第9話 そして、ダンスパーティが始まる

 学園祭の当日がやってきた。


 学園祭には学内・学外の人がたくさん来ているから問題事が大量に発生する。迷子、スリ、喧嘩など上げればキリがない。それに、生徒の保護者や地域の役員への対応も必要だ。

 生徒会メンバーはそれらの対応に走り回っている。生徒会長である私も問題事の対応に一日中追われていた。

 朝から生徒会の仕事をしていたら、ダンスパーティの時間が迫ってきた。


――あぁ、出たくない……


 他の生徒はダンスパーティに正装して参加する。でも、私は制服のまま参加しようと思っている。その方がベストカップルに選ばれる可能性が低いはずだから。


 私は公爵令嬢。そして、私のダンスのパートナーは隣の国の王子。

 ダンスパーティの審査員は忖度(そんたく)して私たちに点を入れるだろう。いや、この2人をベストカップルに選ばない審査員はいないかもしれない。

 だから、大きな減点を作らないといけない。

 制服で踊れば何とかなるはず……


 私がダンスパーティの会場に行こうしたら、生徒会室にウィリアムがやってきた。

 手には屋台で買った食べ物、どこかで手に入れた戦利品を持っている。学園祭を楽しんでいたようだ。


「食べる?」とウィリアムは私にカステラを差し出した。


 私は朝から学園祭の対応で食事も満足にできていない。

 お腹が空いていたから、ウィリアムからカステラを奪い取って食べた。


「あら、美味しいわね」

「そうだろ? 試食したら美味しかったから、お前に買ってきたんだ」


――えぇっ? 今なんて言った?


 コイツそんな気遣いができたっけ? いつもと違うウィリアムに戸惑う私。

 そんな私を無視してウィリアムは私に尋ねる。


「ダンスパーティの会場に行ったんだけどさー、みんな正装してたよ。お前から聞いた、制服で踊る伝統って本当?」


――これはバレたな……


「あれ? 今年からそういうルールに変わったのかな……」

 しかたなく誤魔化す私。


「だから、連れてきたよ」

 そういうと、ウィリアムは私の侍女を部屋に呼んだ。


「お嬢様、ドレスをお持ちしました」

 侍女は私にダンス用のドレスを差し出した。


「えぇ? なんで?」

「念のために侍女に来てもらったんだ。ダンスパーティは普通正装するからな」

「念のため……」


 用意周到なウィリアム。女性がドレスを一人で着替えられないことを知っている……


「ドレスに着替えて来なよ」


 私が黙っていたら、ウィリアムが嬉しそうに言う。


「そして、俺はこれ!」


 ウィリアムは着ていた制服のジャケットを脱いで、別のジャケットを羽織った。

 タキシード姿に変身したウィリアム。クルクル回って一人で踊っている。


 一応、ウィリアムは長身でイケメン。フォーマルな衣装を着ていたら、本当に彼が一国の王子に見える。私は、思わず見とれてしまった。


「ちょっと、この格好に感想ないの?」とウィリアムは不満そうだ。


「いや……思ったよりも似合ってる……」

 不覚にもそう言ってしまった私。


――いやいや、そうじゃない……


 ウィリアムがタキシードなのに私が制服で踊るわけにいかない。

 私は「ちょっと待ってて」とウィリアムに言って、更衣室でドレスに着替えた。

 ノーメイクはマズいから化粧も簡単に済ませる。


 更衣室を出てきた私を、ウィリアムはじっと見ている。

 ウィリアムは何も言わない。ドレスが似合ってないのかと思うと、急に恥ずかしくなってきた。


「なに? 似合ってない?」

「いや……何ていうか……馬子にも……」

「ぶっ殺すわよ!」


 そんなことをしている場合じゃない。ダンスパーティが始まる時間だ。

 私とウィリアムは会場に急いだ。



***



 私とウィリアムが会場に入ると、どよめきが起こった。

 みんなが私たちを見ているような気がする。

 気のせいかもしれない、いや……見てるな。


――やっぱり、このドレスのせいだ……


 ウィリアムが持ってきたドレス、背中がほとんど開いている。

 偽装だとはいえ婚約者にこんなドレスを着せるか?


「ちょっとーー! なんでこんなに背中開いてるのよ?」

「知らねえよ。お前の父上が持っていけと言ったんだ」

「お父様が??」

「ああ、そう。それはお前の父上の趣味だ。俺の趣味じゃない!」

「似合ってないかな?」

「いや、そんなことはない。別人みたいだ。でも話したらお前だな」

「こっちのセリフよ」


 私たちが小競り合いしている間も、周りの参加者は私たちの方をずっと見ている。

 こそこそと何か言っているようだ。私は人並外れた聴覚を使って周りの人たちの噂話を聞く。


「ちょっと、あのカップル見て!」

「あれこそ美男美女だわ。私たち勝てないじゃない!」

「私たち完全に引き立て役ね。あの二人がいたら周りが見劣りする」

「今年のベストカップルはあの2人ね」

「間違いないわね」


 ちょっと、みんなが私たちを見てる……

 周りの噂話に緊張する私。そんな私を、ウィリアムが会場の空いているスペースにエスコートする。


 そして、曲が始まった。

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