第16話 八雲さんと看病

 ダッダッダッダ


 「お兄ちゃーん!私、今日さくらと一緒に行くから早めに出るねー!行ってきまーす!」


 すいがバタバタと家の中を急いで駆け回り、玄関へと向かった。

 それにしても足音が頭に響くな…。

 だから早起きしろって言ってるのに。


 「あんまり急いで怪我するなよー!行ってらっしゃい!」


 「はーい!」


 バタン


 扉が開いた音が聞こえ、翠が外へと出ていった。


 「私たちももう少ししたら行きますか。」


 綺麗な銀髪をくしでとかしていた八雲やくもさんが隣から声をかける。


 「う…ん。そうだな。」


 なんだろ…なんかボーッとする。

 頭をこくりこくりとさせながら洗濯物を干しているが…。


 「みなとくん…?大丈夫ですか?」


 俺の方を心配そうに見る八雲さん。

 持っていたはずの服は床に落ちてしまい、バラバラに広がっていた。


 「あれ…ごめん。今拾うから……」


 フラッ……


 「湊くん!?」


 足元がフラつき、ぶっ倒れそうになってしまったところを八雲さんが慌てて体を支えてくれた。


 「わっ…湊くん、体すごく熱いですよ…!体温計持ってきますね…熱測りましょうか。」


 「いや、大丈夫だよ…八雲さんそろそろ学校行かないと遅れちゃうから早く…行かないと。」


 「こんな状態の湊くんを放っておくなんて出来ません…!一旦ソファで横になっていて下さい。」


 「…分かった。」


 言われた通りにソファにどさっと倒れ込むように寝転ぶ。

 あー…なんか頭も痛くなってきた…。

 しかもクソ寒いし…。


 「体温計…体温計…。…あった!」


 引き出しの中から体温計を持ってきて俺の脇に挟んでくれた。


 ピピピッピピピッ


 「さ、38.7…!完全に熱がありますね…。」


 「…マジか。今日は休むかあ…。ありがとう八雲さん、後は一人でやっとくから学校行ってて。」


 「…いいえ。やはり湊くんを一人になんてできません。今日は私も一緒にいます。」


 「で、でも…。」


 「湊くんはあの時、私が体調を崩した時に看病して下さいました。お返しさせてください?」


 ソファで横になる俺を優しく微笑んで言葉をかけてくれる八雲さん。

 なぜだかいつもより八雲さんの優しさが心に染みる…。


 「…ありがとう。正直、確かに一人だときついかも。」


 「はい!…私がお役に立てるかは分かりませんが…。」


 「…いてくれるだけで嬉しいから大丈夫だよ。」


 「ふふっ…ありがとうございます。それじゃとりあえずベッドに移動しますか。湊くん、すごく寒そうですし…。」


 そう言われて気づいたが俺の体、めっちゃぶるぶる震えてるんだけど…。

 いつもより寒く感じてたのも熱があったせいだったのかあ。


 「だね…よいっしょ…。」


 「あ、私につかまって下さい。ゆっくり行きましょうか。」


 差し出された八雲さんの肩に今回は仕方ないと心で言い聞かせて腕を回して少しだけ体を預ける。

 正直言ってそんなこと考えてる余裕もないぐらいキツい


 「よっこいせ…。」


 ゆっくりと進み、ようやくベッドに辿り着く。


 「布団を被って寝ていてくださいね。私、冷蔵庫からスポーツドリンクと何か軽く食べれるものを持ってきます。」


 「ありがとう…。あ、冷蔵庫の中にプリン入ってるから八雲さん、お昼とかに食べてて良いよ…。」


 「本当ですか!ありがとうござ……って私の事は良いんですよ…!湊くんはゆっくりしていてください…!」


 「はは、了解。」


 八雲さんが少し顔を赤らめながら部屋から出ていく。

 しばらく俺一人だけとなり静寂が部屋を包んだ。


 (なんか…体調わりい時にぼっちだと…案外きちいもんだな。つかさっむ……。)


 布団にくるまって体を丸くしているというのに寒気で体に震えが走る。


 (ひっさびさに熱なんて出したなあ。最近色々あってバタバタしてたからか…。)


 考えるのも億劫になり、八雲さんの言葉に甘えて眠ることにした。


 ——————


 「んぐっ…。なんかあったけえ…。」


 目が覚め、ベッドの脇に置かれた時計をチラと見てみると現在時刻は午後12時あたり。

 さっき見た時は8時とかだったからいつの間にか4時間ぐらい寝てたのか…。


 それにしてもあったかいな…あんな寒かったのに…。


 「…ん?」


 この温かさの元を辿り、ふと隣を見てみると…


 「…や、やや八雲さん…!?」


 「んん……だいじょうぶれすか。みなとくん…。」


 なぜか隣で八雲さんが俺に抱きついて寝ていたのだ。


 「ど、どうしてここに…?」


 むくりと八雲さんが起き上がり俺の方を見る。


 「湊くんが寒そうで震えていたので…こういう時は人肌で温めるのが一番かと思いまして…。」


 「…そっか。ありがとう。」


 「いえいえ…あ、そこに置いてあるスポーツドリンクとか飲んでくださいね…水分摂るのは大切ですから。」


 「ん、ありがとう。」


 言われてみればすげえ喉がカラカラに乾いてたからすごく嬉しい。

 机の上に置いてあるスポドリのペットボトルをベッドから手を伸ばして取り、勢いよく飲んだ。

 

 それに八雲さんのおかげで寒さも良くなったし何から何までありがたいな…。


 「ごくごく…ぷはっ。…よし寝るか…。」


 しかしまだ治った訳ではない。

 頭がかなりいってえもんだからちゃっちゃと寝ちまおう…。


 「湊くん。」


 「ん?」


 ペットボトルを再び机に置き、ベッドで寝転んでいた八雲さんを見ると…。


 「えっと…それは何を…?」


 「どうぞ、温めて差し上げますのでこちらへきてくださいな…。」


 腕を広げ、俺にこっちへ来いと言う。

 まさか…八雲さんに抱きしめられて寝ろ、と言うのか…?


 「え…えっと…。」


 「おいで…?」


 「…っ…!」


 まさに天使のような微笑みを浮かべて俺をいざなう八雲さん。

 目は少しとろんとしていて、もしかしたら寝ぼけているだけなのかもしれない…が。


 (こんな顔見たら…抗えねえよ…。)


 今の俺は熱で判断力が欠如しているんだと思う。体が勝手に八雲さんの元へと吸い寄せられていく。


 「ふふっ…よしよし。大丈夫ですよ…。」


 無事、八雲さんの胸の中で抱かれた俺を背中に回した手で頭を撫でてくる。

 あ、これヤバい…撫でられる事に眠気が襲う…。


 うとうと…と目が瞑りそうになった時、


 「湊くん…ごめんなさい………。」


 小さく消えるような声で八雲さんがぽそりと呟いた。普通なら聞き逃してしまいそうな声だが、今は顔が至近距離にあったことが功を成した。


 その言葉と共に俺を抱きしめる力が少しだけ増す。


 「私のせいで…私が湊くんに迷惑をかけてるせいで…。それなのに私、湊くんの苦労も知らないで楽しんで…。んっ…ひぐっ…。」


 な、泣いてるのか…?それになんか自分のせいだとか言ってるけど…。


 …恐る恐る俺も八雲さんの体に手を回して同じように頭を優しく撫でた。


 「…大丈夫。大丈夫だよ。俺、そんな事思ってないから。八雲さんがいてくれてすっげえ楽しい。」


 「でも…でも…!私、湊くんに何も返せてない…!」


 「返すとかじゃなくてさ、居てくれて嬉しいんだ。今みたいに俺一人じゃきつかった時、八雲さんは居てくれてるじゃん。」


 「……それぐらいじゃ全然返せてないもん…。」


 「んー、じゃあこうしよう。俺の体調が戻ったら簡単な家事から教えるから一緒にやろう?それなら手伝ってもらえて俺も嬉しいけどな。」


 引き続き頭を優しく撫でながら言葉をかける。


 「…良いの…?」


 「もちろん。」


 「…湊くんと一緒にやりたい…。」


 「うん。… 落ち着いた?」


 「うん…ありが……と…ぅ……すうすう…。」


 「寝ちゃったか。」


 八雲さんが俺にぎゅっと抱きつきながら心地良い寝息をたてて眠ってしまった。


 さっきと立場が逆転してるけどまあ…良いか。

 八雲さん、あんな事思ってたのかあ…別に気にしないで良いのにな…でもこれからは少しずつ家事教えてあげよう…。


 それにしても…八雲さんが敬語使ってないとこ初めて見た…めちゃくちゃ…かわいいな…


 すう……


 抱きつく八雲さんのポカポカする体温が気持ち良く、俺もいつの間にか寝てしまった。


 ——————


 「お兄ちゃん!紫央しおくんに聞いたけど熱出たって…………!」


 学校で兄が熱を出て八雲さんと休んでいると紫央から聞き、急いで帰ってきたら翠。

 慌てて部屋の扉を開けると……。


 「っと…静かにしないとね。これなら安心安心……。今日の夜は私が何か作ろうかなあ…でも私、何にも作れないし…あ、桜呼んで一緒に作るのもアリかも…。」


 そう言って翠はそおっと扉を閉める。


 彼女が見た光景は……湊と八雲が二人で一緒に気持ち良さそうに眠る姿だったのだ。


 


 


 

 ☆☆あとがき☆☆

 本日もありがとうございます!

 良ければブクマや☆☆☆評価ぜひ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る