第8話 ベストカップルは〇〇しないといけない

 その後、私たちは解散して家路についた。


 私はウィリアムと一緒に帰っているのだけど、ダンスパーティの事を伝えていなかったから気まずい。


「お前、なんで俺に言わなかったんだ?」

 ウィリアムは唐突に言った。


「黙ってたのは申し訳なかったけど……ダンスパーティには出るつもりがなかったのよ」

「あ、そうなの?」

「だって、イザベル王立学園はイザベル王国中の貴族子女が通ってるの。そこで私があんたとダンスパーティで踊っていたら、私たちが婚約していることが国中に広まるでしょ」

「それはそうだけど、なにか不都合でも?」

「あるわよ! 婚約破棄したら国中が知ることになるわ」

「そうだな……」

「あなたはいいわよ。イザベル王国内で噂が広まっても、クラーク王国まで噂は広まらないからね」


 ウィリアムは少し考えてから、私に提案した。


「婚約破棄は先の話だけど、イザベル王国内ではお前が婚約破棄したことにすればいい。俺が浮気したとか適当な理由をつけても構わない。だって、俺はその時にはイザベル王国にいないから、どんな噂が流れても関係ない」

「それはそうね」

「逆に、クラーク王国では俺が婚約破棄したことにする。お前が伴侶として相応しくないとか国内で説明する。それでどうだ?」

「いいわね。それでいいわ」

「そうすると、ダンスパーティに出ても問題ないと思うんだが……。逆に、ダンスパーティに出なかったら、それはそれで怪しいだろ」

「そうなんだけど、もう一つ問題があって……」

「何だよ?」


「実は、ダンスパーティでベストカップルに選ばれたら、みんなの前で、その、あの……」

「あの、じゃ分からない。何だよ?」

「みんなの前で、キスを……しないといけない…」


 ウィリアムは私がダンスパーティに参加したくない理由を理解した。


「へー、それが理由か……それで黙ってたんだ」

「えぇ」

「ところで、お前はキスしたことないの?」


――なんて失礼な……


「キスしたことないの?」って婚約者に言うことじゃないわよね。あ、婚約者じゃないか。


「キスぐらい、あるわよ……」

「いつ?」

「5歳の時に……」

「5歳って……。子供のキスは大人のキスとは意味合いが違う。それはキスにはいらないだろ」


 そう言いながらも、ウィリアムは何かを考えているようだ。

 運命の人との思い出をバカにされた気がした私は、声を荒げてウィリアムに問う。


「あんたはどうなのよ?」

「俺だって、あるよ……5歳のときに」

「じゃあ、あんたのもキスにはいらないわね」

「うるせー!」

「なによーー、あなたも同じじゃない!」


――5歳のときに、クラーク王国で。まさかね……


 私の運命の人とのキスは、5歳のときにクラーク王国で。ウィリアムのキスと同じだ。

 でも、クラーク王国は広いから気のせいだろう。

 私は念のためにウィリアムに確認する。


「ちなみに、5歳のキスは覚えているの?」

「ああ、完ぺきではないけど覚えてる。たしか、感謝祭だったと思う」

「感謝祭……」

「他国から来ていた女の子とキスしたんだ」

「へー」


――5歳のときに、クラーク王国の感謝祭で、他国の女の子と……


 まさか、コイツが運命の人? いやいや。もっといい人だった。

 泣いていた私を助けてくれた理想の王子様。こんなポンコツ王子ではない。


 とりあえずの優先事項は、ダンスパーティをどうするかだ。

 ポンコツ王子が運命の人かどうかは後で調べることにしよう。


 まず、私たちがベストカップルに選ばれないことが重要だ。

 ベストカップルに選ばれなければ、公衆の面前で偽の婚約者とキスしなくていい。


――ベストカップルに選ばれない方法は?


 化粧をせず、時代遅れのドレスを着て、ボサボサの髪型で参加する。そうすればベストカップルに選ばれることはない。ウィリアムも普段着で参加するように言っておこう。


 私はウィリアムにダンスパーティでの服装について嘘のレクチャーをした。

 イザベル王立学園のダンスパーティは特別な服装をして踊らない。

 制服で踊るのが伝統だと。


 もちろん、嘘情報だ。


 全てはベストカップルに選ばれないために!

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