第26話 先輩…分かるっすよ
「よし…行くか…。」
シャツのボタンを留め、ネクタイを締める。
「
「お兄ちゃんファイト!落ち着いてやるんだよー!」
「ありがとう
しばらく着ていなかった制服に袖を通し玄関の扉を開けて外に出る。
向かう先は学校……。
そう、今日は追試です。
——————
クリスマスから四日が過ぎ、街はもう年末ムード。
しかし我ら成績不振者は問答無用で学校に駆り出されるのが世の摂理だ。
「はあ…なんで数学だけ落ちちまうんだよ…。俺も家でゴロゴロしてえ…。」
「分かりますよ〜せ・ん・ぱ・い!」
ドーン!
突然何者かが背中にタックルをかましてきた。
「いってぇ…。誰だよ……ってマイか。」
「正解!あなたの愛すべき後輩マイっすよー!」
道端で突撃してくるような人物はこいつしかいない。一個下の後輩、
彼女は衝撃でずれた丸メガネをなおしつつ、乱れた長い黒髪を整えた。
「なんだ、お前も追試なの?」
「もちのロンっす。勉強なんて必要ないっすからね!ふっふーん。」
俺と同じように休みであるにもかかわらず制服を着ているマイはいわゆる生粋のオタクでカバンにアニメのキャラのキーホルダーをジャラジャラと付けている。
しかしマイも同学年からはかなりの人気を誇る美少女なのだ。
「いやいや、そんな事より。聞きましたよせんぱ〜い。あの学校一のアイドル、
「ぐっ…流石地獄耳…。」
するとマイは顔を近づけてきて綺麗な髪を耳にかけた。
あんまり近くでやるもんだから思わず見ちまったじゃねえか…。
「あ、知ってますよ先輩。先輩はこうやって女の子が髪を耳にかける動作が好きなんっすよねぇ。」
「不可抗力だ…。それにそのネタ、なんかイラストで似たやつを見た事あるな。SNSで。」
「需要があるってことっすよ。私みたいな後輩はね。それよかホントなんですか?そのウワサは!」
上手く話をはぐらかしたつもりだったが無理らしい。
距離が近すぎるマイから少し離れて歩く。
「ま、まあほんとだよ。成り行き上しょうがないって言うか…言いくるめられたと言うか…。あ、断じて変な事はしてないからな!」
「安心して下さいよ。先輩にそんな度胸があるとは思ってないっすよ〜。それで?やっぱり白華先輩はオフでも完璧なんすか?気になるっすねぇ…!」
マイが期待の眼差しを向けてくる。
まあ…こいつになら別に話しても良いか…。
「お前にだけは教えてやるけど…かくかくしかじかで…………」
俺は八雲さんが普段、意外とだらけてて生活力0なのでご飯を作ってあげたり掃除したりしてあげてる事を話した。
もちろんオブラートに包んでだよ。
「え」
「え?」
「先輩それって………」
「な、なんだよ。」
「クソじゃあないっすかぁ…!」
「おい。」
目を細めて俺を見てきたマイから衝撃の言葉が出てきた。
「いやだって…話聞いてる限りじゃ先輩、完全にやってること雇われメイドじゃないすか!いやむしろそれよりひどいっすよ!」
「ど、どゆこと…?」
「だってメイドさんはお金貰えるワケじゃないすか。でも先輩はタダでご奉仕してあげてるワケっすよね?…ちょっと待ってて下さいね、今から先輩ん家凸して白華さんに物申してきますので………」
「ちょ、ストップストップ!」
ガチで行きそうだったので慌てて体を掴む。
「離して下さい!こんな善人で騙されやすい私のかわいい先輩をたぶらかしてっ…!いくら理解のある後輩でも流石にキレるっすよぉ!」
「待てっ…て!あとお前の俺じゃない…!」
バタバタと腕を振るマイの体を止めて、なんとか留まらせることに成功した。
「なんすか先輩!ここから入れる保険があるんすか!?」
「…保険?マイ、とりあえず俺の話を全部聞いてくれ…!いいか?」
目を見て真剣に言う。
「ぐ…そこまで言うのなら…。聞くだけすからね!」
「ありがとう。そんじゃあ話すぞ。……かくかくしかじかで……。」
誤解を解くために俺は再び話した。
かわりに勉強を教えてもらっている事、今では色々と手伝ってくれて出来る事が増えている事などをだ。
「これでどうだ?少しは誤解が解けたか?」
しかしマイは頭を抱えてあからさまにずーんとしていた。
「すみません先輩…全くもって弁明になってないっす…。」
「え、ええ!?」
「だって冷静に考えてみてくださいっすよ…。先輩がいなけりゃ白華さんはワンチャンのたれ○んでたかもしれないんすよ…。つまり先輩は白華さんの命を預かってんですよ!んなのに白華さんときたらぁ!」
「まてまてまて…。禁止ワード出ちゃってるし!」
「やっぱり自分が先輩のお嫁さんに行った方が…。」
「いや、俺たちい…………」
「あーーー!!!」
俺とマイで騒がしく歩いていると、後ろから大声が聞こえてきた。
二人で何事かと振り返ってみると……
「あ、桜ちゃんじゃないっすか。奇遇っすね。あー…追試仲間か。」
「あ、桜ちゃんじゃないっすか。じゃないよ!湊おにいちゃんから離れろよぉ!」
ズダダダダ!
俺の腕にくっついていたマイに向かって突っ込んできたのは俺たちと同じく制服を着た桜ちゃんだった。
むくれた顔で俺とマイの間に割って入ってきた。
「んな!急になんすか!」
「おめぇはくっつきすぎだっての!」
マイに怒鳴る桜ちゃん。
そんな彼女を見てにやりとし、さっきよりもベタベタとくっついてきたマイ。
「くっつきすぎだと言われてもっすねぇ。だって私たちは、い・と・こっすからね!」
「ぐぬぅ……。」
そう、俺たちは血の繋がったいとこである。マイは俺の母の姉の娘だ。
「桜ちゃんも追試かあ…。一緒に行く?」
俺が声をかけるとさっきまでとはまるで別人のように笑顔になった。
「はいっ!行く行く!」
マイがいる腕とは逆の方にピタリとくっつき、ご機嫌に鼻を鳴らした。
どういうテンションなんだ…?
「せーんぱい。これは出来の良い後輩兼、いとこからの忠告っすよ。甘やかしてあげるだけじゃ相手のタメにならないっす。時にはちゃんと言ってあげるのが大切です!」
「た…確かに!」
「んむ?なんの話?」
「桜ちゃんには関係ないすよ〜。」
「なんだよそれえ!」
プルルルルルル
話しているとカバンから電話が鳴り響いた。
「悪い、ちょっと電話するわ。」
「了解っす〜。」
ピッ
中から取り出して電話に出る。
相手は翠だった。
「おー、翠か。どした…………」
『お兄ちゃん!!!早く帰って来て!!!』
「え?」
『おねえちゃんが…!八雲おねえちゃんがいなくなったの……!!』
「…は?」
『お兄ちゃんが学校行ってからいつのまにかフラリといなくなっちゃって!何も言わないでいなくなる事なんて今まで無かったのに!まだ近くにいるかもしれないから探してみて!!』
「わ、分かった!すぐ行く!」
ピッ
通話を切り、急いで走る。
「ちょ、先輩どこ行くんすかあ?」
「すまん!八雲さんがいなくなったって!探しに行ってくる!!」
「え、追試は…!?」
「そんな事してる場合じゃねえ!!行ってくる!!」
急げ…!急げ…!近くにいると良いけど…!
頼む…何も起こらないでくれ…!
—————————
(先輩の様子から考えて多分、この事について言ったの私だけぽいよなあ…。しまったあ…こんな事起こるってんなら言ってねえよぉ…。変にプレッシャーかけちった…。)
「…私、言い過ぎたかも…。」
見えなくなる先輩の姿を見送りながら、私と桜ちゃんは呆然と立ち尽くすのだった。
☆☆あとがき☆☆
遅くなりましたぁ!!
今回もよろしくお願いします!
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