第3話 あなたモテないでしょ?

 私は昨日河原で大喧嘩した青年とお見合いをしている。


 運命的な出会いだったという人もいるかもしれない。

 でも、私は彼との運命を感じていない。

 だって、ネチネチと嫌味なことを言って、私の精神力を削ってくるからだ。


 現在お見合い10連敗中の私。このまま100回、200回とお見合いをしていけば、どこかで会った誰かとお見合いすることもあり得る。

 隣のクラスの男子生徒がお見合い相手かもしれないし、カフェで隣の席に座った男性がお見合い相手かもしれないし、河原で喧嘩した青年がお見合い相手かもしれない。

 だから、不思議な感じはするのだが、これは運命ではなく必然だ。


 そんな私を気にせずに、ウィリアムは誰も周囲にいないことを確認してから「こんな奴とお見合いなんて……」と呟いた。


――あー、イライラする……


 昨日の喧嘩を再開させようかしら?


「こっちこそ、迷惑な話だわ。あんたがお見合い相手だと知ってたら来なかったわよ!」

「こっちもだ……」

「あー、11敗目が確定しました! どうもありがとう!」

「本当にうるさい奴だな」

「そりゃそうでしょ。これでお父様に大目玉を食らうのは決定。もうお見合いはしたくないのよ。分かる?」

「まぁ、10敗もしてたら、そう思うよな……」


 ウィリアムは半笑いで私の方を見ている。

 何が可笑しいのか分からないが、感じが悪い。


「あんたはいいわよね。毎回、お見合いを断ってるんでしょ?」

「まぁ、そうだな。否定はしない」

「きぃぃーー! なにその「否定はしない」って?」

「そのままの意味だ。二重否定だから、肯定している」

「そんなこと、分かってるわよ! その言い方がイライラするのよ!」

「ふっ……」


 ウィリアムはまた半笑いしている。

 イライラする……


「ところで、今回でお見合いは何回目?」

「11回目……かな」

「ふーん。私は10敗なのに、あんたは10勝でしょ?」

「そういう言い方はよくない。お見合いに勝ち負けの概念はない!」

「へー、鬱陶(うっとう)しい理論を展開してくるのね」

「うるせーな。じゃあ、なんて言えばいいんだよ?」


 ウィリアムは怒っているようだ。

 ざまぁみろ!


「うーん、そうね。例えば、「たまたまですよー。運が良かっただけです!」とか……」

「まるで、宝くじに当たったみたいな言い方だな……」

「私が言いたいのは、あんたには謙遜(けんそん)が必要だということ。そんな性格だから、あんたモテないでしょ?」

「ぐぬぅぅ……。モテないこともない……」

「ほらー、また二重否定するでしょ。そういうところがダメなのよ…」


 私にはウィリアムの人当たりの悪さで、10勝もしたことが信じられない。だから、問いただすことにした。


「なんで10勝もできたの?」

「だからお見合いに勝ち負けはない、って言ってるだろ! 俺が断っているのは結婚したくないからだ」

「へー、断られるのが嫌だから先に断る作戦……って卑怯じゃない?」

「しかたないだろー! 俺にも立場があるから、お見合いはしないといけないんだよ」


「まぁ、10勝もしていれば何とでも言えるわね。私は10敗よ、10敗! この悔しさがあなたに分かる?」

「分かりたくないな……」

「きぃぃぃーーー! くやしぃぃーーーー!」


 ウィリアムは半笑いのまま私に言った。


「ところで、1つ聞いてもいいか?」

「なによ?」

「お前がお見合いをするのは、結婚したいからなのか?」

「はぁ? 喧嘩売ってるの?」

「そうじゃなくてさ……」

「私がお見合いをするのは、お父様が縁談を持ってくるからよ。私はお見合いをしたくないし、まだ結婚したくない」

「結婚したくないのに10敗してるよな。なんで?」

「私から断ろうと思っているのに、向こうから断ってくるのよ。だから10敗した」

「ああ、そういうことか。じゃあ、お前は結婚したいわけじゃないんだな?」

「もちろん!」


 ウィリアムは考えている。


「一つ提案があるんだ」

「提案?」

「そう、俺はお見合いをしたくない。結婚も」

「王族は結婚しないといけないんでしょ?」

「俺は第3王子だから王位継承する兄よりも優先順位が低い。最終的には結婚しないといけないけど、しばらく先延ばしにしてもクラーク王国としては困らない」

「へー」

「俺は人を探しているんだ。もし俺が結婚するとしたら、その人だと思ってる……」

「ロマンチストなんだー」

「からかうなよ!」

「ごめん、ごめん」

「俺は時間稼ぎがしたい。それはお前も同じだろ?」

「そうね。私も時間稼ぎがしたい……」


「俺もお前も結婚したくないし、これ以上お見合いをしたくない」

「そうね」

「そこでだ! 俺とお前が婚約したことにしないか?」

「偽装婚約ってこと?」

「そうだ。そうすれば、俺は時間を稼げるし、お前も父上に怒られなくてすむだろ?」

「それもそうね。お互いの利害が一致しているわけだし……」

「じゃあ、決まりだ! いつ婚約解消するかは後で決めればいいだろ?」

「まぁ……いいわよ」


 こうして、私たちは婚約を偽装することになった。

 その場しのぎのような気もするが、とりあえずお父様に怒られなくて済む。

 どうやって婚約解消するかは後で決めればいい。


 その時は、そう考えていた。

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