第8話 八雲さんvsクロエ…?

 「あれ?もしかしてあそこにいんのみなとか?」


 「えー…紫央しおくん、クロエと二人でいようよ。」


 「…なんでお前俺が湊のところに行くって分かったんだ?」


 「へっへーん。紫央くんのことならなんでも分かるのが私で〜す!てことで二人でいよ♡」


 「おーい!湊!」


 「…もー!」


 ——————


 すいと二人で八雲やくもさんに着せたVネックのセーターを鑑賞していたら聞き覚えのある声に呼ばれた気がしたので後ろを振り返る。


 「おー!紫央じゃん。お前も来てたんだ。」


 「おう。…つかお前、両手に華じゃねえか。うらやましい。」


 「彼女連れてるお前に言われたくねえよ。しかも翠は妹だし。」


 「二人でこそこそ何話してんのー?」


 「良い彼女だなって紫央に言ってたところだよ。久しぶりクロエ。」


 「ならよし。おひさっ湊。」


 やってきたのは俺の親友、青山あおやま紫央とその彼女犬咲けんさきクロエだ。

 前の時はふざけてさん付けでからかってたが実は紫央と会うと最近はセットでついてくるのでいつの間にか仲良くなってた。

 話してみると意外と面白いし意見も合う。


 ——————


 「む…すいちゃん…。あの方たちは?」


 湊が二人の元へ行ってしまったのを見て八雲が翠に尋ねた。


 「え?ああ、あの二人はお兄ちゃんの友達だよ。紫央くんとクロエさん。」


 「友達…ですか。」


 「どしたのおねえちゃん?」


 さっきまでは機嫌がすごく良さそうで楽しげだった八雲が突然、二人が来た途端表情が曇っているのに驚いてしまった翠。


 「い、いえ。なんでもありません。」


 ——————


 (…?何話してんだ?)


 少し離れたところから八雲さんと翠が話す声が聞こえてきた。こっちくれば良いのにどうしたんだろ。


 「今日は三人で買い物?」


 紫央が聞いてきた。


 「そうそう。服とかをな。そっちも?」


 「まあ、そうっちゃそうだなあ。俺は半分無理やりだけど。」


 「紫央くん!こんなに可愛い彼女がいるのに贅沢だよ!ぷんぷん!」


 クロエはそう言うとその場でくるりんと回って紫央の腕を自分の腕で絡めた。

 紫央はすんとしてるが道ゆく人々はクロエに視線を奪われて少々うっとりしている。


 それもそのはず。クロエはストーカー気質なところがなければ、ルックスだけならとんでもないほどの美少女なのだ。

 八雲さんに匹敵するとは俺の視点からはまず言えないが見る人が見ればクロエが勝つ可能性だってあるぐらいにはな。


 彼女の服装は白色のフリフリなフリルがついた服に黒色のスカート。

 ぱっちりとした二重の目に派手なピンク色の髪をツインテールにし、大きな黒いリボンを付けている。

 太ももはがっつり露出しておりガーターベルトが所々にあった。そして厚底の靴で多少身長を詐称してるのもバレバレだ。

 地雷感は否めないがかなり目立ってる。


 「ほらあ湊も言ってやってよ。クロエ可愛いでしょ?」


 「まあ、可愛いな。」


 話題を振られたから嘘つく意味もないし素直に答えた。

 すると紫央が何言っちゃってんだお前と言う目で俺を見つめてきてため息をついた。


 「あーあ。お前やっちまったな。」


 「え?」


 ぎゅっ…


 いつの間にか俺の腕を八雲さんがぎゅっと握っていた。

 かなり体が密着されていて腕に当たる柔らかい感触も全て伝わってくる。

 そして…少しだけ彼女は震えていた。


 「や、八雲さん…?どしたの?」


 なぜか八雲さんの顔は少し曇っていて膨れっ面だった。


 「…湊くんが私以外の人に…可愛いって言うの…なんか嫌です…。」


 「…え?」


 掴んだ腕の中に顔を埋めて消えるような声で呟いた。


 「…それってどういう……」


 「えー!君ってもしかして白華しろはな八雲ちゃん!?うそー!学校のアイドルじゃん!湊と仲良かったの?」


 クロエが会話を遮って入ってきやがった。

 八雲さんの顔を覗いている。


 「こんにちは…白華八雲です…。」


 「こんにちは!私犬咲クロエだよ!クロエって呼んでね!」


 「クロエ…空気を読め、空気を。」


 紫央がはあとため息をついてクロエの腕を掴んで自分の元に連れてきた。


 「やだ紫央くん積極的だなあ…」


 「アホ。お前のせいであっちは修羅場だぞ。」


 「ほえ?」


 未だ八雲さんは俺の腕を離さずにいる。

 ぎゅーっと握りしめて、顔が少しだけ怒り気味というか、拗ねてるというか…。


 「ほらな?」


 「…あちゃー。」


 空気が悪くなってしまった事に紫央とクロエは額に冷や汗を浮かべてどうにかしようと必死に策を考えていた。


 「そうだ!せっかく私と八雲ちゃんがいるんだからみんなでプチファッションショーみたいなことしようよ!」


 突然クロエがぱっと顔を輝かせて言う。


 「ファッション、ショー?」


 急に何言ってんだ…?

 しかし八雲さんもなぜか顔を上げて興味があるかのような反応を示している。ええ…?


 「そう!湊も八雲ちゃんの可愛いとこ見たいでしょ?」


 「いや、俺たちは最初からそれが目的だったけど。」


 「お、それいいね。俺もあのスーパー美人な白華さんの姿が見れるなんて最高じゃん。決まりだな。」


 紫央も賛成のようだ。いや、まあ元よりそうするつもりだったから異論はないけどさ。


 「ムカー!紫央くん、今のは問題発言だよ!私に可愛いなんて滅多に言ったことないのに八雲ちゃんにはなんでそんなさらって言ってんの!」


 「そりゃお前、男は刺激が欲しいんだよ。クロエとはほぼ一緒にいるからたまには目の保養をしても良いだろ。」


 「くう…これはファッションショーという名の戦いだよ…!八雲ちゃん…!」


 クロエが八雲さんの方を向いて言う。

 

 「八雲さん、クロエの冗談には別に付き合わなくても良いんだぞ?」


 「おーいそこ。変なこと吹き込むなあ。」


 「私は…。」


 するとチラチラと俺とクロエを何度か見た後、八雲さんは再びクロエの方へと向き直った。


 「…やります。」


 「ほんとー!やったあー!それじゃ第一回戦はあそこのお店にしよう!」


 クロエが指差した先には赤い看板が目立つ店、「クロクロ」だ。

 ちなみに''クロス(布)クロージング(服)''の略なんだとか。


 「もう第一回戦とか言っちゃってるし…。まあおもしろそうだし行こうぜ湊。」


 「そうだよお兄ちゃん、それにクロエさんファッションセンスめちゃ良いから勉強になるよ。」


 なぜか翠もノリノリである。


 「ってみんな言ってるけどどうする?ほんとにやる?」


 腕にくっつく八雲さんに聞いてみる。


 「…もちろんです。ちゃんと見てて下さいよ湊くん。ちゃんとですよ…!」


 「え、ええ?分かってるよ。正直俺も八雲さんの色んな服装見るためにここ来てるし。」


 「湊くんが見てくれるなら満足です…。約束ですからね…!」


 「…おう。」


 赤くなったと思えばしおらしくなったり膨れっ面して拗ねてそうな顔したりだとか…今日の八雲さんはなんだか忙しそうで可愛いな…。


 「湊。」


 隣に紫央がそーっとやってきて小さな声で話しかけてきた。


 「なに?」


 「お前あんまり白華さんを困らせんなよ。見る感じ多分向こうもまだ分かってなさそうだしさ。ちゃんとフォローしたりしてやれ。」


 「…?なんの話だ?」


 「願わくばお前が自分から気づいてくれる事を祈ってるぜ。親友からの助言だ。」


 そう言い残し、前で話していた翠とクロエの元へと戻って行ってしまった。


 「…どゆこと…?」


 紫央の言動が不可解だがとりあえず俺たちは今いた店を出て、次の店へと向かうのだった。


 


 


 ☆☆あとがき☆☆


 おかげさまで1000pv超えました!

 みなさま、ありがとうございます!

 引き続きよろしくお願いします!

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