第5話 転校生がやってきた
私はイザベル王国の名門、イザベル王立学園の2年生。成績は良くも悪くもなく普通。
名誉のために言っておくと、私は決して頭が悪いわけではない。
イザベル王立学園に入るまでは、常にトップ10に入っていた。でも、イザベル王立学園は名門学校なので、イザベル王国中から優秀な生徒が集まってくる。だから、相対的にレベルが高い。そこそこ頭が良くてもトップにはいけないのだ。
ただ、私は公爵令嬢。イザベル王立学園のトップにはなれなくても、恥ずかしくない順位にはいないといけない。だから、今日も私は勉学に励む。中の上を目指すため…
自分の中途半端さに嫌気がさしていたら、教室に教諭が入ってきた。そろそろ授業が始まる。
ただ、今日はいつもと違った。
教諭は教室の中央に立ったら、廊下にいる男子生徒を呼んだ。転校生のようだ。
教諭に呼ばれて教室に入ってきた男子生徒に視線が集まる。
――まぢか?
私はその転校生を見たことがあった。男子生徒はウィリアムにそっくりだ。
私は目をこすったり、角度を変えてみたり、片目を閉じたりしたのだが転校生はウィリアムだった。そっくりさんでも、幻でもない。何しにきた?
教諭はウィリアムを同級生に紹介した。
「イザベル王立学園に転入してきたウィリアムです。ウィリアムはクラーク王国の第3王子で、アンナの婚約者です。みんな、失礼のないように」
「はーーい」
「それでは、ウィリアム、みなさんに一言どうぞ」
教諭に促されてウィリアムが壇上に立った。
「みなさん、はじめまして! ウィリアム・ジェームス・クラークです。イザベル王国の最新技術に興味があったので、クラーク王国からイザベル王国に留学にきました。こちらでみなさんと一緒に勉強できることを楽しみにしています!」
ウィリアムの挨拶を聞いてみんな拍手をした。
ただ、突然隣国の王子が留学してきたのでみんな驚いている。
「アンナ様の婚約者ですって」
「アンナ様を追いかけて留学してきたのかしら?」
「あぁ、王子、かっこいいー」
などと教室内はざわざわしている。いろんな噂話が私に聞こえてくる。
そんなことより、この中で一番驚いているのは私。
ウィリアムは適当に挨拶しただけ。「イザベル王国の最新技術に興味がある」なんて嘘だ。
何の目的でこの学校に転校してきたのか?
後で確認しないといけない。
教諭はこう付け加えた。
「アンナ、君はウィリアムの婚約者だ。後でウィリアムにイザベル王立学園を案内してあげてくれ」
「はぁ」
私は興味なさそうに返事した。
「席はアンナの隣が空いているな。ウィリアム、君の席はアンナの隣だ」
こうして、ウィリアムは私の通う学校に転校してきた。
***
ウィリアムは私のクラスメイトになり、隣の席になった。教諭に言われたからウィリアムの面倒をみないといけない。あぁ、面倒くさい……
休み時間になったから私はウィリアムを教室の外に呼び出した。
「ちょっと、どういうこと?」
「何がだよ?」
「なぜうちの学園に転校してきたのよ?」
ウィリアムは私に問い詰められて困っている。
「俺だって……断ったんだよ。俺は家庭教師に勉強を教えてもらっていたから、学校に通ったことがないんだ。それで、父上が社会勉強をしてこいって」
「はぁ? イザベル王国には他にも学校があるでしょ。なんでここなの?」
「この学校は、お前の父上が手配してくれた」
「お父様が?」
「あぁ、ノリノリだった。お前の父上が、婚約者と同じ学校に通った方がいいって……」
私はお披露目会でのお父様のポーズを思い出した。親指を上げて、機嫌良さそうだった。
「俺とお前の父上が代わる代わる俺を説得にきてさ……」
「はーー」
「お前の父上なんて、俺がイザベル王立学園に行くって言うまで帰らない、って……」
「あなたも災難ね……」
「だろ?」
「でも、すごく、すごく、迷惑だわ」
「だろうなぁ。俺も迷惑してる」
「はぁ、学園でも婚約者として振舞わないといけないのよ」
「だよなぁ……毎日誰かに見られる生活はちょっとな……」
面倒なことになった。
時間稼ぎのために他国の王子と偽装婚約したつもりが、私の日常生活にガッツリ入り込んでいる。家でも学校でも、どこにいても婚約者として振舞わないといけない。
ウィリアムに時間を取られると、運命の人を探す時間が削られてしまう。
それに、もうすぐ学園祭がある。ただでさえ忙しい時期なのに……
学園祭の最後にはダンスパーティがある。
ウィリアムは婚約者だから一緒にダンスしないといけないのかな?
「あっ、それと……」とウィリアムは私に何か言おうとしている。
「他にも何かあるの?」
「えぇっと、住むところなんだけど、お前の父上に屋敷に住むように言われて……」
「えぇ?」
――あぁ、頭が痛くなってきた……
ウィリアムは私の学校にやってきた。さらに、私の家に住むようだ。
こうして、偽の婚約者は私の自宅、私の学校、私の生活を浸食してきた。
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