第7話 八雲さんの服、脱がせてあげよう

 「おお…人がいっぱいですね…!それにお店もたくさんあります!」


 「ささっ!おねえちゃん早速服見に行こうよ!」


 「はい!」


 あれから俺たちは電車に乗り、ここらじゃ一番大きいショッピングモール、「ニオン」にやってきた。

 流石、休日も相まって店の中はすごい数の人で賑わっている。


 電車に乗る時も八雲やくもさんはテンション高かったなあ…。

 切符を改札に入れる時ですら、


 「湊くん!切符を入れたら改札が開きました!それに中に入ってまた出てきましたし!」


 とこんな感じで初めての事に目をキラキラさせてはしゃいでた。

 そんな純粋さが彼女の良いところでありかわいいんだけどな。


 「ほら湊くん!早く行きましょっ!」


 先に行こうとしていた二人が俺の方を振り返ってきた。


 「うん!つかはしゃぎすぎだよ二人とも。」


 「だってこゆとこ来るの久々だもん。それにおねえちゃんもいるしね!」


 「はい!私も初めてが湊くんとすいちゃんとですっごく嬉しいです!」


 「っ…!じゃ、じゃあ行こっか!まずは服見るんだっけ?」


 危ない…。八雲さんはところ構わずこう言う発言をぶっ込んでくるから心臓に悪いなあ…。

 ただ、幸せそうに笑ってる八雲さんを見るだけでなんだか俺も幸せになる。


 —————


 「翠ちゃん、あのマークはなんでしょう?傘とか赤色と白で書いてある文字のところとか。」


 「あれはね、お店のマークだよ。ブランドって言ってそこオリジナルのものが売ってるんだ。」


 「……。」


 「なるほど…ってどうしました湊くん?そんな緊張した顔をして。」


 「あ、いや。なんでもないから大丈夫。」


 「?」


 うーん…先ほどからすごくチラチラと視線を感じる…。

 まあそれもそのはずか。なぜかこの二人は俺を真ん中にしてピッタリくっついて歩いてるからな…。

 

 翠の服装はなんて言ってたっけ…ああそう、紺色のブルゾンってブカブカな上着とジーパン。

 大きめの上着を羽織っているが下に履くジーパンがスタイルの良さを強調している。


 八雲さんは昨日見してくれたワンピース。

 やはりめちゃくちゃ似合っていて黒色のタイツが上手くマッチしている。


 こんな感じで二人とも道ゆく人が目を引く程の美少女な訳でそんな二人に挟まれてる俺はなんともいたたまれない。


 パーカー一枚と適当なズボン履いてきたけど恥ずかしいじゃないかこれじゃ…。


 「あ!あそこ入ってみようよ!」


 翠が指を指したのは紺色の背景に二文字の英語のロゴのお店、「CU」。


 「おお…!色んな服がありますね…。どれを着たら良いのか分かんなくなっちゃいます…。」


 お店の中をキョロキョロと見渡す八雲さん。

 そんな様子を見て翠がたたたっとどこかへ行ったと思ったらハンガーにかかった服を持ってきた。


 「じゃあこれ着てておねえちゃん!私他にも持ってくるからお兄ちゃんよろしく!」


 「え?マジ?」


 「え?マジ。」


 「マジかあ…。」


 「おねえちゃんの可愛い姿見たいでしょ?」


 「…見たい。」


 「じゃあ頑張れ。」


 そう言って翠は店の奥へと消えていった。


 俺、人生で人と、まして女の子とこうやってショッピングとか来た事ねえから何したら良いんだかさっぱりなんだが…。


 チラと八雲さんを見ると彼女も何したら良いんだろうという顔だった。

 そうだ、八雲さんも初めてだったんだ、俺たちは今から学んできゃ良いじゃないか。


 「八雲さん、あそこに試着室があるから試しにそれ着てみる?」


 「試しに着れるんですか?すごいですね…。ぜひ!」


 こうして俺たちは試着室へと向かう事に。

 奇跡的にも一つ空いていたのでそこを使う事にする。


 「それじゃ俺ここで待ってるから着たら教えて。」


 「はーい。すぐ着替えますねっ!」


 八雲さんは試着室のカーテンをシャッと閉めて着替えに取り掛かった……と思ったら…。


 「…どしたの、顔出して。」


 カーテンから顔だけだしてこちらを見てくる。その表情は何かを懇願するようだ。


 「…脱げませんし…着れません…忘れてました…。」


 「わっ!」


 八雲さんに腕を引っ張られてカーテンを抜けて試着室の中へと入ってしまった。


 中は二人入るには狭く、いつもより八雲さんを近くに感じて…緊張するし…ドキドキする。


 「湊くん…脱がして…くれませんか…?」


 「…!!」


 後ろは壁。逃げ場はない。

 それに顔を俺の目の前にまで持ってきているので距離が近くなり更に破壊力が増している気がするぞ…。

 しかし俺も男…ここまで言われて断るわけには…いかない…!


 「…分かった。じゃあボタン外すよ。」


 「!ありがとうございます!」


 スッと八雲さんの胸が俺の前に突き出された。多分本人は善意でやってくれてるんだろうけど…かなり逆効果だ…頼むから持ってくれ俺の理性…!


 「………。」


 外はかなり騒がしいはずなのに恐ろしいほど何も聞こえない。

 俺の耳に入ってくるのはボタンを外すプチプチという音、八雲さんが息をする音…衣擦れ、バクバク言ってる心臓のビート…。


 自分の心臓の音以外全てが心を揺さぶる材料と化しているのだ。


 「…よし。ボタン取れたからちょっと腕広げて。」


 「んっしょ…はい、これで大丈夫ですか?」


 「…うん。ありがと。」


 ボタンを外した事により開かれた前。

 今回はちゃんと下着を付けていたのだが、付けているにしても刺激が強すぎる…。


 ツヤのある肌に浮かぶまっすぐな鎖骨…。

 縦長な綺麗なへそ…。


 (耐えろ…耐えろよ…俺の理性…!)


 前回と違う事は八雲さんが健康という点だ。

 熱があった時はまだそっちにも意識が割かれるが…今回は八雲さんも元気…だいぶヤバいのだ。


 「っと。じゃあ腕上げといて。」


 「了解ですっ。」


 「…!」


 迂闊だった。腕を上げる事によって…見えてしまったのだ。

 真っ白で美しいラインを描く脇を…ガッツリ…。


 (無心だ無心!早く服を着させてあげるんだ!)


 ぶんぶんと頭を振り心頭滅却。

 そんな俺を八雲さんは不思議そうに見ていた。


 翠から貰った服はVネックのセーターだ。

 渡された白色のインナーを先に着させてあげてからこれを…と。


 「わぶっ…セーターだとちょっとかゆいですね…。ふふ…はは…。」


 「ごめんごめん…。」


 しっかし…余裕あるなあ八雲さん…。

 ドキドキしてるこっちがバカらしくなるじゃないかよ…ちょっと仕返しでもしてやるか。


 「八雲さん、おらっ!」


 「わっ!湊くん何を!…ぷっ…はは!くすぐったいです!やめれくらさい!」


 「お兄ちゃーん!八雲おねえちゃんの服ど……う…。」


 その時、シャーっとカーテンが開き翠が現れた。手にはかごを持ち服が何着か入っている。


 いや、それよりも…今はまずかった…。


 「お兄ちゃん…なにしてんの…?」


 「あ、いやこれは違くて、」


 「急にくすぐるなんてずるいですよぉ湊くん!」


 はたから見れば俺が八雲さんを押し倒しているかのように見えてしまう、この状況。

 しかもセーター着たから八雲さんの髪が静電気でボサっとしてるので余計に疑わしい。


 しかし翠はにやぁっと笑った。


 「大丈夫、分かってるよお兄ちゃん。お兄ちゃんには八雲おねえちゃんを襲う度胸なんかないもんね。」


 「なっ!?そ、そうだ!俺は断じて何もしてないからな!」


 疑いはされてなかったが…なんかプライドが傷つけられたような気がした。




☆☆あとがき☆☆

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