第24話 八雲さんとイルミネーション

 「ご、ごほん…。紫央しお、お前らなぜうちに?」


 「お前そりゃ今日は何日か知ってっか?」


 「クーリースーマースーイブだよ今日は!」


 「ああ…クリスマス…。」


 ——————


 クロエに教えられてようやく今日が12月24日、クリスマスイブだと気づいた。


 「にしてもさ、連絡ぐらい入れろよお前ら。」


 「入れたわ!お前がスマホ見んねえからだろ!」


 「えぇ?」


 そう言うので自分のスマホをポケットから取り出し、開いてみる。


 「うっわ…すげえ通知の量…。すまん、全く気づかなかった。」


 「すいちゃんもだよ?何回もメールしたのに全然見ないんだもん。いっそのこと、と思って来ちゃったよ。」


 紫央の言葉に続き、翠の親友さくらちゃんも言った。


 「ほんとだ…ごめん。通知オフってたから。」


 俺と翠、両方ともスマホの通知を切っていたので気づかなかったと言うわけだ。


 「そうそう。翠ちゃんの友達と俺たちも一緒。どうせ家にいるだろうから来て見たらあの光景だったってことさ。つかお前ら何してたの?通知まで切って。」


 紫央がにやりとしながら聞いてきた。

 あの光景…さきほどの事が再び脳裏によぎり、顔がかあっと赤くなる。


 「べっ、勉強だよ!勉強!八雲やくもさんに教えてもらってたんだよ!」


 「はい!先ほどまでみなとくんと翠ちゃんを交えて勉強していたところです。」


 「勉強ねぇ…まあ良いや!夜からは俺たちと一緒に出かけねえか?」


 「出かけるってどこに?」


 「み〜な〜と〜、本気で言ってんのぉ?」


 クロエが信じられないと言う顔で俺を見た。

 いやいや、ほんとに分からねえもん…。


 「クリスマスイブと言えばイルミネーションっしょ!近くのおっきい公園でやってるらしいから見に行こうよ!八雲ちゃんも一緒に!」


 「ああ…イルミネーションね。どうする?八雲さん。」


 「私は見てみたいです!みんなで行くの楽しそうですし。」


 「んじゃ行こうか。でもまだ昼だけど夜まで何すんの?」


 時計を見れば今はまだ昼の2時。紫央に尋ねてみる。


 「何って…何しよう。あ、せっかくなら八雲さん、俺にも勉強教えてくれよ!俺と湊は万年赤点ブラザーズなんだ!教えがいあると思うぜ〜。」


 「おいおい…お前には既に教えてくれる人がおるだろう…。」


 クロエの方を向いて話す。

 なにせクロエは八雲さんにつぐ学年で2番目の天才。こんなに適任な人物はいないだろう。


 「いやあ…こいつ教えるのヘッタクソなんだよなあ。感覚派って言うの?天才すぎて俺がついてけない。」


 「えっへへぇ。それほどでも?」


 「いや、褒めてねえし。」


 「ま、まあまあ。私は全然大丈夫ですよ?」


 「んー…まあ八雲さんがそう言うなら。」


 すると翠の隣にいた桜ちゃんもおずおずと手を上げた。


 「え〜っと…私も良いかな。実はテストやばくって…。」


 「ふふっ、もちろん良いですよ。それじゃあみんなでお勉強会しますか!なんだか楽しいですね!」


 こうして夜までみんなで勉強をする事となったのだった。


 ——————


 「っぷはー…ひっさびさにこんな勉強したぞ…。んでもなんか…頭良くなった気がする…!」


 「いやあ俺もそう思ってたところだ。次のテスト、ワンチャン俺たち赤点回避いけるかもな!」


 現在時刻は夜の7時。

 あれから5時間も経ち、辺りは既に真っ暗になっている。


 「よーし、そろそろ行こっかー!ってちょいちょい湊…まさかそのカッコで行くつもり…?」


 いつも通り安定のパーカーを着ていこうと思ったら今までとは全然趣向の違う清楚系の冬用ワンピースを着ていたクロエが俺を止めた。

 黒のブーツを履いており、どっからどう見ても普通の美少女だ。

 どうやら紫央に前みたいな地雷系ファッションは止められたらしい。

 

 「え?寒いし別に良いだろ。」


 「もぉー…。私が覚えててどうすんだよぉ…。アレがあるじゃん!アレ!」


 「あれ…?」


 クロエのにやあっとした顔をする。

 なんか企んでんな…。


 ——————


 「わあ!とても綺麗ですね!」


 翠と桜ちゃんも一緒に行く事になったのでみんなでバスに乗り公園へ。

 

 『ぜんパーク』という名前で色々な植物があって、自然に触れる事が出来る場所だ。


 「それにしても湊くん、この上着すっごくあったかいですねぇ。」


 「う、うん。そうだね…。」


 「むふふ。」


 クロエの満足そうな顔の理由は俺と八雲さんが着ている大きめな青の上着のせいである。

 これは以前に一緒にショッピングモールで買ったもので二つとも同じ品。

 つまり俗に言えば''ペアルック''なのだ。


 (上着でペアルックって…意識しすぎか俺…。別におんなじの着るぐらい普通だろ普通…。)


 「湊…お前の顔までライトアップしてんのか?」


 下を向いていた俺の顔を覗く紫央。


 「ばっ…なんでもねえよ…!」


 「あ、お兄ちゃん見て!」


 翠が俺の服の裾を引っ張ってくるので指を指す方を見てみる。


 「お、でっけえクリスマスツリーだな。」


 「ぷっ…なにそのテキトーなコメント。」


 「いや、これ以外何言えばいんだよ…。」


 「え〜翠ちゃんだって最初に『あ、クリスマスツリー光ってる』って言ったじゃ〜ん。人の事言えないよ?」


 翠とは反対の俺の手にくっついてきた桜ちゃん。なんか…距離近くない?


 「なんだよお前も一緒なのかよ。」


 「んなっ…!さーくらー!」


 「ぷぷっ!逃げろぉぉ!」


 翠と桜が離れ、二人で追いかけるようにして走り出した。


 桜ちゃんは灰色のコートにチェック柄のミニスカを履いてガーリーな感じになっている。

 翠も別のものではあるが灰色のコートにジーパンを履いていた。

 こうして見ると姉妹みたいに見えるなあこの二人。


 「ふふっ翠ちゃんも桜ちゃんも元気ですね。」


 「こんなに寒いのによく走れるよ。」


 「ですね…。イルミネーションも綺麗ですが思いのほか冬の夜は冷えます…。あ!良い事思いつきました!」


 「…え?」


 八雲さんがこう言う時って大体…


 「湊くん、失礼します。」


 そう言うと八雲さんが隣にぐっと近づいて俺のポケットの中に手を入れてきた。


 「こうすれば二人とも少しはあったまりますね…ってつめた!えへへ…二人でしばらくあっためましょうか…。」


 元々ポケットに入っていた俺の手も冷たかったので結局どちらの手も全然暖かくない。


 しかし……


 「わっ…!湊くん、急に手があったかくなりましたよ…!?どうしたんですか?」


 「あ、えっと…八雲さんの手が…あったかかったから…。」


 「ほ、本当ですか?それは良かったです。んん…手があったかいと全然違いますねぇ…。」


 「だね…。」


 恥ずかしくて…だなんて言えねえよな…。


 「アツアツですねぇ…湊くん?」


 「何やってんのお兄ちゃん。」


 「うわっ!?紫央に翠!いつの間に!」


 突然俺の前に紫央とクロエ、そして戻ってきてた翠と桜ちゃんがいた。


 「あっちも見てまわろ!お兄ちゃん、八雲おねえちゃん!」


 桜ちゃんが奥の方を指さしてみんなに言った。


 「あ!あっちにハートの飾りのやつライトアップされてるよ!行こ!紫央くんっ!写真撮ろっ。」


 「えー…。撮るのぉ…。」


 「そりゃ撮るでしょ!湊たちも!」


 「はいはい、後ろからついてくから前歩いて良いぞ。」


 「おっけー!」


 紫央とクロエが先頭、真ん中が翠と桜ちゃん、一番後ろに俺と八雲さんで並び、公園のイルミネーションを見て回る事に。


 しかし俺のポケットの中には変わらず八雲さんの手が入っており、中々ドキドキが治らん。

 けど八雲さんの手もあったかくなってきたから良かった。


 「湊くん。」


 「ん?どした?」


 歩いていると八雲さんが俺に声をかけた。


 「私、こうやって夜にみんなでイルミネーションを見る、なんて初めてで…とても楽しいです。」


 「そっかあ。それは良かった。」


 「湊くん…また来年も…一緒に来られますよね…?」


 ポケットの中で八雲さんの手が小さく震える。

 片方の手もロングスカートを握っていた。

 まるで…何かに怯えるかのように。


 そんな震える八雲さんの手を握り、近くまで体を寄せた。


 「当たり前じゃん。また来年も絶対行こうよ。翠も、いや、みんな誘ってさ!」


 「……!っはい…!」


 俺の言葉を聞き、震えが止むと八雲さんも手を握り返してくる。

 うぐっ…ハズカシイ…。


 まあでも…今ぐらいは良いかなあ…。


 「そうだ、来年はとこさんを誘っても良いよな。今日は留守番してくれるって言ってたけど。」


 「ですね!とこも一緒に来れたら良かったのに。」


 暗い冬の夜をイルミネーションが色とりどりに彩り、俺たちの周りを温かく照らす。


 


 


 

 


 ☆☆あとがき☆☆

 遅くなりました!申し訳ありません!

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