第14話 実は義妹の寝相がヤバい

  無事に風呂を終えた俺たちは早めに寝ようと思っていたが、当初の目的である八雲やくもさんの寝具を買い忘れていることに気づいた。


 「ならまた私のベッドで寝ようよ!」


 との事なので諸々はネットでポチり、とどくまでの間はすいのベッドでまた寝てもらう事に。


 「はい!喜んで!」


 八雲さん本人も嬉しそうなので良かったけど…二人で寝る方が良いなら買わなくても良かったかな…?

 いや、何かの時とかでも使えるからあるにこしたことないか。


 ひと段落したところで俺たちは夜の10時ごろ、早めに寝る事にした。

 今日は疲れたからすぐ寝れそうだ……。


 ——————


 ガチャ


 翠の部屋の扉が開き、パジャマ姿の八雲さんが出てきた。

 時計を見れば今はもう昼前11時。

 かなりぐっすり寝れたようだ。


 「おはよぅごじゃいまぁす…みにゃとくん…。」


 寝起きで舌ったらずになっている八雲さん。


 「おはよう。よく寝れた?」


 「はい…。本当はもう少し前に起きたのですが…翠ちゃんに抱きつかれてしまい…あったかくて…気持ち良くて…寝ちゃいました。」


 「はは。あいつは朝苦手だからいつも休みの日は昼ぐらいまで起きてこないよ。」


 「みなとくんは朝早いですね……んー…?すごく美味しそうな匂いがします…。」


 眠たそうな目を擦りながらすんすんと匂いを嗅ぐ八雲さん。小さい子供みたいで可愛い。


 「もう時間も時間だし朝と昼兼ねてご飯作っといたんだ。翠を起こしたら食べよっか。」


 俺は少し早めに起きてご飯を作っていた。平日、翠の弁当やら朝ごはんを作ったりやらで早く起きる癖がついてしまい、たとえ休日だろうが早く目が覚めてしまう。


 「…湊くんには本当に頭が上がりません…。じゃあ翠ちゃんを起こしに行って来ますね。」


 「あ、俺も行くよ。休みの日のアイツを起こすのは大変だぞ〜。」


 「ふふっ。そんなにですか?」


 「そんなになんだよねぇ。」


 二人で部屋に入り、翠を起こしに行く。


 ——————


 早速目に入ったのは布団にくるまって気持ち良さそうにスヤスヤと眠る翠の姿。


 「おーい。もう11時だぞー。飯の準備出来てるから起きろー。」


 「翠ちゃーん…?そろそろ起きませんかあ?」


 二人で揺さぶってもピクともしない。


 「休日の翠ちゃん…手強いですね…。」


 ここまでとは思っていなかったらしく、驚いたようだ。


 「だろ…。起こすのだけで骨が折れるんだよなあ。」


 「もう少し頑張ってみましょうか…。」


 「ありがと八雲さん。」


 しばらく体をゆすったり声をかけたり二人であれやこれやしているとついに布団がもぞもぞと動き出した。


 「んん…。」


 翠の声も聞こえてくる。


 「湊くん…!やりましたね…!」


 「いや…本当の戦いはここか…………」


 突然、ゆするためにベッドに置いていた手を掴まれ俺たち二人とも引っ張られてベッドにドサっと倒れてしまった。


 「み、湊くん…?これは?」


 翠の横に倒れた俺と八雲さん。


 「翠は…寝ぼけてるとこうなるっていうか…。」


 「おにぃちゃん…。」


 寝ぼけまなこを半分開けて俺を見つめる翠。

 いつの間にか翠の腕は首へと回され、ガッチリとロックされていた。


 「おい、早く起きないとご飯冷め………」


 「おにぃちゃん好きーーーっ♡」


 「ごふっ…」


 勢いよく胸元に飛び込んできたので衝撃で体に大ダメージが入る。痛え…。


 「翠、早く起きろって。八雲さんも待ってるぞ。」


 「おにぃちゃん…おにぃちゃん…。」


 問いかけむなしく、まるで猫のように顔をスリスリと俺の体に擦り付けてくる。


 「み、みな…湊くん…?これは一体…?」


 同じくベッドに倒れていた八雲さんがほんのりと頬を染め、目を見開きながら聞いてきた。


 「あーっと…。翠は10時間以上寝るとその…起きた時に''プチ幼児退行''するんだよね…。」


 「よ…幼児退行…?」


 「ごめん…言い忘れてた。」


 驚くのも無理はない…。

 この状態の翠の精神年齢は元の16歳から一気に下がって9〜10歳程度のものとなる。

 昔からそうだったがこの体質、日に日に過激になっていってるような気がするんだよな…。


 じーっ……


 トロンとした顔で八雲さんを見つめる翠。


 「す、翠ちゃん…?」


 どうやら…見つかってしまったようだ。


 「おねぇちゃーんっ!すき♡」


 「きゃっ…!?すいっ…ちゃぁん…!」


 今度は俺から八雲さんめがけて抱きつき、押し倒した。


 「…ごめん八雲さん。」


 この''幼児退行''は翠が大切に思っている人にしか発動しないらしく、八雲さんの事も大切に思っていてくれてるのが嬉しい反面、厄介ごとが増えてしまった気もする…。実に複雑だ。


 ——————


 結局…。

 俺たちがご飯を食べる事になったのは2時間後の1時だった。






 ☆☆あとがき☆☆

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