第21話 八雲さんのお世話係!

 ジュウジュウ……


 「とこさん、フライパンの火弱めて肉ひっくり返してくれますか?」


 「了解です。あとこちら、次の下準備終わっています。私がここをやるので湊くんはそちらをお願いします。」


 「っ!分かりました!」


 リビングからキッチンに立つ二人の料理人プロの見事な手腕をみんなはじっと見ていた。

 その様子は圧巻。惚れ惚れするほど息があっている。

 

 しばらくするとあっという間に食卓には数々のご馳走が並んだ。


 ——————


 (すごい…すごいぞ…!)


 椅子に座り八雲やくもさんと話す彼女のメイド、新美にいみとこさんを見て俺は感動している。

 想像以上どころかとんでもないレベルのスキルに舌を巻いたのだ。


 最初は見ず知らずの人を家に上げるのは流石に気が引けたが八雲さんの恩人という事ならしょうがないかって気持ちだったけど、やはりお世話係というだけあってすげえ。

 俺が初めて遅れを取ってしまった…。


 「ふふっ。私、安心しました。」


 するととこさんが俺の方を向いて口を開いた。


 「まさかみなと様がここまでできる方だったとは。お嬢様の事、本当にありがとうございます。」


 深々とお辞儀をされる。


 「や、やめてくださいよ。俺もすごい楽しかったので…また一緒に料理とか、しましょう。他の家事とかについて色々と教えてもらえると嬉しいです。」


 「喜んで。」


 とこさんが綺麗な金髪をふわりとなびかせてにこりと微笑んだ。


 「お兄ちゃぁん?もう食べていいのぉ?」


 隣に座っていたすいが声をかけてきた。実はこいつ、掃除に誘わなかったとかでご機嫌ナナメである。


 「ああ、ごめんごめん。じゃあみんな食べましょうか。のどかさんもどうぞ。」


 「やったー!手作りの料理なんて湊くんと食べる時でしか食べれないのよよよ…。いただきまーす!」


 「あ、あはは。俺ので良ければいつでもどうぞ。」


 「ありがとう湊くん!いただきまーす!」


 全員が俺ととこさん作のご馳走に手を伸ばし始めた。


 「ん〜…。懐かしいとこの味と食べ慣れた湊くんの味が同時に食べれるなんて…幸せですね…もぐもぐ…。」


 八雲さんが食べながら呟いた。


 「お嬢様…。私と湊様の味…どちらが美味しいですか?」


 ズイッと八雲さんの顔を覗くとこさん。

 慌てて料理を飲み込んでいた。


 「どっ、どちらも美味しくて甲乙つけがたいですっ…!」


 「なっ…こんなに短い間にお嬢様の舌をここまで唸らすとは…湊様、中々やりますね。」


 「お、大袈裟ですよ。俺なんてとこさんに比べたらまだまだで。」


 「そんな事ないですよ。その歳でここまで出来るなら将来有望すぎるぐらいです。ウチにきますか?」


 「ウチって…あ、そういえばずっと気になってたんですけどとこさんってこの前俺たちの学校に副担任として来てましたよね?」


 料理で忘れてたが引っかかっていたことを聞いてみた。俺の考えだと、とこさん=副担任の新美橙子とうこ先生は一致する。


 「な、ななな、なんのことでしょう…?」


 あれ、額に冷や汗をかき、めちゃくちゃ動揺して震えているんだが…。


 「そ、そう言う事だったんですかー!?」


 目を見開いて驚く八雲さん。

 この人たち…頭良いけど結構天然なのかな。


 「そりゃ、見りゃ分かりますよ…。」


 「偽名まで使ったのに…。流石と言っておきましょう湊様。」


 「い、いや、変えるなら名前より見た目の方が…。ってそんなことよりも…どうして俺たちの学校に来たんですか?」


 色々考えてはいた。

 この人と話してみれば悪い人ではないみたいだからただ単に八雲さんに会いに来たのか…。

 最悪の場合だとさっき八雲さんが言っていたお父さんが…とこさんを通して八雲さんを連れ戻しに来たのかもしれない。


 「バレてはもう隠す必要はありませんね。そうです、私は新美橙子として学校に潜入しました。それも全て……。」


 とこさんはもぐもぐとご飯を食べていた八雲さんの方を向いてガバッと手を広げた。


 「と、とこ……!?」


 「愛する八雲お嬢様に会いたかったからです!お嬢様が突然家を出て行ってからもうとこは心配で心配で……なので意を決してしばらくのいとまを頂き、こうして会いに来たというわけなのです!」


 すりすりと八雲さんに抱きつきながら涙を流して語ってくれた。

 この人は…大丈夫そうだな。


 「そうだったんですね…。しばらくはこっちに入れるのですか?」


 「はい!時間が許す限りは学校や家でお嬢様ロスを解消しようかなと。」


 「い、家?」


 「元のお嬢様のお部屋、使っていなさそうだったのでそちらを使わせて頂こうかと思いまして。来る時は大掃除を覚悟していたのですがどうやら湊様がやってくれていたようで…。安心しました。」


 「は、はは。まだ完全に綺麗になったわけじゃないのでお気をつけて。」


 「そこは任せてください。こう見えてお嬢様のお世話係を生涯務めてきた身、ちょちょいのちょいですよ。」


 「と言う事は…またとこと一緒にいられるのですか…!?」


 話を聞いていた八雲さんが顔を輝かして聞く。


 「はいっ!お嬢様、また一緒ですよ。」


 「っ!やったあ…!私もとこと会いたかった…!」


 嬉しさで涙が出てしまったのか、泣きながら満面の笑みでとこさんに言った。


 「私も嬉しいですよお嬢様!」


 あっち白華家で過ごしていた時も八雲さんは一人ではなかったのだと思うと俺もとても嬉しい。すごく安心した。


 「俺もとこさんがいる間に家事を習ってもっとレベルアップ出来るように頑張ります。あ…みんな食べ終わってるみたいだし、俺皿洗いしますね。」


 周りを見渡して見れば話している内に料理はなくなり、空いた皿が置かれている。


 「お手伝いします。」


 「いえ、とこさんは八雲さんと一緒に居てあげて下さい。そうだ、お風呂入ってきたらどうですか?もう沸かしてありますし。」


 「湊様一人にやらせるわけには…。」


 「大丈夫。うちの義妹いもうとが手伝ってくれますよ。それに…とこさん、八雲さんにお風呂での色々を教えてあげて下さい。…大変だったんですよ…。」


 俺の言葉で色々察したのかとこさんはすぐに従ってくれた。


 「分かりました…。自分の教育不足で申し訳ありません…。」


 「なんのことですか?湊くん、とこ?」


 「いえ、なんでもありませんお嬢様。ささっ片付けは湊様にお願いして我々はお風呂に入りましょう。ではお先に。」


 「えっ?わ、分かりました。湊くん、お願いします。」


 「おう。行ってらっしゃい。」


 バタン


 二人がお風呂に行き、部屋は俺と翠、のどかさんの三人になった。


 「翠ちゃん…私たち仲間外れじゃない…?」


 「ですよね〜…。さっぱり話分かんないし…。それに私なんて勝手に手伝わされる事になってるし。」


 「あ、ごめん二人とも…。こっちの話ばっかしちゃって…。」


 「まあ良いけど…あの人はおねえちゃんのお世話係だった人なんだよね?」


 「そうそう。隣に住むらしいからまあ、仲良くしてやってくれ。優しい人だから。のどかさんもお願いします。」


 「大体は分かったけど…白華さんって何者?」


 「そこは…おいおい話します…。」


 そこからはのどかさんと別れ、俺と翠で残った洗い物を片付けてひと段落が着いた。


 ——————


 「…あら?」


 お風呂から上がり、テレビを見ていた八雲さんととこさん。

 しかし、今日の掃除で疲れたのか八雲さんがウトウトとしてソファで眠ってしまった。


 「お嬢様、眠ってしまいましたね。」


 「今日は大掃除をしたから疲れちゃったんでしょうね。とこさん、寝室に案内しますんで運んでもらえますか?」


 「分かりました。」


 ソファで眠る八雲さんを持ち上げて寝室へと連れて行く事に。


 ギイ……


 「よいしょっと…。布団を被してあげて…私たちは起こさないように出ましょうか。」


 「ですね。」


 俺たち二人が部屋から出ようとすると、寝ているはずの八雲さんが俺たちの手を握った。


 「…ん。」


 「ど、どうしますか…?」


 「うーん…起こすわけにもいかないし…今日は三人で寝ますか。」


 「さ、三人…?」


 「よいしょ…。」


 とこさんが八雲さんの隣に寝転んだ。


 「ほら、湊様も早く。」


 「いや…早くって言われても…。」


 「お嬢様が起きてしまいますよ?」


 「うーん………。」


 悩みに悩み抜いた結果…しょうがない…起こすのもかわいそうだし覚悟決めよう。

 八雲さんもそうだがこの人たち距離感バグってんのか?


 八雲さんを真ん中にしてとこさんと挟むようにしてベッドに入る。

 なんか…親子みたいだな。


 「ふふ…なんだか親子のようですね。」


 同じこと考えてた…。

 しかし、聞きたいこともある。


 「親子…八雲さんのお父さんってどんな人なんですか…?」


 「白華様、ですか。彼は父親としてはあまり良いとは言えませんね。こんなこと言ったら白華家に仕える者としては失格ですが…。ですがこれだけは言えます。」


 「…?」


 「お嬢様が…あなたの元に来れて良かった。」


 その声音は…俺にも分かる。本気だ。


 「大袈裟…ですよ。さ、もう寝ましょう。俺も今日は疲れちゃって…。」


 「ふふっ…ですね。しかし湊様、あまり動揺しませんねこの状況で。もしや既にお嬢様と寝て…………」


 「な、何言ってるんですか…!早く寝ますよ…!」


 「お嬢様が湊様とご一緒になられば私も安心なのですが。」


 ため息混じりの最後の言葉は聞かない事にした。狸寝入りかましてやったんだ。


 だが目を瞑っているうちに、いつのまにか寝てしまっていた。


 ——————


 「私…完全に忘れられてんだけど…。」


 風呂上がりにリビングに戻ってきた翠。

 

 誰もいないリビングを見て一人虚しく冷蔵庫からアイスを取り出して食べる事にした。


 「まだ寝るのは早いし…桜にでも電話かけっかあ。冬休みの課題答え教えてもらお。」


 こうして冬休みの初日は終わりを迎えた。


 


 


 

 ☆☆あとがき☆☆

 遅くなりました!

 よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る