第3話 八雲さんとご飯
「お、おおおおおお兄ちゃん!?」
リビングに着くや否や義妹の
「あっと…すまんまだ言ってなかったな。」
「言ってなかったな…じゃないよ!まさか隣の部屋の人ってあの白華さんだったの!?」
「いやあ、俺も最初はめちゃくちゃビックリしたよ。あ、白華さん、体調は?」
「おかげさまでかなり楽になってきました。何か出来ることはあるかなと思いまして今しがた翠ちゃんと一緒に課題をやっていたところです。」
「え?」
よく見れば机の上に数学の教科書とかワーク、ノートがシャーペンや消しゴムと共に散らばっていた。
「おい…白華さんは病人なんだぞ…。寝かしといてやれよ。」
「だ、だって…!私白華さんにちょっと憧れてたんだからしょうがないじゃん…!教えるのめちゃ上手いし!」
「それでもなあ…。」
チラとソファに毛布を被りながら座る白華さんを見る。
手には湯気がのぼるマグカップが握られていたので一応翠はもてなしをしていたのが伺える。
「私は構いませんよ。むしろ翠ちゃんに教えるのは楽しかったです。それに飲み込みも早いし良い子でしたよ。」
「ほんとかあ?」
「ほんとだよ!それよりお兄ちゃんこそ白華さんとお風呂で何やってたの!急に帰ってきたと思ったらお風呂場からお兄ちゃんのジャージ着てる白華さんが出てきて!どう説明するんですか!」
「うぐっ…翠、ここはお互い何も言うまい。今日は三人で平和にご飯を食べようじゃないか。」
「ふっふっふ。翠は優しい義妹なのでお兄ちゃんに納得してあげましょう。私もうお腹すいちゃったよー!」
話が早い妹で助かったぜ…。
風呂で白華さんの服脱がせて体洗ってました、なんて言えるわけねえもんなあ…。
「じゃあ机の上拭いて食器とか並べといてくれるか翠。終わったら無理のない範囲で白華さんと遊んでて良いぞ。」
「やったねー!」
翠が食器の準備をしている間にこっちも料理を開始する。
今日は鍋だからさっき買った大根やネギ、にんじんに肉などの下準備を始めていく。
トトトトト
包丁の音が部屋に響くと白華さんがソファからこちらをじっと見つめてきた。
「すごいですね内藤くんは…。料理が出来るのですか?」
「なんたってお兄ちゃんは私の専属シェフだからね。白華さんも食べればきっと驚くよ!」
「誰が専属シェフになったって?」
「ふふ…それは楽しみです。」
そういえば今日は白華さんも食べるんだったな…いつもより腕によりをかけて作らねえと。
緊張する…。
三人分作るからいつもより少し大きめの鍋を棚から取り出し、水を入れて醤油やみりん、料理酒、出汁をぶち込んで沸騰してきたら肉も投下。
あとは白菜やネギ、にんじんにきのこ、豆腐を入れてしばらくすれば完成だ。
「ここはXを代入して式を作るんです。」
「Xを入れて…式を…おお…出来た!あんなに難しいと思ってた問題なのに!」
「ちゃんと冷静に考えて向き合えば意外と出来るものなのですよ。今言った事を忘れないようにすれば翠ちゃんならきっと点数も上がるはずです。」
「本当!?ありがとう白華さん!」
「ふふっ。どういたしまして。」
女子同士だとあんなにもすぐ打ち解けてしまうものなのかあ…。
はたから見ればもうあっちのが本物の姉妹に見えそうだ。
「おーい二人ともご飯出来たから座ってくれー。」
「はーい、さっ白華さん食べよ!」
翠が白華さんの手を取り、誘う。
すると白華さんはにこりと笑って頷いた。
「…はい!」
——————
「やっぱり冬は鍋だねえ…あったまるう…。」
「コメントがおじさんみたいだぞ翠。」
「おじさんとはなん………」
「白華さん、口に合うかな?」
「はい!とても美味しくて…あったかいです!」
そう言いながら白華さんは皿に取り分けてあげた鍋をもぐもぐと食べている。
すごく美味しそうな笑顔で食べてくれているのでどうやら本当っぽいので良かった。
「ねえねえ白華さん!今日はさ家に泊まって行きなよ!私の部屋で一緒に寝よう?」
「え、良いんですか?」
「おっ…おい翠……」
「えー、良いじゃん!」
この無茶な提案に一瞬は流石に…という考えが浮かんだ。
しかし白華さんのあの部屋を見るとどうにも帰すのは酷なような気もしてきた。
「確かに…もう8時だし今日は泊まってきなよ白華さん。明日も学校で早いし体調整えないとな。ゆっくりしてってよ。」
「…ありがとうございます二人とも…!」
「ありがとうお兄ちゃん!今日は白華さんと一緒に寝るもんね!」
「あんまり夜遅くまで話してんなよ。」
「分かってるもん。」
一緒に寝るだと…?羨ましいこった。
「あの…お二人とも。」
白華さんが顔を上げて俺たちを見た。
「ん?どうした?」
「えっと…良ければ苗字じゃなくて名前で呼んでいただけませんか?私、苗字より名前で呼ばれる方が良くって…。」
俺の思いすぎかは分からないが一瞬だけ白華さんの顔が暗く悲しそうになったのが見えた。
さっき風呂でも言ってたけど…なにかあったのかな…。
「もちろん全然良いに決まってるよ。
「私も!てかもう八雲おねえちゃんって呼んでも良い…?」
「おい…急すぎるだろ。」
「ふふっ。私も翠ちゃんが妹のように思えてきていたので嬉しいです。よろしくお願いしますね翠ちゃん。」
「おねえちゃん…!」
「マジか…。」
すごい親密度上がってるなここ…。
「あ、じゃあ私も
「えっ?あ、ああうん!全然良いよ。」
驚いた…まさかあの八雲さんから名前で呼ばれることになるなんて…。
人生何があるか分からないな…。
「ありがとうございます。改めまして湊くん、よろしくお願いします。」
「あ、ああ。よろしく八雲さん。」
—————
それから三人で楽しく談笑しながらご飯を食べ進めていき、今は洗い物をしているところだ。
「そんな落ち込むことないっておねえちゃん。私なんてしょっちゅう割ってるから。」
「うう…すみません…。」
なぜこんなことになっているかと言うと、やってもらいっぱなしじゃ悪いと八雲さんが皿洗いを手伝ってくれると言ってくれたのだ。
が、皿を持った数秒後、白い皿は床へと落下し見事に砕け散っていった。
「そうだよ。八雲さんに怪我がない事がなによりだ。」
「で、でも…。」
「皿ならまた買えば良いって!だから気にしないでくれよ。」
「……はい…。」
正直こうなるとは思ってた。
例にも漏れずやはり八雲さんはこう言ったことに疎いというか疎遠の生活を送っていたのだろう。
これは八雲さんが悪い話じゃない。
しょうがないんだ。これから学んでいけば良い。
皿洗いも終わったことだしこのまま気にされるのもあれだな。何か話題を変えるか。
「そういえば八雲さんって普段何食べてる?」
聞くと八雲さんはきょとんとした顔で俺の方を見た。
俺はご飯を食べていた椅子に腰掛けたため、ソファに座っている八雲さんより高い。
そのせいか少し上目遣いのようになっているので破壊力高い。
「普段…ですか。いつもはカップラーメンや学校の帰り道のコンビニで買ってきたお弁当とかストックしたレトルトの食品を食べてます。」
「ええええええ!?」
八雲さんの言葉に翠が声を上げた。
正直俺も声出しそうになった。
「わっ…!どうしたんですか翠ちゃん。」
「そ、そそ、そんな体に悪そうなもの食べてこんなに肌綺麗で髪さらっさらでこーんなに可愛いの…?」
「え、えっと…気にした事ありませんでした。まずカップラーメンなどを食べたら体に悪いというのが驚愕の事実です。」
「マジか…。」
これには俺もびっくり。
ここまで知らなかったのか…。
「お兄ちゃん…!」
翠から無言の圧力を感じる。
八雲さんの隣に座ってその腕を抱きながら。
「…八雲さん、隣の部屋のよしみだしさこれからは家でご飯食べる?てか食べてきなよ。」
「え…?良いのですか?ですけど作る量が増えてしまいますよ?」
「二人から三人に増えるだけなんだから変わんないよ。それに助け合いが大事だしさ。」
「よく言ったお兄ちゃん。」
うんうんと頷く翠。
だがこれは俺も思っていた事なので異論はない。
「助け合い、ですか。私が湊くんに何か提供出来るもの…あります?」
「何を言ってるんだい八雲さん。すごいのがあるじゃないか。」
「…?」
「勉強だよ!俺、翠の家事に追われてて全然勉強ができなかったんだ。だから勉強教えてくれないかな…?」
ぽけっとした顔をする八雲さん。
多分、そんなので良いんですか、とか思ってそう。
「そんなもので…良いんですか…?」
やっぱり。
「そんなのじゃないさ。勉強出来るってだけですごいんだ。教えてくれたらすげえ助かる。」
「そ、そうですか…。湊くんがそう言うなら良いですが、やはり食事などを提供して頂くのとは対価に見合わないと思うのですが…。」
「じゃあたまに私にも教えてよ!八雲おねえちゃん!」
「確かにそれは良いかもな。これでどう?八雲さん。」
うーん…と小さく唸りながら悩む八雲さん。
しばらくして唸るのをやめてこちらを向いた。
「分かりました…。湊くんと翠ちゃんの勉強、見させて貰います!よろしくお願いしますね…!」
俺と翠は二人で顔を見合わせて大喜び。
ハイタッチした。
「やったな!」
「やったねお兄ちゃん!」
こうして俺たちは食事を提供する代わりに勉強を教えてもらうというギブアンドテイクの関係が出来た。
こんな形でまさか八雲さんと仲良くなるなんて思ってもみなかったな…。
「くぁ…。」
八雲さんが眠そうな目を擦りながらあくびを噛み殺しているのが見えた。
時間はもう夜10時を回り、11時近くを指している。
「そんじゃ今日のところは早く寝よう。八雲さん、ほんとに翠のところで寝るの?」
「私は…構いませんよ。一人で寝るの…寂しかったですし。」
「おねえちゃん…一緒に寝ようね!」
「はい!」
「ちゃんと早く寝るんだぞ。また何かあったら言ってくれ。」
そう言ってリビングの電気を消す。
既に歯磨きなどの寝る準備は出来ていたのでバッチリだ。
「はーい。おやすみお兄ちゃん。」
「おやすみなさい湊くん。」
「…おやすみ八雲さん。」
「え、お兄ちゃん私には?」
「…翠もおやすみ!」
各々が各自の部屋に入る。
「ふー…。」
ベッドに寝転んで暗い天井を眺めた。
「なんか…こう言うの楽しいな。」
思ってもみなかった展開に少しは驚いたがみんなで賑やかにするのは楽しかった。
しかしお風呂に入れてあげるのはもう勘弁したい…。
「明日から…いそがし……い…。」
疲れもあって目を閉じたらすぐに眠気が襲ってきて眠りについた。
—翌日—
「よし。今日の夜ご飯はカレーだな。ジャガイモと玉ねぎが安かったらこれはカレー一択だろ。あ、八雲さん嫌いな物あるかな…後で聞いとこ。」
学校終わりにいつものようにスーパーに寄って夜ご飯の買い出し。
だがいつもと変わった点は三人分買うところだ。
そして八雲さんのことも考えてメニューも立てることになるので大変になるぞ…。
しかし不思議と嫌な気分にはならず、むしろこの生活が楽しみだと感じるほどだ。
荷物を持って家の前へと到着。
「八雲さんに今日の夜はカレーだと言っといた方がいいか…ま、とりあえずこれ冷蔵庫に入れてからでいっか。」
ガチャリ。
「ん?」
扉を開けると玄関口に見慣れない靴がある。
「これ…なんだっけ。そうだローファーだ。翠のやつ、もう二足目買ったのか?」
自分も靴を脱いでリビングへと向かう。
するとリビングから人の話し声が聞こえた。
「翠の友達かな…?」
ガチャンッ
「あ、おかえりなさい湊くん。」
「おかえりーお兄ちゃん。」
「え?」
そこにいたのは…まったりとした部屋着を着た白華八雲さんその人であった。
「や、八雲さん?」
「あ、おかえりなさい。湊くん、私考えたんです。わざわざ部屋に行ったりきたりするよりもいっそのことこっちに住んでしまえば良いと…。翠ちゃんには許可は取りましたが良いでしょうか…?」
「お願いお兄ちゃん…!」
部屋を見渡してみれば既に箱にまとめられて置いてある八雲さんの荷物のようなものがある。
「…許可します。」
「ほんとですか!ありがとうございます!湊くん!」
「うん。あと今日の夜カレーだけど八雲さん、嫌いなものない?」
「大丈夫です!大体食べれます!」
「それは良かった。そんじゃ準備するから待ってて。」
「お兄ちゃんありがとー。」
「ありがとうございます湊くん。」
ま、まさか住むとは…思ってなかった…。
突然始まった八雲さんとの同棲生活…。
俺、生きてけるのかな…?
☆☆あとがき☆☆
つい文字数が多くなってしまいました3話目もよろしくお願いします!
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