第10話 八雲さん…実は…
俺たちはクロエが決めた二店舗目の店、「ヘイフロー」っていうとこにみんなで向かっていた。
服の店なんて「クロクロ」とかで事足りるから正直「ニオン」の中にある色んな店なんて全く知らなかったから何が何だかさっぱりだ。
「あれ?
すると歩いている最中に義妹の翠を呼ぶ声が聞こえた。
「んおー、誰だ?」
「桜だよ!桜!」
「ぷっ…はは!分かってるよ。冗談。」
「またからかっなあ!もおー。」
そう言ってやって来たのは翠の同級生である
「
「桜ちゃん、来てたんだね。」
「たまたまですよう。」
俺たちがこっちにっていうか同じ市内だったからあれだけど越してくる前から翠と仲が良くて顔馴染みだったので桜ちゃんからはおにいちゃんと呼ばれている。
ストリート系のファッションの翠に比べて桜ちゃんは少し大きめのカーディガンと膝ぐらいまでのチェックが入ったスカートをピンクに揃えた女の子らしい格好をしていてとても可愛い。
桜ちゃん自身も綺麗な顔立ちをしていてクロエまでとはいかいながほんのり桃色の長めな髪をふんわりとなびかせている。
ふにゃりとした優しそうな笑顔が特徴的だ。
「お兄ちゃん、せっかくだし私ちょっと桜と回って来ても良いかな?帰る時連絡するから。」
「おう。いいぞ。」
「え、いいの?翠ちゃんみんなと一緒にいなくて。」
「お前が気にしてどうするんだよ〜。さっ行こっ!」
翠が桜の手を取って早く行こうとせがんでいる。
「翠ちゃんがそう言うなら良いけど…湊おにいちゃん、じゃあちょっとの間だけ翠ちゃん借りるね。」
「うん。気をつけて行って来なよ。」
「はーい!」
二人は一緒に並んで歩いて行き、人混みの中へと消えて行った。昔から仲が良くて何よりだ。
「あーあ。あんな可愛い子二人に''おにいちゃん''って呼んでもらえるなんてお前はなんちゅう幸せもんだよ。」
一連の流れを見ていた
「じゃ〜あ、クロエが''紫央おにいちゃん''って呼んであげよっかぁ?」
「ううう…一瞬寒気が…。」
「ええ?どうしたの?クロエがあっためてあげる!」
「…無敵かお前は。」
二人のしょうもないやり取りを尻目に隣にいた
「八雲さん?どした?」
「あ、いえ!なんでも…なんでもありません…!」
「?」
俺が声をかけるとビクッとしてめっちゃ驚くもんだからますます分からなくなる。
「お、お店着いたよーみんな!」
クロエが全員に声をかけ、俺たちは店の中へと入る。
白と木の茶色で飾られた店内はいかにもオシャレで少々俺だけ場違い感があって居心地が悪ぃ…。
「じゃあさっきといっしょでいっか。また15分ぐらいで試着室集合しよ!終わったら紫央くんに連絡するからそれまでは解散!」
「は、は…い。」
さっきまではあんなに気合いが入っていた八雲さんがすごく焦ってるっていうか心配しているような暗い顔をしてるのがすげえ心配だけど…本当にどうしたんだろう?
まあ、俺は八雲さんの次の服を楽しみにしていよう。
——————
「お、連絡きた。そんじゃあ行くか。」
紫央のスマホから通知が鳴ったので俺たちは試着室に向かう事に。
「やっぱり八雲さんってめちゃくちゃ良い人だな。優しいし、話してみれば案外気が合うしさ、みんなが好きなの分かった気がするわ。」
紫央が歩きながら話しかける。
「だなあ。俺も今までは全く接点がなかったからなんか別次元?とかの人なんだなとか思ってたけどここ最近一緒に過ごしてみると結構俺たちと一緒っぽくて安心してるよ。
「お前、ついに素で惚気るようになってきたな。いつでもボロ吐いてくれて良いからな。」
「…聞かなかったことにしてくれ。」
うっかりしてた…。八雲さんと一緒にいる事がもはや日常となっていたため、自然と口から出て来てしまったのだ。そう考えると俺たちって一体どう言う関係なんだろうな…?
「おーい。着いたぞー。」
「はーい!」
試着室の前で呼びかけると先に出て来たのはやはりクロエだ。
「じゃじゃあ〜ん!どうどう?」
今回はフリルのついたブラウスにワイドパンツを合わせたカジュアルなファッション。黒のブランドバッグを提げる事で大人っぽい雰囲気を出している。(クロエ談)
俺から見てもスラリとした彼女のスタイルの良さが浮き出ていて、とても似合っていると思う。普段からこういう服着りゃ良いのに…。
「おおー。良いじゃん。似合ってるぞ。つかお前、普段からそういうの着れば多少印象マシになるのに。」
「ええ?そお?」
やっぱり紫央も同じ事思ってた。
「そうだよ。んじゃあ次八雲さんか。楽しみだなあ〜湊。」
「だな。八雲さん、大丈夫?」
クロエの隣の部屋に呼びかけると中からドサっと物が落ちる音が響いた。
「だっ…大丈夫です!今い、行きます!」
「そ、そんな慌てなくても大丈夫だよ。」
と呼びかけてももう遅かった。
シャーっとカーテンが勢いよく開かれて、中から八雲さんが出て来た。
「みっみみ、湊くん!ど、どうです、か!」
「や、八雲…さん?」
「ふっ…ふふふ…きゃ、きゃわいい…!八雲ちゃん!」
「な、ならどうして笑ってるんですかあ…!」
クロエが八雲さんを見て微笑んだ理由、それは彼女の服装にあった。
八雲さんの体型にはドデカすぎるジッパーのついた上着に、これまたダッボダボなズボンが青色で統一されていた。
俺はこれをどこかで見た事がある…。
そうだ、農業高校に進学した友達が送ってくれた作業服のようなものそのものなのだ…。
「も、もう殺してください…!恥ずかしくて死んじゃいそうですぅ…。」
「まあまあ、八雲さん。まだ湊の感想聞いてないだろ?」
紫央が八雲さんの肩を優しくポンっと叩いて俺の方を向いて行った。
「…湊くん…正直に言ってくれて良いんですよ…?」
「八雲さん。」
「はっ…はい。」
八雲さんがごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。それほど緊張しているのだろう。
「正直に言うと…めちゃくちゃ可愛い。そのダボっとしてるのがかわいくて…なんと言うか、頭を撫でてあげたくなる。」
これは本音だ。さっきはあんな事思ってたが俺は実のところ八雲さんが何着ててもかわいいと思うので本人が気にしていようが関係ない。
「だってさ、ちなみに俺も可愛いと思うよ。今はそう言うファッションだってあるし。」
紫央が自然にフォローを入れてくれたので俺の意見がお世辞じゃないという信憑性が増す。
「そう、ですか…。」
八雲さんが呟いてトボトボと俺の元へ歩いてくる。」
「八雲さん?」
「じゃ、じゃあ…頭、撫でてくだ…さい。」
近くまで来たと思ったら頭を下げて俺の胸にポスッと押し付けてくる。
その一連の動作にいつも以上に彼女を甘やかしてあげたい気持ちが高まった。
「よ、よしよし…。」
そおっと頭を優しく撫でると、八雲さんは小さな声で話し始めた。
「その…さっきは翠ちゃんに服を選んでもらったんです…本当は私、全然ファッションの事とか分かんなくて…。だから…ごめんなさい…。湊くんに満足いける服を見せてあげれなくて…。」
なるほど…そう言う事だったのか。だが服の脱ぎ方も分かっていなかった八雲さんがファッションについて知らなくても無理はない。
「八雲さん、心配しなくて良いって。さっきも言ったけどすごい可愛いし、それに実は考えがあるんだ。」
「…考え?」
俺はその考えを八雲さんに伝えると、ある場所へと向かった。
——————
「ここ…ですけど、どうしてですか?」
「えーっと…あ、この辺が八雲さんに合いそうなサイズだな。んで八雲さんが持ってたやつを俺が着れば…。」
「おお、湊、頭良いじゃん。」
紫央が俺に声をかけた。
「さっき八雲さんが着てたやつ、俺のサイズに合ってたからさ。少し小さめのサイズのやつ買って一緒に着ようよ。」
そう、俺の考えとは先ほどクロエが言っていたペアルックを聞いて思いついたものだ。
「…良いんですか…?」
「何言ってんの。八雲さんが俺のために頑張って選んでくれた初めての服なんだから。一緒に着ようぜ。」
「……湊くん!」
「うわわっ、ちょっ、急にどうしたの。」
突然八雲さんが俺に抱きついてきたので驚く反面、ドキドキしてしまう。
「…ありがとうございます!」
「うん!」
彼女も喜んでくれてそうだし成功して良かったあ。
「それじゃ俺これ買ってくるから八雲さん、先に外出てて良いよ。」
「あ、じゃあクロエも買ってくるから紫央くんたちは外で待ってていいよっ。」
「あれ、良いの?クロエ。」
珍しいものを見るような目でクロエを見る紫央。彼女が自分と離れるのがそれほど驚きのようだ。
「紫央くんと離れるのは寂しいけどぉ…あわよくば湊にちょっと出してもらおっかなって♡」
「そりゃ良い。出してもらってこいよ。じゃあ俺たちは先に外出てよ八雲さん。」
「ありがとうございます…。よろしくお願いしますね湊くん。」
「うん。すぐ行くから。」
そう言ってひとまず俺たちは分かれてレジへと向かう。
「やるじゃんっみなとっ!」
「いてっ。なんだよ。」
クロエが急に腹を小突いてきた。
「さっきのはかっこよかったよ。やれば出来るんじゃんっ。」
「…さっき?っていつだよ。おだてても金は出さないぞ。」
「えー、クロエかなしい〜出してよぉ〜。」
「むーりーでーすー。」
何はともあれ無事一件落着して良かった。
だがペアルックは…恥ずかしくて着れるか怪しいなあ…。まあ八雲さんの組み合わせがアレだっただけで単体だと普通にオシャレな上着だしいけるか…。
——————
「あ…。」
「?どうしたの翠ちゃん。」
桜と一緒に雑貨屋を見ていた翠。何か思い出したかのように声を漏らした。
「ま、まあ…お兄ちゃんならなんとかしてくれるか…。」
もし怒ってたら…今日だけは素直に謝ろうと思ったのだった。
☆☆あとがき☆☆
お読みいただきありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします!
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