第11話 八雲さんと寿司屋とあ〜ん

 ヴヴッ


 歩いている最中、スマホに通知が来る。

 パーカーのポケットからスマホを取り出して見てみるとすいからメッセージが来ていた。


 『お兄ちゃん…怒ってたらごめんなんだけど、おねえちゃんのことごめんね…?完全に忘れてた。大丈夫だった?』


 内容は八雲やくもさんのことで、きっと自分がいないと服を選べないと言うことを忘れていたのだろう。

 だが、結果オーライだし本人も喜んでるから全く気にしていない。


 『大丈夫。いつも任せてすまんな。さくらちゃんと楽しんでこいよ。』


 と返信しておく。

 するとすぐに翠からも返事が返ってきた。


 『ありがとう。お昼は桜と食べて来ても良い?』


 『全然良いぞ。つか俺たちも昼食べてなかったわ。』


 『おそっ。それじゃあまた後でね。』


 『おう。』


 そうか、もう昼だったのかあ。

 スマホの時計を見ると時刻は既に昼の2時。

 服屋を回ってたらこんな時間になっていた。


 「みんな、もう昼だしどっか食べに行かね?」


 とりあえず前を歩いていた紫央しおとクロエ、隣にいる八雲さんに聞いとく。


 「え?そのつもりで歩いてたぞ俺。」


 「あ、そうだったのか。」


 「どこ行くどこ行く〜?」


 「うーん…。四人いるし寿司とかで良いんじゃね?」


 「八雲さん、寿司食べれる?」


 「はい!大丈夫です!」


 「よし、じゃあそうしよう。」


 紫央の提案に賛成し、俺たちは一階の飲食店が並ぶエリアにある回転寿司屋「魚魚角ととかく」へと向かった。


 ——————


 「わあー!すごいです!お寿司が回ってますよ!」


 店に入るや否や店内で回っている寿司を見てテンションが上がる八雲さん。


 「はは。今どき回転寿司でこんな新鮮な反応出来んのは八雲さんだけかもなー。」


 思わず紫央も笑っていた。


 「お寿司を食べにきたの初めてなのですごく楽しみですっ!」


 楽しそうな八雲さんを眺めながらも先に店員さんに人数を伝えて席を取っておいたので俺たちは伝票に書かれた21番の席へと進む。


 店は昼のピークを過ぎた時間帯だったので空きがあったから助かった。


 「おお…。たくさんあるんですねえ…。」


 俺と八雲さんが隣、紫央とクロエが向かい側のテーブル席に着いて、タッチパネルを見る。


 既に八雲さんの前には流れて来た寿司を紫央に取ってもらい、ニ皿置いてある。


 「いっぱいあるのでせっかくですし色んな種類を食べたいですね…。」


 タッチパネルと睨めっこしながら取ってもらったマグロを頬張り、うーんと悩んでいた。


 「八雲さん、こんないっぱい食べれんの?」


 「二貫全部食べるのは厳しそうですね……あ!」


 「ん?」


 自分の皿にあったマグロを一貫箸で取って俺の顔の前に持ってきた。


 「良いこと思いつきました!みなとくん、シェアして一緒に食べましょ!こうすれば二人でたくさんのメニューが食べれますよ!」


 「いっ、良いけど自分で食べれるから置いといていいよ?」


 「いえ!日頃お手伝いしてもらっていますので今は私がお手伝いします!遠慮なさらずどうぞ!」


 そう言いながら顔をキラキラさせ俺に寿司を食べさせようとする八雲さん。

 なんか、すごいやる気だし多分本気なんだろうなあ…。

 善意でやってくれてることだからそれを無下にするなんて……


 再び顔をチラと見る。


 「湊くん、どうぞ?」


 八雲さんの輝くような笑顔が降り注ぐ。


 (できない…!)


 「い、いただきます!」


 差し出された寿司をパクッと食べた。

 恥ずかしすぎてで味はよくわからなかったが、これ…俗に言う「あ〜ん」なのでは…?


 そういえば…と思い向かい側に座っていた紫央とクロエを見る。


 「…なんだよその顔は。」


 二人はまるで孫が遊んでる様子を見守るおじいちゃんおばあちゃんのような表情で俺たちを見て微笑んでいた。


 「いやあ、なんか初々しくてなあ。」


 「同感同感〜。応援したくなっちゃうよねぇ。」


 紫央とクロエがうんうんと頷きながら言う。


 「あのなあ…俺と八雲さんは別にそんなんじゃ……」


 「湊くん!これ美味しそうじゃないですか?」


 ふんわりと甘いシャンプーの香りと共にタッチパネルを指差してピッタリとくっついてきた八雲さん。


 「う、うん!食べようか。」


 「はい!えっと…どうやって注文するんでしたっけ。」


 「あ、これはここをこうして…」


 「おお…!なるほど…!」


 ——————


 湊と八雲のやり取りを眺める紫央とクロエ。


 「ははは。あいつのあんな顔初めて見た。」


 注文して届いた寿司を八雲が湊に食べさせている光景を見ながら言う。

 湊は顔を少し赤らめて躊躇いつつも、あたふたしながら食べている。


 「ん〜…。美味しいですねっ!」


 「だね!あ、これとか八雲さん好きそうだけど頼む?」


 「はい!お願いしますっ!」


 八雲さんと一緒に食べている湊の顔は楽しそうで、学校では見ることのできないぐらいの笑顔だった。

 

 「ね〜。湊っていっつもなにか考えてるっていうか無表情だったもんね。それに比べて今は…ぷぷっ…。」


 「な、八雲さんには感謝しねえと。」


 ——————


 「…おい。お前らも見てないで食べろよ。」


 流石に見られっぱなしだと恥ずかしすぎるので声をかける。


 「湊が楽しそうで俺ぁなによりだ。」


 「お前は俺の親か。」


 「そうだぞ?親目線で見てるから。」


 「あの湊がこんなにかんわいい子連れて来て…クロエお母さんは嬉しいよいよい…。」


 「…変なこと言ってないで食べろよバカップル。」


 「バカップルとは失礼だなー。なぁクロエ。」


 「そうだよー。ね、紫央くん♡」


 紫央のやつめ…。普段はあんなにクロエの愚痴言っときやがってこゆ時だけは団結力高くしやがる…。


 しかしまあ…何はともあれ今日は色々と世話になったし許してやるかあ…。


 こうして俺は八雲さんが満足するまで一緒に寿司を食べたのだった。


 楽しそうなのは何よりだが…食べさせてもらうのは恥ずかしいなあ……。



 


 

 ☆☆あとがき☆☆

 本日もありがとうございます!

 引き続きよろしくお願いします!


 


 


 

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