第25話 とんだジャイアントキリング女

 がっしゃがっしゃと乱暴に揺すられて徐々に意識を覚醒させるオーギュスト。

 それと同時に蘇ってきたのは全身の痛みだ。

 刀傷の男は思わず顔をしかめて呻き声を上げる。


 自分はどういう状態だ?

 痛みと揺すられていることで思考もシェイクされているようだ。

 少しずつ彼は自分が今何者かに背負われてどこかへ移動しているのだということに気付く。


「……おい、こりゃなんだ? オレはどこへ向かってる?」

「目ぇ覚ましたかよ~。お前がキリエッタ大隊長に負けて失神したから運んでやってるとこだよ」


 聞こえた声は聞き覚えのあるものだ。

 もう決別して会うことのないはずの男の声だ。


「てめえ、ベガか……なんでお前が……おい降ろせ!! どこへ連れてく気だ!!」


 そこでようやくオーギュストが周囲の景色が王都の街の中である事に気付いた。


「お前は負けたんだ。全部終わったんだよ。もうあの場にはお前にできる事はなんも残ってねえ」

「ふざけるな!! オレは隊長だぞ!! 持ち場を離れてどこに行けってんだ!!」


 叫ぶオーギュストが振り返ろうと身をよじった時、その視界に風になびく銀の髪が映った。


「いえ、ベガの言う通りです……オーギュスト」


 俯きながらベガと並走しているオーギュストの表情はよくわからない。


「皆悩みながら、迷いながら戦っています。何のために自分たちが戦っているのか……もうそれが見えないんですよ」

「フェルディナント……」


 オーギュストは愕然として掠れ声を上げた。


「オレは絶対降ろさねえぞ。お前はやり直すんだよ。だがそりゃ王城あそこじゃねえ、どこか別の場所でだ」


 血だらけのオーギュストを背負ってベガは走り続ける。


「どっかでまた……やり直すんだ」

「クソッタレがよ……」


 うつむいてそれきり黙るオーギュスト。

 1人が背負われて走る3人をすれ違う人々が奇異の目で見ていた。


 ─────────────────────────


 謁見の間の何もない虚空に突如として穴が開き、そこから雪まみれの2人が吐き出されてくる。


「や、やった! 戻った! 戻れましたよ、リュー! 寒かったですね!!」


 凍えた身体を暖めるように、どたばたとその場で足踏みしているクリスティン。

 その脇ではリューが四肢の感覚を確かめるように腕や足を曲げ伸ばししている。


 2人の前方、玉座の少し前の風景が揺らいで歪んだと思うとそこにヒルダリア女王が姿を現した。


「……どういうことなの?」


 呆然としている女王。

 だらんと下がった武器を持っていない左手は握り拳を作っていて、それは微かに震えている。


「何故わたくしの聖域を……!! そんな事ができる者などいるはずがないッ!!」


 2人が女王を見る。

 憤怒のオーラを噴き上げている氷雪の支配者の姿を。


「お前たちは聖域に頼りすぎだ。あれだけ何度も脅威に晒されればこちらも対抗策を考える。当然のことだ」


 ギリッと女王の奥歯が鳴る。

 彼女は斧槍を構えて前に出る。


「……そう。そうなの。どこまでもわたくしの邪魔をする者たちね。言っておくけれど、聖域を破ってわたくしに勝ったつもりならそれはまだ気が早いというものよ」


 斧槍を振り上げて構えを取るヒルダリア。

 瞬間、先ほどまで晒されていた吹雪にも勝るような威圧感をぶつけられて思わずクリスが全身を強張らせた。


「第3大隊長を務めていた時に王に見出されて王宮に入って二十数年……鍛錬を欠かしたことはないわ。わたくしのこの武を超えていけるかしら? クリストファー・緑」

「お前の生きてきた道程みちのりなどどうでもいい」


 赤い髪の男は構えを取る。

 今まで数多の強敵を粉砕してきた拳術の構えを。


「立ちはだかるなら……倒すだけだ」

「見た目と違って本当に可愛げのない男だこと! ……リューッッッ!!!!」


 襲い掛かる女王。

 自在に振り回す斧槍の速度は常人が目で追えるレベルではない。

 キリエッタよりも速く、スレイダーよりも鋭い。

 その攻撃で矢襖のように虚空を埋めるヒルダリア。


 斬撃の……刺突の……横薙ぎの嵐の中に恐れずに踏み込んだリュー。


 いくつかの攻撃が彼を掠めていく。

 背後に飛び散った血が舞う。


 ……赤い髪の男が……。

 今、氷の女王の懐に到達する。


「……不遜!!!」


 叫んだヒルダリアはその時、少しだけ笑っていた。


 そしてリューの拳打は女王の胸甲に炸裂し彼女は後方に吹き飛んだ。

 一瞬遅れ、両者の間に女王の斧槍が派手な音を立てて落ちる。


 謁見の間に静寂が戻った。


 構えを解いて自然体の立ち姿に戻るリューに背後からクリスティンが近付いてくる。


「……殺してはいない」


 彼女が何か問いかける前に振り返ったリューが静かにそう言った。

 安心したようにクリスが息を吐いて微笑む。


 仰向けに倒れ天井を見ている女王。

 倒れた時に兜が脱げていて今は素顔を晒した状態である。

 意識は……あるようだ。


「悔しいわね。わたくしに加減だなんて……生意気よ」


 誰にともなくうわごとのように女王は呟いた。


「クリスティン」

「は、はい……?」


 女王に名を呼ばれて戸惑いながら彼女が返事をする。


「この胸甲よろいを脱がせて頂戴」

「えっと……わかりました」


 倒れていて鎧は苦しいのだろうか……? そう思ってクリスは言われた通りに女王を抱き起して胸甲の留め具を外し始めた。


「戦争などやめておくことだ。勝ったとしても失うものも多いだろう」


 リューの言葉にクリスに上体を抱き起されているヒルダリアは一瞬虚無の目をする。


「……ふふふ」


 うつむいて笑い出す女王。

 それは空虚な笑い声だった。


「残念ね。それを決めるのはわたくしではないの。わたくしにはもう……『次』はないのよ」

「女王様……?」


 怪訝そうな顔をするクリスティン。

 女王はドレスの胸元に指を掛けた。


「その意味を今見せてあげるわ……」


 ……そして、力を込めて彼女は自らのドレスを引き裂いた。

 大きく胸元が露出する。


「……ぇ……?」


 思わずクリスティンは小さな声を出す。

 愕然とする彼女とリューが目の当たりにした女王の胸元……。


 そこには無残な大きな黒い穴が開いていた。

 深く抉られた真っ黒な穴……その縁からはぶすぶすと微かに黒い煙のようなものを噴き出している。


 そしてその穴の中に本来ならあるはずの臓器が……無くなっている。

 心臓がないのだ。


「わかるかしら? わたくしが既に敗者で操り人形だという事が。……わたくしに戦争を命じたのはこの心臓を持ち去った者」


「………………………………」


 リューも、クリスティンも……2人とも言葉もない。

 ただ女王の晒したその禍々しく黒い胸の穴を見ている。


 ─────────────────────────


 ……それは、即位の直後の事であった。


「お別れです、王妃様……いえ、女王様」


 かつて占星術師と、そして今はリタと名乗っている彼女の近衛騎士がそう言った。

 赤紫色の髪の毛の切れ長の瞳の美人。

 彼女はどこか悲しげな瞳でヒルダリアを見ている。


「そう、いよいよね。貴女には感謝しているわ」


 女王の言葉にリタは首を横に振る。


「いいえ、私は何も……」


 そしてリタは顔を上げて再び真正面から女王を見た。

 何かを……決意した者の表情で。


「女王様。私は貴女をその玉座に就かせるためにこれまで尽力してきました。……だけど、本音では貴女に勝ってほしくなかった」

「………………………」


 無言の女王。

 だが彼女はこの時わずかに玉座から腰を浮かせていた。

 ……何かあれば即座に反応できるようにだ。


「……貴女が勝てば、私は貴女にしなければいけなくなってしまうから」


 右手を床と水平に上げたリタ。

 次の瞬間、翳したその掌から漆黒の炎が蛇のように長く伸びてうねりながら空中を走った。


「……!!」


 立ち上がった女王。

 しかし間に合わない。

 ヒルダリアの胸元に炎が炸裂し、その勢いで玉座の背もたれに叩き付けられた彼女が強引に再び座らされる。


「く……はッッ……!!!」


 苦悶の声を上げた女王。

 その胸元から炎がするするとリタの掌に戻っていく。


「貴女の心臓を預からせてもらいます」


 リタの手の中でゆらゆらと揺れる黒い炎。

 その中に、赤く脈打つ臓器があった。

 息を飲んだヒルダリアが自らの胸元を見下ろす。

 そこにはただ……黒い大きな穴があるのみだ。


「わたくしを……どうすると……言うの……」


 空っぽの胸の奥。

 その絶望感と恐怖……。

 冷たい汗を頬に伝わらせて女王はリタを睨む。


「貴女に1つ仕事をお願いします。それができたら心臓これはお返ししましょう」


 見せつけるように手の中の心臓を差し出すリタ。


「カーライルと戦争をしてください」

「……なっ」


 愕然となって目を見開いたヒルダリア。


「方法はお任せします。両国に戦端が開かれ双方が後に退けなくなった事を確認したら心臓はお返ししましょう。約束は守ります。……貴女が私との約束を守ってくれたように」


 ややリタは視線を伏せる。


「これは強制的な盟約の魔術です。貴女が心中で自らの役割を放棄した時点で心臓は燃え尽き貴女の命を奪うでしょう。もしそうなれば、私は貴女の次にその玉座に座る者に同じことをする事になります」

「なるほどね……ようやくわかったわ」


 苦し気な荒い息の中で女王が言う。


「あなたの本当の名前は……」


 女王はある名前を口にする。

 それはあまりにも荒唐無稽な話だ。

 ありえないとは思いつつも……相反する確信を持って口にした名前。

 リタはただ寂し気に微笑んだ。

 その表情を見てヒルダリアは自らの発言の成否を知った。


「やはり貴女は聡明ですね。……それならもう、私の真意は語らなくてもいいでしょう」


 リタは口元の微笑を消すと静かにそう告げるのだった。


 ────────────────────


 心臓を持ち去った者の傀儡にされている。

 そう告げたクリスティンの腕の中のヒルダリア女王は空虚な瞳で天井を見上げた。


「……貴方たちを倒せるようなら、わたくしももう少し運命に抗ってみようかと思っていたのだけれど……残念ながらここまでのようね」


 はぁっ、と大きく息を吐いたヒルダリア。

 クリスティンはなんとなく悟った……彼女は、自らを倒させるつもりでこの場に自分たちを呼んだのだと。


 ……盟約は破られた。

 女王に死期が訪れようとしている。


「悔しいわ。……いつも、歯痒い思いをしながら見ていた。歴代の執政者を……。わたくしならばもっともっと上手くこの国を収めることができるのに、発展させることができるのにって。そう思って玉座まで登り詰めて……その結果が、この様とはね……」


 うわごとの様に言うヒルダリアの顔に熱い雫が落ちた。


「……泣くのはおよしなさいな、クリスティン。勝者に哀れまれたのではわたくしが惨めでしょう」

「でもっ……でも、私……頭の中ぐちゃぐちゃで、もうどうしていいのやら……」


 ぼろぼろと涙を零しているクリスに向かって微笑む女王。

 それは氷の女王の異名には似つかわしく無い優し気で暖かい微笑みだった。


「愛していたわ……この国を……わたくしの……祖国……」


 震える手を彼女は空へと伸ばす。

 届かぬものを掴もうと足掻いているかのように。


 ……そして、その手がカクンと床に落ちる。


「……女王様!? 女王様!!」


 肩を揺するクリスティン。

 だが女王はもう動かない。


 その表情はまるで眠っているかのように穏やかだった。


 ────────────────────


 戦いは終わった。

 意識のある親衛隊は全員が降伏の意思を示し武器を捨てた。

 彼は皆、一様に虚ろな表情で座り込んでいる。

 もはや立ち上がる気力もないかのように。


「女王様がお亡くなりに……。これもやっぱり私たちの犯行と言う事になっちゃうんでしょうかね……」


 女王の亡骸を前にやるせない表情のクリスティン。

 命を落とした女王の事は気の毒で哀れと思い悲しいのだが、事態はそれだけでは済まされない。

 対外的な事実として残ったのは自分たちが王城に襲撃をかけて、その結果王妃が命を落としたという事だけである。


「王妃様殺害の実行犯ですとかニュースが流れちゃったらパパとママ、ショック死しなきゃいいんですけど……」

「俺がやったと先に言えばいい。実際最後に彼女を倒したのは俺だ」


 平然と言うリューだが、はいそうですかとは言えないクリス。


「そういうわけにはいきませんよ」


 はふ、と嘆息するクリスティンだ。

 倒したのはリューでも殺したのはリューではないのだ。

 得体の知れない術を使って女王を脅していた相手の罪を被る必要などまったくない。


 クリスが悩んでいると謁見の間の扉が開く。

 入ってきたのはキリエッタだ。


「こっちは順調かい? オッサンは助けてきたよ……ああ、殺っちまったのかい」


 どことなく寂し気な表情を見せたキリエッタにクリスが高速でブンブンと首を横に振る。


「違うんです違うんですって。確かにお亡くなりになられてますけど私たちじゃないんです……」


 慌ててクリスティンが弁明しようとした所にもう1つ近付いてくる人影。


「よおーお前たち! 久しぶりだなぁ! いや~お前たちがまさかそんなに私のことが好きだったとはな~感動したぞ? がっはっはっはっは!」

「ああ、もう……再会するなり来た事後悔するような事言わないでくださいよ、メイヤーさん」


 力なく項垂れるクリスティンだった。


 結局仲間たちが全員揃ってからクリスは事情の説明をした。

 女王との戦いとその後の顛末をだ。


「別にもうお前がやったって事でいいだろう。実績があるんだから」

「冗談じゃないですよ! とんだ大物殺しジャイアントキリング女になっちゃうじゃないですか私!!」


 軽口を叩いたメイヤーをぼかぼかと叩くクリスティン。

 メイヤーは頭をたんこぶまみれにして床に転がった。


「相手の心臓を奪い取って命令を聞かせる術か。興味深いな……」


 女王の胸元を確かめるアルゴール。

 だが、そこにはすでに穴はない。

 女王が命を落とすと同時に自然と塞がったのだ。

 今では痕跡すら残っていない。

 心臓も胸の内に戻っているようだ……無論、もう鼓動はしていないが。


「ところで……」


 クリスがエルフの男を見る。

 自分に注意が向いたことに気付いたオカカ・オニギリーは笑顔で手を振った。


「こちら、平然といらっしゃるんで気にせずお話しちゃいましたけど、どなたでしょうか……」

「おおっと、これは失礼。名乗りが遅れましたね」


 スッと自らの胸に手を当てて彼が一礼する。


「私、大森林から来ました……シャケ・オニギリーといいます」

「具が変わっとるぞ」


 床の上から半眼でつっこむメイヤー。


「口封じが必要なのか?」


 まるで何でもない事のように言うリューにシャケは慌てて両手を振る。


「ノンノン! 必要ありませんよ封じないで!! 私は皆さんのフレンドです!! 仲良くしてくださいね!!」


 慌ててぺこぺこと何度も頭を下げているエルフ男。


「…………………………」


 アルゴールは無言でそんなシャケを見ている。

 かと思えばタイを緩めながら女王の亡骸の脇から立ち上がった。


「よし、後始末を急ぐとしようか。小一時間ほどこの部屋に誰も近付けるな」


 うなずいたリューが扉に向かう。

 門番をするつもりらしい。


「え? 先生、まさか……」

でいこうではないか。術を行使するのには絶好の状況だ。久しぶりに芸術アートを存分に披露する事にするぞ」


 上着を脱いでシャツの腕をまくり、薄く微笑むアルゴールであった。


「権力者を次々に殺めその死体を操る者たちか……実に芸術的アーティスティックだな」

「なんかもう、そう聞くと最悪ですね私たち」


 虚無顔のクリスティンであった。


 ────────────────────


 そして数時間が過ぎて……。


 城の中ではあちこちで親衛隊の騎士たちが騒動の後始末をしていた。

 割れたガラスや瓦礫の撤去。

 負傷した仲間の回収などだ。


 ……それらは全てヒルダリア女王の命令によるものである。


「……やれやれ、結局何だったんだ? この騒ぎは……」

「わからん。隊長も副隊長も見当たらないし……」


 作業をしながら小声で囁きあっている親衛隊員たち。

 自分たちが戦っていた相手の素性は彼らは聞かされていない。

 なのでほぼ親衛隊全員がどんな理由で誰が相手ともわからずに戦っていた事になる。


「さてとりあえず急場は凌いだわけだが……」


 美術品が並ぶ女王の私室でメイヤーが一同を見回す。

 その中にはヒルダリア女王の姿もある。

 皇太子の時の要領で操られている骸である。


「今回は長居はできんぞ。騒ぎが収まったことを知って普段の女王を知る連中が戻ってくればすぐにボロが出る。それまでに我らはなんとか後腐れがないように話の収拾を付けて金目のものを持てるだけ持ってこの城を離れなければならん」

「後腐れがないようにしたいのにどうして後腐れを生むような事をしていこうとしてるんですか?」


 突っ込まざるを得ないクリスティンであった。


「バカタレ! 迷惑料に決まっておるだろうが!! 考えてもみろ、我々は何にも悪いことはしていないのにこんな目に遭わされたんだぞ! 少々金目のものを持ち去った所で文句を言われる筋合いはない!!」


 拳を握って力説しているメイヤー。


「……何にも悪いことしてないかなぁ?」

「なんか、すごい男だな」


 首をかしげるクリスティンに初めて見るメイヤーの素の人間性に引いているカエデ。


「心配せんでいい! いつものように金は山分けだ!!」

「いや、もうどうでもいいですよそれは……」


 乾いた声のクリスティン。

 そんな彼女の袖をくいくいとカエデが引いている。


「おい、クリスティン……まさか、あの金……」

「聞かないでください」


 そう言うクリスは死んだ魚みたいな目をしていた。


「いい、聞かない。……なんかもう怖くなってきた」


 心なしか青い顔でうつむくカエデであった。


 その時、どんどんと部屋の戸が乱暴にノックされる。


「女王様! 大変でございます!! 女王様ッ!!」


 戸の向こうでは慌てた様子で親衛隊の騎士が叫んでいる。

 メイヤーが素早く女王に小声で指示を出す。


「……何事ですか?」


 扉越しに騎士に問う女王。


「りっ、隣国の……カーライルの軍勢が国境線を破って我が国の領内に侵入してきたと……!! 只今演習中であった聖堂騎士団が迎撃に向かっております!!!」


 室内に衝撃が走り、全員が無言で素早く視線を交し合う。


「どどどっ、どういう事でしょうか!? 向こうから攻めてきちゃいました……!!」

「落ち着くのだクリスティン。おそらく件の占星術師とやらはカーライル側でも同様の陰謀を進めていたのだろう。双方から攻め込ませる予定が狂ったので向こうを動かした、そう考えるべきだな」


 その時、メイヤーの目がギラリと光る。

 正直、クリスティンにとってはあんまり有り難くない感じの輝きであった。


 また何か小声で女王に指示を出しているメイヤー。

 再び女王は扉越しに騎士に告げる。


「わかりました。すぐに親衛隊で動けるものを集めてください。わたくしも共に現地に向かいます」


 了解を叫んだ騎士が鎧を鳴らして走り去っていく。


「……自国を守って命を落とした悲劇の女王ならば見栄えも悪くなかろうて。少なくとも王城に侵入してきた正体不明の賊に殺された王族というよりかはな」

「ええ……まさか……」


 思わず慄くクリスティンにメイヤーはニヤリと邪悪に笑って見せるのだった。


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