという恥晒しだ、と仰っていました。」


 「なんだよそれ…。つかなんで八雲さんのお父さんが俺たちのことを…。」


 そうだ…八雲さんは父親になど話していないはずだ…。彼女もこの生活を好きで、続けたいと思っている。

 じゃあなぜ知っている…?誰かが言ったのか…?…そうか!


 「…とこさん、あなたが言ったんですか…。」


 静かにとこさんの方を見て言う。


 「…それが私の…役目でしたから…。」


 「あ…あなたは八雲さんの味方じゃなかったのかよ!!」


 怒りが理性に勝ってしまい、声が荒ぶる。

 

 「……。」


 「…八雲さんはあなたの事をよく俺に話してくれました。とこさん、あなただけが八雲さんの救いだったと。なのに、なのにあなたは!なんで!!」


 「ま、待ってお兄ちゃん…。とこさんの話も聞いてあげようよ…。」


 翠が俺を止め、間に入って来た。

 それで冷静さを少し取り戻し、叫ぶのをやめた。


 「…これがお嬢様にとって最善の選択だったからです…!あの人は仰いました。お嬢様を監視し、帰らせろ、と。出来なければ二度とお嬢様に自由は与えないと…!出来るわけないじゃないですか…!もうこれ以上お嬢様から自由を奪えばあの子には何が残ると言うんですか!」


 とこさんの目からも涙が溢れ出し、声が大きくなっていった。


 この人も…八雲さんを想っての行動だったのか…。


 「ですが私はお嬢様から最も大切なものを奪ってしまいました…。」


 「大切なもの…?」


 「この暮らしです…。湊様と翠様との暮らしの中で見せるお嬢様のお顔は私が今まで見てきたどんな笑顔よりも輝いていました…。それを私は…私の一存で奪ってしまった…!もっと上手くやれたかもしれないのに…!」


 ついには地面にしゃがみ込み、顔をうずめてしまう。


 とこさんも…とこさんなりに八雲さんを守ろうとしていたんだ…。俺たちと一緒…とこさんは俺たちの味方じゃないか…!


 「…とこさん。」


 俺はとこさんの隣に座り、話しかける。


 「………。」


 返事はない。しかし耳は傾けてくれている気がした。


 「八雲さんを連れ戻しに行きましょう。」


 「…え?」


 驚きのあまり泣き腫らした顔をあげて俺を見た。


 「俺、さっき言われたんですよ。後輩に。俺と八雲さんの関係はおかしいって。確かになって思った自分もいたんです。でもそれ以上に…ならもっと認められるようにしようと思う自分も。みんなで戻ったらこれからは八雲さんにも少し厳しくしましょうか。ちゃんと家事もやってもらって。後は片付けしてくれるとありがたいですね。」


 「…湊…様?」


 「なんかもう八雲さんは家族の一員なんです。いや、いつの間にかなってたんです。俺たちの中で。だからちゃんと接します。家族として。」


 とこさんの手を取り、語りかける。

 伝えるんだ…。この人には…。


 「とこさん、今までとこさんが八雲さんの支えになってくれたおかげで俺たちは今こうして一緒にいられる。だから、力をかしてください。俺と…八雲さんに…!」


 俺の言葉を聞いたとこさんは再びぼろぼろと涙を溢しつつも、弱々しく微笑んだ。


 「…ほんとうに…っ…お嬢様があなたたちと出会えて良かった……!」


 翠もとこさんの隣に腰を下ろし、震えるその背を優しくさする。

 相変わらず優しいいもうとだな…。


 ——————


 とこさんが泣きやむのを待ち、しばらく経った。


 俺は服を着替え、家を出る準備を整えた。

 …なるべくキチッとした格好にするため、シワのない制服に変えただけだが…。


 「お兄ちゃん…?やっぱり私もいこうか?」


 「大丈夫だって。俺ととこさんに任せろよ。それに家で待ってくれる人も必要だろ?」


 「そうですよ翠様。私たちにお任せ下さい。必ずやお嬢様を取り返してきますので…!」


 あれからとこさんは気合いが入ったようで絶対に八雲さんを取り戻すという強い意志がみられる。

 俺も負けてられない。


 「じゃあ行ってくるよ。家の留守、頼んだぞ。」


 「うん…!気をつけてね二人とも。」


 「はい。翠様もお留守番お気をつけて。」


 俺たちは家から出る。

 よし…覚悟を決めろ湊…!絶対に取り戻すぞ…!


 「では行きますか…!」


 「はい…。お嬢様がおられる場所…。」


 首相官邸八雲さんがいるところへ!!



 

 


 


 ☆☆あとがき☆☆

 少し暗い話が続いておりますがよろしくお願いします!



 


 


 


 

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