第10話 ウィリアムとダンスする私

 ダンスパーティが始まった。


 私は気持ちを切り替えて、流れてくる曲に集中する。

 ウィリアムはさすがに王子だ。ダンスがうまい。きっと、クラーク王国で練習させられたのだろう。

 一方の私も負けていない。私は小さいときからダンスレッスンを受けていた。これも、我が家の方針だ。私が舞踏会でいい人に気に入られるようにと。


 基本に忠実に、そして、相手のペースに合わせてゆっくりと踊る。

 もちろん、ダンスホールでの礼儀作法は忘れない。曲の途中で隣のペアとぶつかったけど、会釈してやり過ごした。


「お前、ダンスできるんだな」

「公爵令嬢だから当たり前でしょ。あんたも上手ね」

「まぁ、王子だしな。いちおう……」


 久しぶりに踊ったけど疲れてはいない。ウィリアムが上手いから何曲でも踊れそうな気がする。


 しばらく踊ったら、1曲目が終わった。


 次の曲はなんだろう?と考えていたら、会場から拍手が沸き起った。


「どうしたの?」と私はウィリアムに尋ねる。

「さあ、みんなこっち見てるな」

「私のドレス(背中)かな?」

「かもなー」

「ぶっ殺すわよ!」


 鳴り止まない拍手は私たちに向けてのようだ。

 ダンスに夢中で気付かなかったけど、私たちは注目を浴びているらしい。


「礼でもしとこうか?」

「そだな」


 私たちが会場の参加者に向かって礼をすると、さらに大きな拍手が起こった。


 その後、私たちは2曲、3曲と踊りを続けた。


 ダンスパーティのパートナーがウィリアムで良かったのかもしれない。ダンスの息はピッタリだし、安心して踊ることができる。


「あんたってさー」

「なんだよ?」

「黙ってダンスを踊ってたら……モテるわよ」

「喋んなってこと?」

「そう。見た目はいいのに、喋ると残念な感じになるのよね……」

「お前がそれ言うか? お前も一緒だろ?」

「私はいいの。運命の人にさえ愛されれば」

「はいはい。足元が疎かになってますよー。喋らなければ綺麗なお嬢様!」

「あら、ありがとう。喋らなければイケメンの王子様!」


 私たちは小競り合いを続けながらも踊り続けた。

 ウィリアムとのダンスはなかなか楽しかった。また、ダンスしてあげてもいいかもしれない。


 そして、私たちは満場一致でベストカップルに選ばれたのであった。


――ぬぉぉーーー。ちがーーーう!


 みんなは期待している。ベストカップルのキス。

 どうしよう?


 司会の男性が会場中に聞こえるように言った。

「それでは、ベストカップルのお二人にはキスをして頂きましょう!」



 ベストカップルにならないために作戦を練ったのに、ウィリアムのせいでぶち壊しだ。


 ウィリアムがタキシードを着たら……ちょっとカッコよかった。

 ウィリアムが思ったよりも……ダンスが上手かった。

 ウィリアムと私の息が思ったよりも……ピッタリだった。


 ウィリアムが……ウィリアムが……


――あれ、なに? 会場の声が遠のいていく……


 そこで私の意識はなくなった。


***


 私が目を覚ましたら、そこは学園の保健室だった。


 どうやら私はダンスパーティの会場で倒れたようだ。


 誰かに抱えられて、フワフワした感じで会場を出た気がする。

 運ばれている途中、私は見覚えのあるロケットペンダントを見た。


――私が持っていたのと似てたな……


「おい、大丈夫か?」

 ベッド横のウィリアムが言った。私が目覚めるまでずっと待っていたのだろうか?


「私どうしたの?」

「コルセットがきつすぎて、酸欠だってさ」

「まぢか……」

「マジだな」

「恥ずかしい……」

「他の人は理由を知らないから、大丈夫じゃねーか?」

「そう…だね」


「そういえば、あんたが私を運んでくれたの?」

「そうだ。それにしても、お姫様抱っこは想像してたのと違ったな」

「なんで?」

「途中、手がプルプルして大変だった……」

「ぶっ殺すわよ!」


「とりあえず、もう少し休め。家まで送って行くから」

「ありがとう。あんた、今日は優しいのね。風邪でもひいた?」

「違う違う。女性をエスコートするのが王子の役目だ」

「へー」

「それに、家に帰るまでがダンスパーティだ!」

「はは、遠足みたい」


 ウィリアムは口が悪いけど、悪いヤツではないかもしれない。

 なんとなくそう思った。


 そういえば……キスしなかった……よね?

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