第30話 背負っているもの
……その老人は己の半生を『突破』に費やしてきた。
大切なものを守る事ができなかった後悔から己を鍛え続けてきた彼。
己の弱さからの突破。
更には種族としての平均寿命すら大きく突破して現在も活動を続けている。
そして、そんな彼が最も心血を注いだものが己の主を縛る戒めの突破だ。
自らの主を封印した神殿を裏切り者どもは衛兵を置いて厳重に守っていた。
まずは百年以上の時をじっと伏せて待った。
毎日神殿を守っていた衛兵はやがて数日に1度の見回りになり、月に1度になり、年に1度になり……神殿が遺跡と呼ばれるようになる頃には誰もそこを訪れる者はいなくなった。
その頃には小柄だった少年は鍛え上げられた鋼の肉体を誇る大男に成長していた。
主を封印したのは竜の力を使った結界だ。
それを穿てるのもまた竜の力を持つもののみ。
ドラゴンの爪を杭にして封印の結界を削っていく。
それは気の遠くなるような長い年月のかかる過酷な作業であった。
……そうして数百年を費やし、遂に彼は己の主の解放に成功したのである。
────────────────────
「ぬうううううううんッッッ!!!!」
矢継ぎ早に繰り出される鋼鉄の爪が虚空を引き裂いていく。
無数の爪撃を掻い潜りながらキリエッタの放った鋭い鞭の一撃が老人の肩を打ち据えた。
「……チッ!!」
舌打ちをして表情を歪めるキリエッタ。
鞭はローブを裂いたがダメージを与えられていない。
この男も主であるルクシオンと同様に身体を護る魔力の皮膜『
……そこまではいい。
それは予想はできた事だ。
だが、予想できていなかったのはこの老人の肉弾戦闘の実力だった。
「クソッタレがオイ!! 強すぎるわバケモンかこのジジイ!!」
スレイダーが叫ぶ。
そう、ドラゴンスケイルで傷が付けられないという点を差し引いてもジルカインの体捌きは凄まじいレベルであり、攻防は4対1でほぼ互角という状態である。
ちなみに4と言ったのはクリスティンとカエデの2人はレベル差から戦いに加われていないからだ。
迂闊に割って入れば戦力にならないどころか味方の邪魔になる。
(……強い)
リューの攻撃も悉く捌かれている。
まともに受けてもダメージは無いはずだが老人はそうはしない。
攻撃のほとんどを捌いて回避しているのだ。
多勢なのでいくつかの攻撃は彼の護りを抜いて命中しているがその被弾はドラゴンスケイルで相殺している。
(だが、ありがたい)
今、赤い髪の男の心中にあるものは絶望ではない。
対ルクシオン戦の戦術として用意している高速流動させたオーラを纏わせた攻撃……その修練に相手が欲しいと思っていた。
目の前の男ほど最適の相手は他にいるまい。
同じ事を鞭を振るうキリエッタも今考えている。
(この爺さんがやれなきゃ、アイツと戦おうなんて口にする資格もないって事さね)
そんな2人にスレイダーは少なからず驚愕していた。
「何なんだコイツら。割と絶望的な状況だっつのによ……キレが増していきやがる……」
同じ事を迎え撃つジルカインも考えている。
「早々に心折れるかと思っていたが。中々どうして……」
ならば、と老人が深く踏み込んで肩を落とした。
飛び掛る寸前の猛虎のような体勢で全身からオーラを噴き上げる。
「こちらも更なる力にて粉砕するのみ!!!」
突進からの猛攻。
狙う先にいるリューとキリエッタ。
だがその前に立ちはだかった2人。
「なんか手があるんだな!!?? そのやる気はそういう事だろ!!??」
叫んだ無精ひげの男。
「信じたぞコノヤロー!!! それまでオレらが盾になってやるぜ!!!」
リューたちを護るようにスレイダーとブランドンの2人がそれぞれの武器を構えてジルカインを迎撃する。
「どけェい!!! 木っ端どもがあッッッ!!!!」
「悪いな!! ちっと贅肉がお邪魔するぜえ!!!」
鋼の爪で無数の傷を刻まれながらも不敵に笑うブランドン。
自らの血で汚れた顔で白い歯が光る。
「……クッソ、いってええ!! だがまだまだ持ちこたえてみせるぜ!! カーチャン、贅肉だらけで産んでくれてありがとうよ!!」
「贅肉だらけなの自分のせいだろ!! カーチャンのせいにすんな!!!」
血まみれの2人が決死の抵抗を試みながらも軽口を叩き合っている。
(こやつら……)
目の前の障害を取るに足らぬものだと決め付けていたジルカインの表情が変わる。
腕は立つ……だが、それでも自分をどうにかできるようなレベルではない。
そもそもが連中には自分に掠り傷1つ負わせることはできないのだ。
それなのに……。
肌が粟立つ。
耳の奥が鳴っている。
本能が……自身の危機を告げている。
そんな予感がある。
「邪魔をするな!!! 砕け散れぇぇぇい!!!!!」
繰り出された右の鋼の爪がブランドンの構えた大斧を弾き……。
そして腹部に炸裂した。
「………ッッ!!!!」
腹部に爪を埋められたブランドン。
彼は鮮血を吐きながら声無き叫びを上げる。
「ブランドン!!!!」
悲痛なスレイダーの叫びが竜の背に木霊した。
(まずは1人!!! ……ぬぅッッ!!!??)
引き戻そうとした拳に抵抗がある。
見れば斧を投げ捨てたブランドンが両手で自らの腹部に爪を突き刺しているジルカインの右腕を掴んでいた。
「……まぁまぁ……もうちょい遊んでけや……オジイチャンよ……」
血だらけの口元に凄絶な笑みを浮べるブランドン。
その瞬間、その彼の背後から飛び出した2つの影があった。
「!!!!!」
目を見開いたジルカイン。
右腕を掴まれていてがら空きの右わき腹を狙って鋭く鞭が一閃する。
サソリの尾の一撃に準えられる鞭打は今は流動するオーラを纏っていた。
鞭を覆う薄い流動するオーラの皮膜が魔力の層を削りながら打つ。
「……ッッッ!!!!!」
今までに無い衝撃が全身に走る。
歯を食いしばったジルカイン。
だが、その攻撃はまだスケイルの障壁を破るには至らない。
「くはぁッッ!!!」
老人が息を大きく吐いた。
だがリーチの長いキリエッタの先手の一撃に続く者がいる。
赤い髪の男が腰を低く落とした構えの姿勢でジルカインの真横にいた。
リューの拳打は先ほどキリエッタが打った箇所に正確に炸裂した。
明らかにそこは先ほどまでよりも護りが薄くなっている。
……ガギッッ!!!!
不快で硬質な音を立てて破られるドラゴンスケイル。
「ぐフッッ……!!!」
ブランドンの腕を振り払い、撃たれたわき腹を押さえて血を吐きながらジルカインが数歩さがった。
「……魔力の護りを抜いても頑健だな」
撃った拳に残った鈍い痺れにリューが呟く。
まさに鋼の肉体……生身に届いた拳に伝わった衝撃は金属を殴りつけたようであった。
「お前たち……我が竜の護りを貫くか」
痛みと憤怒に表情を歪ませたジルカイン。
「それができるという事は姫神様を傷付ける手段を持つという事……!!! 許せぬ!!!」
全身に纏うオーラをさらに増大させて老人は吼える。
彼の周囲の景色が蜃気楼のように揺れていた。
その主人の闘気に反応して地竜が目を開け動き始める。
それは、巨大なその生物にすればわずかに顔を上げた程度の動作に過ぎないものであったが、周囲はまるで大地震に見舞われたかのように大きくグラグラと揺れた。
「……なんとしてもここで始末してくれる!!! この命と引き換えにしてでもな!!!!」
「命を懸けているのはお前だけではない」
地竜が動き出した事による揺れを意に介することも無く……。
踏み込んだリュー。
眼前には見上げんばかりの巨躯を誇る敵……ジルカイン。
「うおおおおおッッッ!!!!」
「はあッッ!!!」
双方の間合いを無数の攻撃が埋める。
いくつかの攻撃がリューを掠め血を飛沫かせた。
(浅い!!! やはりこの男……!!!)
徐々にではあるが、自分の動きに対応し始めている。
……戦闘の天才か。
ジルカインの胸中に嫉妬の念の入り混じった黒い炎が灯った。
自分は……凡人である。
だからこそ気の遠くなるような長い年月を過酷な修練に費やしようやくこの高みへと至った。
それをこの短時間で……。
自分の10分の1も生きていない若者が猛烈な速度で追いついてこようとしているのだ。
「舐めるな若僧ッッッ!!!!」
ジルカインが叫び篭手を外して投げ捨てた。
自棄になったわけではない。
この爪があるという事実が油断に繋がっている。
そう思ってあえて武器を捨てる。
……これで両者は徒手空拳となった。
「キサマ如きとは背負っているものが違うのだッッ!!!」
繰り出されたその拳は……確かに爪を装備していた先程までとは明らかに速度も破壊力も増していて。
「……ッ!!!」
リューも見切る事ができず顔面に食らう。
……やったぞ、と。
相手の頬に突き刺さった拳に老人が一瞬口の端を上げる。
「お前の背負っているものなど……知ったことではない」
……その拳の下から声がした。
顔面を打たれ血飛沫を飛ばして尚、赤い髪の男が鋭く光る眼光でジルカインを射抜く。
「だが……」
ずるり、と血で汚れた拳に顔面を滑らせリューがジルカインの懐に入った。
『左手で上手く箸を使えるようになっておかなきゃな』
ほんの、一瞬だけ……。
脳裏に蘇った言葉と、黒い道着姿があった。
「俺の背負っているものも……軽くも安くもない」
再び渾身の拳打がジルカインのわき腹を捉える。
「がはッッ……!!!!」
大きく血を吐いてジルカインが上体をガクガクと揺らす。
リューの読み通り。
先程一撃入れた脇腹には今もまだドラゴンスケイルがない。
どういう仕組みの防護なのかはわからないが一度破られると即座に修復されるようなものではないようだ。
しかし、リューはそれ以上相手の脇腹を狙おうとはしなかった。
自身の望みはそれではない。
複数回の攻撃でようやく相手の防御を破れるようではこの先に待つ敵とは戦えない。
あくまでも一撃だ。
魔力の防護を貫いて相手にダメージを入れる事のできる一撃……それを会得しなくてはならない。
何事かを叫んでジルカインが突進してくる。
その言葉はもうリューの耳には届いていない。
彼の言葉だけではない。
周囲の全ての音が消える。
景色が消える。
……ただ真っ白な世界に、自分と相手の2人だけが存在している。
腰を落とし構えを取る。
腕だけではない……全身のオーラを高速で流動させ、全ての力を腕へと運ぶ。
初めての試みだ。
オーラを高速で動かすといっても、腕のそれをなんとかしようとするだけで精一杯だった。
だが……不思議とずっと昔からそうしてきた動作のように、それは彼に馴染んだ。
突き出された拳は襲い掛かってきたジルカインの胸部中央に炸裂し……。
ドラゴンスケイルを破り胴を貫いて背まで抜けていた。
「………………………………」
ジルカインが天を仰ぐ。
そこには灰色の雲が立ち込めていたが彼にはもうそれは見えていない。
彼が見ていたものは……遠い遠い昔の青空であった。
(……姫神様、ルクシオン様……)
自分の先を歩くルクシオンが振り返って微笑んでいる。
(王様、お妃様……)
その彼女の両隣にはレム・ファリアス王と妃がいる。
周囲には仲間たちの姿も……。
皆笑顔で自分を見ている。
(おお……皆も……)
いつの間にか自分もあの頃の少年の姿に戻っていた。
手には地竜の幼生を抱いて、彼は皆を追いかける。
「お待ち下さい。今、ジルも参ります……」
大量の血を吐きながらも老人は笑っていた。
遠い日を見つめて……無邪気に微笑んでいた。
……ぼたぼたと大量の血を地竜の背に零しながらフラフラと老人が進み。
そしてやがて彼は両膝を突いて項垂れそのまま動かなくなった。
……キュイイイイイイイイッッッッ!!!!!!
地竜が鳴いている。
哀しげな声は遠く山々を震わせた。
「……泣いてるのか」
カエデがクリスティンを見上げて言う。
「はい。なんだか……涙が止まらなくて……」
零れ落ちる涙を拭おうともせずにクリスが言った。
────────────────────────
息絶えたジルカインを横たわらせた一行。
自らの竜の背で眠る老人は不思議と穏やかな顔をしている。
地竜は……ギュリオンは動こうとはしない。
伏せたまま巨大な竜はそのまま佇んでいる。
「殺したくはなかったが」
リューが既に息の無い強敵に黙祷する。
「仕方ないさ。手加減できるような相手じゃなかったろ」
キリエッタも浮かない表情だ。
勝利はしたもののこちらの被害も甚大である。
スレイダーとブランドンの2人は今だ立ち上がることもできない。
特にブランドンの負傷が深刻であり早急に治療の必要があるだろう。
『……ジルを殺したのね』
「…………!!!」
突如として虚空から響き渡った声に全員が戦慄する。
上空を見上げてもそこには何者の姿もない。
ただ声だけが聞こえてくる。
聞き覚えのある声だ。
……竜の姫神ルクシオン。
『許せないわ。これでまた……私は1人になってしまった』
台詞とは裏腹にその言葉には憤怒や憎悪の気配はなく……ただ幾分かの虚しさと哀しさだけが滲んでいる。
誰もが言葉も無くその声に聞き入っている。
『……決着をつけましょう。過去の亡霊である私のもたらすこの国の滅びを貴方たちは止められるかしら』
そして……。
「空が……」
見上げるクリスティンが呆然と呟いた。
灰色の雲が裂けていく。
その先に覗くのは青空ではない。
どこまでも真っ暗な世界……そこから巨大な何かが空に現れようとしている。
灰色の切り立った山々を逆さまにしたような何かが……。
その光景を地上からメイヤーたちも見上げている。
「な、な、な……なんじゃありゃあ……」
王都を覆い尽くす勢いの空に浮かんだ陸地にメイヤーも呆然とするのみだ。
「呼び戻しましたか。……蒼穹聖殿ザナドゥ」
白猫を抱いたジュピターは眼鏡の奥の瞳を憂いを込めて細める。
「あれは竜の巫女である姫神が封印された時から同じくこの世界から消失したままだったレム・ファリアスの聖殿のある浮遊大陸です」
そう告げた妖精王の腕の中で白猫は黙って空を見上げている。
『貴方たちに
「……!!! 落下させるつもりですか……ザナドゥを……」
もしも頭上の巨大な大地が落下すれば王都の全てを押し潰してしまうだろう。
さしもの妖精王の頬にもつめたい汗が伝って落ちる。
『止めたいのなら……ここまで来なさい。待っているわ』
その声に呼応するかのように瓦礫が浮かび上がる。
浮遊するそれらは連なって螺旋を描きながら空へと伸びていく。
「……
白猫が天を見上げて呟いた。
『タイムリミットは……明日の日没にしましょう。太陽と一緒に全てが沈み、全てが終わる。……詩的でいいと思わない?』
最後に微かに笑い声が聞こえて、それきり空の声は沈黙し何も聞こえなくなった。
────────────────────────
クリスティンたちが地竜の背から降りると空間に巨大な裂け目が発生し、地竜はその向こうへと消えていった。
……恐らくはルクシオンの手によるものか。
浮遊大陸の落下に地竜を巻き込まないようにと。
重症のスレイダーとブランドンが運ばれて行き残った者たちが集合する。
「……行かんでいいぞ」
腕組みをしたメイヤーが渋い顔でそう言った。
クリスティンがやや狼狽える。
「え、でもメイヤーさん……」
「行かんでいいわい。なんで我々がそこまでしなきゃいかんのだ。この前のあれを見たろうが。そいつらが本気で殴っても掠り傷も付かなかったんだぞ」
視線でリューやキリエッタを指し、そしてメイヤーは親指で頭上を指した。
「オマケにあんなもんまで持ち出してくるバケモンだ。どうにかできるわけなかろうが。……とっとと逃げるぞ。支度しろお前たち」
「お前だけで逃げればいいだろう」
リューがそっけなく言うとメイヤーがジロリと睨む。
「お前な、またそういう事を……。それができるならとっくにそうしとるわ」
鷲鼻に髭の男は何か考え込むように目を閉じる。
「この甘っちょろいバカタレどもが。お前らのそういうのが私にまですっかりうつってしまってこのザマだ。私が逃げるならお前たちも連れて行くぞ。こんな所に置いて行けるか」
「メイヤーさん……」
苦笑するクリスティン。
「……落っことしたいならそうさせればいいだろうが。放っておけ。奴の身になれば気持ちもわからんではないわ。いくら自分を酷い目に遭わせた当事者はとっくに墓の下だと言ってもな」
「うーん……それでもちょっと私行ってこようと思ってます」
近所に買い物にいくような調子で言うクリスティンにメイヤーが大きくため息をつく。
「どうしてもか……?」
「ええ、まあ。このままじゃちょっと……あんまりにあんまりじゃないでしょうかね? このままルクシオンさんがあの浮いてる島を落として都をメチャクチャにしたとしても、きっとあの人も救われるわけじゃないと思うんですよ」
うーん、と難しい顔をして腕組みしているクリス。
「という事はですよ? 都がメチャクチャで住んでる人はガッカリで、メチャクチャにした人は得るものなくてやっぱりガッカリで……このままじゃただ全員ガッカリするだけじゃないですか」
「………………………………」
全員無言でクリスの話を聞いている。
それに気付いた彼女がハッとなる。
「あ、すいません……頭悪いこと言ってますかね……」
「いいや? いいんじゃないか」
フッと笑ってキリエッタはうなずいた。
「アタシはどうせ行く気だったけど、それでもあんたの言う理由で行くのも悪くはないかもね。……どっちにしたってアイツにはきっちり借りは返させてもらうけどね」
「私はクリスティンに付いていく。……それだけだ」
キリエッタに続いて口を開くカエデ。
そして皆が何となくリューを見た。
「……どうした?」
「アンタもなんか言いなよ。せっかくクリスがいい事を頭悪い風に言ったんだから」
キリエッタの言葉にクリスティンが「頭悪い風!?」とショックを受けている。
「クリスティンが……」
何かを言いかけて、そして言葉を止めたリュー。
「いや、何でもない。当然俺も行く。それだけだ」
「え~、私がなんなんですか? ちゃんと言ってください。気になるじゃないですか」
口を尖らせているクリスティン。
リューは彼にしては珍しく返答に窮しているようであったが……。
「お前は危なっかしいから付いていかざるを得ないと言いたかっただけだ」
「えええ………まあ、自覚はありますが………」
クリスティンは嘆息して肩を落とす。
そんな一同を見ていたメイヤーが短く苦笑して大きくパァン!と手を打ち鳴らした。
「よし!! そういう事ならぱっぱと済ませてくるか。……考えてみれば数百年手付かずの遺跡だからな。何かしら金目のものもあるだろう! がっはっは! ちょっとやる気が出てきたな」
「このオッサンは本当にしょうもないな」
じっとりとした目で言うカエデを意に介した風も無く、メイヤーはジュピターの腕の中から白猫をひょいと引っこ抜いた。
「ホレお前も行くぞ。パーティーの晴れ舞台だ」
「よかろう。芸術的に助言してやろう」
メイヤーの肩に乗ったアルゴール。
「ゴメンねぇ……ウチも手伝いたいんだけどさぁ」
「そのザマじゃ無理だろ。ま、こっから先はアタシらに任せておきな」
誰が見てもわかるほどに消耗しているノクターナ。
彼女はケガや病気で動けない者や避難を拒む者を聖域に取り込んで安全圏に運んでいたのだ。
聖域とは大魔術であり本来連続で行使できるようなものではない。
それを何度か繰り返して彼女は疲労困憊の状態であった。
「私も下で皆さんの避難のお手伝いを続けます。……クリスティン」
「……はい?」
ジュピターに呼び掛けられ、クリスが彼を見た。
「恐らく……彼女をどうにかできるとしたら貴女が鍵となるでしょう。頼みましたよ」
「? は、はい……がんばります……?」
よくわかっていない様子のクリスティンである。
……そして、彼らは天へと続く瓦礫の螺旋階段を上り始める。
その姿はどんどん小さくなり、やがて目視で捉えられなくなった。
「大精霊よ……どうか、彼らに御加護を」
見送るジュピターはそう言って祈りを捧げるのだった。
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