第12話 八雲さんと翠とみんなでお風呂…?

 あれから寿司屋を出て、服を買うという用事は済んだので紫央しおとクロエもそのまま交え、一緒に遊ぶことにした。


 ゲーセンに行ってクレーンゲームや最近見かけるようになったバスケのやつとかを色々やったり。


 八雲やくもさんは文部両道なのでスポーツも華麗にこなすことができ、俺なんかよりもバンバンゴールを決めていた。

 その姿は実に見事でバスケ部にも引けを取らないシュートだ。


 動くのでおろしていた髪を縛りポニーテールにしているのを見て不覚にもいつもと違うスポーティな八雲さんに少しドキッとしてしまったのは話さないでおこう。恥ずい。


 あとは雑貨の店を見て回ったり本屋に寄ったりしていれば時間はあっという間に過ぎていき、夜の七時ごろ俺たちは解散することにして現在夜の8時頃、ようやく家に着いたところだ。


 「っふー…。疲れたあー。」


 今日一日いつもよりかなり歩いたせいかどっと疲れが押し寄せる。


 「はいぃ…。ですがすごく楽しかったです。みなとくん、今日はありがとうございますね。」


 流石の八雲さんも疲れたのか部屋に入るや否やクレーンゲームで取ったくまのぬいぐるみと共にソファへとダイブした。


 「おねえちゃんそのぬいぐるみかわいいね。」


 すいが八雲さんの寝転ぶソファに腰掛けて言った。


 「えへへ、かわいいですよねこれ。たまたま見かけてかわいかったので欲しかったんです。湊くんと協力して一緒に取りました。」


 「へえー、よく取れたね。すごいじゃんお兄ちゃん。」


 「ん?ああ。俺ゲーム好きだからそういうたぐいも得意なんだ。流石に一発では無理だけど。」


 「そうなんです。湊くん、あそこでバッとやってバッとしてすぐに取っちゃって……ふわぁ。」


 「今日はみんな早く寝よう。明日休みだから一日休めるしさ。二人とも風呂入って来なよ。」


 八雲さんがあくびをしたのを見て言う。

 ちなみにかわいらしいあくびだった。


 「そだね。そうしよおねえちゃん。」


 「むにゃ…そうですね。あ、湊くんも一緒に入りませんか?三人で入った方が一度で済んで楽ですし、今日お世話になった分、お体流させてください。」


 「…え?」


 「それいいじゃん。ちゃちゃっとみんなで入った方が効率良いよ。そゆことでお兄ちゃんも一緒に入ろー。」


 「い、いや俺は後でも良いよ。二人で入ってこいって。それに三人同時に行ったら流石に風呂狭いだろ。」


 何やら八雲さんの提案によって流れが変わってきたぞ…。


 「なら私とおねえちゃんが先に入って、私が湯船に入ってる時にお兄ちゃんが来れば良いんだよ。そうすれば狭くないでしょ?」


 「いやまあ、そうだけどそうじゃないっていうか…そこじゃないっていうか…。」


 「湊くん…。」


 ソファから身を乗り出して俺の近くまで寄る八雲さん。

 突然俺の服の裾をきゅっと掴んで見つめてきた。


 「…私に体を流されるのは…嫌、ですか…?」


 「っ…!」


 場所的に椅子に座ってる俺の方が上。

 つまり八雲さんは下から俺を見上げる姿勢、すなわち必殺奥義「上目遣い」を発動する条件が満たされ、今その猛威をふるったのだ。


 少し眉を下げて残念そうに、だがまだ望みは捨てていないかのような''お願い''の意が込められた可愛らしい表情。これは…反則だって。


 「…わかった。それで良いよ。」


 「本当ですか!翠ちゃん、それじゃあ私たちは先に入りましょ!」


 「うん!ふっふっふ。八雲おねえちゃんの可愛さに負けたなぁ?おにーちゃーん?」


 「…うるさいなあ。」


 「ははっ。んじゃあ私湯船に入ったら教えるねっ!そしたらちゃんと来てよぉ?」


 「分かってますとも。」


 「よろしい。いこっ!おねえーちゃん!」


 そう言うと二人は楽しそうに風呂場へと向かっていった。


 一人リビングに残された俺。


 「…どうしてこうなった…。」


 翠とは小さい頃に何度も入ってる。

 八雲さんとも前に一緒に風呂に入っていた時があったが…あの時俺は服着てたし洗ってあげるという明確な目的があった。

 しかし今回は…俺の体を流すって言ってたから俺も脱ぐんだよ…な…?

 もしかしたら今からが一番…疲れるかもしれない…。


 —————


 「お兄ちゃーん!入って来て良いよー!」


 風呂場から翠の声が響いて来た。


 「はーい!今行くぞー!」


 リビングからだから聞こえないとあれなので大きめの声で答える。

 さて…ついに訪れたかこの時が…。


 重い足取りで風呂場へと向かう。


 「ふんっふふーん♪」


 「ふふふーん♪」


 風呂の中からは二人が最近流行りの曲を一緒に口ずさんでいる声が聞こえてくる。

 翠は湯船に入っているはずだから…風呂の明かりでうっすらと八雲さんのシルエットが…。


 「無心だ…俺は修行僧となるのだ…。」


 服を脱いでる間、二人の歌に負けじと「諸行無常の響きあり…沙羅双樹の花の色…。」と平家物語を心の中で熱唱しておく。


 「よし…。いける、俺は無敵だ…!」


 心が一応落ち着き、冷静になる。

 俺ならやれる…さっと入ってさっと出るんだ…!

 

 衣服を全て脱ぎ、コンコンと扉をノックしてそおっと風呂の中へと入った。

 今俺を隔てるものは何もない……!


 「あ、お兄ちゃんやっときた。ぷふっ…。タオルなんかしちゃって今更恥ずかしいの?」


 翠がバスタブの中から上半身を出して俺を見てきた。


 「…あ、当たり前だろうが。」


 ''盛者必衰の理をあらわす''…。


 無敵だとかほざいていたが中に入った途端に目に入ってきた八雲さんの姿…。


 泡立てるスポンジを使って体を洗ってたので、泡により体のところどころが隠れているのがなんとも…官能的だ。

 白くて綺麗な背中と椅子に座っていたのでかわいいおし……が見えてしまい既に俺のライフは0を迎えようとしていた。


 「あ、待っててくださいね。今流すので終わったら湊くん、ここに座ってください!」


 俺に気づいた八雲さんがシャワーでザーっと体を流し始めたので急いで目を逸らす。

 その瞬間を翠に見られてしまい、にやあっと見つめられた。


 「なーに恥ずかしがってんの?」


 「う、うるさないなあ…しょうがないだろうが。」


 「湊くん、終わりましたのでどうぞ座って下さい!」


 「は、ははは、はい!」


 体を流し終えた八雲さんが立ち上がったので大慌てで見ないようにして椅子に座った。

 そういやこの椅子…八雲さんが座ってた直後だったから人肌の温もりを…って変な事考えるな!


 「それじゃあ体、洗っていきますね。」


 「…え?背中を流すだけじゃあ…?」


 「それだと足りないかなと思ったので体も洗って差し上げることにしたんです!じゃあ泡、つけていきますね!」


 了解の返事をする前に八雲さんはさっきまで自分が使っていた泡立てスポンジにボディソープをつけて俺の体をごしごしと洗い始めてしまった。


 俺の装備はうっすいタオル一枚…これ生き残れるのか…?


 「まずは背中を洗って…。」


 ごしごしと背中を洗ってくれる八雲さん。

 あれ…これ意外と気持ちいいかも…。


 「じゃあ次は首周りと胸を洗いますねー。」


 そう言って立ち上がり、前屈みになって俺の胴を洗おうとし始めたその時…。


 ちょんっ


 (…!!ちょ、ちょいちょいちょいちょいちょい!!!」


 ふにっと何か柔らかいものが背中に押しつけられる感触が伝わってくる。

 立ち上がり腕を俺の体の前に回している八雲さんの体勢を考えてこれは……マズイ。


 「よっし!背中と胸は洗えたので次は…」


 さらにマズイ…。

 八雲さんが俺のタオルをじっと見てくる。


 「や、八雲…さん?」


 「湊くん…。」


 尚も視線を外さない。


 「それじゃあタオル取って下も洗っちゃいましょ!」


 「ぎゃー!!!」


 俺は目にも止まらないスピードで命をかけて体を洗い、速攻で翠を押し退けて湯船にドボンした。


 「あっ!自分で洗っちゃったんですか!?私が洗ってあげますのに!」


 「い、いえ…体は自分で洗いたいって言うか…その…じゃあ後で髪の方を洗って頂けると嬉しい、かな…?」


 「なるほど…髪ですね!わかりました!それじゃ私が髪を洗う間湯に浸かってあったまっててくださいっ。」


 「は、はひ…。」


 ふう…ひとまずは命が長らえた…。


 「ぷふっ…ぷふふ…。」


 「おい…何笑ってんだお前…。」


 隣で笑いを必死で堪えようとしている義妹を睨む。


 「だ、だって…さっきのお兄ちゃんの必死さ…おもしろすぎてぇ…。ぷふっ…!あはは!」


 「このやろう…!」


 しかし生き延びたと言ってもまだ戦いは始まったばかり…。

 八雲さんが満足してくれたらさっさと出よう…。

 

 



 ☆☆あとがき☆☆

 12話もありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

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