第2話 0勝10敗の私に11回目のお見合いがきた

 家に帰った私は、お父様の執務室へ向かった。


「ただいま戻りました」

「おー、アンナ、帰ったか。今回のお見合いは残念だったなぁ」


――ひょっとして、怒ってない?


 想像に反してお父様はご機嫌そうに見える。

 怒っていないフリをしておいて……のフェイントだろうか?


 急に怒り出すかもしれないから、私は一応謝罪しておくことにした。


「お父様、申し訳ございません。私が至(いた)らないばかりに・・」

「もういいんだ」

「怒っていないのですか?」

「全然怒っておらん。それより次のお見合いが決まったぞ! 明日だ!」


――えぇっ、またお見合い? 明日?


 うまくいく自信がない。

 私は今まで10回お見合いをしている。今日のお見合いは記念すべき10敗目。

 ここまで負け続けると、お見合いの成功をイメージできない。

 失敗するイメージしか浮かばない。


 私は負け犬……

 私には無理……


「お、お父様、私には……」

「聞いて驚くなよー。次は隣国の第3王子だ!」

「第3王子……」

「王子、王子だぞ。このお見合いが上手くいけば、わが家も安泰だなー」


 お父様は満面の笑みを浮かべている。

 私は過去10回の敗北に自信喪失中。

 王子を落とすためには、私の魅力を最大限にアピールするための自信が必要なのに……


 お父様の浮かれ具合から察するに、相当期待している。

 もし、王子との縁談が失敗すれば、お父様はがっかりする。

 大目玉を食らうかもしれない。


――はぁ、嫌だな……


 王子は無理だ。私には絶対無理。


 自信なさげな私を見かねたのか、変なフォローを入れてくるお父様。


「アンナは美しい。この国一番の美貌の持ち主だ」

「この国一番の美貌……」

「そうだ! この世にアンナよりも美しい女性はいない!」

「私が一番美しい……」

「王子がアンナの美貌に惚れないはずがない。だって、理由は分かるよね?」

「私がこの世で一番美しい……」

「そうだ! 王子と婚約するなんてわけはない。大丈夫だ!」


 不思議だ……なんやかんやでお見合いが成功する気がしてきた。


「任せてください! 今度こそ、頑張ります!」

 私はお父様に言った。


***


 自室に戻った私は王子攻略の戦略を立てることにした。


 とはいうものの、どうやって頑張ればいいのか?

 お父様の「この世で一番」は言い過ぎだとしても、私の容姿はイザベル王国でも群を抜いている。私の外見を理由にお見合いを断ってくる男はいないはず。

 そうすると……私の性格に問題があるのだろう。過去10回断ってきた男の反応を見ていると何となく分かる。


 男たちは「僕には不釣り合いだと思いますから」とか「僕よりもいい人がいると思いますから」とか「もう少し家庭的な人を伴侶にしたいと思っていて……」と私に言った。容姿については触れていないから、問題は私の性格・素行などによるものだ。


 お見合いでは、上品に振る舞うようにしているつもりだ。

 興味のない話を聞かされてアクビしたのがバレたのか、ぽっちゃりした男性に「デブ」と言ったのがダメだったのか、お見合い中にカッコイイ男性が通ったから「あの人、カッコよくない?」と聞いたのがダメだったのか……何がいけないのかは分からない。


 私が話すと男性にはマイナスの印象を与えているような気がする。

 河原で会った青年に「うるさい!」と言われたし……


 私の美貌を活かすためには、お見合いの席では何も話さない。この作戦だな……


 と、考えている間にお見合いの日がやってきた。


***


「この度は、素晴らしい縁談を頂きまして、誠にありがとうございます」


 仲人と談笑しているお父様はご機嫌だ。ここ数年で1、2を争う機嫌のよさだ。

 その機嫌を損なわないように私は頑張るしかない。


 お父様から聞いた話によると、この王子は縁談をことごとく断っているらしい。

 なんて羨ましいのでしょう……


――そんな王子のお眼鏡にかなうわけないでしょ……


 私は縁談をことごとく断られている。王子は私とは真逆の理由で婚約ができていない。


 私は王子が縁談を断り続ける理由を考えてみた。


――王子は面食いなのか?


 もし、そうだったら私にもチャンスはある。

 私の容姿はイザベル王国でも1,2を争うレベル(自称)。そんな美貌の私が喋らなければ、何とかなるかもしれない。



――性格に何か問題があるのか?


 完璧主義でお見合い相手の些細なミスを許せない。小姑みたいな王子と何十年も一緒に暮らすと疲れそうだ。だとすると……断った方がいいのかな?


 私が考えていたら、誰かがドアをノックした。クラーク王とその第三王子が到着したようだ。


「この度はお越し頂きありがとうございます」とお父様が2人を迎えに行く。

 クラーク王と王子はお父様に連れられてやってきた。


――えぇぇ?


 私の前に現れた王子は、河原で喧嘩した青年。

 その瞬間、私はこのお見合いが終わったことを悟った。


 このゲームは試合開始前から結果が分かっている。

 こういうのを出来レース(八百長)というのだろう。誰も得しない出来レースだ。


 お父様はニコニコして王子を見ている。が、私は心の中で『ごめんなさい!ごめんなさい!』と謝罪を続けた。


 私はクラーク王と王子に「はじめまして。アンナ・ド・マルカンです」と挨拶した。


 王子はちらっと私を見てから「ウィリアム・ジェームス・クラークだ」と言った。


 私に気付いた王子は、近づいてきて耳打ちした。


「お前がなんでここにいるんだ?」

「知らないわよ。お父様がお見合いを勝手に決めたのよ」

「昨日河原で叫んでたのに、もう次のお見合いかよ。切り替えが早いんだな?」

「しかたないじゃない。お見合いを断るわけにいかないでしょ」


 小声で話し続けるウィリアムと私を王様が不思議そうに見ている。


「珍しいではないか。ウィリアムが婚約者候補に興味を示すなんて」

「そうですか?」

「珍しい。そうだ、堅苦しい両家の挨拶は抜きにして、中庭に出て2人で話してきたらどうだね?」

 クラーク王はそう提案した。


 ウィリアムは「父上、そうさせていただきます」と言うと、私の手を取って中庭に向かった。

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