第2話 白華さんとお風呂

 今、俺は間違いなく人生で一番の選択を迫られているかもしれない。

 

 「ど、どうすれば…。」


 その理由は俺の腕の中で熱を出して苦しそうにしている学校一のアイドル、白華八雲しろはなやくもさんその人で、しかもお風呂に入って欲しいのに一人じゃ入れないと言い出したからである。


 すいに頼むか…?

 いや、今は一刻を争う。長引かせるのは愚策だろう…。


 「内藤くん…?どうしたのですか?お風呂に入るのでは?」


 白華さんが顔を上げて俺を覗く。

 この人はことの重大さがわかってないのか…?

 あ、いやただ単に俺の事なんて全く眼中にないから気にしてないって事か…。


 よし、覚悟を決めろ…当の本人は全然なんとも思ってない。

 なら俺も無心で入れてあげれば良いだけのこと。


 「…白華さん、服自分で脱げる?」


 「出来ません…脱がしてください…。」


 こっ…この人は…どうやって今まで生きてきたんだよ…。

 落ち着け…冷静になるんだ…。目の前にいるのは小さな子どもだと思え…。


 「じゃ、じゃあ腕上げてくれるかな。」


 「分かりました。」


 すっ


 ごくり…

 あの高嶺の花である白華さんが自分の言うことに従っている光景を見て思わず生唾を飲んでしまった。

 これは…早く終わらせないとマズイ。

 俺が…死んでしまう…! 


 「それじゃ…服脱がすよ。」


 「お願いします。」


 スーッ……


 静かな洗面所に白華さんの服を脱がせる衣擦れの音だけが妖美に響く。

 あと俺の心臓の音。


 着ていた学校のシャツのボタンをゆっくりとプチプチ外すと、その隙間から真っ白なシャツよりも純白に輝くシミひとつない美しい素肌が露わになる。


 (俺、犯罪者にならない…よな?)


 なんか大罪を犯している気分になってくるなこれ…。


 「あ…」


 今まで静かにしていた白華さんが突然、声を漏らした。


 「ど、どどどうした!?」


 「脱いだシャツはシワになるので畳んで置いといてもらえると助かります。」


 「は…はい。」


 この人は…!よくこの状況で冷静でいられるな…!

 てかシワ気にするぐらいだったらあの家をなんとかした方が良いだろうよ…。


 気を取り直して再び服を脱がせる作業に集中。

 冷静だぞ…湊…冷静にだ。


 シャツを完全に脱がせると、上半身一糸纏わぬ姿になった白華さんがいた…。


 「あ、あああ……。」


 「?どうしたのですか?」


 「し、白華さん、下着は…。」


 「家だとめんどくさいので付けてません。」


 「さ、さようで…。」


 まだ下着があると思って覚悟が足らなかったようだ。

 

 (ガッツリ見てしまったぁ……!)


 しなやかに曲線を描く綺麗なくびれ、つきすぎず、なさすぎずの肉付きの良い体型に丸みを帯びた美しい肩。

 胸は…少し小さめだがとても形が整っていて小さめの身長と相性バツグンだった。


 とまあ…これぐらい考えるぐらいには見てしまったのだ。


 「つ、つ次はスカートやるよ。」


 「よろしくお願いします。」


 急いで視線を逸らし、なんとか正面から背面へと回り込むことに成功。

 しかし…


 「お、おお…。」


 その背中も背中で女の子らしいとても華奢なもので全くもって視線のやり場に困る。

 どこまで完璧超人なんだよ…。


 「片足、上げてもらってもいいか?」


 「了解です。」


 白華さんが足をあげてくれたのでその隙にスカートをそっと下ろす。

 そこから見えたのはスラッとしているがとても柔らかそうな太もも。とても…魅惑的だ。


 「よし…じゃあ俺後ろ向いてるからパンツ脱いだらそこに置いてあるタオル巻いて先に入ってて。」


 「え?なぜですか?」


 「…俺の心臓に悪いからだよ。中に入ったら呼んでくれ。そしたら行くから。」


 「…分かりました。ではお先に。」


 「あ、ちょっと待って白華さん。」


 「?どうしました?」


 俺が呼び止めると白華さんは熱でピンクに染まった顔をこちらに向けた。

 本当に目のやりどころに困る…。


 「白華さん、俺が誰か分かってる、よな?」


 「?内藤湊くんじゃないのですか?」


 「ごめんごめん、ただ聞いただけ。体冷えるから入ってて。」


 「?分かりました。」


 白華さんは俺を知っててくれた。

 知ってる上でここまで俺を信頼してくれたってことなのか、な?


 それにしても…


 シュル…スッ…ガラララ…


 音だけでも破壊力が高えなあ、おい…。

 でも扉が開いた音がしたってことはそろそろか?


 「内藤くん、入りましたよ。あ、ここにある椅子使っても良いですか?」


 「了解。全然使って良いよ。」


 ふー…これを乗り越えれば終わりだ…。

 頑張れ俺。無心で洗おう。


 意を決して扉を開ける。


 「失礼しまあす…。」


 「どうぞ。」


 中に入ると湯煙に包まれた白華さんの姿が見えた。今は置いてあった風呂場の椅子にちょこんと座ってぼーっとしてる。

 もちろん体はタオル以外何も白華さんの体を隔てるものはない。

 めちゃくちゃ緊張するなあ…。


 「それじゃ、髪から洗うけど良いかな?」


 「はい。お願いします。」


 髪をシャワーで濡らし、手にシャンプーを取って洗っていく。


 「おお…。」


 すっげえ…サラッサラでツヤツヤだ…。

 あんな汚い家に住んでるとは思えないな…。

 てか最初っからすごい良い匂いしてたし。


 シャカシャカ…


 「内藤くん、そこちょっとかゆいです。」


 「…ここ?」


 「もう少し右下…そのあたりです…。きもちい…。」


 さっきまではドキドキしてたけど…なんか妹みたいに思えてきた。

 初めて翠と会った頃を思い出すなあ…。


 「白華さん。」


 「どうしました?」


 「体調は大丈夫?」


 「さっきまでは辛かったですが…今はあったかいので気持ちいいです。」


 「それは良かった。じゃあ髪流すから目、瞑っててな。」


 「了解で……わっぶ…!」


 「あはは、喋ったら水入るよ。」


 そう言いながらシャンプーをお湯で流していく。白華さんの顔は少しだけ納得いかなそうにむすっとしている。


 さて、余裕そうにしているが今から最難関の体へと取り掛かることになる…。

 

 「一応聞くけど、体自分で洗えたりしない?」


 「ふっふーん…しません!」


 「…なんで誇らしげなの…。」


 だとは思った。やるしかないか…。


 「じゃあ洗うから何かあったら言ってくれ。」


 「優しくお願いしますね。」


 「分かってるよ。」


 ボディーソープを手に取り、恐る恐る手始めに白華さんの肩を触った。


 (すげえ…肌スベスベでやわらけえ…これが女の子か…。)


 想像以上の感触に少々素直な感想が浮かんでしまった。

 これは…気を紛らわせてやらないといかんな…。


 「そういえば白華さんはあそこの家に一人で…住んでるの?」


 「そうですね、ここは昔私の父が仕事用に借りてたんです。今は私が使わせてもらってます。」


 「その…失礼なこと聞くようであれだけどさ…。」


 「なんでしょう?」


 「もしかして白華さんって片付けとかって苦手?」

 

 すると白華さんの体が一瞬ビクッとしたのが分かった。

 図星だったのかな…。


 「…苦手というか…できないんです。前はお手伝いの人にやってもらってたので…片付けもお風呂も…。」


 「そうだったんだ…でもならなんで一人暮らしを?」


 白華さんの顔が曇ったのが分かる。

 あんまり聞いちゃマズイ内容だったかな…。


 「あ、いや言いたくないなら全然良いよ。ごめん、急に色々聞いて。」


 「い、いえ大丈夫です。ただ…あの家から出たかっただけですから…。」


 「そっか…。まあとりあえず今日は風呂から出たら家でご飯食べてきなよ。鍋にするつもりだったからあったまるよ。」


 「…ありがとうございます。いただきます。」


 「おう。」


 そんなこんなでやっとこさ体を洗い終え、白華さんに応急で俺のジャージを着せてあげてるところだ。


 「じゃあ俺、ここ片付けてくるから先にリビング行って休んでて良いよ。ソファに毛布置いてあるからあったかくしてて。」


 「何から何までありがとうございます…。内藤さん、優しいですね。」


 「普通だよ普通。風呂上がりは冷えるから早く行ってな。」


 「っ…はい!」


 トタトタトタ…


 白華さんがリビングにゆっくりと歩いて行ったのを確認して少し濡れてしまったパーカーとズボンを脱ぎ、着替える。

 着るものを選ぶのがめんどくさいから新たに着るのもパーカーだ。


 「ふぃー……頑張ったなあ…俺。」


 学校のアイドル白華八雲しろはなやくもさんとの風呂を無事に終えた俺、一歩成長したような気がする…。


 さて、飯作りに行こ。




 ☆☆あとがき☆☆

 1話に引き続き2話もよろしくお願いします!

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