第5話 八雲さんとお買い物

 キーンコーンカーンコーン


 学校中に終業のチャイムが鳴り響き、生徒たちは学業から解き放たれて放課後となる。


 そんな中俺はと言うとなるべく人目につかないようにしてなんとか八雲やくもさんと合流し、現在行きつけのスーパーへと向かう途中だ。


 「八雲さん、さっきみたいに露骨に俺たちが一緒に住んでるような発言はやめた方が良いかもしれないな。」


 さっき、とは八雲さんが俺の親友紫央しおと話している時に弁当の蓋の開け方を教わりにきただけではなく今日の夜ご飯の話をし、買い物にまで一緒に行く話をあの場で取り付けてしまったことだ。

 俺も疲れていたため不覚をとったがこれ、広まると八雲さんにも悪いんじゃないか?


 「…はて?そんな事言いましたっけ?」


 「弁当箱と買い物のくだりだよ。噂が広まったりしたら八雲さん、多分根掘り葉掘り聞かれるから大変だと思うぞ。」


 心配して注意する俺。

 しかし八雲さんはそんな俺を不思議そうに見ている。


 「私は…別に知られて困る事じゃありません。むしろ最近の生活はすごく楽しいのでみなとくんと過ごす事はもはや誇りでもあります。」


 「ほ、誇りって…大袈裟すぎるなあ。」


 ここまで素直に言ってもらえると嬉しい。    

 でもだからこそあんまり口も出せなくなったな…困った。


 (…まあ良いか。俺が気をつければ良い話だし。)


 「それより私、誰かとお買い物なんて初めてなんです…!いつもは一人でしたので少しワクワクします。」


 「そういや俺も学校の帰り道にさささっと夜ご飯の材料買って帰るだけだから人と来るのは久々かも。」


 「すいちゃんとは行かないのですか?」


 「休みの日とかはたまに行くけどあいつ、基本めんどくさがりやだから家から出てこないんだよ。」


 「なるほど…それじゃあこれからは私がご一緒します!」


 ふっふーんと得意げな顔になってこちらを見てくる八雲さん。

 大人っぽくて綺麗な八雲さんも好きだけどたまに見せる子供っぽい一面も良いんだよな。

 あ、好きってそういう意味じゃないぞ…。


 「ただ材料買うだけだぞ?いいの?」


 「それが良いんですよ湊くん。だってこうやって二人でいるのも楽しいじゃないですか。」


 「っ!そ、そっか!確かに俺も楽しいよ。」


 「ですよね!ほら行きましょ!」


 楽しみなのか早歩きめで歩いていた八雲さんが一度立ち止まり、眩しいぐらいの笑顔で振り向いた。


 ドキッ…


 その顔に…不覚だがドキッとしてしまった…。

 冷静に考えてみれば八雲さんは絶世の美少女。

 普段学校では優しい上品な佇まいをしているが俺や翠にだけはこうやって素を見せてくれるのがたまらなく嬉しくなってしまっている。


 「…おう。」


 「?どうしたのです?顔が赤いですよ湊くん。まさか…熱?」


 「違うよ!ほらもうすぐだからちゃちゃっと行ってこよ。寒いし。」


 「ダメですよ?私は初めてなんですからじっくりと二人で回りたいです。」


 「ははっ。スーパーの達人である俺が色々と教えてあげようじゃないか。」


 「それは頼もしい。」


 二人で談笑しながら歩いていると、前方に大きな赤い看板のスーパーが見えてきた。


 —————


 「おおお…ここがスーパーですか。すっごく大きいですね…コンビニとは大違いです。」


 中へと入り入口の野菜や果物が置いてあるコーナーを歩いていると八雲さんが感嘆の声をあげていた。


 「よし。じゃあ今日買うものをリストアップしよう。唐揚げにする予定だから鶏肉は確実としてあとはサラダと汁物を作りたいから…。」


 野菜コーナーを見渡して何を作るか考える。

 ほうれん草は安定の安さ…玉ねぎが安いのか今日は。


 「八雲さん、ほうれん草と玉ねぎ持ってきてくれない?俺、かいわれ大根取りに行くから。」


 「はい!わかりました!」


 そう言ってタタッと小走りで取りに行き、言われた物を持って俺の元へ戻ってきた。


 「ありがとう。カゴに入れといて。」


 「分かりました!湊くん、今日は何を作るつもりなのですか?」


 「今日はね、唐揚げとサラダ、汁物が欲しかったから玉ねぎとかいわれのツナサラダ、ほうれん草と卵の中華スープを作ろうと思ってたんだ。」


 「すごい…聞いただけでも美味しそうです。今日の夜が楽しみになりましたねっ。」


 「そう言われると頑張らないとな。楽しみにしててよ。」


 「はい!」


 その後も八雲さんと一緒に必要なものを買うため、スーパーの中をぐるぐると見学も兼ねて回った。


 (あれ…?これなんか一緒に買い物に来た夫婦みたいじゃね…?)


 と一瞬考えが脳裏をよぎったが気にしていたらまた俺だけ恥ずい思いするハメになるのでなるべく考えないでおこう。


 「よいしょ。ざっとこんなもんか。」


 カゴには今日の夜ご飯に必要な材料が軒並み揃えられていた。

 プラスでストックしていたボトルのジュースとお菓子、翠の好きな明太子などを買って本日の買い物はおしまいだ。


 「それじゃお会計ですね。」


 「だね。レジ並ぼ。」


 二、三人並んでいたレジに並び、順番を待つ。

 その間も八雲さんは周りを見て楽しそうにしていた。

 これを見るとどこかもっとちゃんとしたショッピングモールとかに今度連れてってやりたい。


 「お次の方どうぞー。」


 「はーい。」


 —————


 「合計で3855円になりますね…ってあれ湊くん?」


 「ん?あ、のどかさん。」


 レジ打ちしてたのは管理人ののどかさん。

 昼間はスーパーでバイトをしているのでよく学校帰りに寄ると会うことが多い。

 周りの人と比べるとめちゃくちゃ若いのでのどかさんの列だけ毎度人気で長蛇の列が出来ている時もある。


 「あれれ〜湊くん。その子だれだよ〜もしかして……?」


 「そのもしかして。この前言ってた隣の部屋の八雲さんだよ。」


 「ってありゃりゃ…。そっちじゃなかったけどまあいっか。君が白華しろはなさんだったの?」


 「はい。白華八雲です。いつもお世話になっております。」


 「めっちゃ良い子じゃん湊くん。噂と違う。」


 テキパキとカゴの中の野菜や肉などを仕分けて袋の中に入れながらのどかさんが聞いてくる。器用な人だな…。


 「俺も最初は驚きましたけどもう慣れました。あ、この割引券使います。」


 「はいはい。…ってなんで一緒に買い物来てるの?」


 「えーっと…色々ありまして今は家で一緒にご飯食べてるというか住んでるというか…。」


 「へ!?」


 驚きのあまりのどかさんはレジのボタンを変なところ押してしまった。


 「それって…もう家族じゃん。」


 「か、家族って…」


 「はい。私たちもう家族ですよ。」


 俺たちが話してると隣で八雲さんが何を当たり前のことをと言う顔でさらりと言った。


 「す、すごい…いつの間にそこまで進んでたなんて…湊くん頑張って!」


 そろそろレジが詰まってきたので俺たちは荷物をまとめてのどかさんに挨拶をしスーパーを後にした。


 「ふんふーん♪今日の夜も楽しみですねっ湊くん!」


 「…そだな八雲さん。」


 多分、俺は顔が赤い。

 さっきの''家族''というワードにかなり引っ張られているのだろう。


 まあでも…やってることはもう一般的な家族と変わらないのか…。

 今日はいつもより頑張ってご飯作ろう。


 —————


 「はああ……。」


 スーパーのバイトの休憩時間、のどかは小さくため息をついた。


 「どしたののどかちゃん。悩み事?」


 同じバイトのおばさんが顔を覗く。

 

 「いえいえ。ただ若いって良いなって…。」


 「なに言ってんの!のどかちゃんだって若いじゃんさ!こんなにかわいくって!」


 「えへへ…ありがとうございます。」


 それでも尚、天井を見つめる。


 (湊くんに…先越されたぁぁぁぁぁ……!)





☆☆あとがき☆☆


5話目もありがとうございます!

引き続き八雲さんと湊くんの応援よろしくお願いします!

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