第17話 さくすいクッキング!
ピロン
「…ん?」
ベッドに置いていたスマホに通知が来たので手に取り確認してみる。
「
『お兄ちゃん,死にかけ。今から行く。』
「い、今からあああああ!?」
——————
ピンポーン
メールを送ってからしばらくして桜家の玄関に着いた翠。
少し待っているとインターホンから桜のお母さんの声が聞こえてきた。
『はーい?』
「あ、翠ですけど桜っていますか〜?」
『なんだ翠ちゃん?ほら、寒いからあがってってよ!今お父さんに扉開けさせに行くからさ!』
「いえいえ、すぐ行きますし。」
『遠慮しないでっ!おーい!あなたー!翠ちゃん来たから玄関開けたげてー!』
「!ありがとうございますっ。」
現在6時30分、冬の夜はかなり冷え込んでおり寒かったのでお言葉に甘えて中に入れさせてもらうことにした。
ガチャッ
「いらっしゃい翠ちゃん。桜なら今から来ると思うから中で待ってなよ。」
出てきたのはおっとりとした優しい顔をした桜のお父さん。
「ありがとうございます!お邪魔します。」
「はーい。」
お父さんと廊下を歩いてリビングに入ると、料理をしていた桜のお母さんが見えた。
赤みの強いピンク色の髪を綺麗になびかせているお母さんを見れば桜は間違いなくその遺伝子を色濃く継いでいるだろう。
「今日はどうしたの?」
キッチンから話しかけられる。
「今日はお兄ちゃんがたいちょ…………」
ドタドタドタドタ……
翠の言葉は勢いよく階段から降りてきた桜の足音によって掻き消されてしまった。
「ちょっ……翠ちゃん!今からなんていきなりすぎるって!!」
ゼーハーしながら翠に向かって叫ぶ。
「ごめんごめん、つか服反対向きじゃない?タグが見えてるけど。」
「…あ。」
「もー!桜ったらそゆとこはなおんないよねぇ。」
お母さんが呆れて笑った。
「まあまあ、ドジっ子も可愛いじゃないか。なあ桜?」
「ゔー……。」
桜は恥ずかしそうに首に巻いてきたマフラーと着ていた上着を脱いでもぞもぞと服を直し始めた。
「そうだ…!翠ちゃん、お兄ちゃんが死にかけってどうしたの!?」
「ん?あー、お兄ちゃん、熱出てたらしくて今寝込んでるんだよ。」
「あら、
お母さんが料理の手を止めてこっちにやってきた。
「さっきそおーっとおでこ触ってきたんだけど結構熱は引いてそうだったから大丈夫だとは思うんだけど……私料理出来ないの知ってるでしょ?」
「翠ちゃん……翠ちゃんが私に何をさせようとしてるか分かったよ。」
桜がじろーっと翠を睨む。
「えへ♡桜ちゃんっ!一緒にご飯作ってよ!」
「やっぱりぃぃ!!」
「良いじゃないの?行ってあげなよ。湊くんには昔っからすっごいお世話になったからね。」
「そうだね。行ってあげなさい、桜。」
桜の親二人も翠の意見に賛成だ。
「そりゃ行くよ。行くけどさあ…なんで翠ちゃんはもっと早く教えてくれないのかなぁ…!メールで言ってくれれば良かったじゃん!」
「んえー、だってめんどいもん。さっ!そうと決まれば行くぞ!それじゃお母さん、お父さん、桜借ります!」
「はーい!桜?美味しいご飯作ってあげるんだよ?」
「頑張っておいで。」
「うう…プレッシャーがああ…。」
「うだうだ言ってないでほら!まずはスーパーに行こ!」
こうして翠は桜の手を取り、スーパーへと足を運ぶのだった。
——————
「さてさて桜さん、今夜は何を作るんですか?」
「ふっふっふ…翠さん、今夜私が作るのは体に優しいあったかい卵のおかゆですっ。」
スーパーに着いた二人はカートにカゴをセットして中を見て回っていた。
「なんか、最近夜遊んでなかったから久々で楽しいね〜。」
翠が桜に言う。
「あー、なんか翠ちゃん最近忙しかったんだっけ?」
「うーん、まあね。ごめんね?桜に構ってあげれなくて。」
「なっ…別に翠ちゃんがいなくても大丈夫だったもん!」
「ほんとうに〜?」
「……まあ、ちょっとは寂しかったかな。私も今は楽しいよ!」
「素直でよろしい。でもこの時間に買い物にくるってさあ?」
翠がニヤニヤとしながら桜の顔を覗く。
「?なに?」
「なんだか夫婦みたいじゃなーい?」
瞬間、桜の顔がボンッと音を立てて赤くなった。
「ふっ…夫婦って!ち、ちち、違うし!」
「あはは〜!顔真っ赤じゃん!そうだよねぇ…桜はお兄ちゃんが好きだもんねぇ。」
「ぐぬっ……」
「でもお兄ちゃんは私のだもんね。いくら桜でも渡さないもん。」
「…翠ちゃんは妹じゃん。」
「義理のだもんねー!知ってる?世間では義妹ジャンルが確立されてるほど人気なんだよ?」
「ふーん…それはそれとして…。」
桜がカゴに伸びていた翠の手を掴む。
「ぐーたらな妹じゃ愛想つかされるかもねえ?ぷぷぷ。」
「くっ…話で気を紛らわせてたのに…。」
残念そうに持っていたお菓子の袋を元の場所に戻しに行く翠。
「あ、そういえば悪いけどご飯もう一人分いるよ。」
「もしかしてこの前翠ちゃんが言ってた…?あれ本当だったの!?」
「んっふふー。会えば分かるよ。多分、桜驚いちゃうだろうなあ。」
「ほえー…楽しみになってきた。」
二人はレジに行き、買った荷物を持って湊が待つ家へと向かう。
—(湊視点)—
リビングの方から話し声が聞こえる…。それになんか良い匂いも漂ってくるし…。
ベッド脇に転がっていた時計を拾い、時間を確認する。
「しっ…七時半…!?やっべご飯作んねえと!?」
ガバッと勢いよく寝ていた体を起こし、立ちあがろうとするが自分の体を抱きしめる存在を思い出した。
「
「んんん…私も一緒に…お手伝いしますので…一緒に…行きます…。」
そう言って俺の服の裾を掴みながらよろよろと起き上がった八雲さん。
仕方ない、このまま行くか。
ガチャリ
八雲さんを腕にくっつけたまま部屋の扉を開き、リビングに入ると…
「お、おおおお、おおお、お、お兄ちゃん…!?」
「ん…?ああ、桜ちゃんか。いらっしゃい。って料理でもしてたの?」
キッチンに立っていたのは翠とその友達、桜ちゃんだ。
めちゃくちゃ慌てふためいている様子。
「す、翠ちゃんにお兄ちゃんが体調不良だって聞いたから…。ええっと、その人はぁ…?」
最後の質問は俺に、というより翠の方を向いて言っていた。
「そう。この人があの
「し、白華さん!?」
「んうっ…美味しそうな匂いがしますね…みにゃとく…。」
まだ寝起きで意識が戻っていないのかむにゃむにゃとしながら掴んでいる俺の腕に顔をすりすりさせながら呟く八雲さん。
「ちょ、ちょっと翠ちゃん!白華さんって…!」
桜ちゃんが翠を引きずりキッチンでしゃがみ込んだ。
「そうなんだよねぇ…。八雲おねえちゃんは愛すべきおねえちゃんであり、私たちの最強のライバルでもある…ということなのだよ…。」
「えぇ……。マジかあ…。」
一体どう言う状況か分からず、八雲さんに声をかけてみる。段々と目が覚めてきてるようでさっきよりも口調がハッキリとしてきた。
「んーっと…俺たちはどうしたら良いんだろ。」
「彼女は…翠ちゃんのお友達でしたっけ。」
「そうそう。桜ちゃん。なんかご飯作ってたみたいだけど…。」
二人で話していると桜ちゃんと翠が出てきた。
「ご、ごめん!おかゆ作ったからお兄ちゃん食べて!あと元気な人にはお野菜のスープ作ったので…良ければどうぞ…?」
机に並べられた料理の数々。
俺の前にはふんわりとした卵のお粥が置かれ、美味しそうな匂いが食欲をそそる。
「すごーい!桜ちゃん、お料理が上手いんですねえ!」
それぞれが食卓につき、置かれた料理を見て八雲さんが顔を輝かせて言った。
「えへへぇ…そ、それほどでもぉ…?」
あの学校一のアイドル、八雲さんに褒められた桜ちゃんはデレデレになりながら答えた。
そんな桜ちゃんをじろっと見る翠。
(こいつ…チョロすぎるだろ…)
「これはこれは…わざわざありがとうな桜ちゃん!ありがたく頂くよ。」
「はい!どうぞ食べて!」
「「いただきまーす!」」
桜ちゃんの作った料理を食べる一同。
俺もお粥を口へと運ぶ。
「んー…。あったけえ…めちゃくちゃうめぇ…。」
「ほんとぉー!?えへへぇ…。」
「桜ちゃんは良いお嫁さんになるだろうなあ…。結婚するやつは幸せ者だ…。」
なぜか俺の言葉で真っ赤に顔を染めた桜ちゃん。もじもじと何か言おうとしている。
「わ、私が…おにいちゃんのところに………」
「おにいちゃーん?私も手伝ったんだけどぉ?」
翠が桜ちゃんの言葉を遮って話す。
「ちょ!翠ちゃん…!てか手伝ったって翠ちゃんお皿出してくれただけじゃ…。」
「翠…お前はもっと桜ちゃんを見習えよ。」
「えー!?手伝ったのにひどくなあい!?」
「ぷぷぷー!言われてやんのー!」
「ふふっ。お二人とも仲がとても良いんですね。」
「昔からの付き合いだからね。俺たち。」
桜ちゃんの美味しい手料理を食べすすめていると、なんとなく垂れ流していたテレビからあるニュースが聞こえてきた。
『総理は、今回の記者会見で〜』
総理大臣の記者会見の報道である。
「あ、お父さん。」
八雲さんの何気ない一言で、楽しげだった空気がピシリと時を一瞬だけ止めた。
「や、八雲さん…?今なんて…?」
「はい?えっと…お父さんだな、と。」
「お父さんって…あの人…?」
俺はそう言ってテレビに映る現総理大臣である白華総理を指差す。
「…はい。私の父です。」
「「「えーーーーー!!!??」」」
「ど、どうしたんですか…!?」
八雲さんの言葉を聞いた途端、全員が声を上げた。
「ま、まさか…苗字が同じなだけかと思ってたのに……。」
「や、やばいよ翠ちゃん…!私たち、総理大臣の娘さんとご飯食べてるよ…!すっげえー…!」
「あ、そっち…?」
一瞬、驚きこそしたが今まで八雲さんには驚かされてばかりなので総理の娘だと言われてもなんだか受け入れてる自分がいる。
慣れとは恐ろしいものだ…。
「お兄ちゃん、あんま驚いてないね…。もしかして知ってた?」
俺の方を見る翠と桜ちゃん。
「いやあ、初めて知ったけどなんか今更あんまり驚かねえなあって。慣れちゃったわ。」
「ごめんなさい…みなさん、黙ってて…。」
八雲さんが俯き気味で俺たちに頭を下げる。
「良いって。人には言いたくない事なんていっぱいあるだろ?別に今までと態度が変わるわけじゃないんだから安心しなよ。」
優しく答えると翠と桜ちゃんもうんうんと頷いてくれた。
顔を上げた八雲さんは遠慮がちに微笑んだ。
「…ありがとうございます。その…話せる時に話しますね…。」
「うん。それで良いよ。」
「ええっとお……み、みんな!冷めないうちに食べてよ!お兄ちゃんもあったかいうちに食べて体調戻さないと。」
「だな。ありがとう桜ちゃん。」
今日一日は色々あったなあ…。
俺たちは再び桜ちゃんの作ってくれたご飯をみんなで食べた。
——————
「んふふ〜…。おねえちゃん…。」
「よしよし…桜ちゃんは偉いですね。」
食べ終わった後、俺と翠で洗い物をしている時、ソファでは八雲さんが桜ちゃんに膝枕をしながら一緒に話していた。
「あいつ…懐くの早すぎでしょ…。」
翠が呆れたように言った。
「まあまあ、良いじゃねえか。」
親の気持ちになる微笑ましい光景だ…。
☆☆あとがき☆☆
長くなってしまいました!申し訳ありません!
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