第28話 怨念のマグマ

 ホテルの一室に食欲をそそる甘い香りが漂う。

 こんがりきつね色に焼きあがったパンケーキ。

 3枚重ねのそれにメープルシロップがかかっている。


「まあ、そういうわけなのでお昼はパンケーキです」


 エプロン姿のクリスティンが一同を見回す。

 パンケーキは彼女とジュピターが焼いてきたものだ。


「いや、全然どういうわけかわかんないけど」

「この量は私にはキツいわい」


 キリエッタとメイヤーが複雑な表情で思い思いに感想を口にしている横でカエデは無心にパンケーキを頬張っていた。


 妖精王ジュピター、大森林から来たエルフたちの王。

 彼はクリスティンにそれまで知らなかった様々な歴史の真実を語って聞かせた。

 このバルディオン王国のあった土地にかつてあったエル・ファリアスという王国の話。

 そこは人と竜が共に暮らす国。竜の血を引く指導者たちによって代々治められてきた国。

 しかし時は流れ徐々に竜とその血を引くものは数を減らしていき、そうではない純粋な人間は数を増やしていった。


 その結果、反乱が起きてしまったのだ。

 人間たちによる竜とその眷属への反逆である。


 指導者ルクシオンは亜空間に封印され残った竜や眷属たちは皆、封印されるか殺されてしまった。

 そうしてエル・ファリアスは滅亡したのだ。

 そして反乱の主導者だった騎士フォルキス・バルディオンと賢人アルタナ・カーライルは王国の跡地を二分し自らを王とする2つの国家を立ち上げたのだった。


 ……つまりあの青い鎧の女騎士、ルクシオンにとってはバルディオンとカーライルの2つの国とは裏切りによって滅ぼされた自分の国を裏切者たちが山分けして作った国という事になるわけだ。


(そう聞くと両方の国に戦争させたがっているっていうあの人の動機はわからなくもないんですけど、今の時代の人たちはそういう事はなんにも知らない人たちなわけで……)


 むむむ、とフォークを手に難しい顔をしているクリスティン。


 そんな彼女がふと気付くと正面に座っているリューも何やら複雑そうな表情をしている。

 ただこれは彼女だからそう見えるだけで他の者たちからは彼は普段の無表情だとしか思われていない。


「お気に召しませんでしたか?」

「そんな事はない」


 淀みなく答えたリューであったが、この時確かに彼は自分自身内心にどこか平常時にはないもやもやとした感情がある事を自覚している。

 だがその感情の源がクリスがジュピターと一緒に調理をした、という事実に対する微かな嫉妬であることには気付けていないのであった。


「……無くなってしまったぞ」


 食べ終えたカエデが酷くがっかりした様子で肩を落としている。


「また焼いてあげますよ」


 そんな彼女に笑顔を見せて言うクリスティンであった。


 ────────────────────


 1匹の飛竜ワイバーンが舞い降りてくる。


 バルディオン王都を一望できる小高い丘の上に降下した竜。

 その背には灰色のローブの大柄な老人が跨っている。


 ジルカイン・タウゼン……かつてエル・ファリアス王国で姫神ルクシオンの従者を務めていたハーフエルフ。

 彼は反逆により王国が滅びた後に捕らえられ数十年を牢獄で過ごした。

 獄に繋がれている間ひたすらに彼は従順で模範的な虜囚を演じ続けた。

 そうして反逆の意思無しとみなされ、また竜の血を引くものではないという理由で釈放される。


 そして彼はルクシオンが封印されている遺跡……当時は神殿であった……を見つけ百年以上をかけて見張りが置かれなくなるのを待ち、そこから更に数百年の時を掛けて少しずつ外側から封印を弱めようやく主を開放するに至ったのだ。


 種族としての平均寿命はもう百年以上前に過ぎ去っている。

 ……執念と怒りが彼を生かしていた。


 王国を見やり仁王立ちする巨漢の老人。

 握りしめた拳には血管が浮いて微かに震えている。


「……おのれッ……おのれ! フォルキス・バルディオン……!!」


 怨念を込めて眼下の国の祖となった男の名を呼ぶジルカイン。

 レム・ファリアスの騎士団長を務めていた男、フォルキス。

 竜の血は引いていない純粋な人間だったが、努力と誠実さで重用されていた。


 ……そして、彼はその信頼を裏切った。


「許せん!! 許せん……許せんぞ!!!! 六百年以上経とうが些かもこの怒り薄れることはないわ!!!」


 はぁはぁと荒い息を吐く老人。

 真っ白な分厚い口髭の下の口元に覗く歯がギリギリと鳴っている。


「……まったく、我ながら六百年以上ブチ切れ続けてよく頭の血管切れて死なんものよ」


 独り言ちて懐から何かを取り出したジルカイン。

 それは土笛であった。

 単なる笛ではない。これも聖遺物と理屈を同じくする竜の魔術の込められたアイテムである。


「ようやく、私とお前で姫神様のお役に立つ時が来たぞ、ギュリオン」


 呟いて笛を口に当てる老人。


 牧歌的でどこか物悲しいメロディーが丘に流れる。


 ピシッ!と音を立てて空にヒビが入った。

 それは一直線にどこまでも伸びていく。

 漆黒の裂け目が、長く長く……。

 その、向こう側に……何かがいる。

 巨大な何かが。


 るるるるるる……。


 低い唸り声が空から響いてくる。


 そしてその巨大な何かは……ゆっくりと空の裂け目から這い出してきた。


 ────────────────────


 始まりは地震だった。


 ドン!と何かが下から突き上げてくるような衝撃にクリスティンたちのいるホテルの部屋が大きく揺れる。

 棚の上の物がいくつか床に落ち、窓ガラスにヒビが入った。


 全員が緊張した面持ちで身構えている。

 初めの大きな縦揺れ以降大きな揺れはきていない。

 だが小さな揺れが断続的に続いている。


「な、なんだなんだ……何が起こっとる?」


 慌てて窓辺に駆け寄ったメイヤー。


「……………………」


 そして彼は窓の外のそれを目にして口を大きく開けて固まってしまった。

 彼に続いて窓辺に向かったクリスたちも同じものを見る。


 未だ遠く。

 都の中央部のこのホテルから見えるそれは王都外周の城壁部分にいた。

 だがそれなのにもうこの位置から目視ができる。


 ……例えるならば動く山。

 いや、形状からは丘と呼んだ方が良いか。


 砂色の巨大な丘がゆっくりとこちらへ、王都の中心部へと向かってきているのだ。

 細かな揺れはそれが動いて起きているらしい。


「地竜……ですね」


 ジュピターが眼鏡の奥の瞳を細めて言う。


「エル・ファリアス滅亡からは人の暮らす領域で目にすることはなくなったドラゴンの一種です。私は見たことがありますがあれほどのサイズのものは初めてです。相当巨大な個体ですね」

「あれがドラゴンか。実に興味深い」


 白猫のアルゴールが状況にそぐわぬ緊迫感のない口調で言う。


 地竜……グランドドラゴンとも呼称されるこの巨大な生物はジュピターの言う通り古代竜の一種である。

 形状は背中や頭部の上は尖った岩が細かく並んでいるような見た目で全体的なシルエットは這って動くトカゲやサンショウウオに近い。

 目が左右二対で四つあり、脚は左右三対で六本ある。

 脚は短めでほとんど腹を擦るようにして移動するため地竜が通った後はローラーに掛けられたかのように何もかもが壊され潰され平たい瓦礫の山が残るのみであった。


「……あれも、あのルクシオンの差し金なのかい? あんなものどうすりゃいいんだよ」


 さしものキリエッタもげんなりとした様子で脱力していた。

 それも無理もない話。

 圧倒的なサイズ差……もはや鱗を貫くとかどうとかいう話ではない。

 下手をすれば一般的なサイズの長剣では根元まで突き刺した所で肉に届かない可能性もある。


「…………………………」


 眉を顰めてリューも厳しい顔をしている。

 だが、赤い髪の男は茫然としているわけではない。


 まともに攻撃して通じなそうであればどこならばダメージを与えられるのか?

 皮膚の薄そうな部位は? 目は? 罠を仕掛けるのであればどのようなものが有効そうなのか?

 毒は効くのか?

 ……彼は今そんな事を考えている。


「うっ、うわわわわ……口を開けましたよ!!」


 動転して叫んでいるクリス。

 彼女の言う通り、遠方の地竜が大きく口を開いている。

 地竜は頭部と胴体がほぼ一体化していて首がない。

 広がる裂け目は胴体の中程まで到達し尾を除く身体すべての半分近くが口であるという事実が目撃者たるクリスティンたちを戦慄させる。


「何をするつもり……」


 カエデが言いかけたその時バルディオン王都を赤い輝きが照らした。


「なんだ……ッッッ!!!??」


 叫ぶメイヤー。

 熱気が遠く離れたここまで届く。

 溶岩……地竜は大きく開いた口からマグマを吐き散らしたのだ。

 それは広範囲に渡って都に降り注ぎ建造物を破壊しつつ炎を生む。


 そこかしこで火の手が上がる都。

 地獄のような光景が広がりつつある。


「これはいけませんね。皆さんを避難させなくては」

「あ、私も行きます……!!」


 足早に部屋を出ていくジュピターに続いたクリスティン。


「やれやれとんでもない事になってきおったわい……!!」

「はぁ、修行する暇もあったもんじゃないね」


 そしてそれに仲間たちが続く。

 どたばたと慌ただしく出ていき無人となった部屋でカーテンが風に揺れていた。


 ────────────────────


 巨大な地竜の背の上でジルカインが拳を振りかざす。


「やれェい!! やってしまえギュリオン!! 裏切りものどもの都を破壊しろ!! 焼き尽くしてやれ!!!」


 そして老人はハッと我に返った。


「……ぬぅ、いかん。やり過ぎてはいかんのだ」


 自らの目的を思い出す。

 王都を破壊しつくす事がこの老人の本来の目的ではない。

 本当ならばこの都を蹂躙するのはカーライル兵であったはずなのだ。

 裏切り者の2人が作った国を互いに殺し合わせるのが彼らの復讐なのだ。


 ……でいいのならもうとっくにそうしていた。


 そうして焼け野原に変えた2国に封印を解いた主を迎えていたはずだ。

 だがジルカインはそうはしなかった。

 そんなもので自分の数百年分の怒りと憎しみが……そして悲しみと失望の中で死を迎えていった同胞たちの無念が晴れるはずがない。

 惨劇は自分たちの手で起こさせるのだ。

 裏切り者たちの末裔を互いに殺し合わせるのだ。


 それこそが……天の裁きであるはずなのだ。


「……よし、一旦止めるのだギュリオン」


 足元の地竜の頭部に手を当てて静かに語り掛けるジルカイン。

 すると素直にドラゴンは動きを止めた。


「いい子だ。次に暴れるのは聖堂騎士団の連中が戻ってきてからだ」


 ……この報せを聞けば聖堂騎士団は兵力を二分して王都に駆け付けざるを得ないだろう。

 その戻ってきた連中を蹂躙した後にカーライル軍を再度進撃させる。

 今度はバルディオン側は防ぎ切れまい。

 当初の予定であった両国の指導者を傀儡として長く戦争を続けさせる計画は既に頓挫してしまっている。

 ならば致し方なし。


「双方の軍を壊滅的状況に陥らせ自分たちを守るものはもういないのだと民を絶望させた後にお前と私で両国を焼き尽くすとしよう。不格好になってしまったが……仕方がない」


 地竜の背で苦々しげに呟いたジルカインであった。


 ────────────────────


 ヒルダリアが女王に即位してから今日まで多くの重臣たちが罷免さえ城を追い出されてきた。

 後に残ったものは毒にも薬にもならない者ばかりである。

 彼らは王都がこの惨事に見舞われた今も登場しようとはせず屋敷に籠っている。

 理由は様々だ。

 体調を崩している。

 女王に許可があるまでは待機せよと命じられている。

 ……等だ。

 中には既に財産を抱えて都を脱出してしまっている者もいた。


 先日の騒動で一部が破壊された王城。

 今ここには女王の親衛隊の極一部のみが残っている。

 負傷して女王の出陣に同行できなかった者たちだ。


 今も荒れた城のロビーで崩れた壁の大きな瓦礫に騎士が2人腰を下ろしてぼんやりとしている。


「城下にドラゴンが出たんだってよ」

「……そうか」


 気の抜けた力ない言葉を交わす親衛隊の騎士。

 全てが他人事のように言葉の意味は脳には入ってきても心には染みていかないのだ。


「……この国は滅ぶのかな」

「………………………」


 問いに返答はなかった。

 言葉に詰まったのか、またはもう声を出す気力もないのか……。


 そこにカツンカツンと何かで床を突くような音が近付いてきた。


「なんだァ? オイ、残ってるのがいるじゃねえかよ」


 不機嫌そうに鼻を鳴らした松葉杖を持った金髪の男。


「じ、ジグラッドさん!!」


 慌てて騎士たちは立ち上がって敬礼をする。

 その2人を全身包帯まみれのジグラッドがギロリと睨み付けた。


「おめェら、今がどういう状況かわかってやがるのかよ。んなとこで座って惚けてやがってよぉ」

「でも……ジグラッドさん。女王様も隊長もいなくなっちまって……女王様は亡くなったとか言ってる奴もいるし、オレらもうどうしたらいいのか……」


 ガン!と松葉杖で殴られて騎士の言葉が止まった。

 負傷するほどの強さの殴打ではない。

 最も加減したという意味ではなくもう殴った方の男が満身創痍のせいだ。

 その証拠に殴られた方ではなく殴ったジグラッドの方が顔を顰めて歯を食いしばっている。


「女王だ隊長だって今はそれどころじゃねえだろうが! 城下でクソ馬鹿でけえバケモンが暴れてやがるんだぞ!! 聖堂騎士団が出払ってる今、オレらが街の連中を逃がしてやんなきゃいけねえだろうがよ!!」


 怒鳴りつけてから松葉杖の先を騎士の喉元に突き付けるジグラッド。


「とりあえず残ってる奴ら全員かき集めてこい……!!」

「りょ、了解しましたッッ!!」


 慌ただしく走り去っていく2人の騎士。


「……ああ、クソッ! なんでオレがこんな真似しなきゃならねえんだよ。本当にツイてねえぜ」


 その背を見送りジグラッドが毒づいた。


 ────────────────────


 ……王都に巨大な怪物現る。

 その報は地竜出現から凡そ4時間半後に国境線近くの聖堂騎士団本陣に届けられた。


 再び集合した騎士団長と大隊長たちは全員疲労を感じさせる険しい表情をしている。


「バカでけえバケモンってのはなんなんスかね……」


 うんざりした様子のスレイダーにウィルベルトは首を横に振る。


「とにかく山のように巨大で火を吐く生き物か……。伝令もかなり混乱していたようだが、いい加減な事を言っているようには見えなかったな」

「でかくて火を吐く……か。まるでドラゴンっすね」


 乾いた笑いを浮かべて肩を竦めたスレイダー。


「まるで、じゃないよ」


 不意にしわがれ声がして皆が発言者の方を見た。

 視線が集まった先にいるのは小柄な老婆……大隊長ゼノヴィクタだ。


「何せうちの国は竜には因縁深い国だからねえ」

「……ゼノ婆」


 咎めるように言うウィルベルト団長。

 そんな団長を下から大きな目で見上げるゼノヴィクタ。


「あんたはどう思ってるんだい? ウィル。今回のこの戦争も……振り返ればそれ以前からも私ぁ腑に落ちないことだらけだったよ。女王陛下が乱心とも取れる行動に出たこともだ。……もしも……もしもだよ。全ての裏側にがあったとしたら……」

「ゼノ婆、今ここでそれを論じてもどうにもならん」


 団長の声は重苦しい。

 彼自身疑念を抑え込んで発言しているのがわかる。


「件の生き物がドラゴンなのかそうではないのか……いかなる目的を持って王都に現れたのか。例えそれがどうであっても、我らのやるべき事は変わらんのだ」


 そして老団長はスレイダーを見た。


「スレイダー、急ぎ大隊を率いて都へ戻ってくれ。巨大生物の正体がいかなるものかを見極め民を逃がすのだ」

「了解っす。ま、そういう仕事は第5うち向きですわな」


 立ち上がった無精ひげの男。

 彼の大隊は聖遺物を所持する騎士が所属していない。

 その為戦場であえて孤立させた聖遺物を所持した騎士が大勢を聖域に取り込む、といった戦術は使えない。

 そういう意味で戦場に残すべきは他の大隊だ。

 そして都の下町出身者の多い隊員たちは地理に明るく王都において小回りが利くのだ。

 避難誘導においては最も適したメンバーであると言える。


「無理はするなよ。もはや聖堂騎士団も僅かな欠員も許容できる状態ではないのでな」

「肝に命じときますよ」


 頷いて敬礼をしてから第5大隊長は陣を出て行った。


「……ノクターナ」

「ん、何? おばあちゃん」


 ゼノヴィクタが背後の孫娘に振り替える。

 ノクターナはきょとんとしている。


「あんたもお行き。あんたの聖域は取り込んだものを殺傷しない世界だ。いざって時に避難に使えるだろ」

「あ、そゆこと。ハーイ、わっかりました~」


 軽いノリで敬礼をするとノクターナも立ち上がった。


「おばあちゃんも気を付けてよね?」

「私は曾孫の顔を見るまでくたばりゃしないよ。余計な心配さね」


 祖母の言葉にたはは、と苦笑してノクターナも出立する。


「すまないね、あんたたち。本当にこれが古い時代の恨みつらみから来るものならできれば私ら年寄り連中が引き受けてやりたいが……」

「………………………」


 ゼノヴィクタの言葉にウィルベルト団長が無言で俯いた。


 ────────────────────


 自陣に戻ったスレイダーはすぐに副隊長以下主だったメンバーを集めた。

 副隊長のブランドンを始め、クリード、レオン、ガブリエルといった面々だ。


「てなわけでよ。都に引き返すぞお前ら」

「まったく。のんびりメシ食ってる暇もねえな」


 そう言いながらもブランドンはパンを齧っている。

 これが彼の真面目モードでもあるのだ。

 副隊長ブランドンは空腹になるとポンコツになる。


「いいか。今回の俺たちの仕事はまずは都の連中を安全に逃がすことだぞ」


 言いながらスレイダーは先ほど本陣で聞いた伝令の兵士の説明を思い出していた。


(……まあ、つっても伝令がパニくってわけわからん事言ってたってんでもなきゃ、どっちみち俺らにできるのは避難の手伝いくらいだろうがな。城よりでけえ生き物ってなんなんだそりゃ?)


 伝令の兵士はそう言っていたのだ。

 王城よりも巨大な生物が暴れている、と……。

 オマケにそいつは口から火を吐くらしい。


 ……ドラゴン。

 それはスレイダーたちにとってはお伽噺の生き物だ。

 ワイバーンやその他『亜竜』と呼ばれる竜の亜種は多々存在し見かけることもあるがそういうものとはまったく異なる『本当のドラゴン』は今の時代に人類領域に姿を見せることは非常に稀なのである。


 そこにひょいと顔を出した黒髪の美女。


「ヘーイ、お元気? 男の子たち」


 ウィンクしつつ投げキッスを1つ飛ばしたノクターナ。

 急に笑顔になって手を振っている部下たちを尻目にスレイダーが彼女を見る。


「ノクターナ? どうした?」

「あんさ、ウチも一緒行くんで。ご一緒させてよね。1人で行くの寂しいから」


 よろしく、とノクターナは両手でピースサインを出している。


「そいつぁ頼もしいな。ま、ご覧の通りのむさ苦しい隊だが」


 苦笑して振り返ったスレイダー。

 そこではブランドンや他の騎士たちが何故か満面の笑顔で万歳しているのだった。


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