第4話 早速バレた

 「お、おい。お前どうしたそんな死にそうな顔して。」


 十二月、冬の外気が漂う学校の昼休み中にて。

 八雲やくもさんとの同棲生活が始まった事により、俺はかなり疲れていた。

 肉体面では全然大丈夫だ。

 元々二人分行っていた事を一人増やすだけ。なんの造作もない。

 が、重要なのは精神面だ。

 八雲さんは…羞恥心がないというか無防備というか…。色々と心臓に悪い。


 「いや、心配すんな。ただちょっと疲れただけ。」


 「まあお前はすいちゃんの分まで家事やってるもんな。素直に尊敬するよ。」


 「はは。まあな。」


 今話しているのは親友の青山紫央あおやましお

 からかってきたりすることもあるが憎めない良い奴だ。こうして素直に褒めてくれる時だってある。

 少し長めの髪をふわっと漂わせるイケメンっぷりは男女問わず人気だ。

 陽気な性格で話しやすいのも相まって女子にもまあまあモテる。一部の固定ファンがいるみたいだし。

 なんだかんだ気楽に話せる友達がいるってやっぱありがたい。


 「暇な時あったら言ってくれよ。どっか遊びにでも行こうぜ。」


 「いやあ…すまんな。毎回忙しくて。」


 「気にすんなって。まあ俺は?お前以外にも遊ぶ奴らはいっぱいいるからな!」


 「はいはい。それは良かったですねー。」


 こう言う少し人を煽るところがたまにキズだな。


 「でもちゃんと休まないとお前、死んじまうぞ?そこで親友からのプレゼントだ。味わって飲め。」


 そう言って渡されたのはコンビニで売ってるパックのリンゴジュース。


 「あんがと。ありがたすぎてもう飲んじゃった。」


 ぢゅーっとストローからジュースを飲めば小さなパックは空になりズズッと音を上げた。


 「おい。味わえと言っただろ。」


 「ついうっかり。そういやお前、クロエさんとはどうなの?」


 クロエとは紫央のストーカー兼一応彼女の犬咲けんさきクロエさんのことだ。


 「みなと…あいつはヤバいぞ…。この前夜遅くまで俺ん家に居座るもんだから渋々泊めてやったら風呂を先に進めてきてな。ちゃっちゃと入って寝ようと思った俺は先に入ったんだ。したらタオルとかは片付けるから置いといて良いですよとか言うから俺、そのまま置いてったんだよ…。」


 「そしたら?」


 「そしたらあいつ、後から発覚したんだが持参してきた全く同じ銘柄のタオルと俺が使ったのをすり替えやがってな…。なんと持ち帰りやがったんだ…。震え上がったぞ俺…。」


 「お、おお…相変わらず余裕でライン超えてくるなクロエさん…。」


 クロエさんはかつて紫央の重度のストーカーだった過去があり、あまりにも付き纏ってくるのを見かねた紫央が渋々付きあいだしたという壮絶な経緯がある。


 「ほんとだぜあのヤロウ…タオル濡らして気づかれないようにするとかレベルの高い細工し………」


 「湊くん。」


 紫央の声を遮って隣から女子の声が聞こえてきた。

 俺の席は窓際なだけあって太陽の光を受けて彼女の綺麗な銀髪は輝きを放っている。

 低すぎず、高すぎずで心地の良い声。

 ここ最近聞き慣れた声でもある。


 「八雲さん、どした?」


 「え…?ちょお前どしたってお前がどした?」


 紫央がなにやら驚いてると言うか慌ててるというか俺の方をチラチラ見てくる。


 「お話中にごめんなさい。ですがこれ…どうやって開けるのでしょう?」


 そう言って見せてくれたのは今朝俺が作った弁当だ。

 なるほど…弁当箱の開け方教えてなかったな…しまったしまった。


 「言ってなかったか…。ごめんごめん。これはこうして…ここをカチャッってやるとほら。開くよ。」


 弁当箱のとっての部分をカチャッとして蓋を開ける。

 八雲さんはキラキラした目でその様子を見ていた。


 「おお…すごいですね。画期的です。」


 「でしょ。あ、あと今日の夜ご飯からあげにしようと思ってるけど大丈夫?」


 「はい!湊くんの料理は全部美味しいので楽しみです。」


 「じゃあ今日の帰り買ってくよ。鶏肉安かったから買っとかないと。」


 「そうだ湊くん、私もお買い物ご一緒しても良いですか?」


 「え?別に俺一人で大丈夫だよ?」


 「いえ、お買い物することに興味があるっていうか…。行ってみたいんです!」


 八雲さんの目が先ほどと同様キラキラしてる。楽しみなのかな?


 「分かった。じゃあ帰り一緒に行こう。声かけるよ。」


 「!ありがとうございます。それではまた帰りにですね。お弁当いただきます!」


 そう言い八雲さんは弁当を持って前の方の席へと戻って行った。

 それにしても八雲さんと買い物かあ…楽しみだな。


 「おいお前…今のはどういった内容の会話で?」


 口を開けてぽかんとしながら紫央がこちらをじっと見つめてくる。


 「何って夜ご飯の献立の話……ってあれ…?」


 疲れた頭を頑張って覚醒させる。

 俺は八雲さんと話してて…ってなんで紫央がここに…。


 「いつからお前と白華さんは夜ご飯を一緒に食う関係になってんの?」


 紫央の一言が引き金となり俺は一気に冷静になる。そして…サーっと血の気が引いていく…。


 「…どんだけ聞いてた?」


 「お前が白華さんに弁当作ってあげてたり今日の夜ご飯の話して帰りに一緒に買い物する約束して、それから下の名前で呼び合ってるところぐらいかな。」


 「一生の不覚だ…!」


 しまった…!最近八雲さんと話慣れてるのと疲れてるのが相まって紫央がいるのを忘れていつも通りに話してた…!

 ヤバいヤバいヤバいヤバい…!どうしよう…。


 「まあそんな死んだようなツラすんなって。安心しろよ。誰にも言わねえから。」


 「ほんとか…?紫央…!」


 「当たり前だろ?俺が言いふらすようなやつに見えるか?」


 「お前…!」


 感動した目で紫央を見る。


 「ただし。ラーメン一杯と出会った経緯で手を打とうじゃないか。」


 「…お前。」


 だがこうなってしまったのは俺の失態でもあるか…しょうがないコイツにだけは話しておこう…。


 「えーっと……」


 —————


 「かくかくしかじかなんだ。」


 「なるほどねえ…。」


 一応、虚偽を交えてだが一連の流れは伝えた。

 八雲さんがとんでもねえゴミ屋敷に住んでたのはなんだか八雲さんも紫央もいたたまれなさそうなので黙っておくことにした。

 あと風呂での事も。


 「とりあえずはお前がそんなに疲れてる理由知れて良かったわ。そら三人分の家事やってりゃ疲れるわな。」


 「…驚いた。てっきり茶化されるかと。」


 「アホ。俺をなんだと思ってんだ。まあ、なんだ。家で疲れてんだったら相談ぐらいなら俺で良ければ乗ってやるから。遠慮すんなよ。」


 紫央の突然の優しさに心がじーんときた。


 「紫央…お前良いやつだな。」


 「その代わり。」


 「え?」


 「今度夕食に俺も呼べ!白華さんと翠ちゃんに囲まれて飯食うとかお前、最高すぎだろうが!羨ましいぞ!」


 にへらと笑う紫央に冷たい視線を飛ばす。


 「前言撤回だ。下心ありきだったとは。俺の感動を返せ。」


 「バカやろう!晩飯に呼ばれるぐらい良いだろうが!つーか勝手に行くぞ!」


 紫央が怒号を飛ばしてくるので俺は渋々承諾した。


 「分かったよ、分かったから勝手には来んなよ。もうそろ冬休みだからそこのどっかでみんなで飯食おう。」


 「よっしゃ!絶対だぞ?」


 「おう。男に二言はない。」


 ふう…バレた時はどうなるかと思ったが…。

 なんだかんだ紫央は信用できる良いやつだしまあなんとかなったかあ…。

 八雲さんにもちゃんと言っとかないとな…。


 今回は相手が紫央だったから良かったものの八雲さんガチファンとかにバレたら俺は斬首されちまう。

 

 まさかこんなに一瞬でバレるとは思ってなかったけど…まあ一件落着して良かった…。




☆☆あとがき☆☆


 4話目もありがとうございます!

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