第25話 八雲さんとクリスマスプレゼント

 「…了解しました。この事は私が伝えますのであなたは引き続きお嬢様の監視をよろしくお願いします。」


 「…はい。」


 一人の女性が部屋から出ようとする。


 「あっ…あの!お嬢様は……」


 「情など抱かぬ事です。お嬢様がご主人様の障壁になりうるかを一番親しいあなたが監視する、それが命令でしょう?」


 「分かり…ました。」


 「では何かあればまた連絡します。」


 バタンッ……


 —————————


 「みなと!今日は何日か知ってっか!」


 「12月25日…クリスマスだろ?つーかなんでまた家にいるんだよお前ら。」


 なぜか再び俺の家に押しかけてきた紫央しおとクロエ。

 ちょうど朝食を食べ終えたとこだったので今は練習を兼ね、すい八雲やくもさんが皿を洗っているのを見ている最中だ。


 「そりゃ決まってんじゃんねぇ紫央くん?」


 「無論だ。お前は今日、何もしないでいるつもりか?」


 「いやまあ、ちょっとぐらいはみんなで出ようと思ってたけど。」


 「なら行くぞ!プレゼント探しにな!」


 「ああ…プレゼントか。八雲さん、何か欲しいものある?」


 皿洗いを終え、手を拭いている八雲さんに聞いてみる。


 「欲しいもの、?なぜですか?」


 「なぜってクリスマスプレゼントだよ。」


 「…!クリスマスに物を渡す習慣の事ですね!その…初めてなのでパッと出てきませんでした。」


 「「「え?」」」


 場にいた全員が八雲さんを見つめる。


 「や、八雲ちゃん…貰ったことない、の?」


 クロエが目をまんまるに見開いて問う。


 「ありませんよ。みなさんはあるのですか?私も貰ってみたいですねっ!」


 純真無垢な笑顔を皆に振り撒く八雲さん…。


 「紫央…。」


 隣にいた紫央に声をかける。


 「ど、どうした…。」


 「行くぞ…プレゼント買いに…!!絶対…!」


 ——————


 満場一致でプレゼントを買いにショッピングモールに来た俺たち。


 「買いに来たのは良いけど…なんで男女行動別なんだ?」


 今俺は紫央と二人、八雲さんとクロエとは別々で買うらしい。

 ちなみに翠は桜ちゃんと遊ぶ先約が入ってるらしいので家に残った。


 「甘いな湊。サプライズってもんだよ。相手が欲しい物を予想して買った方が楽しいだろ?」


 「いやいや、それで欲しくない物買ったら迷惑だろ。聞いておいた方が確実なんじゃ…?」


 「チッチッチ。それともお前は八雲さんが欲しそうな物分かんないのか?」


 「む…。そう言われると闘争心が湧くな。よし…ぜってー八雲さんが喜ぶ物買ってやる!」


 「その意気だ。」


 だが元々そのつもりだったけどな…。

 八雲さんにとってはこれが初めてのクリスマスプレゼント…。

 絶対に良い思い出にしてみせる…!


 ——1時間後——


 「ゼェ…ハァ……。」


 「おいおいお前…こんなに探してもねえのかよ…。」


 「八雲さんが欲しい物…。だあああ!ムズイ!紫央、何かアドバイスはないのか…?選び方とかの!」


 「うーんそうだなあ。」


 既にクロエへのプレゼントを買っている紫央。なぜそんなにすぐ選べる…。


 「相手の好みとか趣味、色々な事情だとか、後は当たり前だけど自分も貰って嬉しいものだな。例えば付き合ってもねえ人からブランドのバックとか貰ってもビビるだけだろ?相手との関係性考えんのも大切だぜ。」


 「なるほど…。相手の好み、向こうの事情か…。」


 八雲さんが貰って嬉しそうなもの…。

 なんだろうな…八雲さんはあんまり服持ってないから服か?いや、服は自分が好きな物買って欲しいし…俺のセンスじゃあな…。

 冬だしあったかい物が良いよな…あったかい物……


 「あ…!」


 「なんか思いついたのか?」


 「ああ!紫央、ついてきてくれ!」


 「さてさてどんな物かなあ?」


 ——————


 しばらくして…プレゼントを買い終え、一度全員で集まることに。


 「よっし。それじゃあみんなオッケーか?」


 紫央が集まったみんなに聞く。


 「おっけー!私も八雲ちゃんも大丈夫だよ!」


 「それじゃあプレゼント交換は湊ん家ですることにすっか!一旦帰るぞー!」


 ガサ…


 俺は自分の持つ紙袋を見る。

 大丈夫…これならきっと八雲さんは喜んでくれるはず…!


 「俺、翠に帰るって連絡しとくわ。」


 「おう。頼んだぜ。」


 紫央が意味深に俺の方を見た。

 なんだ?


 ——————


 ガチャリ


 鍵を開けて扉を開けた。


 「おーい翠、帰ったぞー…ってなんだこれ!」


 「メリークリスマス!お兄ちゃん、おねえちゃん、みんな!」


 「メリークリスマスだよ湊おにいちゃん!」


 リビングに入った途端、パーン!とクラッカーの音が鳴り響き、サンタのコスプレをした翠と桜ちゃんが出迎えた。


 「驚いただろ?翠ちゃんと桜ちゃんが提案してくれたんだぜ。お前と八雲さんのためにな。」


 「マジか…。」


 リビングを見ると、クリスマスの飾り付けがされていて二人で頑張ったんだなあと思わされる。


 「まさかおねえちゃんがクリスマスプレゼントを貰ったことがないなんて言うからやる気出して頑張るしかないよねえ…。」


 翠が無事終わって良かったとほっと息をついた。


 「翠ちゃん…桜ちゃんも…!」


 八雲さんが感動したかのように飾り付けを見て言った。


 「まあまあ、感動すんのはプレゼント交換してからにしようぜ!んじゃ湊と八雲さん、早速いってみようか!」


 「お、おう!」


 俺は持っていた紙袋を持ち上げ、八雲さんの方に差し出す。


 「こ、これ!俺からのプレゼント…です。」


 「わ、私も!お気に召すかは分かりませんが…湊くんへ…どうぞ…。」


 互いに袋を交換し受け取る。

 それにしても…なんか似てる袋だな…。


 「うんうん…初々しいなあ…。」


 紫央がうんうんと頷く。


 「だねぇ…。それじゃ二人とも!せーので中身見よ!おもしろそうだし!」


 「ええ…?」


 「分かりましたっ!」


 クロエ提案に八雲さんが応じたので渋々了承する。


 「せー…の!」


 ガサッ!


 袋の中身を取り出してみると……


 「こっ…これ!俺とおんなじ…!」


 「あ、あれ…?私が買ったのと同じ…。」


 俺と八雲さんの袋から出てきたのは全く同じ色、同じ店のグレーのマフラーだったのだ。


 「え、?じゃあ八雲さんが買ったのって…。」


 「湊くんが買ったのは…。」


 「「おんなじマフラー…!?」」


 二人して呆然と立ち尽くしていると、紫央とクロエが笑い出した。


 「ぶっ…マジかよお前ら!全く一緒って…!奇跡じゃねえか…!」


 「ほ、ほんとだよっ…!あはは!息ぴったりじゃん!」


 笑われ続けられるのも恥ずかしいので気を紛らわすために八雲さんに聞いてみる。


 「えっと…八雲さんはなんでこれを…?」


 「それは…クロエさんに相手の好みとか自分が貰って嬉しい物が良いと言われましたので…。服のレパートリーが少ない湊くんにはこういったものが良いのではないかなと思いまして。冬ですし日常でも使える物を選びました…。」


 それを聞いて俺は思わず笑いが溢れてしまった。


 「なっ…なんですか湊くんまで…。」


 顔を真っ赤にしていた八雲さんが少し怒ったように言う。


 「ははっ…!いやあ、俺と全く同じだなって…!」


 「…え?」


 「俺も八雲さんと全くおんなじ理由でこれ選んだんだ。そう思うとなんかすごくってさ。」


 「そう、だったんですか…。ふふっ…それは確かにすごいですね…!」


 八雲さんも笑みが広がり、俺たちは二人でしばらく笑い合った。


 「ありがとう八雲さん。」


 「こちらこそです湊くん。最高のクリスマスです!」


 お互いに交換したマフラーを試しにつけてみてお礼を言う。


 ——————


 「ヤバい…どうしよう翠ちゃん…。」


 「うーむ…しょうがない…!渡しづらいけど渡そう!」


 翠と桜が袋を持って八雲と話していた湊の元へと向かう。


 「お、お兄ちゃん!」


 「ん?どうした翠に桜ちゃん。」


 「こ、これ!私たちからプレゼント!」


 二人が袋を湊に差し出す。


 「そんなわざわざ桜ちゃんまで…!中見ていい?」


 「ど、どうぞ…。」


 了承を得て袋から中を取り出した湊。

 そこから出てきたのは…マフラーだった。


 「ご、ごめん…マフラー貰ったばっかなのにまたマフラーで…。二人で作ったんだけどもうあるしあれだよね…。」

 

 桜がしょんぼりと下を向きながら言う。

 翠もテンションが低かった。


 湊は貰ったマフラーをじっと見る。

 拙いが一生懸命努力して作ってくれたように見える。俺なんかのために…。


 「二人とも。」


 ぽんっ


 下を向いていた二人の頭に手を乗せる。


 「嬉しくないわけないじゃん!俺のためにありがとう。」


 湊がにこりと微笑んだ。


 「お兄ちゃん…。」


 「湊おにいちゃん…!」


 翠と桜は目をうるうるとさせながら湊に飛びついた。


 「どわっ!?どうしたんだよ二人とも!」


 「なんでもないよー!ね、桜!」


 「そうだよねー!翠ちゃん!」


 プレゼント交換の後はみんなで買ってきたご飯を食べてゲームをしたりして過ごした。


 ——————


 「ははっ。一気にマフラー増えたなあ。」


 もう夜になったので紫央たちと解散。

 今は翠と八雲さんは風呂に入っているので部屋には俺一人だ。

 

 今日貰ったマフラーを棚にかけて眺めていた。


 「これじゃあどれつけてくか迷うなあ。選ぶのが難しくなりそうだ…。」


 マフラーの前で少しにやついていると突然扉が開き、とこさんが入ってきた。


 「おや、湊様お一人ですか?」


 「と、とと、とこさんっ!?そ、そうです俺一人です!二人は風呂…。」


 「ふふ…そうでしたか。あ、そうだこれ。」


 とこさんが手に持っていた袋を渡してくれた。


 「これは?」


 「私からのクリスマスプレゼントですよ。では私はお二人がお風呂から上がりましたらまた来ますね。」


 そう言って部屋から出て行ってしまった。


 「まさか…な。」


 貰った袋を慎重に開けると出てきたのは…


 「…マジか。」


 マフラーだった。


 


 

 


 

 ☆☆あとがき☆☆

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