第12話 人のうわさも2か月半
「劇…………劇かあ。優雨、うちのクラスは何やると思う?」
「……………」
「優雨。優雨?」
おい、と春輝に肩を揺さぶられ、俺は驚いて前を見る。
「いきなり声かけんなよ」と言った俺に対し少し眉を寄せてから、春輝は俺の顔をじっと見た。
「さっきから声はかけてたし、優雨、なんかお前…………今日ちょっと変だぞ」
「そんなことない」
「そんなことある」
「……………」
「………ま、別にいいけどさ」
押し黙る俺に、春輝はふっと眉を下げ、少しだけ笑う。
渚咲と雫が教室に入ってきたのを確認すると、春輝は何事もなかったかのように二人に挨拶を交わした。
「—————重い荷物は、少しぐらい一緒に持たせてくれよ」
そう呟いた春輝の言葉に、俺は何も返すことができなかった。
◇◇◇◇◇
春輝に言われた言葉を胸の中で反芻しながら、俺は小さくため息をつく。
隠し事は得意なはずなのに、と思ったけれど、少し考えてから「違うな」とその考えを打ち消した。
春輝は時々、とても本質をついたような―――――まあ簡単にいうと勘が鋭いということが―――――とてもよくわかるような言動をする。
それを本人は自覚していないようだけれど、それは春輝の伸ばすべき長所だ。
けれどその分色々なことに気づいてしまうというデメリットもあるけれど、と頭の隅で考える。
それを考えてしまうと芋づる式で朝のことも思い出してしまい、思わずもう一度つきそうになったため息を飲み込んだ。
「優雨」
「はい」
その瞬間、隣から少し高めのソプラノの声が聞こえて。
それに少し混じっている怒りのオーラに少しだけ―――――そう、少しだけ心当たりがある俺は、ピッと思わず背筋を伸ばして返事をする。
隣を見ると案の定美しい笑みで怒りのオーラを纏うという器用なことをしている雫を見て、俺は思わずそっと目を逸らした。
「今日、なんで先に行ったの?」
「別に約束してないだろ」
「そういう問題じゃないから」
「そうか…………。そうか……………?」
澱むことなくはっきりと返された言葉に、思わず返事をした後、しばらくした後頭に疑問符が浮かぶ。
それにとても美しい顔で頷いた雫に何も言えずに黙り込むと、だからと彼女が口を開いた。
「明日も、一緒に登校しようね」
その言葉に、おそらく聞き耳を立てていたのであろう生徒がざわりと騒がしくなる。
クラスメイト達はここ2日間で慣れてきたらしく、(何故か)生暖かい目でこちらを見てくるが、廊下では他のクラスメイト達が俺たち二人を見てこそこそと話すのが見えた。
ふっと思わず目を遠くして「これだから噂は嫌なんだ」と呟いた俺に向かい、雫は首を傾げる。
けれど一瞬廊下を見て、何人か……………何十人かが慌てて目を逸らしたのを確認すると、ああと納得したように頷いた。
「大丈夫だよ。ほら、人のうわさも75日って言うでしょ?」
「知ってるか、2カ月半っていうのは結構長いんだ」
2か月半後の俺らは絶賛夏休みだ。
そう俺が言うと、「夏休みも遊びたいの?」というなんとも珍妙な答えが返ってきた。
思わず能面のような顔をしてしまった俺に笑い、雫は何かを言おうと前を向く。
けれど教室のドアからこーせーくんが入ってきたのを見ると、慌てて斜めの席に座った。
「また後で続きね」
そういって笑った雫のおかげで心が軽くなったのは、あながち気のせいではないのかもしれない。
――――――――――――――――――――――――――――――――
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