第4話 聖堂騎士団の追撃
大平原の広大な草原の一角に巨大な天幕が無数に立ち並ぶエリアがある。
草原全ての獣人たちの支配を目論むザハ族の領域である。
ザハ族は他部族を取り込み今や3千人にもなろうかという大部族だ。
首都とも言えるこの領域に暮らすのはその内の半分程であった。
族長の住居、一番巨大な天幕に今ゴルド・ザハが帰還した。
外観同様に巨大な寝具に肩に担いでいたクリスティンを投げ出すゴルド。
「……あう……!」
ボフッとベッドに転がったクリスが声を上げた。
広大な白いシーツの海は巨漢のゴルドが10人並んでもまだ余裕がありそうな程の広さがある。
「フフフフ、歓迎するぜ、女。オレの城はどうだ? 中々のもんだろうが」
ニヤリと笑いゴルドもベッドに上がってくる。
ギシッと音を立ててシーツが大きく沈み込んだ。
ゴルドの異様な雰囲気に身の危険を察し、クリスの頬を冷たい汗が伝っていく。
「これから自分がどんな目に遭うか想像はできているか? そうだ、お前にはオレの子を産んでもらう」
「!!?? えぅ、ん~~!」
薬が効いて痺れているクリスはまだ舌が上手く回らない。
緩慢な動作で首を横に振るのが精一杯だ。
「お前のような女をずっと捜していた。最強のオレの子を産む女だ。見合ったヤツじゃなきゃいけねえが……部族にも外にもオレの眼鏡にかなう女はいなかった」
「……!」
大きな手でクリスの手首を掴むゴルド。
「お前の話を聞いた時は胸が躍ったぜ。鉄の武具を飴細工みたいに曲げちまう力に男どもを大勢前にして退かねえ胆力もいい。お前に決めたぜ。お前がオレの子を産むんだよ」
「んんんん……!」
ゴルドを突き放そうと伸ばされた手だが相変わらずその動作は緩慢であり力も弱々しい。
「その薬は当分抜けねえよ。どうせ何をしたって無駄なんだ、諦めて受け入れろ。大平原の支配者になる男の子供を産むんだ。悪い話じゃねえだろう」
「ん~~~~~ッッ!!!!」
のろのろと暴れるクリスティン。
その彼女にゴルドの巨体が圧し掛かった。
────────────────────────
族長の天幕から離れた一角では三兄弟次兄のギエロと手下たちが焚き火を囲んで酒盛り中であった。
「兄者の趣味もわからねえなぁ。あんな毛も生えてなきゃ鱗もねえ女のどこがいいんだ?」
焚き火で焼いた獣の肉に齧り付いているギエロ。
周囲には肉の焼けるいい匂いが漂っている。
「全部喰うんじゃねえぞ。ラグの分を残しておかねえと……アイツは泣きながら暴れるからよ。面倒くせぇんだよ」
ギエロの言葉に手下の獣人たちが肯く。
そこに見張りのチーターの獣人が駆け込んできた。
「た、大変だぁギエロ様!! レン族の奴らが突っ込んできやがった!!!」
「あぁ? レン族だぁ? あの犬野郎どもがよ。トチ狂っちまったのかぁ?」
ブッ、と口から食べていた肉の骨を吐き出すとギエロが立て掛けてあった自分の斧槍を手にする。
すると確かに喧騒が近付いてきていた。
「……って、オイオイ。もうこの近くまで来ちまってんじゃねえかよ」
「も、申し訳ありませんギエロ様! 連中真っ直ぐひたすらに突っ込んできやがるんで……」
部下の言葉に首を傾げるギエロ。
レン族はそう大きな部族ではない。
戦士の数で言えばこちらの10分の1と言った所だろう。
「益々わからねえ。そんな事すりゃいつかは敵の真っ只中で孤立して袋叩きに遭うだろうがよ。本当に狂ったのか?」
そして、狼族の戦士たちの一団は遂にこの陣営最深部とも言える族長の天幕の間近にまで攻め込んできた。
「面倒くせえなぁ。トチ狂った犬っころの相手なんざ……」
ぼやいたギエロが目を見開く。
一行の先頭の馬に跨っているのは獣人ではない。
「赤毛……!! てめえ生きてやがったか!!!」
「お前か。一別以来だな」
そう言ってギエロの目の前にリューが降り立つ。
瞬間、ギエロは一瞬背筋に寒気を感じた。
自分よりも大分小さな身体の人間に……気圧されている?
トカゲの男は頭を振ってその考えを振り払う。
「お前がいるという事はボスも近くか。連れの女を返してもらいにきた」
「てめえ……ラグを殺ってきたのかよ」
ベロリと長い舌を出して斧槍を構えるギエロ。
「どうしてくれんだ? お陰で三兄弟が二人になっちまったじゃねえかよぉ!!」
縦横無尽に斧槍を振り回すラグ。
その暴風のような連撃を全て紙一重で見切って回避するリュー。
「うおおおおおおおおおッッッ!!!!??」
ギエロは雄叫びを上げる。
自分は今信じられないものを見ている。
長物の武器を自分の間合いでこれだけ繰り出しているのに……それなのに徒手空拳の相手は今、少しずつ距離を詰めてきている。
「……残念だが」
リューが足を止めた。
ギエロも攻撃を止めていた。
というよりももう斧槍は振り回す事ができない。
……両者の距離は1mを切っていた。
「お前の攻撃は俺には当たらん」
リューが拳を引いて構えを取る。
「……バケモン……がよぅ……」
喘ぐように言ってトカゲの男が天を仰ぐ。
次の瞬間、打撃音と共に空中に無数の血飛沫が舞った。
────────────────────────
リューが天幕に足を踏み入れるとそこには肉を打つ音が響き渡っていた。
「だから! そういうのは! だめです! 好き合った人たちが! することで! 無理やりとかは! いけません! 天の
ゴルドの頭の角を掴んで顔面に何度も膝蹴りを入れているクリスティン。
「ぶげ!! ぼげ!! ォげ!!」
くぐもった悲鳴を上げ続けているゴルド。
腫れ上がった顔面に最早以前の人相の痕跡はなく、歯も半分近くが折れて飛んでしまっている。
「わかったら! 反省して! これからは! 相手の! 気持ちが! わかってあげられる人に! なってください!!」
……バゴォッ!!!
遂にクリスが掴んでいたゴルドの巨大な左の角が根元から砕けて折れた。
「ああっ!? 角折れちゃいました!! ごめんなさい!! 大丈夫なんですかねこれ!?」
慌てるクリスの眼前で血を噴きながら崩れ落ちるゴルドー。
跪いて項垂れている水牛の半獣人は最早ピクリとも動かない。
「……クリスティン」
そのタイミングでリューが声を掛けた。
「あ、リュー。……来てくれたんですね」
ベッドの上をずるずると膝を突いた状態でクリスが進んでくる。
そして縁まで来ると彼女は力尽きたようにリューに抱きついた。
「うう……怖かったです」
「すまなかったな。遅くなった」
その背に手を回すような事はなかったが、リューはしばらくの間彼女に抱きつかれるままになっていた。
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ザハ族長の天幕の外に大量の獣人たちが集まっている。
「うーむ」
「何かよくわからぬが。勝ってしまった」
レン族の狼人たちが言葉を交し合う。
天幕の前にはゴルドとギエロの2人が縛り上げられて座らされている。
と言っても両者見るも無残な傷だらけで意識は無く互いに寄りかかるような体勢で地に両足を投げ出して俯いている状態だ。
「見たか! お前たちを率いていた三兄弟は敗れた!!」
ラザンが高らかに宣言すると、周囲の獣人から散発的なブーイングや悲鳴が上がった。
「お前たちが他部族から奪ったものは全て返してもらうぞ!! またしてきた事に対する償いもしてもらおう!! 文句のある者は相手になる!! 名乗り出るがいい!!」
ザハ族たちはざわついたが結局1人も名乗り出てくる者はいなかった。
圧倒的な力と恐怖で一族を率いていたゴルドたちがああまで無残に敗れ去っているのを見せ付けられて戦意を維持できる者はいなかったのである。
結局、ゴルドとギエロの2人は捕縛されてレン族の集落へ連れて行かれることになった。
「ありがとう、勇者たちよ。お前たちのお陰で大平原に暮らす多くの獣人たちの平穏な生活が守られた。彼らを代表して礼を言わせてくれ」
ラザンが頭を下げるが、クリスは複雑そうな表情だ。
「そ、そうですか。私のヒザが何か役に立ったみたいで……正直、微妙な気持ちです……」
「身体はもうなんともないのか?」
リューが尋ねるとクリスは手首を回したりつま先でトントンと地面を蹴ったりしてみる。
「大丈夫そうですね。私、昔から薬とかの効きがすっごい悪いんですよ。怪我したり風邪引いたりする度に薬が全然効いてくれないので大変でした」
「……………………………………」
それを聞いたリューは何事かを考え込んでいるようである。
その後、レン族の集落から連絡を受けた百名を越える増援がやってきたのだが、その時には全てが終わった後であった。
────────────────────────
その夜はリューとクリスティンの2人はレン族の集落に招かれた。
歓迎と戦勝を祝う宴が開かれる。
独特の民族楽器による演奏が流れ歌や踊りの宴会は夜遅くまで続いた。
「……おねえちゃん」
クリスの腕の中で寝息を立てているリク。
むにゃむにゃと寝言を呟いている。
「リクはすっかりクリスティンに懐いてしまったようだな」
息子の様子を目を細めて見ているラザン。
そこに、宴の始まりからずっと姿を見せていなかったリューがやって来た。
両手に木製のトレイを持ち、その上にはやはり木製の器が並んでいる。
「お前たち、皆これを食え」
両手のトレイに並んだ椀は小ぶりながらも確かにラーメンであった。
「ええっ? ラーメン作ってたんですか……?」
驚くクリスに、そうだと肯くリュー。
「小麦粉があったからな。それさえあれば後の材料は持ち歩いている」
そう言うリューの腰の背中側には小さなポーチがある。
そこに粉末状にしたスープの素や諸々が入っているのだと言う。
「なんだこれは?」
「人間たちの料理か?」
狼人たちがリューのラーメンに興味を示している。
早速数名が口にした。
「これは美味い」
「うむ、美味いな」
文化の違う獣人たちにラーメンの味が受けるのかと不安だったクリスだが概ね好評のようだ。
褒められても相変わらずリューはいつものやや不機嫌そうに見える鉄面皮であったが……。
「そうだ。それが人間たちの食べる料理で一番美味いものだ」
(それはどうかなぁ……)
どことなく誇らしげに言うリュー。
口には出さなかったが、そこは人それぞれなのではと思うクリスティンであった。
────────────────────────
夜が明けた。
明け方近くまで歌って踊り明かしたレン族たちの多くはまだそのあたりに転がって寝こけている。
「恩返しをするつもりが、さらに返しきれんくらいの恩を受けてしまったな」
「……気にする事はない」
静かに言ってリューは首を横に振る。
眠っているリクを抱いたラザンに見送られて2人は集落を発つ所だ。
「お前たちの抱えたトラブルの事はわからんが、何かあれば駆けつけて力になる」
昨夜宴の時にラザンにはクリスたちが何故この土地に来る事になったのかを大雑把にだが説明してあった。
何度か振り返り頭を下げるクリス。
手を振って去っていく2人が小さくなって見えなくなるまでラザンはその場に立ち続けていた。
「……色々大変でしたねぇ」
ざくざくと草を踏んで進みながらクリスは大きく息を吐く。
彼女は今、革でぐるぐる巻きにされた巨大な剣を背負っている。
それはあのザハ三兄弟の長兄ゴルドが持っていた武器である。
古龍の牙を削り出して作ったものらしい。
「そうだな。だが本当に大変なのはここからだ」
リューの言葉にぎょっとした彼女が彼の方を向く。
「これで俺たちが
「王国に……私たちの事が……」
掠れた声で呟くクリスティンであった。
────────────────────────
時刻は半日ほど前に遡る。
バルディオン王宮の一室。
椅子に座って形の良い長い足を投げ出して組んでいる褐色の肌の美女。
彼女が今見ている物は四方に放っていた密偵からの報告書である。
聖堂騎士団第3大隊長、キリエッタ・ナウシズ。
「まさかとっくに大河を渡ってたとはねぇ。アタシらが封鎖した時にはもう河の向こう側だったって事かい。マヌケな話さ……まったくね」
そう言うとキリエッタは密書を燭台の火にくべて燃やす。
「それならなんで向こうで騒ぎを起こすんだろうねえ? 一々読めない連中だよ」
肩を竦めるキリエッタの背後には3人の聖堂騎士が無言で控えている。
体格の良い3人の騎士。
手にした武器はそれぞれ大剣、大戦鎚、大弓。
その騎士たちを振り返るキリエッタ。
「聞いてたかい? 今回は大勢動かせるような仕事じゃないんだ。アタシたちだけで行くよ。アンタたちは第3でもアタシが特別目を掛けてる猛者たちだ。期待を裏切るんじゃないよ」
『イエス、マム!』
各々の武器を構えた3人の騎士の返事が唱和した。
そしてキリエッタは立ち上がった。
彼女は他の聖堂騎士たちと比べサーコートは同じだが装甲部分が軽装の独特の武装をしている。
特に右腕は肩当てがなく長い手袋タイプの武装をしており褐色の肩が露出している。
壁に掛けられた長い鞭を手に取るキリエッタ。
魔獣の革から作られ表面に鋼線を編みこんだ彼女愛用の武器だ。
これを使って彼女は数m先から猛獣の首を一撃で叩き落すという。
元腕利きの傭兵……砂漠の国から来た女。
通称『蠍のキリエッタ』
「さてかくれんぼの時間はそろそろ終わりだよ、お嬢ちゃん」
キリエッタの目が鋭い輝きを放つ。
……今、毒蠍の尾が2人を標的に定めて振り上げられた。
────────────────────
……もうあの宿場町へは戻れない。
あの町には自分たちがいたという痕跡を残しすぎている。
遠からずバルディオンの調査の手が回るだろう。
草原に沿った道を北上する2人。
自分たちの最終目的からするとあまり王国から離れてしまうわけにもいかないのが悩ましい所である。
クリスティンとリューの今の旅の目的は皇太子ジェロームとコンタクトを取ることだ。
「考えたら私はおそらくその皇太子さまに使う予定の毒薬の譲渡の場面を立ち聞きしちゃったわけで……。もたもたしてたら毒殺が成功しちゃう事もあるんじゃないでしょうか」
「ない話ではないが。現時点では可能性は低いと考えている」
街道を歩きながら小声で会話をする2人。
「譲渡の直後に司祭は殺され犯人であるお前は逃げている。ならばその殺害の原因に毒薬が関係していると思うのが自然な流れだ。毒薬が司祭を通じて王妃側に渡ったという情報がどこで出てくるかわからない状況では決行はしにくいはずだ。何故なら……」
そこで言葉を切り、クリスの顔を見るリュー。
「病の床にあり死期が近いとされているフィニガン国王は皇太子の王位継承を望んでいるからな」
「ああ……」
その話は国内では有名な話であり、クリスティンも聞いた事がある。
そもそも国王フィニガンには正妻である王妃との間に子供がいなかった。
その為王は第6妃だったヒルダリア妃の弟ロデリックを養子として王位継承者としていたのである。
ロデリックが順調に国王になれば姉であるヒルダリア妃と父である宰相ルーファウスにしてみれば我が世の春だ。
王国の権力を一族で掌握できることになる。
ところがある日全てを一変させる出来事が起こった。
国王に隠し子がおり、その子供を王位継承者として王宮へ招くと王が言い出したのである。
その子供が後の皇太子ジェロームだ。
ジェロームの母は国王付きの侍従……メイドであった。
ようは使用人に手を付けて生ませた子である。
しかし卑しい身分の者に産ませた子とはいえ国王はこの自らと血の繋がった唯一の子供を溺愛しておりメイドを王宮から遠ざけてジェロームを生ませた後もずっと資金を援助し裕福な生活をさせてきた。
そして年月が経つほどにこの子に自分の後を継がせたいと思うようになり、遂にそれを決行したのである。
当然宰相やヒルダリア妃は猛反発し王宮はあわや内乱かと思われるほどの騒ぎとなった。
しかし結局は国王が強権を押し通す形でジェロームを第一王位継承者とし、ロデリックは地方の一領主に格下げとなったのである。
ちなみにこの時にヒルダリア王妃は正王妃病没後は空席となっていた正王妃の位を手にしている。
交換条件というわけだ。
……無論、王妃側はそれで納得したわけではなかったが。
「王様は皇太子様の味方ということですね……」
「攻撃や殺害がばれれば王はそれを自身への攻撃、反逆と判断するだろう」
皇太子を失った国王フィニガンはどうするであろうか。
烈火の如く怒り狂ってその相手に苛烈な報復をしようとする可能性は低いものではないだろう。
かといって王の死を待てば皇太子が次の王になってしまう。
そうなれば新王となったジェロームは王宮内から自分に反抗的な者を排除しようとするだろう。
王妃と宰相一派は現状難しい判断を迫られているといえる。
「司祭は何故殺されたのか? 逃げたお前はどれだけの事を知っているのか? お前の背後には誰かがいるのか? このあたりの情報を王妃たちは是が非でも得たいはずだ。お前の存在が状況を膠着させている」
「誰かを殺めたりとか……そこまでして欲しいものなんでしょうか、権力って」
脱力とやりきれなさ半々の表情でため息をついたクリスティン。
「さてな。俺はそういったものに興味はないが……。そこまでして権力を欲するものは存在している」
そう言うとリューは彼にしては珍しく一瞬どこか遠くを見るような、過ぎ去った過去を思い出しているかのような視線を空へと送った。
────────────────────
川沿いの道を歩くクリスたち。
その2人が通り過ぎた後で川岸に係留されていた小舟の中でむくりと上体を起こした者がいた。
ぼさぼさの黒髪の体格のいい若い男だ。
「なんだよ……ひと眠りするつもりだったんだがなぁ~。もう見つけちまった」
精悍な顔付の男はぼやいてから自分の顎を撫でる。
「さぁてどうする。大隊長や他の連中と合流するかぁ~? いや面倒くせえな」
大あくびをしてから男が船を降りる。
そして男は船から何かを持ち上げた。
それは厚めの布に包まれた何か……大戦鎚である。
「どうせ俺たちは仲良く連携して戦うとかできねえんだ。まずはぶっとばして大人しくさせておこうかい」
ニヤリと獰猛に笑うと大戦鎚を肩に担ぎ男は早足で歩き始めた。
先ほど通り過ぎた2人を追って。
追跡は程なく前を歩く2人にも気付かれる。
ずかずかと大股で足音を響かせて進んでいるのだから当然だ。
「敵だな。殺気を隠そうともしていない」
振り返らずにリューが小さな声で告げる。
「殺気どころか武器丸出しなんですけど……」
ちらりと一瞬振り返ったクリスティンは何だか見てはいけないものを見てしまったかのように頬を引き攣らせている。
「……………………」
歩きながら目を閉じるリュー。
この瞑想するように少しの間目を閉じるのが彼の癖であるのか。同行していると頻繁に見る仕草であった。
「周辺に他に敵はいない。単身だ」
断言するとリューは足を止めて振り返った。
「要件を聞こう」
背後の男も足を止め肩に担いだ大戦鎚を下した。
粗野な雰囲気の男であるが油断ならない歴戦のオーラがある。
「聖堂騎士団第3大隊のベガ・アルバレスだ。悪いが俺と一緒に来てもらうぜぇ~」
「ご遠慮させていただきます!」
クリスティンがやや自棄気味に元気よく断る。
「やれやれ、やっぱしそうなるか」
大戦鎚を構えるベガ。
リューが背負っていた大きな鞄を足元に落とす。
「1人で俺たちを制圧する気か」
「まあな。……ってより1人でやるしかねえんだよぉ~。何せ……」
そう言うとベガは大戦鎚を頭上に振り上げる。
「俺の
『……!!』
身構える2人の眼前で地面に渾身の力で大戦鎚を振り下ろしたベガ。
土の地面に振り下ろしたその一撃が大地にヒビを入れる。
……いや、地面だけではない。
放射状に広がったヒビはそのまま周囲の景色全てに広がり、まるでガラスが砕け散ったような音を響かせながら2人の周囲の空間は砕け散り風景は破片となって崩れ落ちていくのだった。
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