第29話 ブロッコリー農家になります
「姫神様、ご覧ください!」
そう言って少年が両手で差し出した見せたものは子犬のような大きさの生き物であった。
爬虫類のようなフォルムをしている。
足が6本のその生き物は少年の手の中でもそもそと動いている。
逃れたくて暴れていると言うのではなく己の元気さをアピールするかのような動きであった。
膝を曲げてその生き物に顔を近付けるとルクシオンは穏やかに微笑んだ。
「竜を……任されたのね。ジル」
「はい! 私の竜でございます! 地竜の幼生です。ギュリオンと名付けました。立派な成竜に育てて御覧に入れます! 見ていてください、姫神様!」
元気よく宣言してハーフエルフの少年は手の中の子竜を抱きしめた。
まるで陽光のように眩しい笑顔で。
……遠い過去の日の話である。
そして現在。
家族として愛情をかけて育ててきたその地竜の背にいるジルカイン。
「本当ならばお前も広い世界で自由に育ててやりたかった……。これまでの生涯の大半を
跪いて腰を落とした老人が地竜の背に並んだごつごつとした岩のような無数のトゲを優しく撫でる。
「お前がいてくれたから数百年もの絶望にも耐える事ができたのだ。……御蔭で姫神様のご復活も叶った。……もう少しだぞ、ギュリオン。裏切者どもの国を焼き払い、そこにもう1度姫神様の手でお前が自由に生きられる国を作り直して頂こう」
るるる、と低く地竜が喉を鳴らして応えた。
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人の波が続く。大勢が連なって、同じ方向へと向けて進んでいく。
大きな荷物を持つ者や荷馬を引く者……地平まで続いていて果てが見えない。
誰もが暗い顔で俯き気味に進む。
王都から脱出する人々の列である。
頭巾を被せられた幼い女の子が顔を上げて母親を見た。
「ママ、いつおうちに帰れるの……?」
問われた疲れた顔の母親はただ黙って悲しげに首を横に振ることしかできなかった。
そんな彼らの脇を数頭の馬が逆走して王都へ向かって走っていく。
「この先にキャンプがある!!! そこまで頑張って歩いてくれ!!!」
馬を走らせながら声を張り上げているのはスレイダーだ。
彼の言葉の通り、第5大隊の騎士たちが今避難民たちの為のキャンプを設営している所なのだ。
「いやぁ……聞いてはいたが改めてこうして見るとスゲぇなあ。都ってこんなに人間がいたんだな」
同じく馬を走らせながら暢気な事を言っているブランドン。
「これだって半分にも満たないでしょ。別方向に脱出してる集団もいるみたいだし、そもそも避難を拒んでいる人とか動けない人とかも多いってさ。困ったもんだね~」
馬を並べたノクターナの表情も口調とは裏腹に曇っていた。
眉間に皺を寄せて渋面になるスレイダー。
「これじゃ用意してるキャンプにゃとてもじゃないが収容し切らんぜ」
「だよなぁ。近隣の町に疎開の当てがある奴はなるべくそっちに回ってもらおうぜ。それにそうでない奴も限界まで収容してやってくれと各都市には使いを出してあるよ」
副隊長の言葉にようやくスレイダーの表情に幾分かの希望の光が差した。
「頼りになるぜブランドン!」
「まあオレはできるデブだからよ」
馬上で胸を反らすブランドン。
「……つっても全都市に分散させたってとてもじゃねえが収まる数じゃないがな」
一転猫背になってそう言葉を続ける副隊長である。
「早いとこ王都に帰してやれりゃいいんだが……」
言いながらスレイダーは目を細めて前方遠くを見やった。
豪胆な性格のこの男の頬を冷たい汗が伝っていく。
「おいおい……この位置からもう見えてるじゃねえかよ……」
そしてその言葉は掠れていた。
視線の先には都市部で伏せて動かない地竜がいる。
普段の王都の風景を知らずに見れば都の真ん中に小高い土が露出した丘があるように錯覚するだろう。
「ありゃ、どーにもならんだろ」
お手上げ、という感じでため息をつくブランドン。
「ああ、オレが全力で斬り付けたとしてあいつはそれを『攻撃された』と認識してくれんのかね」
「どうだかな。気付いてもくれなそうだ」
引き攣り気味の顔を見合わせる第5大隊長と副隊長だ。
「………………………」
視界に映る巨大生物にノクターナの記憶に蘇ってくる出来事がある。
あれはいつの事であったか……。
祖母と他愛の無い話をしている時に竜の話題になった事があった。
「……ドラゴン?」
「ああ、この国はね。竜の犠牲の上に出来た国なのさ」
そう語った時のゼノヴィクタは彼女にしては珍しく憂いを含んだ表情をしていた。
「いつかあんたにもその話をしてやらなくちゃね。教科書には載ってない話だ。私らだけはそれを語り継いでいかなきゃならないんだよ。今日の日の安寧が当然のものだと思わないようにね……」
静かな声で言う祖母をその時のノクターナはあまりピンとこない様子で見ていたのだが……。
バルディオン王国とカーライル王国の前はエル・ファリアスという1つの国であった事は誰でも知っている。
六百数十年前に蛮族王に滅ぼされたという国だ。
だが、その国がドラゴンと関係があったという話は誰からも習った事も聞いた事もない。
(おばあちゃん、これがあの時言ってた竜の犠牲の話の続きなのかな……?)
王都へ向けて馬を走らせながらそう思うノクターナであった。
────────────────────────
『あぁッ!!?』
王都のさる大通りの真っ只中で2人の上げた声が唱和した。
「……クリスティン・イクサ・マギウス!!!」
松葉杖を突いた全身包帯姿のジグラッドが叫んだ。
「……なんか刃物振り回してた地元のヤンキーの人!!!」
「違えわバカヤロウ!!!」
叫んでから胸に走った激痛に歯を食いしばってジグラッドが耐える。
リューにKOされた彼は全身を負傷している。
特に拳打を受けた胸の傷が酷い。
「あ、無理しない方がいいですよ」
「クソッタレがよ……。最悪だぜ。まさかこんなザマでテメェと遭遇する事になるとはなぁ。この前の仕返しがしてえなら絶好のチャンスだぞ。クリスティンよぉ」
痛みに脂汗を浮べながらも剣呑な視線を叩き付けてくるジグラッドにクリスが嘆息する。
「……しませんよ。そんなヤンキー的なメソッドで生きてないですから」
「じゃあ何をしてやがんだこんな所でよ」
ジグラッドの言葉にクリスが静まり返った街を振り返った。
「皆さんの避難のお手伝いをしていました。大体この辺りの人は退去できてると思います」
「なんでテメェがそんな事をする……?」
訝しげなジグラッド。
クリスは逆にきょとんとしている。
「え? なんでって……そんなの当たり前じゃないですか」
「…………………」
クリスティンの答えに金髪の親衛隊員は黙り込む。
そこにリューが早足で近付いてきた。
「どうした、クリスティン」
「リュー……ほら、この前リューが1発で伸したヤンキーの人がボロボロの状態で彷徨ってましたよ」
……ボロクソである。
顔を顰めたジグラッドは「コイツやっぱり根に持ってるんじゃないだろうか」と思った。
リューがそんなジグラッドをチラリと一瞥した。
「その女に用があるのなら俺への再戦が先だ。傷を癒してからにする事だな」
赤い髪の男の言葉に顔を顰めるジグラッド。
「チッ、上等だぜ。これで済ますつもりはねえぜ死神。この傷が癒えたらその時はお前……」
「何をごちゃごちゃやってんだい」
そこへ靴音を鳴らして近付いてくるもう1人。
褐色の肌の女傑キリエッタ。
「ンなあッッッッ!!!!!?? キリエッタ大隊長!!!???」
「なんだよまたジグラッドじゃないか。アタシはもう大隊長じゃないよ。アンタ何してんだいそんななりでさ」
零れ落ちそうなくらい目を見開いて、顎が外れそうなくらい口を大きく開いて驚愕しているジグラッド。
「な……なんで……? 何でキリエッタさんがコイツらと一緒に……???」
「は? いや、なんでって……」
返答に詰ったキリエッタがリューを見た。
「そ、そんなのアンタには関係ないだろ・・・…」
そしてやや頬を赤らめたキリエッタは目線を逸らして人差し指で軽く頬を掻いた。
がーん!!と実際に音が聞こえてきそうなほどわかりやすくショックを受けてジグラッドは見る見るうちに白く燃え尽きていく。
「あ、もういいっす。終わりました。全部終了です。自分、この後郷里に帰って農家やります。ブロッコリーとか育てますんで……緑でふわふわのブロッコリー……うふふふ……」
明後日の方向を向きながら虚ろな瞳で何やらぶつぶつ言い始めている。
クリスティンがキリエッタを振り返った。
「ちょっと……壊れちゃいましたけど……」
「あぁ? 何でアンタ、アタシが悪いみたいなタイミングでおかしくなるんだよ。正気に戻れってば」
げしげしとジグラッドの足を蹴るキリエッタ。
しかしジグラッドはまだ見ぬ未来のブロッコリー畑の幻覚を見ながら笑い続けるのであった。
「……おい、まだ逃げ遅れがいるぜ」
そこへ数頭の騎馬が蹄を鳴らして近付いてくる。
「お……なんだよ、死神じゃねえか」
馬の速度を落として近付いてきた馬上の男はスレイダーだ。
まずリューに目がいったらしい。
その彼に向かってキリエッタが軽く手を上げて挨拶した。
「それにキリエッタもか。奇遇……ってわけでもなさそうだな。オレもたった今飛んで戻ってきた所でよ。ちと話を聞かせてくれよ」
軽く笑った無精ひげの男の後ろからブランドンとノクターナが乗った馬もやってきた。
────────────────────────
一同は大通りに面した大きなレストランに一旦腰を落ち着けた。
店の者たちは全員避難を終えていて店の中にスタッフは誰もいない。
集まっているのはクリスティン一行とスレイダーとブランドンとノクターナ。
互いに面識のない者は自己紹介を済ませる。
そして白猫アルゴールによって王都で起こった一連の事件とその裏にいた者……エル・ファリアスの姫だったルクシオンの存在が告げられたのだった。
「……いやぁ、もう。なんつーかよ……」
テーブルに行儀悪く片肘を突いて手の上に顎を乗せているスレイダーは半眼である。
「ワケわかんねーわ。話のスケールがデカすぎるっつーの。まずそもそも何でそれを説明してるのが猫なんだよ。そっからしてワケわからん。後、この人の素性に付いては聞かなかった事にするぞ」
「何でですか、じゅぴたんって呼んで下さいよ」
眼鏡の妖精王はご不満そうだった。
「いや怖いよ。その気さくさも怖さを増してるっつの。あんたエルフの世界じゃ神サマみたいな人じゃん」
「そんな事はありませんよ。長生きしているので少々物知りなだけの愉快なお兄さんです」
眼鏡の奥の瞳を涼やかに光らせて微笑むジュピター。
何と言うか……容姿ととぼけた言動がいまいちマッチしていない人物である。
そんな彼を見てティーカップをソーサーに置いたノクターナ。
「それで妖精王様。あっちのでっかいのはその何とかサマの関係なのかな?」
「じゅぴたんです。……そうですね。間違いなく彼女の差し金でしょう。恐らくですが国境線の戦いはバルディオン側が優勢なのでは? 彼らの当初の予定では双方の軍を殺し合わせるはずだった。ところが強さが拮抗していない。なのでバランス調整の為に送り込まれたドラゴンなのではないでしょうかね」
ジュピターの言葉に戦場から折り返してきた3人が顔を見合わせる。
「ご慧眼。確かに国境線はうちが優勢だ。向こうは数が多いが浮き足立ってて統率が取れてねえ。あれじゃ聖堂騎士団の守りは突破できねえよ」
スレイダーはそう言って肩を竦める。
「……とはいえ、このままじゃ国境線で勝っても帰る家が無くなっちまうなあ」
腹が減ってきたのか表情にも声にも力が無いブランドンだ。
「はい、お待たせしました。お食事にしましょうね」
「出たなラーメン」
トレイを両手に出てきたエプロン姿のクリスティンを見てメイヤーが言う。
リューとクリスティンは厨房を勝手に拝借してこれを作っていたのだった。
「わはー! 待ってたぜ!!」
一瞬にして元気を取り戻したブランドンが立ち上がった。
────────────────────────
とても一国がどうにかなってしまうのではないかという危難の中とも思えない和やかで賑やかな食事風景だった。
「な~るほどね~。この味でキリエッタはハートを鷲掴みにされちゃったわけだぁ」
「違うってえのおバカ。アタシだって食べさせてもらったのは極最近になってからだよ」
食事を終えて口元を上品に拭っているノクターナと、その彼女をジロリと睨んでいるキリエッタ。
「……こりゃ美味えわ。レオンがデブって帰ってくるわけだ。さて、これでオレたちの目的も達成された事だし帰るとするかあ」
「達成されてねえんだよ。むしろ始まってもいねえんだよ」
満足し切ってしまった副官の頭を殴るスレイダー。
「あの大きなドラゴンの上に人がいたぞ」
不意に口を開いたカエデの言葉に全員の視線が彼女に集中する。
「あのドラゴン女か?」
メイヤーが問うとカエデは首を横に振った。
「いいや違う。大きな爺さんだった。ドラゴンの背だか頭だかよくわからないけど、そこに1人で立ってた」
「飼い主の人……でしょうかね?」
クリスティンの言葉にジュピターが肯く。
「可能性はありますね。レム・ファリアスのドラゴンたちには主人の立場のパートナーがいる事が一般的でした。ルクシオンさんが何もかもを1人でやっていたとは考えにくい。恐らくはカーライル側で工作を行っていた仲間がいるはずです」
「ふぅん、その爺さんをどうにかすればアイツはこれ以上暴れないってワケかい?」
キリエッタは幾分か表情を明るいものにする。
だがジュピターは反対に腕組みして眉をひそめる。
「……どうでしょうか? コントロールを失って暴走を始める可能性もありますね。とはいえ、いずれにせよその老人、放置はできませんね」
妖精王の言葉に全員が同意する。
「そうだな。仕返しが目的ならうちの副隊長の腹にぶつけろって言ってやんねえとな」
「オイオイ、オレの贅肉は確かに時としてクッションの役割を果たすがよ。それにしたってそこまでの期待をかけられちゃ困るぜ」
漫才のような気の抜けるやり取りをする第5大隊の2人であった。
「食器を洗ったら俺が行ってくる。お前たちは待機していろ」
「待ちなよ。アタシも行くって……後食器もアタシが洗うよ。アンタは知らないだろうけどこのキリエッタさんは結構家庭的な一面もあるんだからね」
丼を片付け始めたリューにキリエッタも立ち上がる。
「お前なあ……オレらの国の問題だぞこれは。余所モンにそこまでさせて指咥えて見てましたじゃ男が廃るぜ」
「そういうこった。美味えもん食わせてもらった礼に肉の壁くらいはやらんとな」
ニヤリと笑ったスレイダーとブランドン。
ノクターナは「パス」と人差し指で×マークを作った。
「ウチは残るね。街を回ってみるよ。本格的に暴れ始めたら無理やりにでも避難させなきゃいけない人もいるだろうしね~」
「私も行かんぞ。……まあ最初から私にそういう役割は期待しておらんだろうがな」
肩を竦めるメイヤー。
「私もお留守番です。……自慢ではありませんが私、びっくりするくらい弱いので」
自慢ではないとは言いつつ何故か自慢げなジュピターである。
────────────────────────
クリスティンたちは伏せたまま眠ったように目を閉じて動かない地竜を大きく迂回し、尾の側へとやってきた。
顔面側から登ろうかと言う案もあったのだが、
「そのまま食われそう」
「マグマ吐かれてコゲそう」
と言った意見が出た為に却下されたのだ。
地竜の背に上がるメンバーはリューとクリスティン、そしてキリエッタとカエデと第5大隊の2人組。
その6人であった。
「……これ、踏んで大丈夫なのかよ」
不安そうに尾の先端を軽く爪先で小突いているスレイダー。
全体的に平べったい体型をしている地竜はその尾も平べったい。
最も細い先端ですらその幅は2m近くある。
上を歩く分には支障はなさそうだが……。
あくまでもそれは尾が動かなければの話だ。
「ダメなら飛び降りるだけだ」
そう言ってリューは臆せず尾の上を歩き始めてしまう。
「お前らは良くてもオレが踏んだらキレるんじゃねえのか?」
重量級のブランドンがイヤそうな顔をしていた。
実際には全員が乗っても地竜は微動だにせず一行は早足で尾の上を進む。
踏んだら柔らかいというような事も無くその名のように大地を踏みしめているかのような感触が靴に伝わってくる。
「……これが背中の上ってかい? 運動会ができそうだねえ」
呆れたように言うキリエッタ。
実際に彼女の言う通りであった。
開けて平らな背の上は軍隊が横に広がって行進できそうな広さがある。
……そして、その老人は一行を頭部の上で待ち構えていた。
ローブの上からでもその内の盛り上がった筋肉量が察せられる巨躯の男は腕組みをして来訪者をねめつけている。
「地竜の背を臆せずに進んでくるか。その胆力は褒めてやろう」
顔の下半分を覆った分厚い白い髭の下からしわがれた低い声で言うジルカイン。
「あなたは……ルクシオンさんのお仲間なのでしょうか?」
「そうだ。我が名はジルカイン・タウゼン。あの御方の従者を務めるもの……そして、あの御方の敵を打ち払う牙にして爪よ」
眼光鋭く名乗ったジルカイン。
威圧感が増す。
実際に強風が彼の方から吹き付けてくるようである。
「こりゃ……お話し合いの余地はなさそうだな」
冷や汗を拭ったスレイダーの口元に浮かぶ引き攣った笑み。
「話し合いだと? 今更何を話すというのだ。ここまでやってきてあの御方の名を口にした以上はお前たちもこの国がひた隠しにしてきたドス黒い真実は聞いているのだろう」
「はん、自分らが酷い目に合わされたからってそれを子孫にやり返してやろうってかい?」
ビシッ!と足元を鞭で強く打つキリエッタ。
当然のように地竜はそんなものでは微動だにしない。
「あくまでもお前たちがこの国にこだわるのならだ。事情も知らぬ今の時代を生きるお前たちが受けるこの仕打ちが哀れとほんの少しは思わぬでもない。国を捨て遠くへ逃げ去るというのであれば追ってまで傷付けようとは思わん」
ジルカインは胸の前に持ち上げた右手でグッと拳を固めた。
まるで何かを掴み取るかのように。
「我らはお前たちが卑怯な手で奪い取った国を取り戻す!!! ……まずはそれが大事。民への報復などほんのついでの話だ」
「………………………………」
沈黙が舞い降りる。
クリスティンたちは皆言葉も無い。
わかってはいた事である。
話し合いで歩み寄れるようなものではないのだと、覚悟はして来ている。
だがそれでも眼前の老人の放つ執念の威圧感は何もせずとも膝を屈しそうなほどの強さであった。
「やらせねえ。……例えお前らに更に恨みを重ねさせることになったとしてもな」
長剣を抜いてスレイダーが1歩前に踏み出した。
それを見るクリスが辛そうに顔を歪める。
どうしようもないとは理解していても……ただ、哀しい。
反面、ローブの老人は喉を鳴らして笑っている。
「フッフッフ……腕利きを集めて最後には力で事を通そうとするか。そう思う通りに行けばよいがな。……いいだろう。かかってくるがいい」
ジルカインは手甲を装着した。
手の甲の部分に鋭く長い3本の爪が植えてある金属製の篭手である。
「このジルカインに真正面から挑んできた事だけは褒めてやろう。遠慮はいらぬ……全員でこい!!!」
構えを取り咆哮するジルカイン。
眼前の巨影に向け、スレイダーが、リューが……そしてキリエッタが同時に竜の背を蹴っていた。
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