第18話 どれだけ持つかな
「…………雨だ」
いつも通り鳴った目覚ましを止めると、起き上がった視線の先―――――ベッドから一番近くにある窓に、小さな水滴がついている。
それを反射的に拭おうと触ったのはいいものの、ついているのは外なので拭けるはずがない。
そんな簡単な判断もできなかった自分に苦笑しながら、俺はベッドから立ち上がって朝食の準備を始めた。
「えっと、パンは…………あったあった」
棚をごそごそと漁ると、結構前に買った食パンが出てくる。
俺は裏返してそれの消費期限を見た後、そっと目を逸らして一人で頷いた。
「まあ…………うん、別にいいだろ」
べりっとそれを開けると、バターを塗ってトーストに突っ込む。
その間に制服を着て戻ってくると、ちょうどいいタイミングでチン!と音が鳴った。
鞄を肩にかけながら出来上がった食パンを口に突っ込み、ついでに机に置きっぱなしだった筆箱や提出物を入れていく。
そんな中、机の真ん中に置いてあった一枚の紙を見て、俺はそれに手を伸ばした。
ピンポーン!
その瞬間、聞きなれたインターフォンの音がして、俺は思わず肩をびくりと跳ねさせる。
急かすようにもう一度鳴ったそれに「はいはい」と返事をすると、俺は手を伸ばしかけたそれを持ってパンの残りを飲み込んだ。
ガチャリ、とドアを開けると、見慣れた整った顔がある。
「おはよう、優雨」
「ああ。おはよう、雫」
いつも通り交わされた挨拶の中、俺は背中の後ろで、持っていた紙を握りつぶした。
◇◇◇◇◇
「ん、出席番号一番、天照優雨。提出確認、と。最後だな」
バインダーを抱えて、そこに挟まっているプリントにチェックを入れたこーせーくんに「すみません」と頭を下げる。
別に提出期限は守ってるしいいぞ、と言ったこーせーくんに感謝しながら、俺は自分の席に戻ってきた。
「はよー、優雨」
「はよ、春輝」
うぇーい、と言って伸ばされた春輝の手を交わし、挨拶だけを返す。
俺はそのまま椅子に座って、立っている春輝をニヤニヤと見上げた。
「で? 朝からテンションが高い春輝くんは結局いい案を思いついたんですか?」
「お前…………それわざと聞いてるだろ…………」
それまで笑顔だった春輝の顔が…………正確に言うと、目が死ぬ。
魚が死んだような虚ろな目でははははは、と笑った春輝は、ふっと息をつくと何もない空虚な空間を見つめた。
「…………やっぱ諦めは肝心なんだな、って思った」
妙にテンションが高いと思っていたが、こいつはこいつでそうでもしないとやってられないらしい。
女子は雨で濡れたため他の空き教室で着替えている。
慰める役割は渚咲に押し付け………………任せようと思っていたが、どうにもそういうわけにはいかないみたいだ。
俺は小さくため息をつくと、「で?」と椅子に座った春輝を見つめた。
「『で?』?」
「何時にくんの? 春輝の家族」
「一時間目から六時間目まで………………」
「それはまた………………気合が入ってるな」
俺が思わず苦笑いすると、「優雨はいいだろ! 被害がないんだから!」と春輝が悲痛な声で叫ぶ。
そんな春輝を、俺はふうと息をついて見つめた。
「だから、俺も被害を被ってやるって言ってんの」
「………………え?」
理解が追い付かない、というように首を傾げた春輝に気まずく思いながら、俺は少しだけ早口で言葉を返した。
「俺も少しは協力…………といっても、あの人たちの話に付き合うだけだけど。まあ、抑えるのは手伝うぞ」
「マジで!?」
ぱああああああっ、と目に見えて顔を輝かせた春輝に、「大したことはできないぞ」と言葉を返す。
「それでもいい! ありがとー、優雨!」としまいには拝み始めた春輝を手で制しながら、俺はふっと溜息を吐いた。
「いやー、でも…………一時間目から六時間目か」
どれだけ持つかな、と呟いた俺に、春輝はそっと目を逸らした。
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ごめんなさい投稿するの忘れてました。
本日10時にも投稿します。
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