第20話 八雲さんの来客
「あ…。」
俺たちの視線は物音がした先に落ちていた一つの写真立てに集まっていた。
ここからでも見える。
あれは八雲さんの家族写真だ。
写真立てが置かれていた棚は周りとは比べ物にならないほど綺麗で、そもそもこれしか置かれていない。
「っと…俺、拾ってくるよ。」
多分、この前ニュースで八雲さんのお父さんが出た時も彼女はあまり良い顔をしていなかった。むしろ…苦しそうな顔だった…。
ならあまりこの話題には触れないでおこう。
「…?」
立ちあがろうとするも、八雲さんが俺の体を掴んで離さない。
「…
「…最初は驚いたけど八雲さんが話したくないなら俺は聞かないよ。」
「…そうですか…。」
そう言うと八雲さんは俺の体の上から降りて写真の元へと歩いて行った。
「私の…お父さんがどんな方かは知っていますよね?」
写真を見ながら俺に聞いてきた。
「うん。総理大臣、なんだよね。」
「はい。その…湊くんはお父さん、白華総理にどういったイメージを持っていますか?」
「うーん…どうって言われても…。ニュースとかで見る限りだとすごく良い人そうだよね。国民に寄り添う…とかなんとかで。画面越しでしかないけど優しそうな人だとは思うよ。」
すると写真から顔を上げ、俺の方を見て微笑んだ。
「そうですね。お父さんは上に立つ人間としては完璧な人だと思います。しかし…お父さんはあくまで上に立つ者にしかなれないのです…。そう、父親には…。」
俺は言葉を出さずにじっと八雲さんを見つめる。今口を出すのは違うと思ったのだ。
「…お父さんは昔からよく私をパーティのようなものに出席させていました。そこで私のする事は笑顔でお父さんといる事。ただそれだけでした。だけど…私の生活もそれだけだったんです。外にも出してもらえず家の中でずっと一人…話し相手はたった一人の私のお世話係の人だけでした…。」
「そう…だったんだ。」
これを聞けば八雲さんが一人で何もできなかった事にあらかた説明がつく。
こんなんじゃまるで八雲さんのことを……!
「そ、そんなに怖い顔しないでくださいよぉ湊くん。
「あ…ごめん。」
どうやらかなり顔に出ていたらしく、気づかれてしまった。
「ふふ、良いんですよ。…まあまとめて言ってしまえば私は…道具のように扱われる生活が嫌になって逃げ出してきたんです。ですのでね…?」
写真立てを棚の上に戻し、俺のところへと再び歩いてきた。
近くまで来るとそっと俺の胸に顔を埋め、抱きつく。
「湊くんとの生活は…大好きなんです…!毎日が新しい事でいっぱいで、優しい湊くんと
俺の胸で微かに震える八雲さん。
腕を回して優しく抱きしめ返す。
「当たり前じゃん。俺、まだまだ八雲さんとやりたい事いっぱいあるからなあ。これからも忙しいと思うけど大丈夫?」
声をかけると顔を上げてとびきりの笑顔を見せる。
「楽しみですっ!」
俺も八雲さんに微笑み、肩に手を置いた。
「それじゃあ…まずは掃除をしよう!こう言うことも出来るようになってかないとね。」
「…はい。」
俺たちは中断していた部屋の掃除を再開することにした。
——————
「ふーっ…。今日はこんなもんかあ。」
「すごい…!床が見える…!」
「この状態を保てるようにしないとね?八雲さん。」
「ぐっ…これからはお掃除頑張ります…。」
一時間ほど熱心にゴミをまとめ、掃除をすればあれだけ積もっていたゴミもなくなりついに床が顔を出した。
「よし、じゃあ今日はこんなもんにして終わろう。時間は…4時半か。夜ご飯の準備もあるから丁度良いし。」
「はいっ!いやぁ…お掃除するとスッキリしますね!」
「でしょ?毎日とは言わないから適度にやるのが大切だよ。」
「こっ…これからはできる限り頑張るようにします…!」
「怪しい返事だなあ…。」
片付けも終わり部屋を出ようとした時、外から声が聞こえてくる。
「おーい!みなとくーん!終わったー!?」
「ああ、のどかさんだ。八雲さん、外出よ。」
「分かりました。」
去り際、八雲さんは棚に置かれた写真をチラと見た。
「あれだったら家に置いても良いよ?」
俺の言葉に少しだけ考える八雲さん。
「…いえ。もう少し私が…この人たちと向き合えるようになってからにします…。」
「そっか。良いと思うよ。」
すっかり足場が出来た部屋を歩くと少し感動が頭をよぎるも、とりあえずのどかさんの元へと向かう。
ガチャ
「のどかさん、終わりましたよ…って?」
のどかさんの後ろに誰かがいた。
「あー、この人白華さんの知り合いだって言ってずっと部屋の前に居たからさあ?少し話してたんだ。そう簡単に本人に会わせるわけにもいかないし。」
「管理人さん…お嬢様が私を見れば一発だと何度も言っているのに…。」
「と、とこ…!?」
俺の後に部屋から出てきた八雲さんがのどかさんの言うその人を見ると、目をまんまるくして驚いた。
けど…なんか俺も見覚えがあるような…。
「ああお嬢様…!お久しぶりです…!って言っても私は昨日も会いましたけどね。」
「あー!」
思い出した!この金髪にウルフカット、眼鏡こそかけていないがこの人は間違いない…昨日学校に来た副担任…!!
「や、八雲さん、知り合いの人なの?」
八雲さんの顔をのぞいてみると、彼女の顔はすごく嬉しそうで満面の笑みである。
「彼女こそが先ほど私がお話ししたお世話係の人なんです…!まさかまた会えるなんて…!」
「私もお嬢様に会うために遠路はるばる来ましたからね。とても嬉しいですよ。ですがまずは………。」
そう言うと、そのお世話係さんとやらはブルっと大きく身震いした。
「家に入れてくれませんか…。私ずっと外に居て凍え死にそうです…。」
「あ、どうぞ……。」
こうして、俺の家にてお世話係さんも交えた掃除お疲れ様会もとい、みんなで晩餐会が始まった。
☆☆あとがき☆☆
遅れました、すみません!
本日もよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます